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第百六十八話 亡国の姫君【其の十一】
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スカーレットとレミが仲良くなってから、彼女を取り巻く環境が大きく変わる。スカーレットは、レミの仲間であるガキたちと一緒に外で遊ぶ事が多くなった。ここではリーダーが小さな子どもから、大きな子どもまで一つにまとめあげて遊び回っている。
鬼ごっこや隠れん坊みたいなゲームをしたり、ボールをみんなで投げ合ったり、スカーレットを交えて楽しく遊んでいた。そんな様子を薙刀を横に置いて、木陰から覗く俺は、過保護の親みたいに見られていた……。それが何となく癪に障ったので、ガキたちに飴を配り、自分の評価を下げないように胡麻を擂ってみた。結局この行為が裏目ってしまい、陰で飴オヤジなどと呼ばれていたことに涙する……。
家においてもスカーレットと雛鳥たちの関係が良くなり、徐々に会話も増えていく。今日は食卓にテレサが居て、二人は仲良く世間話をしている。
「レミの友人から面白い遊びを教えてくれと言われました……けれど小さい頃から大勢で遊んだことなど無かったので、良い案が浮かびません。テレサさんが経験した外での遊び方を、私に伝授してくれないかしら」
「遊びか……実は私も恥ずかしながら、小さい頃から剣しか振ってこなかったので、鬼ごっこや隠れん坊みたいな、ありきたりな遊びしか思いつかないぞ」
そう言って、お互いが溜息をついて下を向いた。駄目人間の会話なのか、エリート同士の会話かよくわからんなと、酒を飲みながら聞いていた。
「俺の故郷の遊び方を伝授してやる」
そう言って、彼女たちが夕食を食べ終わるまで待つことにした。
「まずは『ドワーフが屁をこいた』という遊びを伝授しようか」
二人を狭い廊下に連れ出し、俺が鬼になって実践形式で教えることにする。
「ドワーフが屁をこいた」
俺が壁を背にして後ろを向きながら、ゆっくりと十文字の言葉を吐くと、二人が恐る恐る近づいてくる。
「ドワーフが屁をこいた」
今度は素早く十文字の言葉を吐く。
「はい、テレサの足が動いたね」
「うぬ!? 狡いではないか」
「ははは、そういうフェイントをかける遊びだよ」
「なるほど、そうしてオニがタイミングをずらして、動いた人を捕まえていく遊びか」
「そうだな、それで捕まった人は順に、小指と小指を繋げて、まだ捕まっていない人から助けが来るまで待つ。スカーレットが俺に捕まっていないていで、俺の所まで来てくれ」
「それからどうするのかしら」
「俺とテレサが結んでいる小指を、「切った」と言って、チョップで切ると捕獲された人が、そこから逃げることが出来る。切られた俺は目をつむって十数えてから「止まれ」と合図を出すと、そこで全員その場に立ち止まる。そうして俺はそこから十歩、歩くことが出来る。その間に逃げ遅れた人の身体をタッチし捕まえ直す。最後に自分の靴を脱いで、その靴を投げつける。靴が当たれば、捕まったと見なされる」
「靴をよけるとき、動いても良いのか?」
「良い質問だ、地面についた足さえ動かさなければ、身体を動かすのは自由だ」
「オニの所まで全員が到着できずに終わったり、逃げた後、オニに捕まった人の中からオニを選ぶ。もしオニが誰も捕まえることが出来なければ、またオニを繰り返す」
「面白そうな遊びですね」
スカーレットは明るい表情で、俺に笑顔を見せた。
「でも屁というのが、汚い感じがするぞ」
テレサはなんとも言いようもない苦い顔をしていた。
「そのくだらなさが、良いんじゃないか」
そう言って、ははっと笑った。
「もう一つの遊びは家で出来ないので、お茶を飲みながら教えてやる」
テーブルの上の空になった食器を片付け、お茶菓子とお茶を雛鳥たち前に並べる。それを然も当たり前のようにカップに口を付けて飲み出したのを見計らい、話し出すことにする。
「それは、薪蹴りだ……。ちょうど立つぐらいの薪を用意してオニを一人決める。その薪を、オニ以外の子が思いっきり蹴るとゲームの開始だ。オニがその薪を拾って元の位置に戻すまでに、子は家や樹木の陰に隠れる。オニは見付けた子の名前を言って、立たせた薪に足でタッチする。名指しされた人は鬼のそばに行って助けを待つ」
「隠れん坊みたいですね」
「そうだな。隠れん坊と大きく違うのは、オニが薪から離れた隙に、その薪をまだ捕まっていない人が蹴り込むと、捕まった人が解放され、また薪を拾いに行きゲームが開始される」
「全員がばらけると、オニが子を捕まえるのが難しくなりますね」
「その駆け引きが、この遊びのミソだ。ただし、薪を蹴られ続けると永遠にオニを続けないといけないので、地獄の遊びとなる。この辺は年長者が上手くさじ加減をして遊んでやるんだがな。俺たちの子供の頃は、ギャン泣きさせる、させられるまで薪を蹴ったもんだ」
「ひぃ~~っ。その絵面が見えるので怖いぞ」
「明日、みんなで遊びますわ」
スカーレットは目をキラキラさせながら言った。
この薪蹴りは、タリアの町はおろか、国中に広がっていく。一人で泣きながら、暗くなるまでオニを続ける怨嗟の声がおっちゃんに届いたとか……。
後日談――
スカーレットが楽しかった薪蹴りの話しをレイラに話したら、オレたちもやろうぜといって外に連れ出されてしまう。
「じゃあ、蹴るからおっちゃん覚悟しろよ!」
「ゴボン」というあり得ないほど大きな音を立てて、薪が一直線に飛んでいく。その薪は何処までも何処までも飛んでいく。空の彼方まで飛んでいってしまった薪は、おっちゃんはおろか、蹴った本人でさえ見付けることは出来なかった。そんなことを何回か繰り返していくうちに「脳筋」と呼ばれた赤髪の少女が、薪を探している間にお遊びはお開きになっていた。
鬼ごっこや隠れん坊みたいなゲームをしたり、ボールをみんなで投げ合ったり、スカーレットを交えて楽しく遊んでいた。そんな様子を薙刀を横に置いて、木陰から覗く俺は、過保護の親みたいに見られていた……。それが何となく癪に障ったので、ガキたちに飴を配り、自分の評価を下げないように胡麻を擂ってみた。結局この行為が裏目ってしまい、陰で飴オヤジなどと呼ばれていたことに涙する……。
家においてもスカーレットと雛鳥たちの関係が良くなり、徐々に会話も増えていく。今日は食卓にテレサが居て、二人は仲良く世間話をしている。
「レミの友人から面白い遊びを教えてくれと言われました……けれど小さい頃から大勢で遊んだことなど無かったので、良い案が浮かびません。テレサさんが経験した外での遊び方を、私に伝授してくれないかしら」
「遊びか……実は私も恥ずかしながら、小さい頃から剣しか振ってこなかったので、鬼ごっこや隠れん坊みたいな、ありきたりな遊びしか思いつかないぞ」
そう言って、お互いが溜息をついて下を向いた。駄目人間の会話なのか、エリート同士の会話かよくわからんなと、酒を飲みながら聞いていた。
「俺の故郷の遊び方を伝授してやる」
そう言って、彼女たちが夕食を食べ終わるまで待つことにした。
「まずは『ドワーフが屁をこいた』という遊びを伝授しようか」
二人を狭い廊下に連れ出し、俺が鬼になって実践形式で教えることにする。
「ドワーフが屁をこいた」
俺が壁を背にして後ろを向きながら、ゆっくりと十文字の言葉を吐くと、二人が恐る恐る近づいてくる。
「ドワーフが屁をこいた」
今度は素早く十文字の言葉を吐く。
「はい、テレサの足が動いたね」
「うぬ!? 狡いではないか」
「ははは、そういうフェイントをかける遊びだよ」
「なるほど、そうしてオニがタイミングをずらして、動いた人を捕まえていく遊びか」
「そうだな、それで捕まった人は順に、小指と小指を繋げて、まだ捕まっていない人から助けが来るまで待つ。スカーレットが俺に捕まっていないていで、俺の所まで来てくれ」
「それからどうするのかしら」
「俺とテレサが結んでいる小指を、「切った」と言って、チョップで切ると捕獲された人が、そこから逃げることが出来る。切られた俺は目をつむって十数えてから「止まれ」と合図を出すと、そこで全員その場に立ち止まる。そうして俺はそこから十歩、歩くことが出来る。その間に逃げ遅れた人の身体をタッチし捕まえ直す。最後に自分の靴を脱いで、その靴を投げつける。靴が当たれば、捕まったと見なされる」
「靴をよけるとき、動いても良いのか?」
「良い質問だ、地面についた足さえ動かさなければ、身体を動かすのは自由だ」
「オニの所まで全員が到着できずに終わったり、逃げた後、オニに捕まった人の中からオニを選ぶ。もしオニが誰も捕まえることが出来なければ、またオニを繰り返す」
「面白そうな遊びですね」
スカーレットは明るい表情で、俺に笑顔を見せた。
「でも屁というのが、汚い感じがするぞ」
テレサはなんとも言いようもない苦い顔をしていた。
「そのくだらなさが、良いんじゃないか」
そう言って、ははっと笑った。
「もう一つの遊びは家で出来ないので、お茶を飲みながら教えてやる」
テーブルの上の空になった食器を片付け、お茶菓子とお茶を雛鳥たち前に並べる。それを然も当たり前のようにカップに口を付けて飲み出したのを見計らい、話し出すことにする。
「それは、薪蹴りだ……。ちょうど立つぐらいの薪を用意してオニを一人決める。その薪を、オニ以外の子が思いっきり蹴るとゲームの開始だ。オニがその薪を拾って元の位置に戻すまでに、子は家や樹木の陰に隠れる。オニは見付けた子の名前を言って、立たせた薪に足でタッチする。名指しされた人は鬼のそばに行って助けを待つ」
「隠れん坊みたいですね」
「そうだな。隠れん坊と大きく違うのは、オニが薪から離れた隙に、その薪をまだ捕まっていない人が蹴り込むと、捕まった人が解放され、また薪を拾いに行きゲームが開始される」
「全員がばらけると、オニが子を捕まえるのが難しくなりますね」
「その駆け引きが、この遊びのミソだ。ただし、薪を蹴られ続けると永遠にオニを続けないといけないので、地獄の遊びとなる。この辺は年長者が上手くさじ加減をして遊んでやるんだがな。俺たちの子供の頃は、ギャン泣きさせる、させられるまで薪を蹴ったもんだ」
「ひぃ~~っ。その絵面が見えるので怖いぞ」
「明日、みんなで遊びますわ」
スカーレットは目をキラキラさせながら言った。
この薪蹴りは、タリアの町はおろか、国中に広がっていく。一人で泣きながら、暗くなるまでオニを続ける怨嗟の声がおっちゃんに届いたとか……。
後日談――
スカーレットが楽しかった薪蹴りの話しをレイラに話したら、オレたちもやろうぜといって外に連れ出されてしまう。
「じゃあ、蹴るからおっちゃん覚悟しろよ!」
「ゴボン」というあり得ないほど大きな音を立てて、薪が一直線に飛んでいく。その薪は何処までも何処までも飛んでいく。空の彼方まで飛んでいってしまった薪は、おっちゃんはおろか、蹴った本人でさえ見付けることは出来なかった。そんなことを何回か繰り返していくうちに「脳筋」と呼ばれた赤髪の少女が、薪を探している間にお遊びはお開きになっていた。
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