上 下
167 / 229

第百六十八話 亡国の姫君【其の十一】

しおりを挟む
スカーレットとレミが仲良くなってから、彼女を取り巻く環境が大きく変わる。スカーレットは、レミの仲間であるガキたちと一緒に外で遊ぶ事が多くなった。ここではリーダーが小さな子どもから、大きな子どもまで一つにまとめあげて遊び回っている。

 鬼ごっこや隠れん坊みたいなゲームをしたり、ボールをみんなで投げ合ったり、スカーレットを交えて楽しく遊んでいた。そんな様子を薙刀を横に置いて、木陰から覗く俺は、過保護の親みたいに見られていた……。それが何となく癪に障ったので、ガキたちに飴を配り、自分の評価を下げないように胡麻を擂ってみた。結局この行為が裏目ってしまい、陰で飴オヤジなどと呼ばれていたことに涙する……。

 家においてもスカーレットと雛鳥たちの関係が良くなり、徐々に会話も増えていく。今日は食卓にテレサが居て、二人は仲良く世間話をしている。

「レミの友人から面白い遊びを教えてくれと言われました……けれど小さい頃から大勢で遊んだことなど無かったので、良い案が浮かびません。テレサさんが経験した外での遊び方を、私に伝授してくれないかしら」

「遊びか……実は私も恥ずかしながら、小さい頃から剣しか振ってこなかったので、鬼ごっこや隠れん坊みたいな、ありきたりな遊びしか思いつかないぞ」

 そう言って、お互いが溜息をついて下を向いた。駄目人間の会話なのか、エリート同士の会話かよくわからんなと、酒を飲みながら聞いていた。

「俺の故郷の遊び方を伝授してやる」

 そう言って、彼女たちが夕食を食べ終わるまで待つことにした。

「まずは『ドワーフが屁をこいた』という遊びを伝授しようか」

 二人を狭い廊下に連れ出し、俺が鬼になって実践形式で教えることにする。

「ドワーフが屁をこいた」

 俺が壁を背にして後ろを向きながら、ゆっくりと十文字の言葉を吐くと、二人が恐る恐る近づいてくる。

「ドワーフが屁をこいた」

 今度は素早く十文字の言葉を吐く。

「はい、テレサの足が動いたね」

「うぬ!? 狡いではないか」

「ははは、そういうフェイントをかける遊びだよ」

「なるほど、そうしてオニがタイミングをずらして、動いた人を捕まえていく遊びか」

「そうだな、それで捕まった人は順に、小指と小指を繋げて、まだ捕まっていない人から助けが来るまで待つ。スカーレットが俺に捕まっていないていで、俺の所まで来てくれ」

「それからどうするのかしら」

「俺とテレサが結んでいる小指を、「切った」と言って、チョップで切ると捕獲された人が、そこから逃げることが出来る。切られた俺は目をつむって十数えてから「止まれ」と合図を出すと、そこで全員その場に立ち止まる。そうして俺はそこから十歩、歩くことが出来る。その間に逃げ遅れた人の身体をタッチし捕まえ直す。最後に自分の靴を脱いで、その靴を投げつける。靴が当たれば、捕まったと見なされる」

「靴をよけるとき、動いても良いのか?」

「良い質問だ、地面についた足さえ動かさなければ、身体を動かすのは自由だ」

「オニの所まで全員が到着できずに終わったり、逃げた後、オニに捕まった人の中からオニを選ぶ。もしオニが誰も捕まえることが出来なければ、またオニを繰り返す」

「面白そうな遊びですね」

 スカーレットは明るい表情で、俺に笑顔を見せた。

「でも屁というのが、汚い感じがするぞ」

 テレサはなんとも言いようもない苦い顔をしていた。

「そのくだらなさが、良いんじゃないか」

 そう言って、ははっと笑った。

「もう一つの遊びは家で出来ないので、お茶を飲みながら教えてやる」

 テーブルの上の空になった食器を片付け、お茶菓子とお茶を雛鳥たち前に並べる。それを然も当たり前のようにカップに口を付けて飲み出したのを見計らい、話し出すことにする。

「それは、薪蹴りだ……。ちょうど立つぐらいの薪を用意してオニを一人決める。その薪を、オニ以外の子が思いっきり蹴るとゲームの開始だ。オニがその薪を拾って元の位置に戻すまでに、子は家や樹木の陰に隠れる。オニは見付けた子の名前を言って、立たせた薪に足でタッチする。名指しされた人は鬼のそばに行って助けを待つ」

「隠れん坊みたいですね」

「そうだな。隠れん坊と大きく違うのは、オニが薪から離れた隙に、その薪をまだ捕まっていない人が蹴り込むと、捕まった人が解放され、また薪を拾いに行きゲームが開始される」

「全員がばらけると、オニが子を捕まえるのが難しくなりますね」

「その駆け引きが、この遊びのミソだ。ただし、薪を蹴られ続けると永遠にオニを続けないといけないので、地獄の遊びとなる。この辺は年長者が上手くさじ加減をして遊んでやるんだがな。俺たちの子供の頃は、ギャン泣きさせる、させられるまで薪を蹴ったもんだ」

「ひぃ~~っ。その絵面えづらが見えるので怖いぞ」

「明日、みんなで遊びますわ」

 スカーレットは目をキラキラさせながら言った。

 この薪蹴りは、タリアの町はおろか、国中に広がっていく。一人で泣きながら、暗くなるまでオニを続ける怨嗟えんさの声がおっちゃんに届いたとか……。

 後日談――

 スカーレットが楽しかった薪蹴りの話しをレイラに話したら、オレたちもやろうぜといって外に連れ出されてしまう。

「じゃあ、蹴るからおっちゃん覚悟しろよ!」

「ゴボン」というあり得ないほど大きな音を立てて、薪が一直線に飛んでいく。その薪は何処までも何処までも飛んでいく。空の彼方まで飛んでいってしまった薪は、おっちゃんはおろか、蹴った本人でさえ見付けることは出来なかった。そんなことを何回か繰り返していくうちに「脳筋」と呼ばれた赤髪の少女が、薪を探している間にお遊びはお開きになっていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される とあるところに勇者6人のパーティがいました 剛剣の勇者 静寂の勇者 城砦の勇者 火炎の勇者 御門の勇者 解体の勇者 最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。 ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします 本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。 そうして彼は自分の力で前を歩きだす。 祝!書籍化! 感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...