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ヒトのキョウカイ2巻(エンゲージネジを渡そう)

20 (頭の中にコンピュートロニウム)

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 診療所の中は色々な機材があり、わざわざ紙媒体の本を置くための棚に 試験管にビーカー…さながら実験室だ。
 ハルミはデスクの隣にあるリクライニングチェアに腰を掛け、眠っていてピクリとも動かない。
 ハルミの胸の前にはARウィンドウでFullフル diveingダイビングと書かれている。
「ダイブ中か?」
 この部屋に入った時点でVRにいるハルミにも警告が出ているはず…。
 なのに一向に戻ってこない…。
 まぁ~たゲームにハマっているのか?
「どうすっかな…。」
 ジガの真下にいるロウに顔を向ける。
「ハルミ、眠る?、殴って、起こす…起きる」
 ハルミを見たまま、ロウが言った。
「乱暴だな…とは言え 営業時間中にVRしているんだから…自業自得か…。」
 ジガが軽くハルミの肩を叩くが、反応が無い。
 普通ならARで通話に出たりするんだが、それすら寄こさないか…。
 「仕方ねぇか…」
 ハルミは10Gの無線回線でVR接続している。
 つまり…ジガは、中継用の無線ルーターの電源を抜いた。
 無線接続が突然切れ「サカタハルミジャン…」と言う奇妙な奇声を上げ、ハルミが起きる。
「Pulling out the communication line ... What are you doing !!(通信回線ぶっこ抜きとか…何やってんの!!)」
 ハルミが、ジガとロウを見渡す。
「It's a job ... you're a medic ... do it properly ... (仕事だ…オマエ衛生兵なんだろ…ちゃんとしろよ…。)」
「Yes yes ... what is your name?(はいはい…えーお名前は?)」
「?」
 ロウは首をかしげる…。
「It? I don't understand English ... Isn't the interpreter app installed yet?(あれ?英語、分からない?…通訳アプリも未インストールか…。)」
 ハルミが背中に大きな赤い十字架がプリントされた白衣に腕を通し、デスクの引き出しから翻訳機を取り出し、ロウに渡し、イヤホンを耳につける…獣耳な為、挟むタイプだ。
「?」
「これで聞こえるな…。」
「おお…」
 ロウは驚き、翻訳機を振り回す…。
「おいおい、壊すなよ…。」
「この位で壊れるのか?」
 ジガが聞く。
「獣人が加減を間違えてデバイスを握りつぶした例はいくらでもある…で、用件は?」
「そうだ…コイツ、頭が少し特殊でARやVR規格が通じるかが分からねぇんだ…。
 ロウの解析を頼む」
「あいよ…じゃあロウ…少しじっとしててくれ…。」
 ハルミが万能スキャナーをロウに向け身体の構造を解析して行く…。
「確かに色々と弄《いじ》られているねぇ~でも2、3世代は経《た》ってる?
 多分この子自体は自然出産かな…さてと…脳を見て見ますか…。」
 スキャナーをロウの頭に当ててぐるりと一周りする。
「さぁて解析結果は…。」
 ハルミがARウィンドウを出して画面を見つめる。
「あらら…原因はコンピュートロニウムか…。」
「確かクオリアが入れていたヤツか…?」
 クオリアの整備をする時に見たことがある。
 クオリア自身は量子転換素子と言ってたが…。
「そう、量子転換素子もコンピュートロニウムの一種…。
 本来は 物質を計算素子に変換する物だな…。
 ちなみにワームの基礎成分もこれだ…。
 前のラプラス戦でのデータ共、完全に一致した。」
 ハルミには ワームの解析の為、先に帰ったエレクトロンに試料を届けさせていたが、何だかんだで仕事はしていたみたいだ。
「…てことは、身体全体がデータを処理出来る 脳みそって事か?」
「そう、ただ演算の中心は存在する…。
 多分平面上だと効率が悪いから集《あつ》まったんだろうが…」
「そこが、ワームの弱点か…。」
「だな…幸いロウの脳の一部が高性能化しただけで、コンピュートロニウム自体は停止している…。
 だから通常規格にパッチを当てれば、如何どうにかなるだろう…。」
「空間ハッキングが出来るのは?」
「……少なくとも空間ハッキングの最低水準の処理能力は満たしている…。
 獣人だと言う事を考えると、肉体強化系かな。
 さすがに分解とかにはスベックが圧倒的に足りない…。」
 ハルミがこちらが警戒していた事を読み取り、先周りして答える。
「そっか…。」
 結局、謎だがとりあえずは安全って事で良いか…。

「さてと…なぁ、ロウ…竹を食いたくないか?」
 一通りの事が終り、ハルミがロウに言う。
「食べる」
「じゃあ、自然公園に案内しよう…。
 あそこの管理は私がしているんだが、竹害になり掛かっててな…。
 好きなだけ持ってっていいぞ…。」
「食べ放題」
 ロウは、じゅるりと唾を飲み込み、自然公園の場所も聞いていないのに衝動的に診療所から出ようとする。
 それに気づいたジガは、慌ててロウを捕まえる。
「食べ放題~、作り放題~」
 感情に反応するロウの尻尾がぶんぶん回しジガの顔をはたく。
「落ち着け、痛てっ…竹は逃げねぇんだから。ハルミ…さっさと案内してくれ」
「大変だね…アンタも。」
 ハルミは椅子から腰を上げると、診療室のスライドドアを開けた。
「こっちだ…。」
 ジガは、ロウを抱えたままハルミについて行った。
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