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昔の恋人、今の想い

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愛美と由香が写真を見ながら、これはちょっと地味だとか、それはかわいすぎるなどと話していると、厨房から出てきた健太郎がお茶を持って愛美の隣の席に座った。

「ちょっと落ち着いたから休憩。で、衣装は決まったのか?」
「なかなか決まらない。由香が目移りするの、わかる気がする。」

健太郎はお茶を飲みながら写真を眺める。

「消去法で行くか?」
「でもさ……人生一度の晴れ舞台だよ?どうせなら一番似合う衣装で、大好きな人と幸せになりますって誓いたいよね」
「意外とロマンチストなんだな、愛美は」
「……そんな事ない」

   (私は政弘さんに、世界一の花嫁さんだって思われたいだけだもん)

ロマンチストなんて、ガラでもない事を言われると無性に恥ずかしい。
『政弘さん』との結婚式を思い浮かべていた事まで読まれたのではないかとドキドキした。

「おっ、これなんかいいな」

健太郎が一枚の写真を手に取った。
そのドレスの写真を健太郎から受け取った愛美は、怪訝な顔で眺める。
レースの花やリボンがあしらわれ、ふんわりと柔らかなイメージのウエディングドレスだ。
ドレス自体はかわいいと思うけれど、面長で美人顔の由香にはあまり似合わないような気がする。

「んー……たしかにかわいいけど、由香のにはあまり似合わないような気がする」
「当たり前だ、こんなフワフワしたドレス、由香には似合わん。由香にはもっと大人っぽいのが似合うに決まってる」

健太郎の意味不明な言葉に、愛美は首をかしげた。

「はぁ……?でも今、これがいいって……」
「由香には似合わんよ。でもそのドレス、絶対愛美に似合う。よし、ウエディングドレスは決まりだな」

健太郎は愛美の肩を抱き寄せて、髪にチュッと口付けた。

「はぁっ?何言ってんの?!……ってか、今すぐこの手を離せ!!」

愛美が腕から逃れようとすると、健太郎は逃がさないように更に強く抱き寄せた。

「照れんなよ、俺と愛美の仲じゃん」
「何それ、頭おかしいんじゃないの!!」
「俺、子供3人は絶対に欲しいなぁ」
「ふざけんな!!とにかく離せ!!」

由香と武はポカンとして、じゃれる二人を眺めていた。

「ねぇ、私たちなんにも聞いてないけど……二人はいつの間にそんな関係に?」

由香は少し驚いているようだ。

「違うからっ!!健太郎がふざけて勝手に言ってるだけだから!!」

愛美が慌てて否定すると、健太郎は何食わぬ顔で愛美の手を握った。

「え?本気よ、俺。なんなら明日にでも役所で婚姻届もらって来るけど?」
「要らんわ!!」
「照れるなよ。あっ、そうか!婚約指輪がまだだったよな。よし、明日買いに行こう。でっかいダイヤついたやつ」
「照れてないし、それも要らん!!いい加減にしろ!」

高校時代のようなやり取りが懐かしいのか、武はニコニコ笑っている。
由香と武は、愛美と健太郎を見ながら楽しそうに笑って、二人でビールを飲む。

「健太郎はホントに愛美が好きなんだなぁ……。そういうところは昔と全然変わらないな」
「愛美も相変わらずだよね。懐かない激ツンの猫みたい」
「だよな。そういえば高校の時、男子の間では『すがやまなみ』の真ん中を取って『ねこ』って呼ばれてた」
「あー、だから『やまねこ』かぁ」



10時半を過ぎた頃。

「ドレスもテーブルコーディネートもとりあえず決まったし……今日はもう遅いからそろそろ帰ろうか」
「そうだね。明日も仕事だし」
「俺と由香は電車で帰るけど……愛美は?」
「私も電車で帰るよ」

席を立った時、愛美の右足に激痛が走った。

   (しまった……薬飲めなかったから……)

元々今日は外で食事をする予定ではなかったので、夕食後の薬までは持っていなかった。
周りに余計な心配を掛けまいと、痛みを堪えていつも通りに歩いていたのも良くなかったのだろう。
今朝よりも痛みがひどく、更に腫れている気がする。

「どうしたの、愛美?行くよ?」
「あ、うん……」

   (どうしよう……。歩くとすごく痛いけど、由香たちに心配掛けるわけにもいかないし……)

愛美が痛みを堪えながらゆっくり足を踏み出した時、健太郎が後ろから抱きしめるようにして愛美の体を支えた。

「今は客足も落ち着いてるし、人手もじゅうぶん足りてるから、愛美は俺が送ってく」
「そう?愛美、時間も遅いし、そうしてもらいなよ。健太郎、くれぐれも言っとくけど、愛美に変な事するんじゃないよ!」
「なんだよ、変な事って」
「じゃあ健太郎、ご馳走さま!愛美、二次会の事とか、また連絡するね」
「あ……うん」

由香と武が一足先に店を出ると、健太郎は愛美の耳元でため息をついた。

「無理すんなよ。足、痛いんだろ?」
「……うん」
「送ってく。店の前に車まわすから、ちょっと待ってろ」

健太郎は厨房のスタッフに「少し出てくる」と声をかけ、足に負担が掛からないように愛美を支えながら店の外に出た。



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