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一章 (ミステリーダンジョン編)

2.精霊の棲家

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 深い眠り。これまで経験したことがないほどの。
 地の底に意識が落ちて這い上がることができない。


 なんだ?笑い声?
 子供がキャッキャする声が近くで聞こえる。

 (おじさん?だぁれぇ?)
 (おじさん、こわいひとぉ?)
 (ねぇねぇ、お腹ケガしてるー)
 (ほんとだ!治してあげようよ)


 腹の痛みが引いていくのが分かる。
 直後、俺は目を覚ました。あまりに深い眠りから一気に覚めたから、その反動で目がチカチカする。
 辺り一面は白い光に包まれている。

 (えー、まずいよぉ)
 (そうだよ、お母さんにおこられちゃうよぉ)
 (でも、でもこのひと死んじゃうよぉ?)


 何だろう。この声は。
「君たち、一体どこにいるんだい?」

 (あ!おきた!)
 (ほんとだ、おきた!)


「君たち、ここは一体どこかなぁ?」

 (ここはね、せいれいの国だよぉ?)
 (しらないのぉ?)
 (えぇ、もしかして……)


 〈?〉


 悪寒と共に鳥肌が立つ。精霊の国は伝説上の話で、存在しないと教えられた。
 しかし、今聞こえるこの声は、ここが精霊の国だと言った。
 仮にそれが本当だとしたら、「お母さん」というのは精霊王のことだろう。

 じゃあ、この子たちは……

 俺はここに来た経緯を全て話した。
 勇者に腹を刺されたこと、「奇跡の世代」のと呼ばれていること、親の名前から職業まで全てを話した。

 (さん!)
 (はははー、だってー)
 (かわいそうだよぉ)

 どうやら俺を怪しむのをやめてくれたようだ。

 (えぇ、と……とくべつだよぉ?)
 (やっちゃえぇ!)
 (お母さんにばれたらどうしよう)
 (だいじょうぶだよぉ)

 一体何が起ころうというのか。

 (はやくはやくー)
 (お母さんきちゃうよぉ)
 (まってー、いまやってるところ……)

 徐々に体が暖かくなってきた。その時、初めて俺に体温がないことに気がついた。


 ゴーーー!

 地鳴りのような音が聞こえて地面が揺れる。
「こら!あなたたち、そこで何をしているの!」

 (あぁぁ、お母さんだー!)
 (まずいよぉ、はやくぅ)
 (あぁ、まだおわってないのにー)


 後ろに引っ張られる感覚の後、俺の意識は戻った。
「おい、あんた大丈夫かい?」
 倒れている俺を覗き込んでいる髭男。

「あなたは……?」

「俺はこのダンジョンで魔鉱石を集めて生計立ててるもんだ。ヂラスって言えば分かるか?」

「……ヂラス?もしかして、魔鉄のヂラスか?」

「いかにも」

 魔鉄のヂラスとはこの辺りでは有名な通り名だ。
 ヂラスは珍しく、父にドワーフ、母にエルフを持つハーフである。
 鍛治ができる上に、魔法の扱いも右に出るものはいない。
 「魔法鍛治師」として有名で、国の役人の間でも話題が出るほどの才能の持ち主である。

 一時は宮廷お抱えの魔法鍛治師となる噂もあったが、随分前のこと。
 最近ではここ、ミステリーダンジョンで魔鉱石を採掘し、それを魔鉄に変換する。その魔鉄で剣や装備を作って売ることを生業としている。
 勇者パーティもヂラスの鍛冶屋を訪れることがあった。


「お前さん、勇者のとこの荷物持ちだよな?」

「荷物持ち、かな」

「……訳ありのようだな。どうだ、俺の工房に来ないか?この間、ここに作ったんだ」

「作った?ダンジョンに?」

「そうだ。まぁ何よりもまず、お前さんの腹の傷を治してしまおう。詳しいことは後で聞く」

「ありがとう。助かるよ」


「なんてことないさ。俺にとってお前さんは特別だからな」
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