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第三章・前 (題名未定)
3-4.精霊の想いと悪夢
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「精霊の国」だと言い張るジーヌを横目に、俺は精霊術の会得に励んでいる。
「まったく、ここは精霊の国じゃと、何度言ったら分かるんだ」
俺が、ここは精霊の国ではないと言った時から、ずっとこの調子だ。
老人がチクチクうるさいのは、どこでも同じなのだろうか。流石に面倒臭くなって来たので、言い返す。
「だから、俺は一度行ったことがあるんだ。こんな物騒な世界じゃなかったんだよ。……それより、早く続きを教えてくれ」
「分からんやつじゃのぉ。まぁいいわい。時期に分かるじゃろうて」
ジーヌが深呼吸をする。俺もそれに習って深呼吸をする。
片足で立ち、両手を横に広げる。
呼吸を整えたら、空から落ちる水滴を集めるように、両手を前に出す。
これを日の出とともに始め、正午になると同時にやめる。
実は、これは意味のある修行らしい。精霊術を会得するためには、まず「精霊の想い」というものを認識する必要がある。精霊の想いとは、魔法で言うところの、魔力に相当するものだ。
故に、精霊の想いを認識しない限り、精霊術を会得することは決してできない。
この半日の修行は、その精霊の想いを認識するためのものらしい。
この地に来て2週間。ここは一体どこなのか、未だ手がかりは掴めていない。
ジーヌに探りを入れてみても、まるで虫を払うかのように話を逸らされる。
聖水の池の場所すら教えてくれないことには、流石に腹が立つ。
思い切って逃げてやろうかと考えて、通って来た獣道を探した。しかしどういうわけか、どこを探しても見つからないのだ。草をかき分けても、足跡一つ見つからない。
森の中に忽然と現れたこの開けた空間に、俺は閉じ込められてしまったのだ。
その現実に俺は遂に諦めて、ジーヌの居候となった。
それでも、何か出来ることはないかと考えた末に、精霊術の会得を目指しているというわけだ。
あぁ……ここはどこなのだろうか。
俺は元の世界に帰ることが出来るのだろうか……
そして、カリンは無事なのだろうか。何よりもそれが気がかりである。
ーーー
この地に来てどれくらい経っただろう。3ヶ月目までは数えていたから、それ以上だ。
もう半日の修行にも慣れて精霊の想いを認識する兆しが見えている。
しかしここにきて、毎日見る悪夢が俺の心を乱している。
その悪夢のせいで全く修行に精が出ない。
初めての悪夢は6日前のことである。
ーーー
朝のホテルの一室
部屋を俯瞰する視点
女と男の性交
女は手足を縛られ、泣きながら喘いでいる。
男は必要以上に腰を動かし、昇天しては挿入を繰り返す。
女の体勢を変えてはまた突き始め、その勢いは衰えることを知らない。
その男女がカリンとその兄だと気がついたのは、4日前の悪夢でのこと。
うつ伏せの女を抱き抱えたタイミングで顔が見えた。眉をひそめ、半分開けた口。そこから漏れ出す繊細で柔らかい声。その喘ぐ姿は、俺が見たカリンそのものだった。
汗をかくカリンの、その滴る一粒さえ見逃さない。男はカリンの全てを舐め回している。
カリンは最初こそ抵抗していたが、体は正直だった。攻められるカリンの顔が歪み始め、やがてされるがままに昇天した。
やめろと叫んでも、声は届くはずがない。その声は俺の耳にすら届かず、まるで水の中で叫んでいるようであった。
カリンの声だけが部屋に響く。
俺とカリンが出した粘液は、カリンの兄の粘液で塗り替えられていく。
目の前で起きているその光景は、俺が寝ている間一晩中続く。
寝るのが怖くなって、布団を頭から被って震える毎日。しかし、月が一瞬消えるタイミングで必ず悪夢に誘われる。
ジーヌに相談できるはずもなく、俺の心はボロボロになるばかり。
その後2週間悪夢が続き、俺は満身創痍になっていた。
その日、最悪の悪夢が俺を襲う。
立場が逆転して、カリンが兄を攻めていた。カリンはその体を巧みに使い、腰を気持ち良さそうに動かしている。しかし、兄もこう見えて自警団の隊員だ。すぐには腰は砕けず、しかし今にも昇天しそうな顔をして耐えていた。
体力が尽きるまで2人のまぐわりは終わらない。
獅子同士がぶつかり合うような攻め合いの末、2人の喘ぎ声は最高潮に達した。
遂に頭がおかしくなった。
終わらないうちに悪夢から無理矢理に抜け出し、小屋を飛び出る。
真っ直ぐに深い森へ走った。
泣き叫び、体が潰れるまで走る。
後ろからジーヌの声が聞こえたが、そんなことは無視して走り続けた。
両脚が折れても、膝をつきながら暗い森を進み続ける。
もうこんな悪夢は見たくない
もうこんな世界は嫌だ
いっそのこと、俺を殺してくれ
もう……死んだほうがマシだ
目の前に崖が見える。
もう右の腕は使い物にならない。左腕だけで這っていく。
身を投げてしまおうと、崖から頭を出した。
楽になれる……
この世界から抜け出せる……
俺は左腕に力を込めた。
黒い感情
口の中に広がる苦しい味
汚い心の傷が俺を励ます
脳裏に浮かぶ愛する人の顔
汚点という重石のトラウマ
人生の失望と来世への期待
できることなら記憶を消して転生したい……
時が止まる
刹那の煌めきと荘厳な鐘の音
地面の脈動と激しい空気の振動
真っ白な世界が俺を飲み込む
何か、懐かしい感じ
辺りがほんのり暖かくなる
無音を切り裂くような風と小さな足音
それはこちらに迫り、すぐそこで止まった
しばらく間をおいて、誰かが言う。
(もう、おわり?)
「まったく、ここは精霊の国じゃと、何度言ったら分かるんだ」
俺が、ここは精霊の国ではないと言った時から、ずっとこの調子だ。
老人がチクチクうるさいのは、どこでも同じなのだろうか。流石に面倒臭くなって来たので、言い返す。
「だから、俺は一度行ったことがあるんだ。こんな物騒な世界じゃなかったんだよ。……それより、早く続きを教えてくれ」
「分からんやつじゃのぉ。まぁいいわい。時期に分かるじゃろうて」
ジーヌが深呼吸をする。俺もそれに習って深呼吸をする。
片足で立ち、両手を横に広げる。
呼吸を整えたら、空から落ちる水滴を集めるように、両手を前に出す。
これを日の出とともに始め、正午になると同時にやめる。
実は、これは意味のある修行らしい。精霊術を会得するためには、まず「精霊の想い」というものを認識する必要がある。精霊の想いとは、魔法で言うところの、魔力に相当するものだ。
故に、精霊の想いを認識しない限り、精霊術を会得することは決してできない。
この半日の修行は、その精霊の想いを認識するためのものらしい。
この地に来て2週間。ここは一体どこなのか、未だ手がかりは掴めていない。
ジーヌに探りを入れてみても、まるで虫を払うかのように話を逸らされる。
聖水の池の場所すら教えてくれないことには、流石に腹が立つ。
思い切って逃げてやろうかと考えて、通って来た獣道を探した。しかしどういうわけか、どこを探しても見つからないのだ。草をかき分けても、足跡一つ見つからない。
森の中に忽然と現れたこの開けた空間に、俺は閉じ込められてしまったのだ。
その現実に俺は遂に諦めて、ジーヌの居候となった。
それでも、何か出来ることはないかと考えた末に、精霊術の会得を目指しているというわけだ。
あぁ……ここはどこなのだろうか。
俺は元の世界に帰ることが出来るのだろうか……
そして、カリンは無事なのだろうか。何よりもそれが気がかりである。
ーーー
この地に来てどれくらい経っただろう。3ヶ月目までは数えていたから、それ以上だ。
もう半日の修行にも慣れて精霊の想いを認識する兆しが見えている。
しかしここにきて、毎日見る悪夢が俺の心を乱している。
その悪夢のせいで全く修行に精が出ない。
初めての悪夢は6日前のことである。
ーーー
朝のホテルの一室
部屋を俯瞰する視点
女と男の性交
女は手足を縛られ、泣きながら喘いでいる。
男は必要以上に腰を動かし、昇天しては挿入を繰り返す。
女の体勢を変えてはまた突き始め、その勢いは衰えることを知らない。
その男女がカリンとその兄だと気がついたのは、4日前の悪夢でのこと。
うつ伏せの女を抱き抱えたタイミングで顔が見えた。眉をひそめ、半分開けた口。そこから漏れ出す繊細で柔らかい声。その喘ぐ姿は、俺が見たカリンそのものだった。
汗をかくカリンの、その滴る一粒さえ見逃さない。男はカリンの全てを舐め回している。
カリンは最初こそ抵抗していたが、体は正直だった。攻められるカリンの顔が歪み始め、やがてされるがままに昇天した。
やめろと叫んでも、声は届くはずがない。その声は俺の耳にすら届かず、まるで水の中で叫んでいるようであった。
カリンの声だけが部屋に響く。
俺とカリンが出した粘液は、カリンの兄の粘液で塗り替えられていく。
目の前で起きているその光景は、俺が寝ている間一晩中続く。
寝るのが怖くなって、布団を頭から被って震える毎日。しかし、月が一瞬消えるタイミングで必ず悪夢に誘われる。
ジーヌに相談できるはずもなく、俺の心はボロボロになるばかり。
その後2週間悪夢が続き、俺は満身創痍になっていた。
その日、最悪の悪夢が俺を襲う。
立場が逆転して、カリンが兄を攻めていた。カリンはその体を巧みに使い、腰を気持ち良さそうに動かしている。しかし、兄もこう見えて自警団の隊員だ。すぐには腰は砕けず、しかし今にも昇天しそうな顔をして耐えていた。
体力が尽きるまで2人のまぐわりは終わらない。
獅子同士がぶつかり合うような攻め合いの末、2人の喘ぎ声は最高潮に達した。
遂に頭がおかしくなった。
終わらないうちに悪夢から無理矢理に抜け出し、小屋を飛び出る。
真っ直ぐに深い森へ走った。
泣き叫び、体が潰れるまで走る。
後ろからジーヌの声が聞こえたが、そんなことは無視して走り続けた。
両脚が折れても、膝をつきながら暗い森を進み続ける。
もうこんな悪夢は見たくない
もうこんな世界は嫌だ
いっそのこと、俺を殺してくれ
もう……死んだほうがマシだ
目の前に崖が見える。
もう右の腕は使い物にならない。左腕だけで這っていく。
身を投げてしまおうと、崖から頭を出した。
楽になれる……
この世界から抜け出せる……
俺は左腕に力を込めた。
黒い感情
口の中に広がる苦しい味
汚い心の傷が俺を励ます
脳裏に浮かぶ愛する人の顔
汚点という重石のトラウマ
人生の失望と来世への期待
できることなら記憶を消して転生したい……
時が止まる
刹那の煌めきと荘厳な鐘の音
地面の脈動と激しい空気の振動
真っ白な世界が俺を飲み込む
何か、懐かしい感じ
辺りがほんのり暖かくなる
無音を切り裂くような風と小さな足音
それはこちらに迫り、すぐそこで止まった
しばらく間をおいて、誰かが言う。
(もう、おわり?)
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