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ヒトのキョウカイ6巻(赤十字の精神)

20 (ネスト突入作戦)

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 秒速8kmで海面に激突したエレクトロン小隊は、すぐさま海中に潜り、ミサイル型ワームの駆除を開始する。
 背中の機械翼から円状に弾が発射され、ミサイル型を追尾し…確実に当て行く…。
 ターミナルバレッドの誘導弾だ。
 6機で当たりのミサイル型をほぼ掃討…海中だと言うのにまるで空を飛んでいるかのように水流の抵抗を無視したスムーズな動作で降りて行く…自分の身体全体に数ミリの『分解』のコードをまとい、海水を分解して気体の水素にしているだけだ。
 そして、ドロフィン1から出たエレクトロン小隊と合流し、エレクトロン中隊になる。
 その後ろには 今回の護衛対象のフェニックス小隊が上空のワームを片付け、後を追ってくる。
 更に後ろからは、ファントムに乗るナオ…髪から量子光を放つ最大稼働モードのクオリア、量子転換装甲のアーマーを装備したジガのキョウカイ小隊が降りる…。

 深度800m…200m下には、ネストを攻撃された事で ワームの大群が生き残って新たなネストを作る為、周囲に拡散しようとしている。
 ファントムのナオ機は、100気圧の圧力を無効化し、演算も今の所 問題無し…。
「よし…可能な限り減らすぞ…。」
 ナオのファントムがボックスライフルを腰で構え…撃つ…。
 弾種はターミナルバレットの誘導弾…。
 ファントムのQEは水圧の無効化に大部分が割かれており、残存QEでは到底足りず 確実に自壊するので、オレのブレインキューブで演算を肩代わりしている…その為、着弾するまで 次の弾が撃てない。
 流石にクオリアやジガのような ターミナルバレットの複数の同時演算は まだ出来ない。
 それでも、海流を無視して当たられるのは かなり楽だ。
 クオリアとジガが、それぞれ間隔を開けて離れ、機械翼から出るマルチショットの誘導弾で 広範囲のワームを狩る…。
 そして、2人が撃ち漏らしたワームをオレが正確に撃ち抜く…。
 ここワーム部隊は、トヨカズとロウのチームの方面へ行く部隊だ。
 ワームの大群の真ん中の1万の相手をする事で トヨカズ達が 補給と休憩が出来る時間を作る…ここを潰せば5分は休めるだろう…。
 流石さすがに圧倒的な数の前に3人では ワームの数が多すぎて殲滅せんめつまでは出来ない。
 オレ達に出来る事は、ワーム部隊の真ん中を叩いて 休憩時間を作る事位だ。
『ナオ…演算負荷えんざんふかはどうだ?』
 クオリアが内緒話回線で聞いてくる。
『訓練のおかげか 大丈夫なんだが…。
 安全も考えると この位が精一杯ってとこだな…。』
『分かった…引き続き 撃ち漏らしを頼む…。』
『と言うより 何で撃ち漏らしが 発生しているんだ?』
 百発百中のエレクトロンにしては不自然おかしい。
『使っているのが自己完結型誘導弾だからだ…。
 周囲のワームを探知して 自動で当たりに行ってくれる弾だ。
 処理はバレット自体がやっているので負荷は掛からないし…私はひたすら弾を生産すればいい。』
 クオリアは1秒に12発の誘導弾を生産し放っている。
 あんなに大量に撃ち込んでいても 全然負荷が掛かっているように見えなかったいが、そもそも弾の生成の演算しか していないからなのか…。
 自立式だったら 個別に状況データを入れない分 楽だが、撃ち漏らしの確率が発生する…それをオレが担当する訳か…。
『よし、1万を削った…次のポイントに行くぞ…。』
『了解した。』
 オレ達3人は10分程度で1万のワームを削り切り、次のポイントに向かう。
 オレが戦域マップを見ると、ネスト周辺の敵はエレクトロン中隊が狩りつくしたようで、赤く塗りつぶされたマップの真ん中に大穴が空いているように見える。

 ネストは3ヵ所…エレクトロンが 分解で開けた穴から2機編成で進む。
 ワームが使っている出入口では無いが…中は迷宮となっており、短時間で最深部に行く事は出来ない…その為、ワームの歩く度に発生する微弱な地震から最深部の位置を特定し、分解装甲を展開して ほぼ垂直で降りる…こっちは忙しく迷路を楽しんでいる暇は無い。
 組み合わせは オレとマリア、ヨハネとイオアン、マルタとヤコブだ。
『マリア…良かったのか?』
 ラズロが言う。
『えっ…何が?』
『オレと来た事…マルタやヤコブじゃなくて良かったのか?』
『別に…だってラズロの事が好きだし…。』
『好かれる事をした記憶は無いんだけどなぁ。』
『そりゃあ…忘れているだけだって…私は覚えている。
 ラズロの優しい所、沢山…。』
 マリアが笑って言う。
『そっか…じゃあ、最後まで付き合って貰うぜ…。』
『後ろは任せて…ちゃんと最深部まで連れて行ってあげる。』

 ラズロ機が前面に分解装甲を展開し、マリア機が 後ろを向き、分解を記録したワームを瞬時にステアーAUGで消していく…ワームに絶対に分解を学習させてはならない…。
 ワームの学習方式は未だに分から無いけど、例え量子通信だとしても 記録した個体を速攻で潰して、データの流出を最小限に食い止める事は 出来るはず…。
 事前に周辺のワームを駆逐くちくして貰い、武器は既存の物だけで 戦闘も最小限に抑えている。
 フェニックスで一掃出来るはずの ミサイル型を既存の部隊に損害を出してまで 排除して貰ったのは この為だ。
 まだ 火星や木星付近にいるかも知れない ワームに情報を伝えている可能性がある以上…これが最後とは限らないし、必要な犠牲でしょう。

 ヨハネとイオアンのチームが ワームを蹴散らしつつ…突入口に入る…。
 ここから先は 完全にこっちのアドリブで、エレクトロンすら 如何《どう》するのか知らない。
 一応目標は 最深部の大部屋にある女王ワームを仕留める事になっているが、そもそも女王ワームの存在自体がいるかどうかが確定していない…完全に推測すいそくいきだ。
 作戦を予め決めた場合、誰かの記憶に残って、未来に生まれるであろう ラプラスに情報を抜かれて、過去改変される可能性もある。
 この情報は確定しては行けない…。
 ゆえにこの情報を持っている個体は死んで情報を散逸さんいつさせる必要がある。
『まぁ…オレらが適任だよな…。』
 2機のフェニックスの連携で迷路を突き破りつつ…最深部を目指す。
 トンネル内には ピースクラフト都市が攻撃された時にいた新種の2連装砲型ワームがびっしりいて、こちらを感知すると一斉に砲撃をしてくる…。
 なるほど…トンネル内の狭さを利用して命中率が低い2連装砲を有効に使うつもりか…見当たらないと思っていたが 数が少ない分、防衛にまわしていたのか…。
 恐ろしい位に ちゃんと学習している…。
 ヨハネ機とイオアン機は、示し合わせたようにステアーAUGで掃射そうしゃしつつ…砲弾を回避…2連装砲型ワームを瞬時に通り過ぎ 最深部に向かう。

『はあぁっ!!』
 マルタ機とヤコブ機は、両腕、両足にブレードを展開し、ルート上の邪魔なワームを切り付けて対応する…その洗練された動きに一切の無駄は無く、大半のワームが生き残っているが、そもそもワームを殺す必要性は無い…。
 減速を可能な限り減らし、邪魔な個体を瞬時に判断し対処…一切被弾せずに最深部まで最速で向かう…。
 私達が考えた方法は、ワームの学習を最低限に抑え、近接による最低限の戦闘で可能な限り早く目的地に到着する事。
 それが一番効率が良い…。
 最後の分厚い隔壁を最低限の分解で突破し、最深部にたどり着いた。
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