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トゥトゥベの個人的プロフィールのセキュリティの件と、場所の特定を避けるために、便宜上「太子町」というワードを使用したが、実際の正確なロケーションをここに記載するのは止めて置く。読者よ、我慢してくれ。お互いの為に良くないのだ。とにかく、大阪府と奈良の中間あたりの出来事だと思って欲しい。
そして、今は、一九五五年。私、須久麻ショーン、通称ジョーは二十歳だ。二十歳で色々な経験をしたにはしたが、じつはまだ右も左も分からない、そんな時節だ。この町は、大阪府の最南端。ひと山越えると、奈良になる。日本の関西という地域は、戦前は阪神間・関西モダニズムゾーンと呼ばれ、日本で最も栄えた商業ゾーンであった。この辺の都市は、神戸・梅田・難波・京都・奈良である。かつては、いにしえの時代、奈良に平城京、京都に平安京という都市が造られた。奈良文化と京都文化は、日本文化ではあるが、そのベースとなっているのはそれぞれで、(意見・研究はいろいろ存在するのだが、)奈良文化はインドからのインポート性が強く、京都文化は中国からのインポート性が強い、とする向きがあるのだ。たしかに、古都・奈良・法隆寺などを歩くと、インドの風情を時代を超えて感じたりもするのだ。私は山あいの公務員もどきだ。これは、国連軍の動きを他に悟られまいとする便宜上の立場である。時々、学校で、英語とフランス語を教えた。私のルーツのひとつが日系でもあるため、日本語は使える。トゥトゥベにここで生活してゆくための日本語も教えている。私のアパートは木造二階建てで、オーナーの女性が管理している。ギャルソンはそこから歩きで十分もしない場所の木造平屋の下宿に住んでいる。ギャルソンの家を訪問した。ギャルソンの部屋は入口近くの共同風呂の二つ隣りで、共同風呂は順番で掃除することになっているらしい。私が、ギャルソンを訪ねた際、共同風呂のドアを、共同トイレのドアと間違えて開けてしまった。そこに真っ裸の男女学生が居た。二人はセックスしていたのだ。私は驚いてドアを閉めた。今考えると笑える話だ。そんなのどかな処だった。その時代は学生が元気だった。学生演劇なども盛んだったのだ。ギャルソンはモモと同棲している。ギャルソンの部屋から、隣りの住民のセックスの音がよく聴こえる。まあ、それはいい。壁がうすいのだ。ギャルソンの部屋は、マガジンやら、新聞やら、俗物雑誌やら、そんなものでごった返している。あまり客がゆっくりできるような状態ではない。水槽があった。メダカを飼っているようだ。平屋アパートは南米にあるような蔦で覆われていた。日本の夏は南米の夏とよく似ている。とにかく暑い。隣りの住民は汗だくになってセックスしているようだ・・・。歓喜の声が聴こえる。いいじゃないか。ギャルソンはヨーロッパから持って来たスライドを見せてくれた。それは、美術品のスライドだった。そういうのを見ながらお茶を飲むのが、ギャルソンの趣味らしい。
ふと、おし入れの中から男性の声、というかイビキが聴こえた。え、なんなのよ、それ? ギャルソンがおし入れの隅を少し開けて言う、「おい、もう起きろよ」。 「うううん。うううん。うううん。あー、よく寝た」そういって中から出てきたのは、オレンジボーイじゃないか!? ど、どういうこと? ギャルソンは説明する。私はびっくり。オレンジボーイは、シンガポール廻りの貨物船に密航して、なんと、あの中東の村から、この太子町にやってきたのだそうだ、ギャルソンを慕って・・・。着の身着のままで・・・。ギャルソンは仕方なく、彼の仕事が見つかる迄、ここで面倒を見ているのだ、と。
「うぃーーすっ!」オレンジボーイは屈託も無くそう言い放った。当のギャルソンは昼間は国連軍からの指令をこなしながら、余暇には劇団に入って演劇をしているのだそう。趣味人だ。モモが買い物から帰って来た。モモは、この近所のスーパー商店でレジ打ちをしながら、時代の記録を残すために写真を撮って居る。それも、いいじゃないか。この辺りは戦前からの町並みのままだ。土壁の家も多い。戦後十年、だんだん昔の景色は無くなりつつある。それを写真に撮っておくのもいいだろう。彼女がレジをしている商店で、すこし売れ残ったから半額で、おいしい鯛の刺身があったからそれを買ってきたそうだ。鯛の刺身を、すこし湯通しして、ワサビ醤油で頂くのは、よき晩飯だ。
トゥトゥベの個人的プロフィールのセキュリティの件と、場所の特定を避けるために、便宜上「太子町」というワードを使用したが、実際の正確なロケーションをここに記載するのは止めて置く。読者よ、我慢してくれ。お互いの為に良くないのだ。とにかく、大阪府と奈良の中間あたりの出来事だと思って欲しい。
そして、今は、一九五五年。私、須久麻ショーン、通称ジョーは二十歳だ。二十歳で色々な経験をしたにはしたが、じつはまだ右も左も分からない、そんな時節だ。この町は、大阪府の最南端。ひと山越えると、奈良になる。日本の関西という地域は、戦前は阪神間・関西モダニズムゾーンと呼ばれ、日本で最も栄えた商業ゾーンであった。この辺の都市は、神戸・梅田・難波・京都・奈良である。かつては、いにしえの時代、奈良に平城京、京都に平安京という都市が造られた。奈良文化と京都文化は、日本文化ではあるが、そのベースとなっているのはそれぞれで、(意見・研究はいろいろ存在するのだが、)奈良文化はインドからのインポート性が強く、京都文化は中国からのインポート性が強い、とする向きがあるのだ。たしかに、古都・奈良・法隆寺などを歩くと、インドの風情を時代を超えて感じたりもするのだ。私は山あいの公務員もどきだ。これは、国連軍の動きを他に悟られまいとする便宜上の立場である。時々、学校で、英語とフランス語を教えた。私のルーツのひとつが日系でもあるため、日本語は使える。トゥトゥベにここで生活してゆくための日本語も教えている。私のアパートは木造二階建てで、オーナーの女性が管理している。ギャルソンはそこから歩きで十分もしない場所の木造平屋の下宿に住んでいる。ギャルソンの家を訪問した。ギャルソンの部屋は入口近くの共同風呂の二つ隣りで、共同風呂は順番で掃除することになっているらしい。私が、ギャルソンを訪ねた際、共同風呂のドアを、共同トイレのドアと間違えて開けてしまった。そこに真っ裸の男女学生が居た。二人はセックスしていたのだ。私は驚いてドアを閉めた。今考えると笑える話だ。そんなのどかな処だった。その時代は学生が元気だった。学生演劇なども盛んだったのだ。ギャルソンはモモと同棲している。ギャルソンの部屋から、隣りの住民のセックスの音がよく聴こえる。まあ、それはいい。壁がうすいのだ。ギャルソンの部屋は、マガジンやら、新聞やら、俗物雑誌やら、そんなものでごった返している。あまり客がゆっくりできるような状態ではない。水槽があった。メダカを飼っているようだ。平屋アパートは南米にあるような蔦で覆われていた。日本の夏は南米の夏とよく似ている。とにかく暑い。隣りの住民は汗だくになってセックスしているようだ・・・。歓喜の声が聴こえる。いいじゃないか。ギャルソンはヨーロッパから持って来たスライドを見せてくれた。それは、美術品のスライドだった。そういうのを見ながらお茶を飲むのが、ギャルソンの趣味らしい。
ふと、おし入れの中から男性の声、というかイビキが聴こえた。え、なんなのよ、それ? ギャルソンがおし入れの隅を少し開けて言う、「おい、もう起きろよ」。 「うううん。うううん。うううん。あー、よく寝た」そういって中から出てきたのは、オレンジボーイじゃないか!? ど、どういうこと? ギャルソンは説明する。私はびっくり。オレンジボーイは、シンガポール廻りの貨物船に密航して、なんと、あの中東の村から、この太子町にやってきたのだそうだ、ギャルソンを慕って・・・。着の身着のままで・・・。ギャルソンは仕方なく、彼の仕事が見つかる迄、ここで面倒を見ているのだ、と。
「うぃーーすっ!」オレンジボーイは屈託も無くそう言い放った。当のギャルソンは昼間は国連軍からの指令をこなしながら、余暇には劇団に入って演劇をしているのだそう。趣味人だ。モモが買い物から帰って来た。モモは、この近所のスーパー商店でレジ打ちをしながら、時代の記録を残すために写真を撮って居る。それも、いいじゃないか。この辺りは戦前からの町並みのままだ。土壁の家も多い。戦後十年、だんだん昔の景色は無くなりつつある。それを写真に撮っておくのもいいだろう。彼女がレジをしている商店で、すこし売れ残ったから半額で、おいしい鯛の刺身があったからそれを買ってきたそうだ。鯛の刺身を、すこし湯通しして、ワサビ醤油で頂くのは、よき晩飯だ。
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