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第百十九話 あべこべ

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 玄関の呼び鈴が鳴ってないのに、ソラが玄関先にパタパタと走っていく。扉が開くとソラはその侵入者に飛びついた。「キュキュキュキューー」侵入者は笑いながら足にまとわりついてくるソラを払いのけ靴を脱ぎ捨てた。

「ソラ! お土産だ」

 レイラは大きな肉塊をソラの前に付き出した。

「キュキューー」

 自分の倍以上の肉塊を台所に引っ張っていく。

「可愛がるのは良いが、床を掃除する身になって見ろよ!」

 俺はレイラにぶつくさと文句を言うと、はいはいと俺の言葉を受け流してリビングに寝転がった。

「あーーー疲れた。腹ぺこなんで先に飯にしてくれ」

「了解」

 ソラもこの肉を早く食べさせろと台所で騒いでいるので、料理の準備を始める。とりあえず新鮮な肉を大きく切り分け、冷蔵庫に放り込む。残りの肉をフライパンに乗せ、特大ステーキを焼き始めた。

 焼いている間に風呂を沸かし、また料理を再開する。肉の焼いた臭いが台所一杯に広がると、ソラは「クーーーンクーーーン」と鳴き方を変え早くくれと催促する。あまりにもうるさいので容器に肉を山盛りにのせ、足下に置いた。ソラは直ぐに食べ出さず「ウニャニャニャニャ」と、鳴いた。

 どうやら頂きますといっているらしい……最近、勝手に覚えた芸に笑ってしまう。

 ステーキが焼き上がった頃、呼んでも居ないのに、テーブルにレイラが座り、俺を待たずに酒を飲んでいる。

「流石にそれはないよな」

 俺は顔をくしゃっと崩して変顔を作り、レイラに見せつけた。彼女は「ゴフッ」と鼻から酒を吹き出したのを見て俺は満足した。小学校の時覚えたスキルが、異世界で発揮した。

「ザマーー」

 レイラはプリプリと一人で怒っている。

「ハイ、お待ち!!」

 雛鳥にパンと出来たて熱々のステーキをテーブルに置いた。

「「頂きます」」

 二人で両手に手を合わせ食事を始めた。レイラと住むようになった当初、俺が食事の前に手を合わせて「頂きます」と言ってたとき何の宗教かと問われたことがあった。故郷で『食べ物として動植物の命を奪った、それらの命を頂いている』という意味から誰でも使う挨拶だよと説明する。それが刺さったのか、レイラも食事の前には頂きますと言うようになった。締めの言葉で「ご馳走様」があるぞと付け加えた。俺がその意味の説明が出来なかったせいか「ふーん」と言ったきり定着しなかった。

「ソラが山で迷子になってたって!?」

「はぁ……ギルドの仲間とテレサたちに大迷惑を掛けちまった」

「無事で何よりと言いたいが、油断しすぎだな!」

「だな……面目ない」

 情報交換やたわいもない話しをしながら、酒を酌み交わす。酒が切れたので席を立とうとした。

「お腹も静まったことだし、風呂に入って汗を流してくるから、つまみを頼むな」

「どっちがおっさんかわからね―な」

 彼女は笑いながら風呂場に行く。暫くして風呂場かろ俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「なんでか、ソラが風呂場から出ようとしないんだ!」

  風呂場に行くとレイラが素っ裸で、ソラを風呂場から出そうとしていた。

「迷子から帰ってきたら、湯船に浸かることを覚えたみたいだな」

「う、嘘だろッ!」

「とりあえず身体を流して湯船に入ってくれ」

  俺は湯船につかったレイラにソラを手渡した。ソラはレイラに抱きかかえられながら、翼をぱたぱたさせてご満悦な様子だった。

「あれだけ洗われるのを嫌がっていたのに信じられないぜ」

「身体が小さいから、のぼせない程度で面倒見手やってくれ」

 そう言って、風呂場の扉をバタンと閉めた。

「気持ちいいのかよ」

「キュピピーー」

 ソラは手を離せとばかりに、強く鳴き出す。

 手をそっと離すとソラは尻尾を動かし泳ぎ始めた。

「うけるんですけど」

 ソラが浴槽の端から泳ぎ切るのを見ながらゲラゲラ笑う。暫くの間ソラが湯船で遊んでいるのを見ていたが、手持ち蓋差になったレイラは面白がってソラに水を掛けた始めた。

「キュピピピ!!」

「うらうらうら~~~」

 さらにわざと飛沫しぶきを上げながらソラに水を掛けまくる。

「キュピピピピ!!」

 怒ったソラは尻尾で水を切ってレイラにぶっかけた。

「よくもやったなぁーーー」

 ――――。俺はつまみを用意しながら、風呂場から漏れ聞こえる大声に、今まで経験したことのない幸せを感じていた。そんな感情を吹き飛ばすように、首にタオルを巻いた、真っ裸なレイラが風呂から上がってきた。パンツぐらい履けよと思いながら、俺は入れ替わりに風呂に向かう。

 身体を流そうと湯船を見ると、半分にも満たない残り湯に涙した……。
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