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第3章
アリュデュアス港
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「気持ちいいわね。潮の香りがするわ」
海なんて前世ぶりだ。日も傾いて、オレンジ色に染まっていた。うん、とても綺麗。
一応、公爵領にも港はあるが、屋敷から遠い町にあるので私もハルトも見たことがない。
「海って初めて見た...」
どうやらハルトは感動で言葉が出ないらしい。口をポカーンと開けているのが可愛らしい。カメラがあったらよかったわね。この顔を収めて、笑ってあげられたのに。
「ジル様、ハルト様、もうすぐ船に乗りこみますよ」
「今いきます、ハルト、船の上から見よう。その方が綺麗だと思うわ」
「う、うんわかった」
船に乗り込むとすぐに客室に案内された。船は前世の豪華客船と同じようだ。どうやって動かしているのかは分からない。
公爵家に生まれて良かったと思うのは今のような時だ。いわゆるスイートルームと呼ばれそうな部屋が、私とハルトにそれぞれ与えられている。贅沢だ。うーん。お金っていいわね。
「ジル!外を見て!さっきよりずっと綺麗だ!」
そ、そうなのかな...?
自分で言っておきつつ、はっきり言って違いはよく分からない。綺麗というなら綺麗なのだろう。
☆
しばらく夕日を見てしっかり沈み切るところまで目撃した後、2人でハルトの部屋で夕食をとった。
さすが豪華客船。味も見た目も超一品。シーフードをめちゃめちゃ美味しくいただきました。少し、ハルトの表情に翳りが見えたのは気のせいかしら。
使用人にお茶を入れてもらい、一息ついていると、控えめなノックが部屋に響いた。
「ハルト様です。どういたしますか。」
「入れてあげて」
「かしこまりました」
扉の外には俯き加減のハルトが立っていた。
部屋のなかに招き入れて、先ほどまで飲んでいたお茶と同じものを使用人に入れさせる。ゆっくりとソファーに腰かけたハルトはまだ顔を俯かせたままだった。さすがに心配になる。あ、一応部屋に入って来た時から心配はしてますよ。ええ、もちろん。
「何か、あったの?」
「ううん、特にそういうわけじゃあないんだけど...」
どうしたんだろう。何か思い悩んでいるようだ。口を開いたり閉じたりして、なにを言おうか本当に迷っているようだった。
「ごめん、君たちは下がっててくれる?」
「「承知いたしました」」
これはただ事じゃない。
本当にどうしたんだろうか。
使用人がすべて出ていくのを確認すると、私は一言ハルトに声をかけた。
「ゆっくり考えていいわ。私はいくらでも待つわよ」
ハルトは静かに頷いた。
どのくらい経っだだろう。ゆらゆら船に揺られていた。その時間は30秒だったのか、3分だったのか、30分だったのか。正直よくわからない。ただ、ハルトの張りつめた空気は全身で感じていた。
ハルトはゆっくり口を開いた。
「ジル、僕はとても怖いんだ」
その声は涙で濡れていて。今にも途切れてしまいそうな思いが込められていた。
「何が、怖いの?」
「わからない。分からなかったんだ。さっきまでは。でも多分僕は不安なんじゃないかと思う、これからのことが」
「どうして不安なの?」
ハルトのことだ。友達ができるか、とかそんなどうでもいい内容ではないだろう。
「今まで僕は他人というものに触れたことがない。生まれた時から家族の価値はないけれど自分と血のつながりがある人や、気に掛ける使用人に囲まれていた。特に公爵家にきてからはそうだ。」
何が言いたいの。どうしてそんなに悩んでるのよ。ハルト。
「いや、違う。違った。僕が恐れているのは両親の言葉なんだ」
「言葉?」
☆☆☆
大変お待たせしました!いろいろあったのですが、やっと一段落つきました。
海なんて前世ぶりだ。日も傾いて、オレンジ色に染まっていた。うん、とても綺麗。
一応、公爵領にも港はあるが、屋敷から遠い町にあるので私もハルトも見たことがない。
「海って初めて見た...」
どうやらハルトは感動で言葉が出ないらしい。口をポカーンと開けているのが可愛らしい。カメラがあったらよかったわね。この顔を収めて、笑ってあげられたのに。
「ジル様、ハルト様、もうすぐ船に乗りこみますよ」
「今いきます、ハルト、船の上から見よう。その方が綺麗だと思うわ」
「う、うんわかった」
船に乗り込むとすぐに客室に案内された。船は前世の豪華客船と同じようだ。どうやって動かしているのかは分からない。
公爵家に生まれて良かったと思うのは今のような時だ。いわゆるスイートルームと呼ばれそうな部屋が、私とハルトにそれぞれ与えられている。贅沢だ。うーん。お金っていいわね。
「ジル!外を見て!さっきよりずっと綺麗だ!」
そ、そうなのかな...?
自分で言っておきつつ、はっきり言って違いはよく分からない。綺麗というなら綺麗なのだろう。
☆
しばらく夕日を見てしっかり沈み切るところまで目撃した後、2人でハルトの部屋で夕食をとった。
さすが豪華客船。味も見た目も超一品。シーフードをめちゃめちゃ美味しくいただきました。少し、ハルトの表情に翳りが見えたのは気のせいかしら。
使用人にお茶を入れてもらい、一息ついていると、控えめなノックが部屋に響いた。
「ハルト様です。どういたしますか。」
「入れてあげて」
「かしこまりました」
扉の外には俯き加減のハルトが立っていた。
部屋のなかに招き入れて、先ほどまで飲んでいたお茶と同じものを使用人に入れさせる。ゆっくりとソファーに腰かけたハルトはまだ顔を俯かせたままだった。さすがに心配になる。あ、一応部屋に入って来た時から心配はしてますよ。ええ、もちろん。
「何か、あったの?」
「ううん、特にそういうわけじゃあないんだけど...」
どうしたんだろう。何か思い悩んでいるようだ。口を開いたり閉じたりして、なにを言おうか本当に迷っているようだった。
「ごめん、君たちは下がっててくれる?」
「「承知いたしました」」
これはただ事じゃない。
本当にどうしたんだろうか。
使用人がすべて出ていくのを確認すると、私は一言ハルトに声をかけた。
「ゆっくり考えていいわ。私はいくらでも待つわよ」
ハルトは静かに頷いた。
どのくらい経っだだろう。ゆらゆら船に揺られていた。その時間は30秒だったのか、3分だったのか、30分だったのか。正直よくわからない。ただ、ハルトの張りつめた空気は全身で感じていた。
ハルトはゆっくり口を開いた。
「ジル、僕はとても怖いんだ」
その声は涙で濡れていて。今にも途切れてしまいそうな思いが込められていた。
「何が、怖いの?」
「わからない。分からなかったんだ。さっきまでは。でも多分僕は不安なんじゃないかと思う、これからのことが」
「どうして不安なの?」
ハルトのことだ。友達ができるか、とかそんなどうでもいい内容ではないだろう。
「今まで僕は他人というものに触れたことがない。生まれた時から家族の価値はないけれど自分と血のつながりがある人や、気に掛ける使用人に囲まれていた。特に公爵家にきてからはそうだ。」
何が言いたいの。どうしてそんなに悩んでるのよ。ハルト。
「いや、違う。違った。僕が恐れているのは両親の言葉なんだ」
「言葉?」
☆☆☆
大変お待たせしました!いろいろあったのですが、やっと一段落つきました。
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