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第百五話 台風はいつもの如く【後編】

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 届けられた木の箱を見て、俺はそれが何か直ぐに分かった。

「じゃじゃーん! これは何でしょうか?」

 クリオネは得意げな顔をして、テーブルに置いた木の箱を指差した。

「木の箱だな」

「木の箱だと思うぞ」

「木の箱」

 俺は答えを言うと、クリオネはギャン泣きするので知らない振りを続けた。

「木の箱?」

 彼女は勝ち誇った顔をして

「ブブーッ、これは綿菓子を作る道具でした」

「雲みたいな、ふあふあのお菓子が食べられるのか!」

 驚くことに、普段は物覚えの悪いレイラが綿菓子のことを覚えていた。

 クリオネが綿菓子作りの準備を始めた。雛鳥たちはその作業を興味津々に見つめている。木箱の中央に砕いた飴を入れ、飴が溶けていくのが見えた。

「おっちゃん、この横についている、ハンドルをぐるぐると回して」

 俺が動力源かよと思いつつ、ハンドルを回し始めた。ハンドルと連動して、飴を入れた中央部の容器がグルグルと回転し始める。ハンドルは思いのほか軽く、電動で動かしているみたいに早く回った。数分間、回し続けると、蜘蛛の糸のようなものが、容器から吹き出てきた。

 クリオネがそれを棒で巻き取っていく。棒はみるみるうちに、糸が絡んで大きく膨らむ。その様子を見ていたレイラたちからどよめきが起こった。 

「食べてみて」

 クリオネがレイラに綿菓子を差し出した。彼女はそれを口に入れるのを躊躇していた。そこで俺は、棒についた綿飴をひとつまみし、ムシャリと食べた。

「うわー不味い!!」

 テレサとルリに目配せし、二人の口に綿菓子を放り込んだ。

「ああぁ~不味っっ!!」

 レイラはそれを見て

「気持ち悪いから、いらないわ」

 言質を取りました!! テレサとルリはニヤリと笑い、機械から出てくる綿菓子を不味い、不味いと言いながら食べまくる。それを見たレイラは自分が罠にはめられたことに気が付いた。

「おい! オレにも食べさせろよ」

 俺たちは機械の周りを陣取り、綿菓子作りを楽しんだ。クリオネはそれを見ながら嬉しそうな顔をしていた。

「しかし、良く出来たよな」

 俺は綿菓子機の性能に感心しきりだった。

「飴を溶かすまでは簡単だったんだけど、それを回すギミックと穴の調節が試行錯誤の連続だったの」

「食べた瞬間溶けて消えてしまうなんて、マジで雲みたいなお菓子だよな」

 レイラが綿菓子を不思議そうに摘んで口に入れる。

「これは試作器だから、この家に置いとくね」

 『ピヨピヨピヨ』雛鳥たちから歓声が上がった。

「これからギルドで小金が稼げるぜ」

 俺が嬉しそうに話すと

「それは無理ね……。先日、これを王宮でお披露目して大成功したの。まずこの機械は、王が自慢するあきるまで独占されるわ。その後は貴族や王族関係に売り出されるので、一般庶民に流れるのは二年以上先だと思う。そんな機械を酒場で使って小銭稼ぎしたなんて知られたら、あんたと私は牢屋の中よ」

「でもよ、アイデアを出したのは俺だぞ! パテント料を支払え」

「パテント料がなんだか分からないけど、これを家で回して我慢して頂戴。そうだわ!   二年後には一番最初に動かせるんだから、そのとき儲ければいいのよ」

 俺はそれを聞いて肩を落とした。

「毎日、こんな美味いものが食べられるからよしとしよう」

 テレサが俺の肩を叩いた。レイラとルリも嬉しそうに頷いた。

「それな……」

 俺は続きの言葉を、口の中で溶けた綿菓子と共に飲み込んだ。

 一週間後――――

 台所の片隅に、うっすらとほこりの被った綿菓子機が置いてあった。
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