上 下
197 / 229

第百九十八話 魔王城【其の三】

しおりを挟む
 広大な芝生の敷地に魔王城は囲まれている。城を交差するように四本の道路が交差しており、その道ごとに名前が付けられていた。

「食料店が多くあるのが黒の街道にゃん」

 魔王城を出て少し歩いたところで、アナベルさんは俺にそう言った。

「馬車は使わないんだな」

 目新しい建物を眺めつつ、彼女に聞いた。

「魔王城の近くに建っている店は品揃えが良いので、馬車を使うまでもないのにゃ。おっちゃん様は、どの食材がご所望にゃ?」

「新鮮な卵と肉は一番最初に買いたい。果物や野菜は見ながら選ぶよ」

「わかったにゃん、全部の食材がそろいそうな店を紹介するのにゃ」

 アナベルさんが笑顔を浮かべる。

「助かるわ。この街を見て不思議に思ったのが、ここの住人はアナベルさんみたいな魔人ばかりでなく、ドワーフやリザードマン、エルフなどの種族も多く見かけるのは、どうしてなんだ」

「この街全体は魔王城の一部なんだにゃ。魔王国というのは無く、ただ魔王様に付き従いたく思う人々が寄り集まって、この城が広がったのにゃ」

「魔王様って凄いな……」

「魔人国総てを取り仕切っているのだから、当たり前のことを言わないで欲しいにゃ」

「で、魔王様ってどの種族なんだ」

 聞きたかった事を、続けざまに二度、三度とアナベルさんに聞いた。

「魔王様は魔王様だにゃ……魔王様の世継ぎが生まれたら、それが次の魔王様になるのにゃ」

 それが然も当たり前のように答える。

「では、魔王様は独り身になるのか」

「お前まさか狙っているのかにゃ!?」

 俺が笑いながら話したのを聞いたアナベルさんは、眉をひそめる。

「なはは、そんな訳ね―だろう。ただ百年前、魔王様が代替わりして、ここまで発展したと聞いたのでな……」

 俺は慌てて、言葉を足した。

「今の魔王様は偉大なお方ですにゃ! 全ての魔人国を従えて、こんな平和で素晴らしい街や文化を、どの国にも築き上げる功績を残したにゃん」

 アナベルさんが尻尾をピンと立て、胸を張った。

「お前の主は、本当に凄いのにゃ」

「ま、真似するでにゃい! あの店がそうにゃ」

 彼女は腕を組み、ムッとした表情を見せ、近くにある大きな建物を指差した。俺たちが入店すると、店内から美味しそうな食べ物の匂いが漂ってくる。中の様子はデパ地下そのものだった。小さく区分けされた食料品店が幾つも並び、買い物客が狭い通路で肩をぶつけるように、食材を選んでいた。俺はアナベルさんが紹介してくれる店で、食材を吟味しながら、食料品を買いあさる。次第に両手に抱えた荷物が増えていく……。

「これだけ買うと、持ち帰るのが大変になりそうだ」

 ズシリと肩に響く荷物を一端、床下に置いた。

「それは安心するにゃ、荷物は店に預ければ、すぐに城まで届けてくれるにゃん」

 アナベルさんはそう口にする。

「それは便利だ」

「当たり前なんだにゃ、ここも魔王城の一部だからにゃん」

 それを聞いてすぐに荷物を預ける。そうして、この店だけで、魚から肉まで全ての食材を買いそろえることが出来た。

「思ったより早く買い物を済ますことが出来たから、何か軽く食べていこう」

 軽い気持ちで彼女を誘ってみた。

「それは嬉しいにゃ! おっちゃん様は何が食べたいのにゃ」

 断られるかと思っていたら、簡単に食い付き苦笑する。

「口に入れば何でも良いぞ。アナベルさんの食べたい店にいくのにゃん」

 今度は、彼女は何も言わずに、機嫌良く店から飛び出した。

             *      *      *

「この店にするのにゃ」

 店に入って先客が食べている物を見ると、パンケーキが売りのカフェだった。俺たちはテーブルに着くと、給仕がお品書きを手渡してくれた。

「どれも美味しそうで、凄く迷うにゃ」

 猫のような瞳を瞬かせ。お品書きに目を通す。

「俺は同じ奴で頼む……飲み物は甘くない、冷たいのを注文してくれ」

「了解したにゃん」

 給仕が持ってきたのは、パンケーキにフルーツが沢山乗って、その上にたっぷりと蜜が掛かったスイーツが出てきた。

「この店で、いま一番人気なメニューにゃん」

「フルーツがどっさり乗せられて、旨そうだな。蜜以外で、クリームや氷菓子が乗っているパンケーキも食べたくなったぞ」

「ニャハハ、それはなんだにゃ」

 アナベルさんが呆れたふうに言う。

「しらないならそれで良い……そういや、魔王様の好きな食べ物を聞かせてくれ」

 俺はアナベルさんと顔を合わせて相談を持ちかた。

「なんでも食べるにゃん。とくに嫌いな食べ物はないにゃん。料理長が、つくり甲斐のない魔王様だと、時々ぼやいているのにゃ」

「はははは。毎回、不味いと言われるより、辛いかもしれん」

「私なら今日買った高級獣肉が毎日食べられたら、幸せにゃんだが」

 尖った耳をぴくぴくと動かして、そう口にした。

「そこは魚と言って欲しかったぞ」

 俺はちょっと残念そうな顔をしてみせた。

「魔王様と同じ事を、おっちゃん様にも言われたにゃん」

 彼女は口を尖らせて言う。

 パンケーキを食べ終えた俺たちは、魔王城に戻ることにする。とりとめのない会話を続けながら城に到着すると、食材の方が先に着いていたことに驚いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される とあるところに勇者6人のパーティがいました 剛剣の勇者 静寂の勇者 城砦の勇者 火炎の勇者 御門の勇者 解体の勇者 最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。 ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします 本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。 そうして彼は自分の力で前を歩きだす。 祝!書籍化! 感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。

処理中です...