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第三十九話 ひきこもり、未知との遭遇

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 もう少し取材を続けるということで、佐藤さんとは現地で別れることにした。小腹が空いたので、湖に隣接する建物まで歩く。雑貨店で菓子パンとコーヒーを購入して、レジにて代金を支払う。

「お兄さん、この辺では見かけん顔だね」

 レジのおばさんから声を掛けられた。

「地元の友人に。会いに来たんですよ」

 笑顔で対応しつつ、警戒されているのを感じ取った。

「……最近この辺りも物騒になっちゃってね。塾帰りの息子が、夜に湖が光ったとか言うの……。悪ガキが花火でもして、火事にでもなったら大変よね」

「お子さんが絡まれでもしたら怖いですよね」

 作り笑顔で相づちを打つ。

「そうなのよ! それに物取りまで出ちゃって、ぶっそうなんよ。数日前に庭先に干してあった、父さんのパッチが無くなっていたのよね」

「……」

 風で飛ばされたのでは……と口に出しかけた言葉を飲み込んだ。俺は店主おばさんの愚痴に近い話を、長々と聞いていた。

「僕ね! 鎮守の森で金髪の妖しい人影を見たんだ」

 店の奥から、可愛らしい子供の声が聞こえて来る。

「あら、もう学校から帰ってきたの」

 暫く店主の話に付き合い、俺は小さくお辞儀をし、店から逃げ出した。

 鎮守の森はゴブリンが居た場所と道が繋がっていた。そこで、少し気になったので、その社を見に行く事にする。

 湖から逸れて山沿いの道を十分ほど歩くと、赤い鳥居が見えてきた。そこから小さな社まで砂利道が続いている。鳥居を潜ると空気が変わり、静けさが一層増す。背丈ほど育った笹藪からガサリと音が鳴り、揺れたような気がした。

「ひっ! 誰かいるのか!!」

 木々で覆われた砂利道で、俺は大きな声を上げてしまう、子供が暗がりを恐れて、声を出したのと重なり自嘲する。

「チチ、タブタブ、デ、クルリカ!(そこに誰かいるんだろ)」

 健ちゃんに教わった異世界の言葉を、まるでそこに人間がいるかのように、藪に向けて声を発した。

 もちろん反応するはずもなく――

「ナージャ、ルリルカ、タブタブ」

 藪の中から高い声が飛び出し、下半身はパッチ、上半身にぼろ布を巻いた金髪の痴女が、俺の前に立ちはだかるように現れた。

 「ひい!?」

 俺は裏返ったような悲鳴を上げ、腰を抜かす……。

「ルル、ブルルカ、ブーブーリカ!!」

 痴女が俺に向け外国語で、何か喋り掛けてきた。

「日本語、分かり、ませんか??」

 俺はぎこちない日本語で対応してしまう。

「ルル、ブルルカ、ブリタニア!!」

 もしかしたら目の前の痴女が話している言葉は、異世界語ではないかと、はたと気がつく。

「アサシン(こんにちわ)。ルルベベ、ダ、マコト(私の名前は、まことです)」

 ――――自己紹介をしてみた。

「ララ! ルルベ、ダ、クララ! ララリル、ラリルカ、キーセームキセロニア!! ハムニカ、ノデ、アース、ダ、ハザウェイ?」

 彼女は自分の名前は、クララだと言ったのだけ分かる。

「クララ、ダーママ、ダ、ブリリント(言葉少しだけ分かる、沢山やめて」

 辿々たどたどしい異世界後で、彼女に伝えた。

 「ダー」

 そう言って、痴女はじっとこちらを見ている。

 俺は言葉が通じたので、ほっと胸をなで下ろす。さきほどまパッチ姿がであまりにも強烈だったので気づきもしなかったが、鼻筋の通った美しい顔立ち・・・・・・・・・・・・をした痴女の金髪から長い耳が見えた。

 「エルフのエロフや……」

 俺は日本語で小さく呟いた。

 意思疎通が出来ることは分かったが、それでもこのまま会話を続けるのはかなり大変だと感じた。そういえば、エルフなら魔法が使えるのではないかと思いつく。

「ラムララー、デ、クリステ?(魔法は使えるのか)」

「ダー、ダー(使える、使える)」

 クララは、途端に首を大きく縦に振る。

「ダラクレ、リリカ……オノチョチョ、ラムララー、デ、クリステ(翻訳魔法……意志の伝えられる魔法は可能か?)」

 彼女は目の前まで歩み寄り、俺の額に自分の額をくっつけ、何か呪文を唱えた。

「私の言葉が分かる」

 すると、翻訳された言葉が、自分の耳に入ってきた。

「ああ! 分かるとも」

 それを聞いたリリカが笑みを見せた瞬間、そのまま俺の胸に崩れ落ちて来る。(魔力切れだ!)俺は彼女を抱き抱えると「グググー」という腹の音が、鎮守の森に鳴り響く。

「お腹すいた……」

 か細く、今にも潰れてしまいそうな声が、胸元から聞こえてきた。
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