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第二章

2-4 魔力

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 結局僕一人では倒れている彼らに何もしてあげることはできず、彼らが自力で起き上がるのを横で眺めているだけだった。
 三人の中ではやはりゴエモンの傷が一番酷いようだ。彼は他の二人をかばうように立っていたから仕方がない。しかも制服組のやつらはゴエモンが守り切れないような場所ばかり狙って攻撃をしていたようで、かばわれてい二人もかなりこっぴどくやられている様にに見えた。
 しばらくするとバンコが倒れたままシクシクと泣き出し、更に呪文を唱えだした。すると小さな絆創膏がたくさん現れて全員の身体にペタペタと張り付いていく。絆創膏は傷やダメージに合わせて大きさや形を器用に変えて、全員の傷やダメージを受けている部分を覆っていった。
 治療の効果があるのだろう、絆創膏を山ほど張り付けられたゴエモンがよろよろと立ち上がり、ハカセとバンコに肩を貸す。せめて今無傷の僕が代わろうとゴエモンに近づくが振り払われてしまった。
「あんな衝撃波一つまともに防げないやつに助けてもらおうとは思わねえよ」
 ゴエモンは僕に冷たく言い放つ。ハカセとバンコはチラリと僕を見たが彼らも同意見のようで何も言わなかった。
(そんなことを言われたって……)
 彼らが悪いわけではないことは十分理解しているが、僕にも言いたいことはある。あのおかしな場所で目覚めてからここまで、敷かれたレールの上を流れ作業で送られてきたのだ。しかもその短い間に殺されかけてまでいるし、今も死ぬところだった。
(テンセイだかテンショウだか知らないが、そんな魔法や能力が飛び交う場所に何の能力も与えずに送り込む方が間違ってるだろ……)
 考えれば考えるほど理不尽だし愚痴も尽きることなく沸いてくる。
 普通転生と言ったら何かすごい能力を与えられて無双するもんじゃないのか? これじゃまるで正反対だ。自分以外は魔法が使えて僕だけ一般人なんてひどいハンデ戦どころかただのリンチに他ならない。力のない者はずっと力のある者の機嫌を伺い続けて言いなりになるしかない世界に何の価値があるっていうんだ……
 前を歩く三人に聞こえないように心の中で悪態をつき続ける。もしかしたら彼らにテレパシーみたいな能力があるかもしれないがそんなことまで考えていられるか。
 僕はF組の教室に戻るまで自分の境遇を呪い続けた。

 教室につくころにはハカセとバンコも随分回復したようでそれぞれ自分の足で歩けるようになっていた。ゴエモンはさっさと自分の席で居眠りを始め、バンコはまた何か縫物をしているようだ。自分も席に戻りこれからの事を考えていると後ろからハカセに肩を叩かれた。
「あ、あの、オ、オール氏は魔法や能力を持っていないのですかな?」
 彼の質問に僕は素直に頷く。いくらごまかしたり隠したりしようとしても、さっきのザマを見ていれば誰でもわかるだろう。僕はこのF組にくるまでの経緯を丁寧に彼に話した。
「ま、まさか何も持たずに転生させられるとは……オ、オール氏も運がありませんでしたね。し、しかしそれならどうしてこの天聖学院に、にゅ、入学を許可されたのでしょうか」
「わからないよ……本当に何もわからないんだ。最初に名前がオールだと教えられた以外は、その案内所ってところに居た人たちが勝手気ままにしゃべってるだけだったし、ここに送られてからは女神様って呼ばれた人の指示みたいなんだけど……」
「め、め、女神様とお知り合いなんですか!?」
「い、いや、僕には全然覚えがないんだ。直接言葉を交わしたこともないし……。前のティーチャーが僕に魔法を撃って、それで女神様って呼ばれてる人が怒ったみたいで。僕がこのクラスに来たのも女神様がそうしろって言ったみたいで」
「な、なるほど。女神様のご意向とあらば、君がF組に入ったのも納得するしかありませんね」
 ハカセは僕の話を聞きながらうんうんとうなっている。
「なんだお前、ほんとに何にも持ってねえのか」
 いつのまにかゴエモンとバンコも近くによって僕の話を聞いていたようだ。彼の責めるような口調にまた申し訳なさを感じてしまったが、彼の表情を見るとどうやらそうではないようだ。
「さっきは悪かったよ。まさか能力なしで転生させられたりここに送られたりするやつがいるとは思わなくてよ。経済系とか芸術系とか戦闘の役にたたないスキル持ちがここに来たのかと思ったんだよ」
 ゴエモンはそう言うと素直に頭を下げ、その後右手を差し出してくる。女神様の話を聞いたからかと邪推してしまったが、彼の目は真っ直ぐでそういった狡い立ち回りをする人間ではなさそうだった。
(どうやら僕がさっきまで勝手に考えていた人物像とは違うようだ)
 僕は彼としっかりと握手を交わす。
 バンコも遠慮がちに手を差し出してきたのでそちらともしっかりと握手をした。F組の、たった三人からとはいえ何とか自分も仲間として認められたのだろうか。それでも問題は山積みなのだが。
「さ、さて、そ、それじゃせめて普通の魔法ぐらいは、つ、使えるようにならないといけませんね」
 そう。いくら仲間と認められたとしても何もできないのではただの役立たずだ。転生者として与えられる能力がゼロだとはいえ、みんなが共通して使えるような魔法や技術などは身に付けていかなければならない。
「アノやられ様を見てたのなら多少はわかったかもしれねえが、俺たちが戦うときは俺が盾、バンコが回復やバフでハカセが作戦や指示を担当してる。そこでお前に、えーっとオールだっけか。オールに何をしてもらうかなんだが」
「い、いきなりフォーメーションに、く、組み込んでも難しいと思いますよ。そ、それよりまずは死なないようにすることが、せ、先決かと」
「あー、まあ確かにそうだわな。まずは死なねえのが一番先だ」
 ゴエモンはうんうんと頷き、バンコは横で涙を流して笑っていた。何がそこまで面白かったのだろうか?
「な、なのでオール氏にはまず、ぼ、防御の基本を覚えていただきましょう」
 ハカセは教室の一番前に行き黒板に何かを書き出した。
「ひ、人は防御をするときに守りたい場所の筋肉に力を入れて身体を固くします。こ、これは今までからの経験で問題なく理解できると思いますが、じ、実は魔法を防御する時も同じです。ひ、人の体内には隙間なく魔力が流れています。ぶ、物理攻撃を防御する時には筋肉を固くして身を守りますが、ま、魔法攻撃を防御する時はこの魔力に力を込めてその部分の魔力を固くするのです」
 僕の身体の中に魔力……本当にあるのだろうか? 能力とセットで与えられるようなものであったなら、僕の中にきちんとそれが存在しているのかは疑問だ。
「ま、魔力は誰にでも備わっている物です。き、筋肉に力を入れるのではなく、い、意思を固めるイメージをしてみてください。ぜ、全身の筋肉の周りにに水が流れている様子をイメージして、そ、その水を氷の様に変化させて見てください」
 目をつぶり、ハカセに言われた通りにイメージをしてみる。しかし僕の脳裏に描かれたのは身体の中を激しく渦巻く光の奔流だった。そして二つの手が僕の両手を包み込むような感触。
「お、お、お、おおおお、素晴らしいです。は、は、は、はちみつの様に濃厚な魔力が恐るべき速さで身体をめぐっています。そ、そ、そ、その魔力を右手の二の腕に集めてみてください」
 全身をめぐる光を右手に集める。すると確かに何か固いものが右手を覆っているような感じがする。
「す、す、す、すばらしい!た、た、た、確かに右手にしっかりと大量の魔力が集中しているのに、ほ、ほ、ほ、他の部分の魔力が少しも薄くなっていない。こ、こ、こ、これはすごいですよ。そ、そ、そ、それでは唱えてください。『マジックシールド』」
「マジックシールド」
 右手の二の腕に確かな感触。重さは全くといっていいほど感じないが、その部分が守られているという確かな自信もある。
「お、お、お、お、おおおおおお!め、め、め、目を開けてください」
 ゆっくりと目を開ける。するとそこには巨大な曼陀羅の様な魔法陣が自分の身体を球状に包んでいた。
「ほ、ほ、ほ、本来なら今魔力を集めた右手の位置に、小さな盾のような魔法陣が一つ出るだけのはずなのですが! こ、こ、こ、これはすごい……!」
 身体を包む青白い魔法陣を大きくしたり小さくしたりしてみる。魔法陣は机や椅子などをそのまま透過し、教室一杯にまで広げることも、自分の肌にぴったりくっつけるように縮めることもできた。
「すげえなこりゃ……」
 ゴエモンやバンコも驚愕の目で僕を見ている。どうやら僕には魔力がないどころか、随分と強力であるらしい。彼らの反応に僕はこの世界に来てようやく初めて強い喜びを感じた。
「こ、こ、こ、この調子でどんどん魔法を覚えていきましょう」
 ハカセの言葉に僕は強く頷いた。
 
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