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ヒトのキョウカイ1巻(異世界転生したら未来でした)

31 (異世界転生)

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 事件発生から6時間…現在午後10時。
 永遠に感じる6時間が経過し 最後のワームが駆除された。
 発電施設に向かったトヨカズは 狭い施設内で渋滞を起こし詰まっているワームを発見し、背後からの攻撃であっさりと駆除してしまう。
 ワームの死体が入り口を塞いでいるので救助は難しいが無線で『死者は何名か出たが大半は無事』との報告が出ており、今は救助待ちだ。

『今回の事件の一次報告と解決、対策案』
 死者数、確定2000…予測2300(マイクロマシンのバイタルロスト数から算出)
 重傷者、おおよそ1000…都市の義体人口が多くなると予想される。
 軽傷者は膨大ぼうだい…医療リソースの確保の為『トリアージ』を適用し優先順位をもうける。
 エレクトロンの介入なしの場合 住民の半数が死者及び重傷者になると算出されていたが、介入した事で被害が想定の33%までおさえられた。
 次、医療…ベッド数2000の大規模病院である『砦学園都市中央病院』にベッド数の不足の警告が上がる。
 重傷者は1000だが軽傷者でも入院が必要な人は、かなりの数に上る為、いずれ医療リソースを食いつくされパンクすると予測。
 提案『研究都市』『実験都市』からの医療バックアップによる人員の増強…ドラムの優先配置。
 医師や医者の過労が想定される為、人員の確保、シフトの徹底は最重要問題と強調しておく…。
 次、経済…2層の生産施設の大半は無事なものの労働人口の不足になる事が予測される。
 優先順位は食、インフラ、建物の順に行い、特に食は治安に直結するので最重要と強調する。
 設備の修復の需要が上がるものの事態収束後は一次的に大規模なデフレが予想される。
 経済対策として『生活保障金』の一次的な増額…『お悔やみ金』名目で20~30万程度の支給をする事が望ましい。
 特に『お悔やみ金』に関しては政府の信用回復や治安の悪化防止に役立ち効果的だと思われる。
 尚《なお》この対策は生産安定後である。
 次、物資…この都市の構造物は大半が炭素由来の為、炭素の急激な不足が予想される。
 瓦礫を回収してリサイクル炉で分解するのが通常手続きだが、ワームの死骸及び人の遺体をリサイクルする事で当分は問題ない。
 むしろ死骸及び遺体の腐敗による感染症の防止の為、速やかにリサイクルするべきである。
 リソース確保の為『近隣都市から輸入する』事も提案をしてみる。
 以上の問題を解決する為、我々エレクトロンは『災害復興』名目での派遣が可能。
 対価は必要であるものの都市の復興に繋がると予想される。
 砦学園都市エレクトロン大使館、駐在外交官、クオリア・エクスマキナ

「なんか最後は売り込みっぽくなっているけど…。」
 クオリアから来た一次報告のデータを見てレナが言う。
 添付されていた詳細なデータを役員に見せるが感想は『このデータが合っている前提ならこの方法が最適解だろう』との事だった。
「財源はどうします?」
 新しく出来た次期都市長に役員が聞いて来る…多分 私を試している。
「国債を発行して、銀行に買わせるしかないでしょう…税を上げるのは論外ですし」
「ほお」
 役員はまともな答えが返ってきた来た事に驚く。
 政府が中央銀行から借金をして借用証書を銀行に渡す。
 中央銀行が、借用証書を政府に渡した場合、政府は支払いをしないと行けない…。
 だが、借用証書には期限があり期限を過ぎれば無効になり、支払い義務も無くなる。
 政府の子会社である中央銀行と連結決算してもいい。
 私の居た都市ならそうする。
「昔の銀行システムならそれで完璧…。
 だけど…今はもっとスマートに解決が出来る…と言うより意地悪ですね」
 アントニーが役員に向けて言う。
「この都市の場合、政府=中央銀行で考えると分かりやすい。
 つまり都市民への通貨の流入量を上げれば良い…数字でね」
 役員が答える。
「お金の発行?なら誰が負債を?」
「銀行と言う事になるのかな…名目上は。
 この都市の都市民の口座や売買記録はケインズが握っているから需要と供給が分かる訳なんだが…」
「ケインズ経済学?」
「そう、これで運営は物価調整金を変える事で経済を操作出来るようになる…。
 足りない金は都市民の銀行預金を銀行が運用すれば解決だ。」
「そうしたら、どんどん都市民の預金が増えるのでは?」
 ヒトの使わないお金を元手に人を雇っているのだ…働いた金額だけ預金が増えてしまう。
「増えるだろうね…でも経済を左右するのは『需要と供給のバランス』…。
 『預金が1000万あって毎月10万トニー使っている人』と『100万トニーあって毎月10万トニー使っている人』が『同じ需要10万トニー』でカウントされるんだ。
 この都市の1ヵ月の生活費は、どんなに多く見積もっても100万程度…。
 でも実際は10万で良い人は10万以上働かなくなるから、その人が望む生活水準が上限になって需要が落ち着くんだ…。」
 更に別の役員が繋げる。
「更に言うなら、生活保障金の10万トニーで『最低階級層の1ヵ月の快適な生活』を担保する事で通貨の価値を保証。
 『金本位制』ならぬ『生活保障金本位制』にする事で更に安定する。」
「上手く出来てるわね。」
 レナは必死に頭を働かせ話について行く。
 都市民の安全も保証しつつ通貨の価値を保証するシステム。
 ヒトは生活物資を消費しないと生きて行けないから、生活物資に価値が無くなる事は無い。
 更に消費する量には限りがあるから通貨破綻も起きない。
 おまけにこの理屈だと税金すらいらない。
 まぁ実際は企業が最終利益の50%も取られてるけど、都市民が税金0なのは このおかげなのね。
「元々『ゴールドスミス理論』は国民には分かりにくくって理解されなかったからね…。
 金本位制の方が分かり易かったから、あえてグレードを落としたんだ。」
 レナは情報を整理する…最初はお金の問題だと思っていたけど実際の問題は…。
「つまり、今この都市の問題は、1ヵ月分の生活物資を都市民に供給出来なくなる事ですか?」
「正解」
 役員が軽く拍手する。
 まだ分からない私に解説を交えつつ説明してくれる…。
 緊急時でなければ、この役員達は非常に優秀なのだ。
「と言う訳で『レナ次期都市長』に理解して貰った所で、生産量の確保についての議題なのですが…。」
 アントニーが上手く話を繋げる…多分私に説明する事で役員内で問題を明確にしたみたいだ。
 その後の話はアントニーを中心に驚くほどスムーズに進んでいった。

 翌日…の早朝。
「何だ来たのかい?…今オフタイムだよ…。」
 クオリアは、カレンの私室に足を運んだ…。
 と言っても病室を改造して私室にしてるだけなのだが…。
「急な用事があった…先日ナオが死んだ…瓦礫の落下によって首が切断され酸素供給が途絶えた。」
「ほう…遺体は?」
「頭だけ回収出来た。」
「………。」
 クオリアがポケットから真空包装されたブレインキューブを出す。
「カレン…あなたは、コールドスリープしたナオの脳を義体に入れたのではない…。」
 キューブを取り出しカレンに突き付ける。
「コールドスリープ状態のナオの脳のデータをコピーして、アップロードしたんだ…。」

「私は違法な事はしていないよ…。
 本人にも許可は取ったしね…。」
 カレンが答える。
「ああ…だがアップロードした事を黙っていた…嘘まで吹き込んで…。」
 クオリアは淡々としゃべる。
「人はアンタらとは違うんだ。
 急にアップロードした何て言ったら本人はどうなる?
 医療的処置の一環さ…彼のアイデンティティが義体に移ってから言うつもりだった。
 それにアンタの所の『長老さん』も10歳までは、人として生きて居たんだろう。」
 確かにエルダーは乳幼児をアップロードした元人だ…だが。
「私は患者のメンタルは結構気を使ったさ…。
 2020年の人が現代にスムーズ適用できるように当時の風習を調べたりしてな…。」
「それで転生か…。
 ナオの話を聞いて不自然おかしいとは思っていたんだ…脳のコールドスリープを転生とは言わない。
 私は『当時の文化が言葉の意味を変化して使っていた』と思っていたが…。
 アップロードしたなら十分転生と言える。」
 転生とは、脳情報や魂を次世代の人間に上書きする行為…。
 脳をそのまま移し替えた場合、転生とは言わない…蘇生だ。
「当時の文献を見る限り、転生は見た目は変わっても同個体のように扱われていた。
 だが、本来転生は記憶データを受け継いだ別個体だ。
 この差を利用してカレンはナオに了承を取り付けた。」
「それで、それが事実だとして私を『倫理侵害』として起訴する気かい?」
「いや…私が欲しいのはナオの処置データーだ。
 それが無いとナオを救えない。」
 クオリアの意外な答えにカレンは少し驚いた表情を見せ、
「たとえキューブ内の電源が落ちても中の時間が停止するだけで、再起動は出来るはずだが?」と答える。
「ああ、だが『雑にデータを入れた』事が原因で、電源が落ちた際にクロックが飛んだ。
 カレンがナオの脳データを そのまま入れて、最適化作業をしなかったのが原因だ。」
 人の頭の情報をそのまま機械媒体に入れてもうまく作動しない。
 その媒体によってデータの配置を変える必要がある。
「ナオの場合 生活しながら自分で最適化し始めていたが、そのおかげで本来の規格から外れた…。
 それでも最適化を続けていれば、その規格に収束するはずだが、その前に電源が落ちてしまった。」
 まるでアップデート中にタイミングよく停電しクラッシュしたデバイスのように…。
「それで再起動《リブート》出来ないと…どのデータが必要だ?」
 カレンは意外と協力的にクオリアに聞く。
「全部だ…それとカレンの事だ。
 オリジナルのバックアップデータも当然 持っているんだろう。」
 カレンの事だ…ナオが破綻した時用にバックアップは取ってあるはず…。
 例えば今回の件が無く、このままカレンにナオを任せていて、ナオが再起動出来ない事態になったらどうするか?
 キューブを初期化フォーマットして 1カ月前の転生直後のナオを再インストールするだろう。
 機械として見た場合当然の手続き…私もバックアップから再起動をした事はある…が…。
「意外だな…再インストールを受け入れるなんて…。」
 カレンは机の引き出しからキューブを取り出しクオリアに渡す。
 他の記録は通信でクオリアに送られた。
「いや、バックアップのナオを最適化処理して今のナオと比較…差分を調整して組み直す。
 それでも新しいキューブに入れないと行けないからオリジナル性は下がるんだがな…。」
 データを受け取りクオリアは出入口に向かって歩き出す。
「行っておくが 研究目的だったが、ナオを再起動したい気持ちは本当だよ…データを渡したのがその証拠だ」
「だが私の中の『カレンの信用値』は下がった。」
「あ~最後にもう1つ、ナオの再起動に成功したら『どんな高級義体だろうが義体代は持つ』と伝えて欲しい。」
「分かった…確実に伝えよう。」
 クオリアは部屋を出た…。
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