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後日談

後日談③

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ミコトが見つかったという言葉に動揺を隠せずにいる。

「――ミコトが見つかった!?」

《うん、でもあまりいい状況じゃないかも……》

ミコトが見つかったことは事実か聞き返すと本当だと答えたのち、フリッグは動揺を見せる声色でミコトの今の状態が良くないことを教える。

「――どっ、どうして……!?」

《……自殺しようとしてたらしいんだ》

「――!?」

ミコトの今の精神状況が良くない理由を聞き、琉璃は驚愕の表情を浮かべる。
ミコトがそこまでするほど精神が不安定だと聞き、ますます動揺を隠せなかった。

ミコトを保護した従兄弟から状況を聞いたフリッグが言うには、ミコトは小舟を使って誰かの手に届かないところまで移動したのちに手首を切ったのだろうということだった。

《従兄弟の兄ちゃんが発見者で本当に良かったよ、発見されなかったら失血死か血の臭いに興奮した近くにいた野生の鮫に喰われてたかもって……》

「そっ、そんな……!」

《落ち着いて……。命は取り留めて今、南の人魚界のある場所に保護してるってさ》

ミコトが自殺するほど精神的に追い詰められていたことに動揺を隠せなかった琉璃にフリッグは宥め、
ミコトは今、たまたま通りかかったノゼルの兄に保護されて命に別状はない事と少し落ち着きを取り戻しているとのことだった。

《バレン兄が言うには琉璃に連絡して会わせた方がいいって言われて、連絡したんだ。》

「そうだったんだ……」

ミコトを保護したバレンがいうには、琉璃をミコトに会わせてあげた方がいいと提案された為連絡したのだとフリッグは電話越しで伝える。

「ミコト、ミコトぉ……!」

――ミコト自ら自分たちと距離を置いてから何があったのかは分からない、しかしミコトの事だ。

 きっとデヴィットと自分に対する自責や兄の不慮な事故への自責、ミコトの周りで追い詰められるような不幸に遭ってしまいミコトは自殺を選んでしまったんだ。ミコトの素顔を知っている自分にはわかる、ミコトは責任感が強い分過去の事を引きずりやすい子だと知っているから。

琉璃はミコトの事を思うと胸を締め付けられ、嗚咽を漏らした。

フリッグはミコトのことを思うと泣き出してしまった琉璃の声を聴いて困惑した声で……

《正直僕はまだミコトのこと許せてないけどね、でも死んで欲しくはない。》

ミコトが琉璃にした所業の事もかねてミコトに対する正直な感想を漏らし始める。

《ミコトを救えるの多分……琉璃だけだってバレン兄も言うしさ、僕もそう思う》

ミコトが琉璃にしたことを思うとまだ複雑な感情を抱いてはいるものの、これ以上ミコトに自ら命を絶つような真似だけはしてほしくないと伝えたのち自分たちの見解では今のミコトを支えられるのはデヴィットの眼を引き継いだ琉璃だけだと、本心ではミコトも琉璃に会いたがっていると思うとフリッグは琉璃を励まそうとする。

「それで……、ミコトは今人魚界なんだよね? どこに?」

まず、フリッグはミコトが今どこにいるのか聞いてみることにすると……

《……それが、僕ならまだしも王族でも入るのが難しい神聖な病棟にいるんだ。》

「――えっ!?」

フリッグは、申し訳なさそうにミコトが今滞在している場所は南の人魚界の中でも入ることが難しい場所にいると答えた。

「――そ、そんな!?」

《――まぁ、簡単に言えば教会と病院が一緒になっちゃってるような場所かな? 僕ら魔法使いや魔法使い関係者は“寺院”って言ってる》

ミコトがいる場所は人魚界の魔法使いたちが集う寺院と呼ばれる場所でそこで怪我人の治癒や危険魔法や危険薬を取り扱うところだとフリッグは教える。

《魔法使いと治癒魔法が使える連中とそこで治療を受けている奴以外は許可が下りないと入れない場所なんだ、魔法使い以外に危ないものを触らせない様にそこの最高責任者の判を押した許可書を貰わないといけないの……》

ミコトが保護されている南の人魚界の寺院に出入りするためには、最高責任者の許可を貰わないと面会は到底無理だと言うことも教えた。

「どうしよう、せっかくミコトに会えるのに……」

寺院の出入り許可をもらうために人魚界を往復しなければならないのでミコトには簡単に会えないことを知って琉璃は落胆する。

《待ちなって、詠寿王子や砕波じゃさすがに無理だけど 使でしょうが……》
「――へっ?」
《だから、僕が許可書の発行をお願いしてあげたの。最高責任者お姉ちゃんに頼んでね》

 琉璃のために自ら骨を折ったと、フリッグは琉璃が寺院の出入りするための許可書の判を貰う手続きを済ませて置いたと話した。

「――本当に!? 有難う、フリッグ!」

《ただ、許可書の有効期限が三日後からだから三日後に来てくださいってさ……》

「分かった、ありがとう」

(三日後からか、……あっ)

会話を終えて、フリッグからの電話を切るが電話を切ってから、許可書が有効になる三日後に砕波との約束があったことに気付く。

「そうだ、三日後……砕波さんの二回目のライブが」

うっかりしていたと、三日後のスケジュールを忘れていたことを悔いる。
ミコトには早く会いたい、しかし一番いい席を用意して待ってくれている砕波の二回目のライブを断ることもできない。

(どうしよう、砕波さんもヘディさんたちもぼくが来てくれるの楽しみにしてくれてるのに……)

自分の応援を楽しみにしてくれている砕波とバンドメンバーを落胆させたくない気持ちで、どうすればいいのか困惑する。

――どうすればいいか悩んでいながらも通っている専門学校への帰り道。

「――ワンワン!」

「――わぁ!?」

急に後ろから自分を呼ぶような犬の声と、その犬が後ろから抱きついてくるような衝撃に琉璃は驚いて振り向くと……

「――テオ!?」

テオが自分に飛びついて来たのだと気付いてテオを呼ぶと、テオは嬉しそうに尻尾を振っている。
よく見るとテオの首輪にはリードが続いており、散歩の途中で自分の姿を見て飛びついたと琉璃は気付いた。テオは通りすがりの人目を気にせず自分の顔を舐めて久々に会えたことを喜んでいる。

「――あっ、琉璃!?」
「シエル……」
「あぁ、良かったよ。テオってば急に走り出すんだもん!」

するとテオが走ってきた方向からシエルが走って来る、シエルはテオを捕まえてくれた琉璃に感謝を述べる。

「シエル、学校は?」
「ん? あぁ……今日学校の創立記念日だから休みなの。だからバイトまでテオの散歩してたんだ」

学校はどうしたのか聞くと創立記念で休みだと答えたのち、バイトの出勤時間が来るまでテオの散歩をして時間を潰していたと答えた。

「……ふふ、テオ。元気そうだね」

元気そうに舌を出して口呼吸するテオの表情が笑っているように見える、頭をなでると黒くて短めの毛に覆われた尻尾が左右に揺れ動く。その様子を横で見ていたシエルは……、

「ユリ、絶対何か悩んでいるでしょ?」
「――えっ!?」

琉璃が悩みを抱えていたことを見抜き、遠回しな言い方もせず直球で核心をつく。
琉璃は図星を突かれた言葉で動揺を隠せず、慌てふためく。

「だって、琉璃……何か悩んでる時テオの頭撫でる癖があるからさ」
「――えぇ、嘘!?」

無意識に作っていた癖をシエルに指摘されて琉璃は思わずテオの頭から手を放し、テオはまだ名残惜しそうに鳴く。

「嘘じゃないよーだ、何年の付き合いだと思ってる? ミコトとデヴィットと負けないぐらい一緒にいる事忘れないでほしいなー」

「! ……」

口をとがらせてシエルは、自分も琉璃と幼いころからの付き合いだというのをミコトとデヴィットの存在でかすんでしまっていることに冗談交じりに文句を垂らした。シエルの言葉からミコトの名前を出されて琉璃の顔は途端に曇ってしまう。

「その様子だとミコト関係、か……」

琉璃の悩みはミコトであることを見抜き、シエルは敢えてそう聞いて来た。
琉璃は観念するように頷き、近くの公園のベンチまで移動した。

「そうか。ようやく見つけたんだ……良いじゃない、会いに行けば?」

事情を聴いたシエルは、ミコトとせっかく会えるのだからもっと喜べばいいのにと指摘する。

「でも、砕波さんのライブ三日後だったのすっかり忘れてて……」

琉璃はミコトに会えることが喜ばしくない訳ではないが、ミコトと会う日が砕波のライブと被ってしまうことを明かしそれで少し悩んでいることも明かす。

「ミコトに会えるようなるのはうれしいし、話したいことたくさんある。」

ミコトとは色々と話したいことは山ほどあるし、ミコトがいつかミコト自身を許せるようになったらデヴィットのお墓参りを一緒にしたいと考えていることも伝えたいと考えていた。

「でも、砕波さんはぼくが来てくれることすごく楽しみにしてるし期待を裏切りたくない気持ちもあって……ミコトの方を優先したらがっかりさせちゃうんじゃないかって」
「……」

砕波は自分が最前列で見れるように特別席をマネージャーに頼み込んでまでしてくれているのに、それを振るような真似をしたくない気持ちがあってどうすればいいのかわからないのだとシエルに言う。

「わがままだけど、そう思っちゃって」

砕波をがっかりさせたくない、でもミコトにも会いたいなんて我儘な思考だと自分でも呆れる程、自覚しているがどうすればわからないのだとシエルに伝える。

「それに、砕波さん……あの時のことまだ怒ってるんじゃないかって」

昔の不良仲間に琉璃を襲わせたこともあって砕波はまだミコトの事を許せていない節があるので、砕波はミコトに会いに行くことにいい顔をしないのではないかと心配しているのだと伝えると……、

「なんだ、そんなことか……」
「――えっ?」

シエルはため息交じりで呆れたような表情を浮かべていた。

「すっごい今更じゃん、サイハはそんなに器の小っちゃい男じゃないこと琉璃が一番知ってるじゃんか」

砕波はそんなことで琉璃がミコトと会うことに反対するような男ではないことを琉璃は一番近くにいるくせに忘れたのかと呆れ顔で答えた。

「そりゃ、琉璃にあんなひどい事したんだからまだ許せないだろうさ……でも、ミコトが自分から施設に入った事サイハが知らない訳じゃないでしょ?」

「うっ、うん……」

好きな人を襲わせるよう不良仲間に教唆するような人物、誰だって許せないし砕波のミコトに対する感情は普通だとフォローを入れながらも、琉璃は砕波にミコトが自分から更正施設に入ったことを琉璃は教えていないはずはないだろと聞かれ、琉璃は頷く。

「それに、オレに言っていたよ。サイハねーミコトの事は許せないけど琉璃のミコトと友達の関係やり直したい気持ちを応援したいって。」
「……!」

(あっ……)

砕波自身が本当はどう思っているかは知らないが、砕波は琉璃がミコトと和解したいことを望んでいるなら背中を押したいと打ち明けていたことをシエルは明かし同時に思い出の水族館に一緒に行ったときに砕波がそう言ってくれたことを思い出した。

「言ってみればいいじゃん、砕波が最初から反対するなんて決めつけないでさ。そりゃ少し落胆はするだろうけど、砕波はちゃんと分かってくれるって琉璃が一番知ってるハズだろ? 自信持って良いと思うよ」

 別に我儘を打ち明けることは悪い事ではないし、最初から反対すると決めつけて諦めるなんてばからしいと一蹴した後ちゃんと自分がしたいことを伝えるほうが自分の為でもあり、砕波の為にもなると思うとシエルは忠告を促した。

「――そうか、……そうだよね。シエルありがとう」

シエルの言い分に納得し、砕波と話し合うことを決めたのだった。シエルは照れた顔をして……

「伊達に何年も従兄弟をしてませんよーだ♪」

からかった口調で琉璃の言葉を嬉しそうに受け取った、二人は手を振って公園で別れ琉璃はスマホを出すと砕波の電話につながるダイヤルを押すのだった。
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