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本編

第十七話:説得と事件の真相

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「ちょっと、ちょっと……! 話が見えないよ。」
「――あっ、ごめんなさい」

 詠寿の名を聞いて思わず脇目も振らず懇願してしまい、明澄が落ち着いて訳を話すように促したおかげで、琉璃は落ち着きを取り戻した。

「ここで話をするのは、周りにもご迷惑かと思われます。席に着けるところまで移動しましょう? ユリ様……で、よろしかったですか? それからお話を伺いますので」

 ショットが話の間に入ってきて、ここでは目立つ為琉璃の話は聞くのでとりあえず場所替えしようと提案してきた。その提案を飲み、琉璃たちは明澄達とともにショッピングモール内にあるカフェまで移動することになった。

「ところで、詠寿王子はどうしてるの?」
「あぁ、ちょっと別行動してるんだ。連絡すればこっちに来てくれるとは思うけどね」

「それで、詠寿さんになんの相談を……?」

フリッグは詠寿もいるはずと思っていたが、一緒にいない為何をしているのか聞いてみるとノゼルが詠寿達とは今は少しだけ別行動をしていると答え、明澄は琉璃に詠寿に会って何をしたいのか聞こうとする。

「詠寿王子に無理を承知で、お願いしたいことがあります。」
「――君、名前は?」
「“内海琉璃”。実はぼく、詠寿王子の従兄弟にあたる砕波さんとお付き合いしていました。」

「――!」

明澄が名前を尋ねてきたので、それに答えると琉璃はその前に砕波と惹かれあっていた関係だと正直に話すと明澄達は驚愕した顔を浮かべていた。

「今も、その気持ちは変わりません。でも、彼は人魚界に戻ってしまった。何も言わずに……」
「――どういうこと?」
「それは僕達もお話します、明澄様。」

 何故、琉璃を手放す真似をしたのか分からず明澄は問いかけるとフリッグが代わりにそのことについて答えると話した。砕波が怪我をしたところを琉璃が見つけだし介抱したことや、日々を過ごすことによって琉璃と砕波は惹かれあっていったと。そして、砕波が南の人魚界の掟を破り、琉璃をジャロットとともに暴行した奴らに悪癖の症状を出して殴りかかってしまったことも包み隠さず話した。

「遊び人だった砕波の旦那が、そんな風に切れるなんて……。けど、ジャロットの旦那が砕波の旦那への当てつけで琉璃アンタを。まぁジャロットの旦那ならやりかねないね」

ノゼルも砕波が以前とは違い、一人の相手に本気になって激昂してその相手を殴りつけるところまで変わっていたことに驚きの表情を浮かべたのち、ジャロットが砕波への当てつけで琉璃に暴行を働いたことを聞かされて、ノゼルはジャロットならやるだろうと零した。

「でも厄介なのは、南の人魚界ではルールなんだ。」
「――成程。それで、王子に会って砕波様に面会するためにご協力願いたいと」

「……はい。」

フリッグが南の人魚界で鮫の人魚にだけ課せられる掟があり、砕波はそれを破ってしまい強制送還となってしまった上に琉璃に会うことが更に難しい状況にされたことを説明され、ショットは琉璃が詠寿に一度会いたい理由を理解した。

「お言葉ですが、砕波様が明澄様に何をしようとしたか知っているんですか?」

「知ってます、彼は過去の過ちを包み隠さず話しました。」
「――!」

砕波がかつて明澄に暴行を働きかけたことやそれが原因で詠寿の怒りを買い、南の人魚界に追いやられる羽目になったことを知っていてのお願いかショットは確認するとその事はもう知っていると、砕波の口からもう聞かされていると琉璃は正直に話した。

「――でも、砕波さんは明澄さんの事は“本気”だったと答えていました。手を出したのは“嫉妬心”からだと」
「……」

砕波は明澄の事は本気で好きだったことや、詠寿に対する嫉妬や劣等感で襲おうとしたことを今は悔いていると砕波の言葉とダグラスの口から聞いたと琉璃は明かす。

琉璃はそう話すが、過去の姿しか知らない明澄達はそれを聞いて疑い深い顔をしていた。

「――信じてくれないでしょうね、でも、砕波さん。目が見えないぼくに良く手を貸してくれたんですよ?」

「……!」

 琉璃は自分と家で過ごしていた時、風の勢いで飛んできたパラソルに直撃しそうになった時にぶつからないよう突き飛ばしてくれたことや、洗濯機を動かす際に砕波は目の見えない自分に手を貸してくれていたと話した。琉璃の家にいた時の砕波の姿を見ていなかったフリッグとダグラスも、それを聞き驚いていた。

「だから砕波さん、明澄さんの事は本気で好きだったんだと思うしぶっきらぼうで素直じゃないけれど、本当は心の優しい人だって思ったの。」

砕波の本来の姿はきっと自分が困った時につんけんな態度を取りながらも、優しく手を貸してくれる方だと信じていると、それが砕波を好きになった理由だと琉璃は明かす。

「そうじゃなきゃぼくが乱暴された時、ぼくのために怒ってくれたりしなかったと思う。」

自分が暴行された時、怒りを露わにして床や壁に血飛沫を飛ばすほど暴れたと聞かされ琉璃は砕波がいなくなってしまったショックとともに、自分を慕い、自分のために怒ってくれた方が砕波の本来の姿だと確信できるようになったと明かす。

「貴方を通して詠寿王子に頼むのはおかしいとは分かってます。でも、それでもぼくは……彼に会いたいんです。」

琉璃は何も言えず砕波と離れ離れになってしまったことを思い出し、涙を流しながら明澄に頭を下げる。

明澄は何も言えなかった。
琉璃が嘘を言っているようにも見えないし、かといって砕波にされそうになったことを思い出すとやはりまだ許せない節があるからだった。

しかし琉璃の必死の懇願に首を横に振るのもどうかと思った、様子を見ただけで砕波の事をかなり慕っているし簡単に首を横に振るのは可哀そうな気もするからだった。少し考えると明澄は……、

「分かった、この事詠寿さんに話してみるよ。でも“答え”にはあまり期待しないで? ボクはまだしも詠寿さんが協力してくれるかまでは分からないから」

取りあえず、詠寿に琉璃の事についてダメ元で話してみることを伝える。
ただし、協力は得られるかはあまり期待しない方がいいと忠告も促す。取りあえず話は聞いてくれる態度を示してくれた明澄に、琉璃は胸を撫で下ろし頭を下げると……

「ありがとうございます……!」

涙を溜めて、感謝の意を述べた。

待ち合わせの時間が迫っていたため、明澄は連絡先を教えた後で琉璃達と別れた。

「よろしいのですか、明澄様……詠寿様は大変心配なさると思いますよ?」

琉璃達の背中を見送って声が聞こえない距離まで見送ると、ショットは詠寿に本当に琉璃のお願いを聞くよう頼むつもりか聞いてみた。

「あんな風に必死に言われたら嫌だなんて言えないし。それに、砕波は本来の姿は琉璃かれのいう方なのか、それとも昔のような奴なのかちょっと分からないし」

琉璃と見せる態度や詠寿へ見せる態度がかなり違うため、砕波と親しい相手からもっと砕波の話を聞いてからにしたいと答えた。

「ノゼル君は親しかったんだよね? 砕波と……」

「――えっ!? あぁ、まぁ……」

ノゼルは砕波とは親しかったはずだと言うのを思い出すと明澄はそれを確認した。

「砕波は君から見ればどんな風だったの?」
「そうっスねぇ……まぁ、あの人は割と気に入っている相手には割と心開いていたと思いますよ? クレミオとかには若干甘かったし」
「クレミオ……」

クレミオ、その名前を聞いて最初は誰だか思い出せなかったが少し考えると砕波の幇助をしていたベタの人魚の子であることを思い出した。

「あの人は、クレミオから聞いた話じゃ親父さんと上手く行ってないって言っていたらしいッス。
アタシや取り巻き達には我儘な態度取るのはちょっと家の人と上手く行かない寂しさもあったのかって思ったり? まぁ……あくまでアタシからみただけの考察ですけどね」

クレミオには家庭の愚痴を話していたようで、昔横暴な態度を取っていたのはそれもあったのではないかと考えているとノゼルが打ち明けると、ノゼルの話で明澄はクレミオが砕波の事が好きで明澄の事が気に入らないと零したことをふと思い出した。

 自分に対する嫉妬を打ち明けていた時の事を思い返すとクレミオは片思いしていたが、砕波が今琉璃を好いているため、砕波にはクレミオに対して恋愛感情は芽生えていなかったのかとノゼルの話で思える。

「そういや今思い出したんだけど……ジャロットの旦那、クレミオの事好きだったって噂聞いたことありましてね。」
「――えっ!?」

琉璃を暴行した実行犯の一人であるジャロットが昔、クレミオが好きだったこともあって砕波が嫌いだったという噂をノゼルが思いだしそれを口走ると明澄は何かしら嫌な考えが浮かんできたのだった。





――その夜、琉璃はもうベッドの上で寝息を立てていた。

誰かが琉璃がいる部屋へと向かう者がいるが、琉璃は影の気配に気付いてはいない。
琉璃の部屋からこっそり窓が開けられるが琉璃は寝返りを打つものの、それに気づいていなかった。

影は静かに琉璃のベッドに近づく、そしてじっと琉璃を見つめていた。

「さい、は……さん」
「――!」

琉璃は夢の中で砕波の夢を見ていた、影の持ち主は砕波を寝言で呟く琉璃の姿を見るなり下唇を悔しそうに噛む。

――ぎりっ

歯軋りを立てると、忍び寄った者は手を琉璃の首の方に持っていくと琉璃の首を締め始めた。
琉璃は誰かに首を絞められていることに気付き目を覚ましたが、暗いことと元々目が見えないので誰が首を絞めているのか分からなかった。

「――んで、アンタなの?」

聞き覚えのない声から、悔しさと妬ましさが混じったような感情が読み取れた。
琉璃は必死に首を掴んでいる手を解こうとしたが、力は強まるばかりだった――。

――バシュ!

「――!?」

しかしその時何処からか矢が飛んできたが、その矢は玩具のアーチェリーのものだった。
玩具の矢は琉璃のベッドヘッドにくっつき矢が飛んできたことに驚いて忍び寄った者は琉璃から手放してしまう。

「――ゲホゲホ!」

琉璃は必死で呼吸を整えた、何が起こっているのかさえ分からなかった。

「――止めろ、クレミオ!」

「――!?」

するとノゼルの声が聞こえてきて、琉璃の首を絞めていた犯人も琉璃も驚いていた。
そしてどこからか、ノゼルとショットが姿を現した。ショットの手にはシエルから借りた玩具のアーチェリーが握られていた。

「どう、して……!?」
「明澄サマがアンタを守る様アタシらに遣いとして寄越したんだよ、もしかしたらアンタを襲う様指示したがユリさんを狙うかもって言ってね」

ノゼルがここに駆けつけた理由を言うと、後ろにはフリッグもいた。

「そうだろ、クレミオ……?」
「――っ」

琉璃の首を絞めていた犯人はかつて、砕波とセフレ関係にあったクレミオだった。
クレミオは、琉璃を殺し損ねた悔しさとそれを邪魔された怒りを含めてノゼルを睨み付けた。

「俺も遠縁だけど魔女の子孫、透明になれる薬を使って隠れるなんて簡単な事だよ」

フリッグが透明になれる薬を使い、琉璃にもばれないようにここで静かにクレミオが来るのを待機していたことを明かした。

「ジャロットの野郎を使って、アンタでしょ?」

フリッグは睨みながら、琉璃をジャロットに暴行させて二人の仲を引き裂こうと画策した犯人がクレミオだったことをクレミオ本人に突きつけた。
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