歌舞伎町ドラゴン

ユウジン

文字の大きさ
上 下
15 / 17
第二章 猛る虎

猛風

しおりを挟む
「おいしー!」
「そりゃ良かった」

歌舞伎町の一角にあるスイーツショップ。そこのテラス席に、龍と虎白はいた。

さて、獠牙リャオヤーとの戦いから一週間。今日は虎白と最近話題のデカ盛りスイーツを食べに来た。とはいえ、食っているのは殆ど虎白だ。

別に甘いものは嫌いじゃないが、このデカさのパフェは流石に胸焼けしてしまう。そしてそれをペロリと平らげようとする虎白も、大した物だが。

「よく食べるなぁ」
「だっておいしいモーン」

口の周りに生クリームをベタベタにくっつけながら喋る虎白に、龍はやれやれと肩を竦める。

(しかし、てっきり獠牙リャオヤーあたりから報復でも来るんじゃないかと思ったが、特に何事もないな)

うぅむ、と唸りながら龍はため息を吐きながら、煙草を咥えて火を着けた。

紫煙を口から吐き出しながら天を仰ぐと、

「ねぇ、龍?食べないの?」
「あ?食べたきゃ食べていいぞ?」

やったー!っと虎白は、いそいそと龍の食べかけのパフェを食べ始めた。

「よく食べるなぁお前も」
「えへへ~」

等と、皮肉を交えつついたのだが、虎白には余り効果はないようだ。すると、

「ふぉふぉふぉ。虎白様はよくお食べになる」
『っ!』

突然かけられた言葉に、龍と虎白は声の主を見ると、

猛風もうふぁん!」
「おっと!」

虎白は椅子から飛び上がると、目の前にいた老人に抱き着いた。

「猛風!こっちに来てたの!?」
「えぇ、お嬢様が失踪されたと聞き、飛んでまいりましたよ」

そう言って、柔和な笑みを浮かべる老人に、龍は警戒心を下げつつ、

「えぇと、虎白?知り合いか?」
「うん!猛風って言って、ものすごい強いんだよ!」

席を立ちあがり、アチョー!っとポーズをとる虎白に、成程ねと頷いてから猛風を見る。

見たところ、60代半ば程の老人。白髪と白いひげを携えた、小柄な男だ。

一見するとそこまで強そうには見えないが、どうなのだろうか?

なんて思っていると、猛風は龍を見て、

「なぁに、そんなじろじろ見なくても、見ての通り老い先短い老人じゃよ。精々出来ることといえば」

そう言って、猛風は龍の胸に軽く触れた次の瞬間、車に突っ込まれたような衝撃が走り、龍は後方に吹き飛ばされた。

「お嬢様に集る悪い虫を払うくらいじゃ」
「リュー!」

虎白が駆け寄ろうとすると、猛風は虎白を椅子に座らせ、軽く額を指先で突く。

「あ、あれ?体が……」
「氣を乱しました。なぁに、五分もすれば動けるようになりますよ」

猛風はそう言って龍の元へ行こうとすると、

「いってぇな」
「ほう?」

立ち上がって首をゴキっと鳴らす龍を見て、猛風は声を漏らす。

「これは驚いた。常人だったら1時間は嘔吐が止まらなくなる一撃じゃったが」
「そんなもん出会い頭に打つんじゃねぇよクソジジイ」

龍は猛風を見て、拳を握った。

「言っておくが、俺は老若男女平等派なんだ。やる気だって言うなら、俺はやるぞ?」
「安心せい。小僧に心配されるほど老いてはおらんわい」

そうかよ!っと龍は拳を振り上げ、猛風を殴りつける。だが、

(軽い!?)

しっかり殴った筈なのに、手応えが無さすぎる。まるで綿か何かを殴ったようだ。

「恐ろしい男じゃのう」

猛風はそう言いながら龍に触れ、再度あの衝撃を放つと、龍は吹っ飛ぶが、今度は強引に耐えると、もう一度殴る。

(ダメだ。また軽い!?)
「フン!」

すると猛風は、今度は両手を添えて、さっきの衝撃を放つ。

「がっ!」

新たに放たれた衝撃は、龍を大きく吹き飛ばす。

「クソ……」
「龍さん大丈夫かい!?」

テーブルを蹴散らしながら吹っ飛ぶと、店の中から店主が飛び出してきたが、大丈夫だと手で制して、そのまま店に戻るように伝える。

「さてどうするかな」

これは困った龍は首を傾げると、猛風はボコッと音をたてながら、地面にめり込んでいた足を引き抜いて前に出てくる。

(なんでアイツ、地面に足がめり込んでたんだ?)

理由がわからず、龍はポカンとしつつも、近くにあった椅子とテーブルを手に取り、

「殴って駄目なら、こっちはどうだ!」

と言って、テーブルを投げつけるが、

「危ない危ない」

飛んできたテーブルをキャッチし、クルリと回して優しく地面に置く。

「店の備品を壊すには関心せんな。常識がないのか?」
「アンタに常識どうこうは言われたくないな!」

龍はそう叫びながら椅子を持ち上げて、猛風に叩きつけた。

「ぬぅ!」

しかしそれをも猛風は掴んで止め、耐える。

「おらぁ!」

すると、龍は思いっきりヤクザキックで猛風を蹴り飛ばす。だが、それを猛風は、体を捻って躱すと、膝と肘で挟んで膝を破壊しようとする。

「いっづ!」
(なんじゃと!?)

猛風は驚いて、一瞬体を硬直させた。

並の者たちであれば、今の一撃で膝を粉砕し、立てなく出来る。だが、膝を破壊するどころか、逆に猛風の肘の方が痛んだ。

(どういう体をしとるんじゃ……人間かこやつ)

と思った瞬間、猛風は胸倉を掴まれ、

「おらぁ!」

龍は勢いよく振り回すと、そのまま地面に叩きつけた。

「ぬぅ!」

猛風はそれを受け身を取りながら衝撃を逃がす。だが、

「おおおおおお!」

龍はそのままブンブンと振り回し、地面や壁にテーブル椅子等次々ぶつけていく。

(まるで嵐じゃな!)

猛風はその中でも受け身を取り続け、致命傷は避けていくが、それでも限度があり、口から血を漏らす。

そして、

「せぇの!」

そのまま龍が思いっきりぶん投げると、

「なんと!」

飛んでいく猛風が驚いて目を見開く先にあったの、走ってくる車だ。

「正気かあのガキぃ!?」

等と叫ぶと同時に、猛風は走ってきたトラックに跳ね飛ばされる。

十メートルはたっぷり吹っ飛び、地面をゴロゴロ転がる。

「わ、儂じゃなかったら死んどるぞ」

外れた肩をガコッと自力で嵌め直し、猛風は痛む全身に活を入れて立ち上がる。

受け身を取り、衝撃を逃がすことで事なきを得たが、流石にこれは効いた。

投げ飛ばされたため、空中にいた影響で、衝撃を逃がすのに不十分な場所だったのもあり、流石に肝が冷えた。

先程龍の攻撃を無力化したのも同じ原理だ。受けた衝撃を全身に分散し、分散しきれない分は地面に流して受け流す。足がめり込んだのはそれが原因。寧ろ、分散した余りの部分で、地面にめり込む破壊力を出すあの男が異常である。

しかし、

「逃げられたか」

自分がふっ飛ばされた隙に、龍は虎白を連れて逃げたらしい。

「脳筋かと思えば、意外と撤退の判断も早いのう」

じゃが逃さん!と猛風は走り出しながら、懐から名刺を取り出し、トラックの運転手に投げる。

「後でここに連絡せい!トラックの修理代は払う!」

とだけ言ってそのまま走り去ってしまった。


















「おい虎白!何だあの化け物爺さんは!?」
猛風もんふぁん!めっちゃ強いお爺ちゃんだよ!」

それはわかっとるわい!と龍は虎白を抱えて走るが、

「来た!」
「嘘だろ!?もう復活したのか!?」
「儂じゃなかったら死んどったぞ!」

背後から物凄い速度で迫る猛風に、龍はどうするかと、頭を動かすと、

「龍!」
「水祈!?」

眼の前に車が止まると、そこから顔を出したのは水祈だ。

「乗って!」
「助かる!」

窓から虎白を放り込み、龍も中に飛び込むと、まだ体が半分くらい外に出ているうちから車を急発進させて逃走。

「たすかった」

龍はお礼を言いながら体を完全に車に入れると、水祈に礼を言う。

「どういたしまして」
「しかしなんでここに?」
「スイーツショップの店から連絡がね」

なるほど、店主ナイスと思いながら、龍は一息吐くと、

「しかしアイツ猛風じゃない。厄介ね」
「なにもんなんだあいつ」
獠牙リャオヤーの猛風はね、魔拳の二つ名を持つ拳法家よ。李書文の再来と言われ、先代のボスの頃から使える重鎮」

と、水祈が詳しい解説をしてくれた次の瞬間、ゴン!っと大きな音を天井が立て、更に車体が揺れる。

「おいまさか!」

龍が驚愕した時、助手席の窓が割られ、中に猛風が滑り込んできた。

「ちょっとお爺ちゃん!飛び込み乗車はご遠慮願えますか!」

水祈は片手で裏拳を放ち、猛風を攻撃をするが、猛風は簡単にそれを受け止め、関節を極める。

「あだだだ!」
「悪いお嬢さんだ。さぁ、車を止めてもらおうか!」

しかし、それを龍が後部座席から手を伸ばし、猛風の腕を掴み万力の如く握りあげた。

「ぐぉ!」

メキメキ音を立てる腕に、猛風も流石に悲鳴を上げて手を離したが、猛風は反対の腕で龍の額に触れて、衝撃を放った。

「あがっ!」

脳が揺れ、龍も流石に手を離したが、その隙に水祈が体勢を変え、両足で猛風を蹴り飛ばす。

「ぬぅ!?」

不意打ちも込みの蹴りに、猛風も受け流せずドアに体をぶつけ、咄嗟に水祈に掴み掛かろうとするが、

「おらぁ!」

龍は後ろからリクライニングのレバーを引き、座席を後ろから押して前に倒す。

龍のバカ力でリクライニングを前に倒され、勢いよく前に体をぶつけた猛風は咳き込み、

「悪い虎白!少しそっち行ってくれ!」
「う、うん!」

体が動くようになった虎白が退けると、龍はリクライニングを今度は後ろに倒し、前にいる猛風の胸倉を掴んで、ドアに叩きつける。それと同時に体勢を戻していた水祈は、再び体勢を変えて両足で猛風を蹴り飛ばした。

「な!」

それと同時に、ドアがベキッと音を立てて外れ、猛風は外に投げ出されると、そのままドアと一緒に転がっていった。

「あぁ、買ったばかりなのに……」
「命あるだけいいだろ」

しょんぼりしながら、風通しの良くなった車を運転する水祈に、龍はそんな言葉をかけて慰めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

幼馴染の女の子と電気あんまをやりあう男の子の話

かめのこたろう
ライト文芸
内容は題名の通りです。 なお、ここでいう「電気あんま」は足でやる方です。 重複してます

処理中です...