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第九十八話 退院祝い

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「テレサの現場復帰と、テトラが無事に皇国に帰れたことに乾杯ィィ~~~」

「「カンパーーイ!」」

 レイラの音頭でいつも通りの・・・・・・酒宴が始まった。

 俺はレイラを睨みつけ、不機嫌な表情をわざと作った。

「忘れてた……後、おっちゃんの無事の帰還に乾杯」

「「「カンパーーーーイ」」」

 最近は俺の手料理が当たり前になりすぎて、感謝のかの字も無くなり難しい舵取りを迫られる。お前たちの笑顔が母さんの喜びだよと、簡単に割り切れる大人には育っていなかった。ただ、他人から見れば、このシェアハウス状態が対価だと言われれば、反論は出来ない。甘んじて今の現状を受け入れようと思う。
「で、おっちゃんの横にテレサがくっついてるんだ?」

「私はおっちゃんの剣だから、鞘の横に居るのは当たり前のことではないか」

  恥じる様子もなく、俺の膝の上に手を乗せて話す。

「ムーーー」

 ルリも俺の横にぴたりくっつきプリンを頬張る。

 吊り橋効果が効き過ぎて、テレサの愛が重くのしかかる。いや、レイラがわざと俺の膝の上にお尻を重ねて腰掛ける。

「重いから!! 」

「レイラ! そんなところに座るのは迷惑千万」

「じゃあ、こうする」

 彼女は、俺の上に腰掛けていたお尻を百八十度回転させ、向かい合う。

 何、この状態は!? エロイベントには早すぎる。

「それはやりすぎ」

 ルリが俺とレイラの間に入り、腰を下ろす。

「ず、ずるいぞ、お前たち!!」

 テレサも無理栗に、尻を重ね合わす。

「も~~! 馬鹿な事していないで早く食べなさい!!!」

 俺は椅子から立ち上がり三人を振り落とす。床に転がったレイラがゲラゲラ笑う。それに釣られて二人も笑う。

 このノリについて行けてない俺は、作り笑顔でその場を誤魔化した――

 三羽の雛鳥をいつもの定位置に座らせる。

 今日はお祝いなので、ハンバーグを大量に用意した。唐揚げやカツレツより作る手間が掛かるから、我が家では特別な日に出るメニューになっている。

 「おっちゃん、新しい食べ物ってないのかよ?」

 うわー出ました、このデリカシーの欠片もない質問が……。

「お好み焼き、カツレツ、ハンバーグ、唐揚げ、天ぷら――― 俺の作れる範囲で故郷の人気メニューは、出尽くした感があるな。この前、お前らが食い尽くした餅米が手に入れば、美味しい物が色々と作れるけどな」

「あの、白い卵がけご飯という料理は美味かったな」

 雛鳥たちは大きく頷く。

「変わり種といったら、しゃぶしゃぶかな」

「なんだそれ!?」

「煮え立った鍋のお湯に、薄切りの肉をくぐらせ、ソースをつけて食べる料理があるが……」

「美味しそうだな」

「自分の好きな状態で、肉が食べられるので旨いが、結局は湯がいただけの、薄切り肉なんだよな」

「手品のネタを聞いたら、美味しさ半減みたいな」

「うんうん」

「じゃあ今度それを作ってくれよ!」

 当然、そうなるよな……小さな溜息をついた。

「そういえば、先日クリオネと作ってた料理はどうなんだろうか?」

 テレサがその様子を目聡く見ていた。

「ああ、あれは彼女にはあまり受けなかったよ」

「どんな味なんだ?」

 レイラの口から、ほんの少しだけ涎が垂れている。

「それは……食べたくなってきたから作ってきてやる」

 酒の入ったカップを持って、台所の向かった。     

 ――――――十分後。

「できたぞーーー 」

「「「早っっ!!」」」

 白い小皿に乗せた黄色い料理をテーブルに置いた。

「焼き菓子みたいで上手そうだな」

 レイラはフォークにそれを刺し口に入れた。

「卵料理だな」

「この料理名は卵焼きだ」

 それぞれが、卵焼きに手を伸ばし口に入れながら感想を述べる。

「あたし好き」

「ああ、あっさりして美味いな」

「もう、無くなったからお代わりだ」

 俺の分まで勝手に食って空の皿を差し出した……。

「これが問題なんだよ……」

「簡単に作れるように見えて、大量に用意するとかなり時間が掛かってしまう。しかも、お前たちがそれなりに満足する量を用意するとなると、今日テーブルに並べてた料理を一品減らすことになるぞ」

「それならいらないかも……」

「うんうん」

「つまみとしては、合格以上だ!! だが断る」

「卵焼きってそんな存在なんだよ! フライパンでオムレツ作ったほうが簡単だし」
 
「言われてみたらオムレツだな」

 食べ盛りの雛鳥に微妙な味の違いなんて分かるはずもなく――

 少し負けた気分になったので、甘い卵焼きを出そうと思ったが、なんか受けそうだったので作るのを止めにした。

 テーブルに並べられた料理が粗方食い尽くされた。お腹が一杯になったせいか会話も少なくなってくる。それぞれが誰かネタ振ってくれないかなぁ~という雰囲気になったときレイラがぽつんと呟いた。

「何か忘れている気がするんだよな……」

「わらしへの花束でちゅか」

 真っ赤な顔をしながら、酔っぱらいのテレサがフヒヒと笑う。

「まあ、もっと飲めば思い出すさ」

 俺はレイラのカップに酒を注いだ。俺の身体が突然、ガタガタと揺れ出した。震源地はルリの身体からだった。

「クリオネになんにも・・・・知らせてない……」

 ルリは石のような固い表情になる。

「ゲゲッ! そういや王国で知らせを届けてないな」

「クリオネを忘れちぇいるとは、どういうことでちゅか」

「不味いことをしたな……、実はテレサの怪我を真っ先に知らせてくれたのは彼女なんだ。しかも王国からわざわざ馬車に乗ってだぞ」

「ふ、不義理すぎます!!!! しかも快気祝いしてるのに、彼女が居ないとは!?」

 テレサの身体に残っていた酒が一瞬で消え去った。

「ハハハハ、これでスッキリした!」

 レイラがカラカラと笑った。

「なんてこと言うんですか」

「でもよ、普通ならこの食事中に、クリオネが『なんで私を呼ばないのよ』と突然、現れるのがお約束だよな」

「うんうん」

「おっちゃん、その絵が見えて笑えるぞ」

 空のコップをテーブルに打ち付け大爆笑した。

「あ、あなたたちは最低だ!! 明日パトリシア王女に無理言って、彼女に私の安否を直ぐに伝えて貰います」

「無事に解決だ! 勇者クリオネにカンパーイ」

 酔っぱらいたちの夜はまだまだ続く――





※ 関西圏の卵焼きは甘くない、関東圏の卵焼きは砂糖多めで甘い味が多い気がします。砂糖の入っていない卵焼きしか食べたことがなかったので、甘い卵焼きを食べたとき衝撃を受けました。寿司ネタの玉は甘い卵焼きかな。高級店のカステラみたいな玉は一度食べたいです。話しが大分外れましたので、これで失礼いたします。
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