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無糖カフェオレと甘いイチゴ

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急に眉をひそめ、無言でイチゴをモグモグしている愛美を見て、『政弘さん』は不思議そうに首をかしげた。

「どうかした?」
「いや……なんでも……」

愛美は慌てて紅茶をすする。

「とりあえず増産月は無事に終わったけど……来月は新人も入るし、営業部の慰安旅行もあるし……何かと慌ただしくなりそうだ」
「あ……新人さんは今週いっぱいで支社の研修を終えて、来週から支部に配属でしたね。じゃあ明日は新人さんの書類を用意して……」

愛美が明日からの仕事の段取りを考えていると『政弘さん』は小さく笑って、愛美の唇にイチゴを押し当てた。

「んんっ?!」

愛美は驚き目を見開いて『政弘さん』を見た。

「愛美、あーん」

言われるがまま開いた口にイチゴを入れられ、愛美はわけもわからずモグモグと口を動かす。

「せっかく久しぶりに会ったんだし……明日も仕事だからもうすぐ帰らないといけないし……仕事の話はここまでにしよっか」
「……ハイ」

『政弘さん』はカップの紅茶を飲み干して椅子から立ち上がり、愛美の手を引いてラグの上でベッドにもたれて座った。
愛美が隣に座ると、『政弘さん』は優しく髪を撫でながら耳元に唇を寄せた。

「ここ最近忙しくてなかなか会えなくて……愛美を思いきり抱きしめたいなって、ずっと思ってたんだ」

『政弘さん』は愛美の体を包むように抱きしめて、髪を撫でながら耳元で「愛美、好きだよ」と囁いた。
『政弘さん』の甘くて優しい声に愛美の体の奥がゾクリと疼く。

   (やっぱりこの声に弱いな、私……)

「政弘さん……私も好き……」

愛美が『政弘さん』の背中に腕を回してギュッと抱きしめると、『政弘さん』は指先で愛美の顎を持ち上げて優しく口付けた。
『政弘さん』は愛美の唇に短いキスを何度も繰り返し、ゆっくりと唇を離すと壁時計を見てため息をついた。
時計の針は10時を過ぎたところを指している。

「はぁ……もうこんな時間か……。そろそろ帰らないと。明日が休みなら、もう少しゆっくり愛美と一緒にいられるんだけどな……」

『政弘さん』の言葉を聞きながら、愛美は『政弘さん』の胸にギュッとしがみついた。

   (久しぶりに会ったのにもう帰っちゃうの?明日が仕事でも、もっといて欲しいのに……)

「ん……?どうしたの?」

『政弘さん』は微笑みながら優しく愛美の髪を撫でる。

   (まだ帰って欲しくないってわかってるくせに……)

まだ帰らないで、一緒にいてと言いたいのに、素直にその言葉が出てこない。
『政弘さん』はゆっくりと立ち上がり、愛美の手を引いて立ち上がらせた。
そしてその手を繋いだまま玄関へ向かう。

「俺もまだ一緒にいたいんだけどね……明日も仕事だし、そろそろ帰るよ」
「ハイ……」

愛美がシュンとして手を離すと、『政弘さん』は愛しそうに笑って愛美を抱きしめた。

「そんなにがっかりされると帰りづらいんだけど……愛美がもっと一緒にいたいって思ってくれてるの、すごく嬉しい」
「うん……」
「今度の慰安旅行さ……自由行動の時間、二人で回ろう。もしうまく抜けられたら、二人で夜の散歩とかもしたいなーって」
「え?」

   (他の職員さんたちもいるし、それって難しいんじゃ……)

「旅行とか連れて行ってあげたいんだけど、休みの日もなかなか休めないし……。気分だけでも……ね?」

どんなに仕事が忙しくても、『政弘さん』はいつも自分の事を考えてくれているのだと思うと素直に嬉しい。

「会社の行事って苦手だったんですけど……慰安旅行、楽しみになってきました」
「でもいつかホントに二人だけで行こう」
「約束ですよ」
「うん、約束」


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