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インドチャイナから東欧へ

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 我々は、吸血鬼(バンパイア)と、やはり戦わねばならぬのか? 近頃この付近で発生している紛争も、元をたどれば吸血鬼らの仕業と聞く。やはり、人間と吸血鬼は、相容れぬのか? その昔から吸血鬼伝説はある。かつて東欧の城主が、何かの魔法を使って自らを吸血鬼にしたという記録もある。ロンドンのブラムストーカーは偽名ジョナサンハーカーで、吸血鬼と戦う日々を日誌に残した。二十世紀に入り人間の集団と、ある種のコミュニケーションを取る吸血鬼らも出てきた・・・。 『ノスフェラトゥ』という吸血鬼映画には本物の吸血鬼が出演していた、とある者は言う。

 今年の夏は暑い。インドチャイナはもともと暑いが、今年は平均をかなり超えている。それで、かなり多くの人々が水着を着て、メコンで水浴びしているのだ。私は近くで栽培されている珈琲を飲みながら、揚げた鳥を食べていた。こうしていると、この頃発生している紛争のことなど忘れてしまう。なぜ、紛争など起きるのか・・・? そう思うのだ。 珈琲でも飲みながら、流れる川と、そこに居る人々を見ていたら戦おうなどと思わないはずだ。引っ込みがつかない戦いに出てしまったら、どこで間違ったか、もう一回考えて、そこまで戻って歩き直せばいい。どこかで間違った欲、支配欲、自己顕示欲、優位に立ちたいという異常な欲、そんな自分勝手があるのだ。人間として考えれば分かるはずだ。 ・・・・・・・・・だが、しかし吸血鬼らはその判断力がないのか? そもそも私はまだ吸血鬼に会ったことがない。互いに話は通じるのか? 意見の交換は可能か? 互いの共生を目差せる存在なのか? 彼らは宇宙からやって来た、という。 人類が初歩的なテクノロジーしか持っていなかった頃に、すでに宇宙を旅するテクノロジーを持ち、この星にやって来た。

 長い年月の中で、彼らのうちのある割合は、地球人と同化しているという報告もある。くだらない戦いより、日々を静かに生活していくことのほうが、ずっとずっとかけがえのない幸福だ。

 いくつかのリサーチのため、私は夏休みの間、東欧へ行く。その支度をしているとき、町のポストオフィスの私書箱に文書が届いた。丁老師の知り合いの、香港のある研究者が吸血鬼との交流に関するレポートを送付してきたのだ。香港はある意味、私の第二の故郷だ。香港のストリートを歩き回るのが好きだ。レポートを読んだあとに、私は東欧へ出発した。

*** *** ***

 まず、イスタンブールへ向う。そこからマケドニア・スコピエに向かう便に乗った。午前八時半に着いた。基本的には予定通りだ。インターナショナル・ハウスからハウス・オーナーが迎えに来てくれて居た。スコピエ国際空港(かつてはアレクサンドロス空港と呼ばれた)からインターナショナル・ハウス(Iハウス)迄、車でソコソコの距離は有る。Iハウスが在るコミュニティの中心には騎馬に乗った英雄のスタチュー(像)が置かれて居た。此のモニュメントの御陰で、方向音痴の私はコミュニティで迷子に為らずに済みそうだ。

  Iハウスは、騎馬の尻方角に在る、倫敦等欧州都市で御馴染サーカス型交差点の、センターファウンテン(スコピエの水は旨いと評判)より眺めた際、騎馬像ストリートから左三番目路地奥に建って居る。オーナーELVIC(エルビック)と其のパートナーZAA(ツァー)は、私がスコピエ滞在に早く慣れる様、色々アドバイスした。まず、食べ物だが、スコピエ市民のブランチによく出るのが『ブーレ』だ。此れは昔ルシアン・コミュニティで時々食べて居たピロシキに似て居る。

 大体の生活物資(食料含む)が手に入るグリーン・マーケット(市で在る)へ行って見る。私は基本一日二食だが、此の市場で最初のブランチを済ませた。ブーレの具にチーズとスピナッチを入れたモノだ。そしてマケドニアでは定番のヨーグルト(ブルガリアとの関係性も大きい此の地ではヨーグルト飲料は欠かせ無い)。六〇デナリ。約一米ドル。マケドニアの通貨は『デナリ』だ。気候や風土はカナダ西岸(バンクーバー島)を思い出させる。ファーストネーションの長老の言葉を聴く為、昔一年居た。あの土地と、緑の色が似て居る。私はIハウス周辺を散歩し其の緑を楽しんだ、手に市で買った一キロ(マケドニアの重量単位はキロ)のアメリカンチェリーを持って(大粒アメリカンチェリー一キロ=百デナリ=約一・五米ドル)。散歩中、チキン丸焼きの屋台店を見付けた。一つ百五十デナリ(約二・五米ドル)。旨い。水はファウンテンでFREEだ。
 Iハウスが所有して居るファームで暫し農作業をした。チェリーやベリーが実って居た。

その後マケドニアンスタイル・ディープ珈琲をワンカップ頂いて、センターに在るマケドニア考古学博物館へ向かった。昔、民族学博物館関連の仕事で出会ったミズ・レンフィルドが其処を高く評価して居たからだ。素晴らしいコレクションだった。正にアレクサンダー時代からのヒストリーを体験したかの様だった。そしてオールドバザールでゆっくりプレジデントの『インフォ』を再度視聴した。プレジデントは最後に『セ・グレタメ』と言って居た。此れはマケドニア語で、SEE YOU(又ね)と云う意味らしい。

 夏。
 スコピエ郊外に在る『MATKA』(マケドニア語:子宮)の地を調査する。水源でも在る。水はかなり冷たい。此の地を訪れた者の中で「MATKAにしては冷た過ぎる」と云うジョークを言う者も居る。(ここはダムとしても巨大なエレクトリシティを産み出して居る)
 私は『東マレーシア映画社』では、カヴァー・ストーリーとしての映画等の製作・企画も担当する。カヴァー・ストーリーとは、捏造された物語の事だ。真実を混乱させる事で市民生活を安定させる効果も有る。例えば既に宇宙人らとコンタクトを取って居たUSAガバメントは其の事を一般化する為にまず、映画に依って市民に『宇宙人(エイリアン)との交流は此の様なモノだ』と伝えたのだ。天才監督の映画作品に依って人々は宇宙人に慣れた。実際の宇宙人との共同作業が如何なるモノで在るかは見せず、平和的交流で在る事が大切だった。
 今回、私は世界各地の古代遺跡の存在を、一般的には混乱情報として捏造する役割をも担って居る。今回の捏造情報は漫画メディアを利用する。プレジデントが其れを指定して来た。現在ヨーロッパ全域に流布して居る、MANGAカルチャーが既に若年層の間ではワールド・コモンセンスとして広がりを見せて居るからだ。
 そうして、私はΠETPOBパーク(公園)でアジア系漫画家M(マクシミリアンのイニシャルだと云う説アリ)に会う事に為った。
 ΠETPOBパークはマケドニア首都スコピエ市郊外に在る。
 Mはミステリアスな人物らしい。
 Mは昼頃ΠETPOBパークで食事するらしい。
 Mはライ麦パンとサーディン缶、そしてアップルジュースをパークのベンチで食す。
 Mはアロハに半ズボンの出で立ちが多い。Mは靴下を穿かず、素足にモカシンを穿く。Mはアジア系らしいが、恐らく日本人では無いだろう。日本人で靴下を穿かないのはJと云う俳優だけだそうだからだ。
 MはΠETPOB像の傍のベンチが御気に入りらしい。

昼食後は其処でアジア系の情報マガジンを暫し読んで居るみたいだ。今回は直ぐに判別が付く様、『メルトフ・ポリツァヱツ』(英語でデッド・コップの意)と云うペーパーバック小説を持って居る約束だ。
 
 数時間後、Mに会う。Mは噂通りの男だった。アロハと半ズボンでやって来た。前情報通り、靴下は穿いて無い。半ズボンはギリシャ模様のモノを穿いて居た。彼は何時からプレジデントと知り合いなのだろう? プレジデントのネットワークは世界中に広がって居るから、全く訳が分から無い。私としてはかつて漫画はよく読んで居たが、近年殆ど新作を読ま無く為ってしまい、Mの作品を知ら無い。Mは本当に『MANGAKA』なのだろうか? そもそも『M』と云う呼称も何だか怪しい。
 Mが来る迄、パークでヌンチャク(NUNCHUKS=雙節棍)の練習をしていた。時々ヤバい事に巻き込まれるビジネスでは、此のマーシャルアーツが自衛の為選ばれて居る。プレジデントがブルースリー好きって話もある。私はプレジデントの紹介で、かのウォン・フェイホンからの流れを汲むマーシャルアーティストに広州でヌンチャクを教わった。

 Mは今から直ぐにテサロニケへ向うと云う。突然だ。テサロニケの海には現在『東マレーシア映画社』管理下の遺跡が在るが、其れは今は只の遺構でしか無いはずだが・・・。まあ、いい。Mがそう言うなら共に行って見よう。・・・と言っても、スコピエからテサロニケ迄の便は多く無い。トレインは早朝四時四十五分出発便のみだ。
 我々はパークから5番ダブルデッカーバスに乗り、センターのアレクサンダー大王像広場迄まず、移動した。私のリュックには取り敢えず程度の荷物しか入って居無い。必要な物はあっちで手に入れられるだろう。
 トレインの出発時間迄十二時間も有る。私たちは少々腹拵えをする為に『ペキン・ガーデン』と云うチャイニーズ・レストランに入った。CHOW-MEINはなかなかの味だ。そしてオールドバザールを少し歩く。

 Mは言った、「まだ数時間有るが、そろそろテサロニケ行のチケットを買っとこうか」。マケドニア国鉄のスコピエ駅はオールドバザールから歩いて其れ程遠くは無い。チケットは十二クレジット。五時間弱のライドで在る。スコピエ駅はジャイアントな造りだ。堂々とした長いプラットフォーム群が設計されて居る。ジャイアントでシンプル。アールデコ風建造物。
 トレインライドの前に、Mは私をスコピエ駅傍のナイトクラブへ誘った。音楽(ムジカ)にノッて踊る女性達を見ながらマケドニアの酒を飲んだ。此の地バルカンの音楽は独自の発展を遂げて居る。エスマ・レジェポバ、ディノ・マーリン、キリル・ジャイコフスキ(彼のサウンド『ジャングル・シャドー』は、スパイアクションテーマ曲懸ったクールなローファイコンテンポラリー)等が掛かって居た。確か前のミッションで一緒だった仲間、クリントのパートナーはマケドニアのクラブハウステクノに興じて居た、と聞いた。

 Mはテサロニケ行トレインに乗ってからはずっと黙ってヘッドホン・ステレオでムジカを聴いて居た。彼はアジア人の様だが、生まれは香港だろうか・・・、イヤホンから少し漏れて聴こえるサウンドはどうやらチャイニーズだ。情報では、彼がスコピエに住み始めたのは十二年前だと云うが・・・・・・・・・・。ふん、詮索するのは止めよう、私の性分じゃ無い。どうでもいい事だ。私は其れ程他人に興味は無い。
 等と考えて居ると、Mがふとコッチを見て口を開いた。
「私の事が気になるんですか、ムッシュー?」
 私は別にどうでもよかったのだが、「いえ、どうでもいいです」と云う応えは多少失礼かと思い、黙って居た。するとMは「そうですか、ふうむ。私の事が気になるんですね、・・・では少し私の事を話しましょうか」と言う。
 私は思った、「ヤッバー。此の男M、思わせ振りな雰囲気を醸し出して、本当は自分の事を話したくて仕方無いタイプだ。で、大体こう云う手合はろくな事言わ無いんだよね、聞かなきゃ良かったってな事言うタイプだ、此のM・・・」。(冷や汗)
 Mは微笑して喋り始めた。
「結論から言えば、私は吸血鬼の血を引く漫画家です。いえ、漫画はそんなに売れてません。ロンドンのウエストエンドに在るインディー系のコミックショップで少々売って居る位です。プレジデントとは十五年前クアラルンプールで会いました。彼は私の漫画を気に入り、其れで時々『東マレーシア映画社』から依頼を受ける様に為りました。

香港出身と御思いでしょうが生まれは倫敦中華街です。母はウエストエンドのアジア系女性ダンサーでした・・・・・、父が東欧から倫敦中華街に移り住んだ吸血鬼だったんです」

 は? 

 やはり此の男、やばい奴だった・・・、私は返す言葉も無く黙って居た。

「あ、ムッシュー。私の父の事、知りませんか? 父の事はロンドンの文筆家だったブラムストーカー氏が書いて居ます。そう、あの吸血鬼ですよ、私の父親は」とM。

 やばいよ、此の男、狂ってるぅ・・・。

 Mは続ける、「私も歳を取った。もう百歳ですからね。(えっ、何だって? 此の男、せいぜい五〇歳位にしか見え無いが!) 父はストーカー氏が書いて居る様に、ジョナサンハーカーらに倒されました・・・。私はひっそりと母に育てられました。私は父の様に人間社会を破壊するつもりは有りません、半分は人間ですから・・・。たまにロンドン生活時代を思い出しますよ。マケドニア共和国では静かに目立たぬ様暮らして居ます。スコピエ市郊外の、Γopчe ΠETPOB(ギョルチェ・ペトロフ【1865-1921・革命家】)雄姿像界隈コミューンはなかなか居心地が良い」。
 Mは私を不気味に見つめ、そう話すのだった。全然話さなくていい事をペラペラと話されて迷惑だ・・・、一緒に同じトレイン・コンパートメントに居るんだぜ、仮眠も取れ無いじゃないか!
「あ、いえ、ムッシュー、御疲れなら寝て下さい。到着まで充分四時間は有りますから」Mは見透かした様にそう言うのだった。私の額から膝に汗が数滴落ちた・・・。
「あ、私の話、ジョークですよ、ブリティッシュ・ジョーク!」Mは突然そう言った。だが、本当にジョークなのだろうか、数々の超常現象を見て来た私にとって彼の云った事も又リアリティを感じさせた。考え過ぎても仕方無い、私は目を瞑り寝た振りをした。

 テサロニケ・アゴラにて。
 会う予定の人物は俗物キオスク新聞雑誌をテサロニケのアゴラで読んで居るはずだ。
 情報通り其れらしき人物は居た。
 私は思った、あれは見覚えの有るシルエットだ・・・。あれは前に一緒に仕事をしたクリントじゃないか! 俗物雑誌のリーダーだが悪い奴じゃ無い。

 翌日、旅疲れで目が覚めると午前十一時を廻って居た。
 正午にチェックアウトだから、未だ小一時間有ると思ったらクリントとMが部屋のドアをノックし、「もう出ますよ」と言う。(何故?) 
 マケドニア共和国からギリシャへ入ると現地時間は一時間早まるのだ。うっかりして居た。(だからもう正午過ぎだったのだ。)
 直ぐに支度をしてクリント、Mと共にテサロニケのポート迄急いだ。
 其処には驚くべきモノが停泊して居た。
『エクラノプラン』だ・・・。

 エクラノプランは旧ソ連が開発した水上浮揚飛行トランスポートだ。分類的には飛行機の一種と為る。
「此の機体は旧ソ連の払下げだ。プレジデントが購入した」とクリント。
 まあ、毎度の事だが、此のエクラノプランも『東マレーシア映画社』が随分改造して居るのだろう・・・・・・。
「まあ、乗りたまえ」クリントはそう言うと先に乗り込みパイロットシートに座った。(其の隣はM。)
 えっ、運転するの、クリント? 私はちょっとビックリした。
「最近プレジデントから呼出しを受けて、専門家から操縦法を叩き込まれたんだ」とクリント。
 クリントがスタートボタンを押すとエンジンが動き始め、機は港を出た。
 所が、段々海面下へ沈み始めたのだった!
「え、あのー、沈んでマスケド。」
 (私はクリントに言って見た。)
「あ、そうだYO! ムッシュー。此の機体は『東マレーシア映画社』がサブマージ(潜水)システムを付加して改造したモノなんだ」とクリント。
 二百メートル程潜水しただろうか、・・・其処に完全に機能を停止したハイテク遺跡が在った。

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