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第一話 生と死の狭間でおっちゃんは足掻く
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森林を切り裂く演奏者。後ろからキーキーっと伴奏が流れる。 静岡音茶(しずおかおとちゃ)は走りながらアンサンブルを続ける。演奏が止まれば即ち死……伴奏を奏でる小鬼の晩飯となる。小鬼を振り切ることは出来ないが、森を抜ければ彼らは追ってこないそれがこの世界の理。
心の中で何度もくそったれと毒づきながら走る走る走る。
視界から木々が消え、自分が晩飯にされることが無くなったことに安心できるはずだったが……キーキーとした声はまだ後ろから聞こえる。一瞬だけ自分の死を感じたが、小鬼の数は半分になっている。足を止め右手に持った薙刀を軽く打ち下ろす。反撃を想定していなかった一匹の小鬼の身体が自ら刃に飛び込む。
「あと三匹!」
片手で持っていた薙刀を両手に持ちなおし、刃を右から左へ大きく走らす。小鬼はその早さに反応が遅れ地面にひれ伏した。
晩飯にならずに済んだことを確信して、二匹の小鬼を蹴散らす。彼らとのアンサンブルはそこで終わる。ネズミ色の固まりと化した死体から魔核を取り出す。逃げるときにほっぽり出したソリを今は取りに行くことは出来ない――今日は完全な赤字だ。
ギルドに戻ると窓口で魔核を金に換え、小鬼の群れに出会ったことを受付のマリーサさんに伝える。
「上級の冒険者にそちらのコースから出立するようにお願いします」
笑顔で俺をねぎらう。後ろからそのやり取りを聞いていた冒険者達が、小鬼ぐらい全部片付けて行けと俺を魚に酒を楽しむ。
「おっちゃんも飲んでいけよ♪」
と、誘われたが
「ソリをなくして小鬼4匹では飲み代も出ないわ」
そう返すと
「そりゃそうだ」
片手に持ったジョッキをテーブルに叩きつけゲラゲラと彼らは笑った。
静岡音茶は冒険者仲間からおっちゃんと呼ばれる。おとちゃという名前が発音すると、こちらの住人には『おっちゃん』に聞こえるらしい。俺のもといた世界で大阪弁でおっちゃん=おっさんなので気に食わない呼び名だが、事実おっさんには間違いないので仕方がないか……。
おっちゃんの仕事は冒険者。ギルドで依頼をうけたり、山で獲物や薬草を狩ってくるのが仕事。獲物で生計を立てられるほど腕はないので、冒険者というより薬草取りのおっさんというスタンスでギルド内では通っている。
上級者が小鬼におそわれた場所で小鬼の群れを殲滅したと聞いて、無くしたソリを探しに行く。この世界でのソリとは半畳ぐらいの大きさで、地面から荷台が20cmほど浮いている荷物を載せる魔道具。これは100kgぐらいの重さは抵抗なく引っ張れるすぐれた道具だが、欠点として歩く早さを超えると沈んでしまう。荷台の大きさは半畳以上はないので、馬に引かせたりすることが出来ない。この世界で一番安価な魔道具だ。まあ、安価といっても中古で金貨数枚は軽くするのだが……。
ソリはすぐに見つかり安堵する。積んでいた薬草もしなびてはいるが売るには問題がなさそうだ。そりを引くと近くにきらりと光るプレートを見つけて拾い上げる。冒険者を証明する身分証だ。これがあるということは、この近くで誰かが死んだ可能性が高い。死体や骨が見つからなくても、このプレートが唯一冒険者の証ともいえる。プレートは結構いい金で換金できるので、おっちゃんとしては臨時ボーナスになる。もし捜査依頼が出ている冒険者の持ち物であればさらに報奨金がつく。
冒険者を始めて数年たった頃、あまりにもプレートを見つけてくるので連続殺人鬼の疑いをかけられたことがあった。ギルドから内偵を受け誤解を解くのに苦労したものだ。普通の冒険者は薬草取りはすぐに卒業して、狩りや依頼を中心にするから、ベテランプレート拾い職人に育ったおっちゃんはギルド内で異質な存在。本人のあずかり知らないことではあるが……。
昨日は自分がこのプレートの持ち主のようになるかもしれないところだった。そんなことは完全に忘れて、今日誘われたら一杯ぐらいならお酒につきあってもいいと、足取り軽くギルドに帰るのであった。
冒険者を続けて何年にもなるが慣れないことがある。薬草を探していて、草むらからガサリと音がすると心臓がキュンと縮まってしまう。冒険者としては悪いことではないが、小動物でビクビクする自分が嫌なのである。
今日もそんなガサリとした音に必要以上に驚く。薙刀を構えて音のする方に身体を向けると、そこには狸を少し大きくしたモフモフの動物がこちらを見ている。大熊の子供だ ! 近くに親がいれば大惨事だが、数日前にこの辺で大熊を狩った冒険者が意気揚々とギルドに帰ってきたことを思い出す。たぶんこの熊はその子供だろう……クーンと鳴いておっちゃんにすり寄ってくる。この世界にきて久々に感じるモフモフ成分。「おまえもこの世界でひとりぼっちか……」しばらく堪能して帰路につく。
今日は美味しい熊鍋だ♪ この世は弱肉強食。熊が鍋を背負ってきた話。
これから異世界で足掻くおっちゃんの物語を最初から話そうと思う。
心の中で何度もくそったれと毒づきながら走る走る走る。
視界から木々が消え、自分が晩飯にされることが無くなったことに安心できるはずだったが……キーキーとした声はまだ後ろから聞こえる。一瞬だけ自分の死を感じたが、小鬼の数は半分になっている。足を止め右手に持った薙刀を軽く打ち下ろす。反撃を想定していなかった一匹の小鬼の身体が自ら刃に飛び込む。
「あと三匹!」
片手で持っていた薙刀を両手に持ちなおし、刃を右から左へ大きく走らす。小鬼はその早さに反応が遅れ地面にひれ伏した。
晩飯にならずに済んだことを確信して、二匹の小鬼を蹴散らす。彼らとのアンサンブルはそこで終わる。ネズミ色の固まりと化した死体から魔核を取り出す。逃げるときにほっぽり出したソリを今は取りに行くことは出来ない――今日は完全な赤字だ。
ギルドに戻ると窓口で魔核を金に換え、小鬼の群れに出会ったことを受付のマリーサさんに伝える。
「上級の冒険者にそちらのコースから出立するようにお願いします」
笑顔で俺をねぎらう。後ろからそのやり取りを聞いていた冒険者達が、小鬼ぐらい全部片付けて行けと俺を魚に酒を楽しむ。
「おっちゃんも飲んでいけよ♪」
と、誘われたが
「ソリをなくして小鬼4匹では飲み代も出ないわ」
そう返すと
「そりゃそうだ」
片手に持ったジョッキをテーブルに叩きつけゲラゲラと彼らは笑った。
静岡音茶は冒険者仲間からおっちゃんと呼ばれる。おとちゃという名前が発音すると、こちらの住人には『おっちゃん』に聞こえるらしい。俺のもといた世界で大阪弁でおっちゃん=おっさんなので気に食わない呼び名だが、事実おっさんには間違いないので仕方がないか……。
おっちゃんの仕事は冒険者。ギルドで依頼をうけたり、山で獲物や薬草を狩ってくるのが仕事。獲物で生計を立てられるほど腕はないので、冒険者というより薬草取りのおっさんというスタンスでギルド内では通っている。
上級者が小鬼におそわれた場所で小鬼の群れを殲滅したと聞いて、無くしたソリを探しに行く。この世界でのソリとは半畳ぐらいの大きさで、地面から荷台が20cmほど浮いている荷物を載せる魔道具。これは100kgぐらいの重さは抵抗なく引っ張れるすぐれた道具だが、欠点として歩く早さを超えると沈んでしまう。荷台の大きさは半畳以上はないので、馬に引かせたりすることが出来ない。この世界で一番安価な魔道具だ。まあ、安価といっても中古で金貨数枚は軽くするのだが……。
ソリはすぐに見つかり安堵する。積んでいた薬草もしなびてはいるが売るには問題がなさそうだ。そりを引くと近くにきらりと光るプレートを見つけて拾い上げる。冒険者を証明する身分証だ。これがあるということは、この近くで誰かが死んだ可能性が高い。死体や骨が見つからなくても、このプレートが唯一冒険者の証ともいえる。プレートは結構いい金で換金できるので、おっちゃんとしては臨時ボーナスになる。もし捜査依頼が出ている冒険者の持ち物であればさらに報奨金がつく。
冒険者を始めて数年たった頃、あまりにもプレートを見つけてくるので連続殺人鬼の疑いをかけられたことがあった。ギルドから内偵を受け誤解を解くのに苦労したものだ。普通の冒険者は薬草取りはすぐに卒業して、狩りや依頼を中心にするから、ベテランプレート拾い職人に育ったおっちゃんはギルド内で異質な存在。本人のあずかり知らないことではあるが……。
昨日は自分がこのプレートの持ち主のようになるかもしれないところだった。そんなことは完全に忘れて、今日誘われたら一杯ぐらいならお酒につきあってもいいと、足取り軽くギルドに帰るのであった。
冒険者を続けて何年にもなるが慣れないことがある。薬草を探していて、草むらからガサリと音がすると心臓がキュンと縮まってしまう。冒険者としては悪いことではないが、小動物でビクビクする自分が嫌なのである。
今日もそんなガサリとした音に必要以上に驚く。薙刀を構えて音のする方に身体を向けると、そこには狸を少し大きくしたモフモフの動物がこちらを見ている。大熊の子供だ ! 近くに親がいれば大惨事だが、数日前にこの辺で大熊を狩った冒険者が意気揚々とギルドに帰ってきたことを思い出す。たぶんこの熊はその子供だろう……クーンと鳴いておっちゃんにすり寄ってくる。この世界にきて久々に感じるモフモフ成分。「おまえもこの世界でひとりぼっちか……」しばらく堪能して帰路につく。
今日は美味しい熊鍋だ♪ この世は弱肉強食。熊が鍋を背負ってきた話。
これから異世界で足掻くおっちゃんの物語を最初から話そうと思う。
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