初雪

ひでまる

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後編

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次の休日美咲は智彦のアパートへ向かった。バイト先で急に入ってくれと言われ、時間が遅くなってしまった。空を見ると、太陽が沈み、街には光が灯し始める。
 智彦はアパートで一人暮らしをしており、二階に住んでいる。ここの大家さんは清掃にうるさく、いつも怒られると大家さんのものまねをして笑わせてくれた。美咲は身体をぶるっと震わした。東京でも今夜は特に冷え込む。もしかしたら雪が降るかもと天気予報で言っていた。美咲は早々と二階に上がり、智彦の家のドアを開けた。
 ドアを開けると部屋は真っ暗だった。エアコンが使用されていて部屋の中は温かい。

「智彦来たよ」

呼びかけたが返事はない。もしかしたら外出していて、この寒さで凍死しているんじゃないかと一瞬頭によぎった。その時部屋の電気が点き、智彦の声が部屋に響いた。

「ようこそ、お待ちしておりました。雪だるまさんとのご対面です」

目の前を見ると高さ八十センチくらいの雪だるまが青いブルーシートの上に作られていた。

「これ、どうしたの?」

「作ったんだよ。大家さんに許可もらうのに苦労したんだぜ。ガミガミ言われてさ。でも事情説明してくれたら納得してさ。今回特別にだってさ」

智彦は笑いながら言った。
 美咲は感じた。本当にしんどかったのはそこではない。おそらく雪を取りに遠くまで行き、ここまで持ってきた労力だ。智彦の霜だらけの手を見ればすぐに分かった。

「ありがとう」

美咲はそっと言った。

「いいよ。それより思っていたよりけっこうかわいいだろ?」

雪だるまの顔には海苔が付けられており、たしかに子供みたく可愛らしかった。

「そうね。かわいいね」

美咲は優しい気持ちになった。

「雪だるま、後一時間くらいで溶けるから。エアコン使っているからな。触ってみたら?」

美咲は頷く。智彦は私が寒いのを知って、部屋を暖かくしている。その優しさに美咲は感謝した。美咲は雪だるまに近づき触った。雪の冷たさが手を通して身体の芯まで伝わる。冷たいが雪だるまを見ていると心が温かくなる。

「ダルちゃんって付けていい?」

「そうだな」

智彦は美咲の真意を知り、それだけ言った。

雪だるまが嫌いだった彼女が、触れる事により親しく好きなったと感じたからだ。雪だるまは時間とともに溶けていく。ブルーシートには水が溜まってきた。

「美咲いいもの見せてあげるよ」

智彦は部屋の奥から小さい照明をたくさん持ってきた。それをダルちゃんの身体にセットする。

「観とけよ」

そう言うと部屋の明かりを消し、照明のスイッチを入れた。そうするとLED照明の輝かしい光が青、黄色とダルちゃんの周りで踊りだす。

「どんな風に映る?」

「きれい…そして優しい」

美咲は感動した。溶けていく雪だるまに輝く照明達。生と死の世界を同時に見ているようで、少し命のはかなさを感じた。

智彦は部屋の電気を点けた。そこから二人で溶けていくダルちゃんをずっと眺めていた。

「雪って、雪だるまっていいね」

美咲はつぶやいた。雪に触れたことがなかった自分が今まで損をして生きていたような気がした。

「おい、見ろよ。」

智彦は窓の方を見ながら叫んだ。見てみると真っ暗闇の空に白い妖精が舞い降りているようだ。

「雪だ…、雪が降っているの初めて見た」

「今年東京での初雪みたいだぜ」

智彦は満面の笑みを浮かべる。自分でも予期しなかったのだろう。

「雪って、こんなにきれいで素晴らしいんだね。私雪や雪だるまのこと勘違いしていた。ただ寒いだけの産物なんだって…でも見ている人を温かくする素晴らしいものって今日初めて知った」

美咲は窓に手を出した。

「そして手のひらに乗ってもはかなく消える寂しいものなんだってことを」

美咲の目には涙が浮かんでいた。

窓の外には雪がまだ降り続けている。このまま降り続ければ、明日の朝には雪景色が見れるだろう。明日また雪の素晴らしさを美咲と語り合えるかもしれない。ニュースキャスターもたまにはやるもんだなと智彦は思った。

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