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第百五十七話 子供の悪戯(こどものいたずら)

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 今日は羽目を外そうと金貨を握りしめて、歓楽街に一人で繰り出したはずがどうしてこうなった――――

「古酒をお湯割りでよろぴくーーーー」

 空になったカップを高く掲げながら左右に振るマリーサさんが、何故か俺の隣に座って注文を出していた。

「ねえ、もうそろそろ帰ってくれねーかな」

「ういーー? こんな若くて可愛い子が、無料ただでお相手してあげているというのに、どうして不満があるんれすか」

「おっちゃんの持ち金は、もう底を突いているのよ!」

「アハハハハ! 大丈夫ですよ、おっちゃんのギルド口座には少しずつ金貨が溜まっております!」

「ふはーー。マリーサさん、それって職権乱用じゃありませんか?」

「そうでしたっけ? フフフ……」

 どこぞの政治家ばりに笑顔で答える。 

「お姉さーーん! 俺も古酒お湯割り。あと串焼き五本追加ね」

「はーい! かしこまり」

 元気の良い女中の声が店に響く。

 注文をお願いし、マリーサさんの前に置かれたコップに、俺の飲みかけの古酒を注ぐ。コップに注がれた琥珀色の液体を、彼女は嬉しそうな顔をしながら一息に飲み干した。

 今日はここで、二人で飲むことにしようと腹をくくる……。

「おっちゃんさぁ~、隠していることがあるでしょ」

 マリーサさんは人の悪い笑みを浮かべる。そんな彼女の問い掛けに、俺はチラリと視線を向けた。

「何を唐突に言ってるんですかね」

「もーーーあれですよ。白い悪魔・・・・

  その名前を聞いた瞬間、俺の顔が一瞬だけ強張った。

「あれって、討伐隊が追い払ったってマリーサさん自身が、ギルドで報告していたじゃないんですか」

 あたかもその話題に興味を持っていない素振りを見せながら、会話を続ける。

「ういーーー。コブクロさんたちが、一週間ほど山に潜りましたが、白い悪魔の痕跡はみつからず、被害者も出なかったのは確かれす」

 マリーサさんの身体は徐々に俺の方に近づいてきている。

「それと俺の隠し事がどう繋がっているのやら分からないな」

「白い悪魔をおっちゃんが撃退したという女の勘れす!」

 頬をほんのり染めながら、身体をゆっくりと俺に預けてくる……。

「こんな低級冒険者のおっさんに、何を期待しているのやら……」

 俺は串焼をかじりながら、彼女の誘いに気づかない振りをする。

「れもれす……あの蛍光茸を換金した日、わらしの第六感はビビビときたのれす」

 酔っぱらいが、俺の膝を遠慮なく密着しながらすりすりと触ってくる。望まないスキンシップほどうざいと感じるほかはない。MMUマリーサマジウザイだ。

「はあぁ……ビビビね。もしそれが事実なら、五体満足でキノコを持って帰ってこられないわな」

 そう言って、マリーサさんの左手をしっしと手で払う。

「うひひ…そうですよね。このお酒、旨いですぅ~」

 今度は、足をねっとりと絡ませてくる……とんだビッチな酔っぱらいだ。

「オットウが紹介してくれる店にハズレ無しだな! 乾杯ーーーい」

「かんぱぁーいっ……」

 俺の首筋に顔を目一杯めいっぱい近づけて甘い声で囁いた。

 乾杯の数と酒の数が増えていく――

「お姉さん、グリッツお願いね」

「安い焼き菓子のくせに、どのお酒にも合うんだよな」

 俺は鉛筆のような細い焼き菓子を、一口大に折って口の中に放り込んだ。

「何、無粋な食べ方をしているんれすか!」

 彼女はブリッツの先端を自分の口に入れ、噛まずにその咥えた先・・・・を俺の口に押し込んだ。

「グリッツゲーム開始」

 そう言って、彼女は指先でグリッツを支えながら、俺に食べさせた。ポリポリと食べ進めて指先まで届くと、彼女はその人差し指を俺の口に入れる。俺は仕方なしに・・・・・、彼女の意図を汲み取った上で指を甘噛みする……。そうして甘じょっぱい指を舌で転がした。

 マリーサさんがそんな俺の姿を恍惚とした表情を浮かべながら、骨まで溶かすかのように、ねっとりと指をしゃぶっていく……。

 酒をしこたま飲んでいるとはいえ、酒場で馬鹿なことをしているぐらいの常識はまだ残っている。ただこれを仕掛けてきた、酔っぱらいに合わせているだけだと自分の心に言い訳をした。

「はい、はい俺の負けです」

 俺は彼女の柔らかい唇の感触に、少しだけ未練を残しつつグリッツゲームを強制終了させた。このまま彼女こどもに遊ばれて終わるのも癪だったので、今度は俺がグリッツをベチャベチャと舐めてマリーサさんの口に近づけたら、彼女は露骨に顔をしかめ、口を頑なに開こうとはしなかった。

 ――――解せぬ。

 すでに深夜を回っているのに、歓楽街はまだ人で溢れている。俺は酔っぱらって歩くことも出来なくなった彼女をおんぶしながら街を歩く。背中に大きな乳袋の感触MODマリーサオッパイデカイを感じながら、この喧噪にまみれた道を抜け出せば、山手線の駅に出るのではと言う錯覚を覚えた。

「もう一軒、行くのれすぅ~~」

 と、足をジタバタさせながら俺の耳元で、酒臭い息を吐きながら絡んでくる……。おおきな赤ちゃんを背負いながら、これが現実だと深い溜息を一つつく。
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