上 下
188 / 207
ヒトのキョウカイ7巻(シャロンの扉)

10 (私がファントムだ)

しおりを挟む
 翌日…パイロットスーツを着たナオとトヨカズにロウとカズナが、エレベーターで砦学園都市の上にある地上倉庫に辿《たど》り着き 外に出る…。
 今回の目的は皆に新型機に乗って貰い、使い心地を聞いてみる事だ。
 ただ、レナは過労でぶっ倒れてまで作った企画書を使う 役員会議があるとの事で パスし、クオリアとジガは未だに帰ってこず、毎日20時ちょうどに出張中の恋人のクオリアから オレに向けて遠距離恋愛の妻が夫に送るようなラブメールが届く…。
 まぁ…内容は完璧に『本日の報告書』なのだが…。
 どうやらポジトロンの問題で あちこちの都市に直接行っている見たいで レナと同じで かなりの多忙たぼうみたいだ…。
 倉庫内で ファントムを展開し、駐機姿勢の状態のファントムに トヨカズとナオ、ロウとカズナのチームで乗り込み、USBメモリ型のキーを挿して機体を起動させる。
「どうだ?立ち上げは?」
 後ろの席に座るオレが 前に座るトヨカズに聞く。
「基本は DLと一緒か…。」
 トヨカズが 表示される項目を確認して既存のDLとの差異を探して行く…。
「DLに合わせて作ってるからな…。
 増えたのはOPTIONオプションの中 くらいで、基本は一緒…。
 後はメインメニューに『緊急発進モード』がある位か…。
 これは 機体チェックとか無視して取りあえず早く動かしたい時に使うモードだな。
 操作が完全にマニュアル操作になるが、キューブから機体生成までが1分も掛かるから意外と使うかもしれない。」
 DLは乗り込みを含めて1分で動けるように設計されている。
 その点 ファントムは生成だけで1分掛かるので、完全稼働するのに2分は掛かる…。
 この2分は 敵から格納庫ハンガーに直接奇襲きしゅうされた場合、勝敗が大体決まっている時間で 即応性が無いのが多少の欠点になっているが…将来キューブのスペックが上がる事で展開時間は大幅に短くなるだろう…。
 
 ロウ機の準備も終わり、2機が倉庫のスライドドアを開けて ゆっくりと外に出る。
 ナオは トヨカズが ダイレクトリンクシステムで 外の映像を見ている為、機体内が真っ暗になり、ARウィンドウを前 両横の3枚開き、機体の状態を監視する。
 外は曇り空だが 太陽が見えていて、気温も15℃とそれなりに暖かく、パイロットスーツ無しでも快適に過ごせるだろう…。
 2機は倉庫から歩いて1㎞離れ、飛行訓練に移った…。
 バックパックのフライトユニットから、緑色の量子光が噴射され、機体全体の装甲が 運動エネルギーを上に持ち上げるように機能する事で ファントムが浮かび上がる。
 2機はゆっくりと上昇し、安全高度の500mを超た所で速度を上げて加速…目指す先は雲の上だ。
「良い感じだな…。」
 オレがデータを見ながら言う…。
「ああ、多少ふらつくんだが これはオレが始めて飛ぶからだろうな…。
 おっと…今 振れ幅が大きい補整ほせいかかった。
 微妙にこっちが思ったのと違うから気持ち悪いな…。」
「そこは使い続けて 学習させるしかないかな…。」
 トヨカズが言う現象は DLやVRのアバター、義体などのダイレクトリンクシステムに必ず起こる現象だ…。
 ただ…本来人は飛べない為、それを無理やり飛ばそうとすれば その振れ幅が大きくなるのだろう。
 ロウは何故《なぜ》だか分からないが 自前で飛べるからだろう…こちらと比べ揺《ゆ》れも少なく、量子光のスラスターで綺麗な線を描くように飛んでいる…。
 雲を突き抜け、晴天の空にたどり着く…。
 トヨカズ機とロウ機は速度を落とし、雲の上で静止する。
「次は音速突破だ。
 進路3時…。」
「OK…加速する。」
『わかた』
 2機のファントムが一気に加速する…。
 加速Gは3Gに設定しているので、音速まで10秒掛る…。
 1秒ごとに速度が100km上がり、10秒後にソニックブームを放ち 音速を突破した。
 3Gは一般人が パイロットスーツ無しで耐えられる安全値で DLの基準になっている物だ。
「戦闘機には流石に敵わないだろうな…。」
 戦闘機パイロットは6Gから8Gで戦い、8Gだと1秒で時速280kmまで加速出来る…明らかに加速度が立りないが これは一般人が乗る機体なので仕方が無いとも言える。
「ロウ機、加速Gは大丈夫か?」
 後ろに座るオレが、ロウに聞く…。
『ロウ 全然平気…でも、カズナはキツイ見たい…。』
『だいじょうぶ…。』
 オレは カズナのバイタルを見る…ギリギリ規定値と言う所か…。
 パイロットスーツの耐G性能のお陰で、耐えられているが 私服ならアウトだろう…。
「よし…砦学園都市に帰還する。
 次は カズナがパイロット…オレが後ろに乗る。
 トヨカズは前、ロウは後ろで…。」
『わかた』

 パイロットを交代して 再度乗り込んで空を飛ぶ…。
 今度は前にカズナが座り、オレは後ろだ。
 カズナは ほぼ初見だと言うのに システムの挙動を完全に把握していて、逆に機械側に合わせる形で かなり綺麗な機動を取っている…。
「それじゃあ…音速行くぞ…。」
 カズナ機が加速し、音速を突破するが 加速時に挙動きょどうが少しブレて システム側の修正が掛かっている…。
 これは カズナが加速Gに耐えているからだろう…。
 前の席に座るカズナを見る限り、パイロットスーツの耐G効果もあり オレが警戒していた意識を失って墜落する事も無いだろうが、6Gなんかの高G戦闘は止めさせた方が良いな…。
 と言うか見た目年齢5歳、実年齢3歳の少女に ファントムの操縦をさせる事 事態が無茶で色々と問題なのだが、年齢を理由に戦う力を取り上げられて殺される方も、それはそれで問題だ。
 死は老若男女平等で、子供だからと言う理由で弾が避けてくれる事は無い…。
 なら、戦い方を教えても良いのだろう…じいさんが オレが害獣に対して自衛出来るようにリボルバーの使い方を教えて貰ったみたいに…。

 最後に射撃練習…。
 これはDLとほぼ同じで 2機とも特に 問題は起きていない。
 低空を飛行しつつ 地上の仮想の的にボックスライフル向けて撃ってみるが、驚くほど当たっている…。
『ロングバレルも無しのボックスライフルでこの精度…狙撃銃が いらねーかもな…。』
 狙撃などの精密射撃が得意なトヨカズが射撃精度に満足している…。
 精度も弾道計算もDLより性能が高いみたいだな…。
 まぁ…発射された弾がホーミング力が弱いが空中で軌道補整を掛けながら進んで行く 誘導弾にしている事もあるのだろう…。
 トヨカズ機が音速の速度の状態で的に3発放ち1発が命中した…。
 そのほかに高速旋回時や、宙返りにS字とかM字とかL字とか様々な体勢での曲芸撃ちをして行くが、3発に1発程度は的に命中している…。
 流石に あの芸当はシステムによる物だけじゃ無くトヨカズのセンスも入っているだろう。
 実際カズナは 止まるか 直線軌道を取る事で DLの火器管制に射撃補正を掛けやすくして命中率を上げている…DLの基本に忠実な撃ち方だ。
 ただ、この機動は『敵もこちらを当て易くなる』デメリットも発生している。
 まぁ対応次第で如何どうにかなるかな…。

 予備知識はあったとは言え、シミュレーター無しでの実機訓練を3時間こなした だけで 皆がこの機体を使いこなしている。
 3時間も立つと、機体側がパイロットの挙動を学習してくるので、機動に個性が出始めている…。
 トヨカズ機は割と操縦が大雑把おおざっぱで、細かい所は機体任せに飛んでいて、急旋回、急上昇に急降下を組み合わせ、敵に狙いを付けさせず、精密狙撃時の1瞬だけ止まり撃つスタイル…。
 ロウ機は急加速で敵に近づいて回避出来ない距離から弾を撃ちこむ接近スタイル。
 カズナは機体を知り尽くして動かす事で、機体側の能力を最大限に発揮させられるやり方で、状況に応じて近接から遠距離まで柔軟に対応しているマニュアル型…。
 射撃などもすべて機体任せで人間身を感じられない機械と同化したような機動…。
 その無機質さがオレに似ていて美しく感じる。

 倉庫内に戻ってナオがファントムをキューブに戻し、3人にキューブを渡す。
「まぁ合格…QDLの資格とか シミュレーター何てまだ無いけど…。」
「あ~オレ専用機か…DLって基本使い回しだから嬉しいな…。」
「うん、ロウも嬉しい。」
「ナオ…あとで、しようしょ、もらえる?
 きたいを、はあくして、おきたい。」
「ああ…分かった研究都市側に聞いて許可が出てからな。」
 一応 仕様書は研究財産となっているので 一言連絡を入れて置いた方が良いだろう。
「うん、おねがい。」
 そう言い、皆で 学園都市に降りた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

Unlimited Possibilities Online

勾陣
SF
超人気VRMMO【Unlimited Possibilities Online】専用のヘッドギアを、気まぐれに応募した懸賞でうっかり手に入れてしまった主人公がのんびりと?‥マイペースで楽しむお話し? ※R15、残酷な描写ありは保険です 初投稿です 作者は超絶遅筆です 督促されても更新頻度が上がることはありません カクヨム様、小説家になろう様にも重複投稿してます

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...