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本編

第三十七話:返答と結成

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「そう言えば……、バンド名はなんていうの?」

「それが、まだ決まってないのよ」
「なかなか決まらなくてねぇ……」

琉璃は砕波をバンドのボーカルとして勧誘した3人にバンド名を聞くと、苦笑いしてレモンとヨシュアはバンド名がまだ決まっていないことを教える。

「皆に共通している感じの名前にしたいんだけどねぇ、君もなにかヒントくれないかい?」

ヘディと名乗ったバンドチームの一人が琉璃に何かいい案はないか尋ねてきた。琉璃はそう言われて、頭を悩ます……。

「ーーそういや、お前らの魚種なんなんだ?」

「俺はハンマーヘッド……“シュモクザメ”だ、ドラム担当。」

琉璃は砕波をバンドのボーカルとして勧誘した3人にバンド名を聞くと、まずヘディから自分はシュモクザメの人魚であることを明かしたのち、バンドではドラムを担当していると言った。

「ドラム……」
「楽器の一種で、太鼓の一種って考えてくれたらいい」

ドラムと聞かれて、ぴんと来なかった砕波にヘディは大雑把だが砕波に分かりやすいように説明した。

「オレっちは、“レモンザメ”。ベースギター担当、まぁ後で練習場に行って聞いてみてもらった方が分かるから今は説明省くけど。」
「ーー了解」

大まかな説明は省き、取りあえずベース担当であることと自分はレモンザメの人魚であることをレモンは教える。

「オレはヨシキリザメ。ギター担当だ……。3人構成だとギターが大体ボーカル担当なんだけど、オレ楽器は弾けるが歌はあまり得意じゃなくてね。」
さ、それで俺達困っていたのよね」

最後にヨシュアが魚種と担当楽器を教えると同時にヨシュアは歌に自信がなく、それならば新しいボーカル担当を入れようと決断に至って砕波に目を付けたのだと明かした。

「引き抜きされたって……?」

「実は、その子だけ俺らと違って鮫の人魚じゃなくてさ……。プロデューサーが人魚に詳しい奴でさ、その子だけ引き抜かれちゃったんだ」
「まぁ、プロデューサーはその子だけにしか目をつけていなかったみたい」

声を掛けられてアピールとして一曲見せられたのは良かったものの、声をかけたプロデューサーはもともとボーカルにしか目をつけておらず、鮫の人魚だったこともあって3人は跳ねられてしまったのだとヘディたちは明かしてくれた。

「オレっち達、頑張ってつらいあの悪癖の治療済ませたのに……。」
「そんな、ひどい……」

悪癖治療を済ませたにもかかわらず鮫の人魚というだけではねられてしまい、落胆した表情を見せながら明かすレモンの言葉にさすがの琉璃も憤りを感じずにはいられなかった。

「んで、その前のボーカルだった奴は?」
「引き抜かれて他のバンドのボーカルに。」

ボーカルだけ引き抜かれて自分たちはバンド生命がもう経てなくなるかもしれないので、代わりになれそうなボーカルを探していたのだと言う。

「でも俺達、やっぱりプロデビューしたくて……」
「この際、バンド名も変えようかって話になってさ」
「んで、今バンド名も考え途中ってわけよ」

「成程……」

 ボーカルがいなくなってしまったのを機にして新しい気持ちで取り組もうとバンド名を考えてはいるが、いいのが決まらないのでこの質問を投げかけたことに琉璃たちは納得する。

「よかったら練習場来て俺達の曲聞いてみてくれよ。その後……砕波、だっけ? 君の答えを聞きたい」
「ーーわかった。」

とりあえず自分たちの演奏を聞いてから砕波の答えを聞きたいとヘディ達は願い出て来た為、砕波はそれを了承して練習場所についてくることにした。

まず、3人の演奏を聞かなければ砕波も答えを出すことができないと思ったからだった。

琉璃たちは練習場として使わせてもらっている防音仕様のスタジオまで案内されることとなった。

――琉璃たちはそこで3人の演奏を聞くと……。

「ーーどうだった?」

ヘディは、自分たちの演奏はいかがなものか砕波に感想を聞いた。砕波は、悩ましげに腕を組んで考え込んでいる。

「演奏としては申し分ないけど、確かに歌がないと物足りなくなるな」
「ーーだろ?」

砕波は、息はあっているしリズムもちゃんとしっかりしているがやはり歌があってこそ今の曲は完成しないと答えた。

「だから君には、砕波くんには俺達のメンバーに入ってくれないかと……」
「……これ、歌の歌詞は作ってあるのか?」

「――え!?」

砕波は突然、歌詞の詳細を聞き始めて3人は動揺する。

「あるのか? ないのか?」
「あっ、――あるある! ほらっ」

レモンが我に返って砕波に歌詞の書かれている紙を手渡し、砕波はそれを見つめた後……

「これを前歌っていたやつの歌声の記録とか……残ってない?」
「あっ、あるけど……?」

砕波は前のボーカルの声が録音されものが残っていないか聞いてきたため、ヨシュアが慌てて歌の記録として残しておいたボイスレコーダーを取り出して砕波に手渡した。

砕波はヨシュアに使い方を学び、歌声が入ったさっきの一曲を聞くと……

「歌詞覚えさせてくれ、歌い方も覚えてから答えを出したい」

砕波はこの曲の歌詞を覚えたいと、願い出てきた。

「ーーえっ!? それじゃあ……」
「あぁ、歌わせてくれ」

砕波は自分の歌を乗せたらこの一曲はどうなるのか試してみたいと言いだして、まんざらでもない答えにヘディ達は「もちろん!」と答えた。

砕波は数日間の期間猶予を3人にもらい、あの一曲の歌詞を覚える事に必死になった。
琉璃は自分に出来ることを考え、のどの調子を整えるものをフリッグからアドバイスを貰ったりして砕波が歌詞を覚えることを陰から支えたのだった。

ーーそして数日後、砕波の歌を3人に聞かせたのだった。

歌無しの3人の演奏が録音してあるCDを流しながら、砕波は歌を披露したのだった。

3人は、呆気にとられて驚いた表情だった。
こんな短い期間で歌詞をマスターしただけではなく、歌い方も完璧にこなしていたのだった。
琉璃も、その傍らからみてやはり砕波の歌は魅せる力があると再確認した。

「……どうだ?」

「完璧! パーフェクト!!」

砕波は3人に感想を聞くと3人は砕波の元に群がり、歌をべた褒めし歓迎ムードになっている。

「俺なんかでいいのなら……、バンドに入ってもいいか?」

砕波は改まってバンド仲間に入っていいか聞くと3人は嬉しそうに「もちろん!!」「ぜひ入ってくれ!」と答えたのだった。


「それで、バンド名で少し提案があるんだけど……」

「――?」

 琉璃は安堵した表情を浮かべた後、バンド名でいい名前を思いついたことをヘディ達に明かした。

「砕波さんとヘディさん達って鮫の人魚だっていうのが共通してるよね、そこから名前考えてみたんだけど……」

琉璃は勝手ながら4人に共通することもあって考えたネーミングがあることを伝え、一枚の紙を広げて4人に見せる。そこには“Tail テイル ofオブ the sharkザ シャーク”と書かれていた。

「直訳すると“鮫の尾ひれ”なんだけどどうかな?」

琉璃は4人にバンド名はどうか聞いてみた。

「あっ、そういや俺達……全員サメの人魚だ」
「あはは、すげー偶然」

ヨシュアとレモンはそんな身近なことに気付かなかったことに苦笑いを浮かべる。

「そういや君は、俺達が鮫の人魚だって知ってもそんなに怖気付かないんだね?」

ヨシュアは自分たちをかつてスカウトしたプロデューサーが鮫の人魚だと知って突っぱねた態度とは違い、琉璃は鮫の人魚たちに好意的に接してくれるのはなぜなのか琉璃本人に聞いてみる。

「ぼく、サメ好きだから……。サメにはサメの魅力があるのにただの恐怖の対象になっているのはちょっとね」

琉璃はサメ好きの意見としてプロデューサーがとった態度は少し憤りを感じていることを告白し、4人には4人の魅力があるのにスカウトしようとしたプロデューサーはまるで分っていないと琉璃は意見した。

「へぇ……。」
「そう思ってくれる子は初めてだ」

自分たちは鮫の人魚であるがゆえに遠巻きにされることが多かったのだが、琉璃の反応が新鮮で驚いていた。

「こうなったらさ、自分たちの魚種がサメであることを全面的に出した方がいいと思うんだ。鮫の人魚だって魅力があることを見せつけてやったらどうかなってこのバンド名を提案したんだけど……、嫌だったかな?」

敢えてサメの人魚であることを隠し通さず、鮫なりの魅力を全面的に引き出すような名前がいいのではと思いこの名前にしたと答え、琉璃はヘディ達の様子を伺う。ヘディ達は互いの顔を見ながら相談すると、笑みを浮かべ……

「この名前、気に入った。ぜひ使わせてくれ! 砕波もよろしく!」

ヘディは、琉璃が提案したバンド名を使うと約束したのと同時に砕波を改めて歓迎したのだった。

「あっ、そうだ……。琉璃ちょっと」
「……?」

砕波は何かを思いつき、琉璃に耳打ちをした後琉璃はそれを了承した反応を見せ……

「ヘディさんたち、ビデオ撮影とか大丈夫ですか?」
「――へっ? 俺達は別にいいけど?」

琉璃はヘディ達にバンドの様子をビデオに移していいか聞くと、ヘディは何を考えているのかわからないものの取りあえず許可したのだった。

琉璃はダグラスたちに電話すると、砕波がしたいことを説明し手伝ってもらうことをお願いする。ダグラスたちはそれを聞いて快く了解してくれた。

数分後にダグラスたちは来てくれて、ビデオ撮影の用意をしてくれた。ビデオ撮影の準備が終わると……

「いいぞ、砕波……。撮影開始する」

砕波に撮影開始の合図を送ると、砕波はヘディ達に目配せをして合図を送るとあの一曲が部屋に轟く。しかも砕波の歌付きで……。

砕波の歌声と3人の曲調は相性がとても良かった、一緒に来ていたフリッグも鳩が豆鉄砲を食らったような表情でバンド演奏を見つめていた。

砕波は生き生きした表情で歌声を披露する、琉璃はその表情でやはり砕波は歌うことが好きなのだと再確認する。

一曲が演奏を終わると砕波は録画を停止させる。

「どうだった?」

砕波はちゃんと禄が出来ているか聞くとダグラスは「ちゃんとばっちり撮れてるぞ」と答える。

「それで、これをどうするの?」

フリッグは急に呼ばれたため、砕波の意図が分からず何の意味があるのか尋ねる。

「これをさ……この間の投稿者っつーのか? あの人に俺らのバンド演奏を見せて、どうだったか見てほしいんだ」
「――!」

自分が歌っている姿を撮影したあの投稿者に、自分たちの演奏はどうだったか知りたいのだと砕波は伝える……。

「つまりね、ダグラスさん。砕波さんはね、もし歌詞を作ってくれるならって伝えたいんだ」

「――!?」

あの投稿者に言いたいことはあの投稿者はプロデューサーの端くれだと説明して勧誘していた返事としてこの一曲の様子を撮影したのだと琉璃は代弁する。

「バンドの様子は見て貰った方が分かりやすいと思ったから、ダグラスに頼んだのもそのためだった」

ダグラスに頼んだのも自分の代わりに返信してくれたし、自分より機械ものに詳しいダグラスとならやり取りできると踏んだからだと砕波は明かした。

「成程ね。?」

「――!」

ダグラスはその説明で砕波が言いたいことが分かり、砕波という一人の人魚アーティストではなく“Tail of the shark”というバンドでデビューを果たしたいことをあの投稿者に伝えたいのだと分かり、ヘディ達はその言葉に驚愕する。

「あぁ、その……仲間出し抜いて自分だけデビューなんて、後味悪いからさ」

自分はバンド仲間として誘ってくれたヘディ達を捨てることはしたくないと言う返事をしたくてあの動画を撮らせたと答えるとヘディ達は目に涙を溜め、嬉しそうな表情を浮かべる。

「それじゃあ、そう返事するけど……良いんだな?」

砕波の返事を聞くまでもないがダグラスは再確認としてあの投稿者への返答をそんな趣旨にすることを話すと砕波は笑みを浮かべながら頷くのだった……。
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