上 下
184 / 229

第百八十五話 王女と夢の国

しおりを挟む
 私たちはターニャ王女の専用馬車に乗って、街を案内して貰うことになった。馬車の窓から、宮殿の全体像を見て驚きを隠せなかった。白いレンガで覆われた城壁の、壮大な建物が目に飛び込んできた。高さは地上から、五十メートルを優に超えている。天井は青く塗られて細く尖っており、その美しさもさることながら、素人の目から見ても建築技術の高さが分かる。しかも青と白の色彩のコントラストは、芸術品だと言わざる終えないほど美しかった。

 それと比べると自国の城が、なんともみすぼらしいものだと恥ずかしくなる。しかもレンガ地の石畳で敷き詰められ道の、両端の建物にさえ我が城は負けていた。

「何を珍しそうに眺めておるのじゃ」

 と、ターニャに聞かれて

「いつもと違う風景を楽しんでおりました」

 そう言うしかなかった。おっちゃんからはラミアに会うとは聞いてはいたが、それは上半身が人間で裸の蛇が、小さな村を作っていると思っていた自分を恥じた。けれども沢山の馬車が行き交うのに、圧倒されながら美しい町並みを楽しんでいる自分もいた。

「俺も初めてこの国を訪れたときは、こんな感じだったよ」

 おっちゃんは、私の心を見透かしたかのように話し掛けてくる。

「言葉になりませんわ……」

 ほーっと、溜息を一つ付いた。

「ドワーフ国、エルフ皇国なんかは、これ以上の街かもしれない」

 それを聞いて、私は開いた口が塞がらなかった。このような国を束ねている魔王に、これから会に行くと思うと恐ろしくなった。

 私たちが乗った馬車は、沢山のラミア人が行き来している、商店街の前に横付けされた。 

 私たちは、従者に守られながら街を散策する。

「服屋はちょっと特殊なので、まずは下着の店を紹介してあげれば喜ぶぞ」

「そうじゃの、下半身に二本の足がついておるから、服だとバランスが悪かろう」

 おっちゃんとターニャの会話に聞き耳を立てていた。

 その店は、こぢんまりとしているけれど、街の雰囲気にぴったりと溶け込んだ店であった。扉をくぐると、色とりどりの下着が所狭しと並べてある。店の女性店員が私たちに恭しく挨拶をしてきた。

「姫様、今日はどのようなものをお探しでしょうか?」

「彼女に見合う下着を見繕ってくれ」

「はい畏まりました、失礼しますね」

 店員は私を後ろから抱きかかえ、胸を揉まれた。

「ひやい!!」

 突然の恥辱に、真っ赤な顔で下を俯く……。

「そんな声を出すのではない、店員が驚いておるぞ」

 ターニャはクスッと笑った。私は店員に胸を揉みくちゃにされ、辱めを受けた。これは私に対しての虐めでは無かろうかと思ったが違った。

「これなどはどうでしょうか。貴方様にはこの胸当てがよく似合いそうですね」

 そう言って、幾つかの品を私に手渡した。

「……」

 私はそれが何か分からず押し黙る。

「なんじゃ、子供でもないのに、これを付けたことはないのか」

 私は店員に奥の部屋に通され、胸当てのレクチャーを受けた。

 正直、この胸当という下着に目が釘付けになった。バストアップはもちろん、その付け心地は目を見張るものがあった。そのなかでも一番驚かされたことは、胸の型崩れを防ぐための下着だと教えられたことだ。確かに私より年上の女性の胸は、垂れてきているのは老化だとは思ってはいた。しかしこの下着の効果でそれが守られるなんて、正直革命だと確信できた。
                                                            
 その頃おっちゃんは、乳袋を頭に当て、猫~~と言って、ターニャに電撃を浴びせさられていた――

「こんなに沢山の胸当てを、買って下さってありがとうございます」

「ああ構わんよ! おっちゃんにつけといたから」

 そう言って、彼女はころころと可愛く笑った。

 大通りを歩くと、大きな透明のガラス張りで仕切られたケースの中に、服や貴金属や食べ物が並べられている店が沢山ある。このようなガラスを当たり前のように使う、彼らの工業力はいかほどのものなか……我が国との国力差を痛感した。そんな中、ターニャが一軒の宝飾店に入っていく。

 その店が使っている宝石の質は、我が国とはあまり代わり映えはしないと感じた。されど宝石を飾るデザインの斬新さ、宝石のカットの入れ方は、どれも我が国の高級宝飾店を凌駕していた。

 「これなぞ可愛いのではないか」

 彼女は次々と私の首に、ネックレスをあてがってくる。普段の私ならほとんど食指が動かないのだが、この店の宝飾品に関してはどれもが目移りして困ってしまう。ターニャと二人で、宝石を付け合い時間が過ぎるのを忘れた。

「ターニャ様、そろそろ帰りませんと夕食に間に合いません」

 お付きが彼女の耳元で、小さく囁いた。

 私は綺麗に箱詰めされた、数々の装飾品をおっちゃんに預け、気をよくしてお城に戻ることになった。

「ターニャ様、今日は本当に夢のような楽しい一日でした。心よりお礼申し上げます」

 夢のような時間をくれたターニャに対して、心から感謝の言葉を伝える。

「構わん、構わん。だが楽しみはこの後じゃがな」

 彼女はそう言って、横目でちらりとおっちゃんを見つめた。

 何故か、おっちゃんが苦虫を噛み潰したような顔をしていた――
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される とあるところに勇者6人のパーティがいました 剛剣の勇者 静寂の勇者 城砦の勇者 火炎の勇者 御門の勇者 解体の勇者 最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。 ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします 本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。 そうして彼は自分の力で前を歩きだす。 祝!書籍化! 感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...