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第三章・後 (題名未定)
3-6.ルーラ・カリン
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森に捨てられた少女。
およそ5才。
遠く見える両親に泣き叫ぶ。
一度も振り返らないその後ろ姿は、まるで他人のように思えた。
今思えば、私は穀潰しと思われていたのだろう。
幼いながらも、私の人生はここで終わりなんだと察した。
しかし、偶然通りがかった奴隷商に拾われる。命は救われたが、奴隷の身分に落ちた。
乗せられた馬車には10人ほどの子供が乗っていて、たぶん私と同じ理由で捨てられたのだ。
移動中はろくな食事が出ない。それでも、1日3食出るなんて幸せだ。久しぶりのパンを貪り食う。
馬車に揺られること3日。ポーディングの街に近づいた。
奴隷商たちは馬車をカモフラージュしたが、検問は通過できなかったようだ。
違法な奴隷商売をして、指名手配をされていたらしい。抵抗も虚しく、あっけなくお縄に掛けられた。
馬車に乗っていたのは、4才から12才までの人間が7人。年齢不詳のエルフが4人。その全てが奴隷の身分から解放され、市民権が与えられた。
家族として迎え入れたいと申し出る人はたくさんいた。皆優しそうな人ばかりだ。
そんな中、私たちが送られたのは自警団であった。
幼少期からの戦闘教育に力を入れているらしく、私たちはその実験台として選ばれたらしい。
当然、孤児院や、受け入れを申し出た人は反対した。しかし、今更誰かを信じることができるはずがない私たちにとって、それはどちらでも良いことであった。
ーーー
厳しい訓練が始まる。
剣も握ったことがない私の手のひらは、訓練初日にして血だらけになった。
痛みに悲鳴を上げ、何度も握った剣を落とした。皮が剥けて、肉が削げることもあった。その度に、あの日、遠ざかる親の背中が脳裏をよぎる。役に立たなければ、また捨てられるかもしれない。トラウマに襲われる。剣を振り続けることしか出来なかった。
剣を振り続け、1ヶ月もすれば戦闘力は着実に上がっていた。既に数体のゴブリンを相手に十分戦える。子供の学習能力は凄まじいものだ。既に低ランクの冒険者に勝る実力を持っていると言えよう。
この頃、自警団の一員として街の警備や小型の魔物の討伐に繰り出されていた。その度に街の人から感謝される。やっと自分の居場所が見つかったような気がした。
そんな時に話しかけて来たのが、キース。2つ上の男の子で、私と同じく奴隷商の馬車に乗っていた男の子だ。
キースは村の狩りを手伝っていたらしく、剣の扱いには慣れていた。私なんかよりも実力は上で、弱ったゴブリン・キングなら1人で倒してしまう。
夕食が終わると2人で外へ行き、剣を振ることが日課になった。
キースの剣の振り方はとても綺麗で、淀みがなかった。訓練で剣の腕はさらに磨かれ、その剣筋は一閃の如く輝いていた。
その剣に憧れ、私はいつの間にか「師匠」として崇めていた。
キースは私に色々なことを話してくれた。前の村にいた時のこと、薬草に命を救われたこと、魔物討伐の体験談。どれも私に取っては刺激的だった。
まだ幼い私たちは一緒にいることが多く、周りの大人たちもそれを分かっていた。
部屋も同じにしてくれたし、同じ模様の服もくれた。ある誕生日には双子の剣をくれた。
「師匠」。その呼び方は時が経つにつれて変わり、「先生」、「先輩」、最後には「お兄ちゃん」と呼ぶまでになっていた。
他人に等しかった両親に捨てられた私にとって、それは特別な意味を持っていた。
キースとは血は繋がっていない。しかし、初めて"家族"と呼べる人だった。それはどんな言葉でも表せない、私の心の拠り所であった。
キースに対する私の感情。それは"愛"だったんだと思う。
今思えば、全てはこの時から始まっていた。
私に対するキースの感情。それは"恋"だったのだ。
およそ5才。
遠く見える両親に泣き叫ぶ。
一度も振り返らないその後ろ姿は、まるで他人のように思えた。
今思えば、私は穀潰しと思われていたのだろう。
幼いながらも、私の人生はここで終わりなんだと察した。
しかし、偶然通りがかった奴隷商に拾われる。命は救われたが、奴隷の身分に落ちた。
乗せられた馬車には10人ほどの子供が乗っていて、たぶん私と同じ理由で捨てられたのだ。
移動中はろくな食事が出ない。それでも、1日3食出るなんて幸せだ。久しぶりのパンを貪り食う。
馬車に揺られること3日。ポーディングの街に近づいた。
奴隷商たちは馬車をカモフラージュしたが、検問は通過できなかったようだ。
違法な奴隷商売をして、指名手配をされていたらしい。抵抗も虚しく、あっけなくお縄に掛けられた。
馬車に乗っていたのは、4才から12才までの人間が7人。年齢不詳のエルフが4人。その全てが奴隷の身分から解放され、市民権が与えられた。
家族として迎え入れたいと申し出る人はたくさんいた。皆優しそうな人ばかりだ。
そんな中、私たちが送られたのは自警団であった。
幼少期からの戦闘教育に力を入れているらしく、私たちはその実験台として選ばれたらしい。
当然、孤児院や、受け入れを申し出た人は反対した。しかし、今更誰かを信じることができるはずがない私たちにとって、それはどちらでも良いことであった。
ーーー
厳しい訓練が始まる。
剣も握ったことがない私の手のひらは、訓練初日にして血だらけになった。
痛みに悲鳴を上げ、何度も握った剣を落とした。皮が剥けて、肉が削げることもあった。その度に、あの日、遠ざかる親の背中が脳裏をよぎる。役に立たなければ、また捨てられるかもしれない。トラウマに襲われる。剣を振り続けることしか出来なかった。
剣を振り続け、1ヶ月もすれば戦闘力は着実に上がっていた。既に数体のゴブリンを相手に十分戦える。子供の学習能力は凄まじいものだ。既に低ランクの冒険者に勝る実力を持っていると言えよう。
この頃、自警団の一員として街の警備や小型の魔物の討伐に繰り出されていた。その度に街の人から感謝される。やっと自分の居場所が見つかったような気がした。
そんな時に話しかけて来たのが、キース。2つ上の男の子で、私と同じく奴隷商の馬車に乗っていた男の子だ。
キースは村の狩りを手伝っていたらしく、剣の扱いには慣れていた。私なんかよりも実力は上で、弱ったゴブリン・キングなら1人で倒してしまう。
夕食が終わると2人で外へ行き、剣を振ることが日課になった。
キースの剣の振り方はとても綺麗で、淀みがなかった。訓練で剣の腕はさらに磨かれ、その剣筋は一閃の如く輝いていた。
その剣に憧れ、私はいつの間にか「師匠」として崇めていた。
キースは私に色々なことを話してくれた。前の村にいた時のこと、薬草に命を救われたこと、魔物討伐の体験談。どれも私に取っては刺激的だった。
まだ幼い私たちは一緒にいることが多く、周りの大人たちもそれを分かっていた。
部屋も同じにしてくれたし、同じ模様の服もくれた。ある誕生日には双子の剣をくれた。
「師匠」。その呼び方は時が経つにつれて変わり、「先生」、「先輩」、最後には「お兄ちゃん」と呼ぶまでになっていた。
他人に等しかった両親に捨てられた私にとって、それは特別な意味を持っていた。
キースとは血は繋がっていない。しかし、初めて"家族"と呼べる人だった。それはどんな言葉でも表せない、私の心の拠り所であった。
キースに対する私の感情。それは"愛"だったんだと思う。
今思えば、全てはこの時から始まっていた。
私に対するキースの感情。それは"恋"だったのだ。
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