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ヒトのキョウカイ1巻(異世界転生したら未来でした)

23 (ドラムちゃんの苦悩)

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 3時間の長編映画が終わりエンドロールが流れる。
 黒い背景に CG加工前のシーンが映し出され、少しずつ加工が入ってくる演出だ。
 それによるとすべて、背景が緑の布で覆われていてすべて合成。
 奥行を出すためスタジオは広いものの、すべてこの中で完結させた見たいだ。
 キャストの欄を見ても配役が異様に少なく、背景にいた人は皆CGなのだろう…。
 しかも主人公の俳優は母親、少女、女性になった少女、年を取った少女の4役をCG加工による加齢と減齢で行っている。
 まぁ児童ポルノとかあっただろうし、18歳以上の年齢の人が演じるにはこれしかなかったのだろうが…。
 その分 少女の演技が子役とは思えないレベルにまでなっていて作品のクオリティは驚くほど高い。
 ならCG班が多いのかと思っていたが…。
 かなり少なく優秀な人材をかき集めた少数精鋭でやったみたいだ。
 そんな技術でクオリティを上げつつ低コストを実現した映画の印象を抱き、エンドロールが終了する。

 シアタールームの照明がつき…。
『お疲れさまでした…。
 お忘れ物の無いよう、お気を付けて退出をお願いします。
 本日はご利用ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。』
 ドラムちゃんの声がスピーカーを通して聞こえ暗幕が閉じていく…。
「さっきも思ってたけど、この声ってもしかして…マキちゃん?」
 ナオが前の客が退出して行く中、隣のスプリングに聞く…。
「良く知ってますね…ああ発売は2010年でしたっけ…。
 ボイスプログラムのベースは『真希マキ』を使ってますよ。」
「それも発掘したのか?」
「いえいえ、元の出来が良かったのと『真希マキ』の声優交代騒動が起きまして…愛好家が元の声を守る為にシステムを改良してネットに違法アップロードしたんですよ…。
 その後マニアな人達の自主的なアップデートを繰り返して、この時代まで生き残りました。
 初期のボイスソフトは結構アップデートされてまだ使われていますよ」
「結局違法アップロードして拡散した方が生存率は高いんだな…。」
「企業からしたら迷惑なのでしょうが…それだけ引き付けるものがあったんでしょうね」
 通常、ドラムの声は ゆっくりボイスの女性1と女性2が多く、会話も流暢とは程遠い。
 なんであんな古い物が未だに使われているのかと不思議だったが…。
 あえて機械っぽさを出して、人と区別しているのだろう。
 それに対して店長のドラムちゃんが使っているボイスプログラムの『真希マキ』は人間レベルに流暢で喋れるので、店長は人に近づけるタイプのようだ。

 1階に降りたナオが店内の時計を確認すると時計の針は8:30分になろうとしていた。
「あー8:00閉店なのに…ごめんなさいね」
 レナは、スプリングに軽く謝る。
「いえいえ…週末のムービーデーでも9:00まわる時も普通にあるし、気にしないで下さい…。」
「それじゃまた来るよ…。」
 ナオはそう言うとスライドドアが開き、レナと一緒に帰った。

「ナオ君も常連さんになってくれますかね…。」
 スライドドアを開け、2人が帰る中 僕は店の片付けをしているドラムちゃんに聞く。
 ドラムちゃんのディスプレイに映るは、金髪のロングでカチューシャ型のヘッドホンをしている巨乳の女性だ。
「おそらく また来ますよ…。
 頻度ひんどは どれくらいか分かりませんが…。」
「そうか…また楽しくなると良いですね」
「でもお2人は注文してくれませんでした。」
 ドラムちゃんは、少しムッとした表情でそう言う。
「ドラムちゃん…そこに こだわるよね…。」
「そりゃ私はここの会計を任されていますから。
 いくら家賃が無料で毎月『文化遺産維持費』の名目で都市からお金が入ってくると言われましても。」
「結構使いますからねコレ」
 僕は映画に対して並々ならぬ情熱をかけられるものの、それに比例してかかる金額も多い。
 まぁその為、金に無頓着むとんちゃくな僕をサポートして貰うようにドラムちゃんを作ったのだからその辺は彼女の担当だ。
「まぁ生活には困らない位、稼げればいいんじゃないですか?」
 スプリングは気楽にそう言い、ドラムちゃんが「はぁ~だったら何で私を作ったのですか~」と深いため息をするのであった。
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