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ヒトのキョウカイ6巻(赤十字の精神)

18 (軌道降下部隊 防衛作戦)

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 高度400kmから高度100kmまで高度を落とし、40機のスペトラが地球軌道に一定間隔を開けて一直線に並ぶ…。
「全機反転…。」
 前面のリボルバー型のシリンダーに装填されているDLが反転した事で後ろを向き、左右のシリンダーを横に展開…射出の準備が整う。
 薬室内の各DLには水中装備の他に大気圏再突入用の装備、バリュートが装備されていて射出の準備を待っている。
 EHOに投入したエレクトロン部隊は まだ間に合わなかった…現地戦力で対応する事になる。
「目標まで5…4…3…2…1…投下…投下!!」
 ニールが全スペトラに指示を出し、前方のスペトラから順次にDLが射出されて行く。
「頼んだぞ…。」
 ニールはDLの身体を覆うエアクッション…バリュートを展開し、急速に減速…降下して行くDL部隊を見ながら、そう言った。

 スペトラから機体が射出され、即座に大気圏再突入用のバリュートのエアクッションが機体の背中から展開される。
 エアクッションが機体を包み込み、機体を保護…背中から大気圏に再突入し、オレの正面に見えるスペトラの大群は急速反転をし、順次再加速を始め、高度が上がって行く。
 こちらの高度は100kmから急速降下中…。
 ここの熱圏の温度は2000℃にもなるが、熱を伝える空気がほとんど無い為、一気に減速して降下すれば そこまで問題に成らない。
 90…80…よし、機体が高熱になる前に熱圏を抜けた…DL単体の装甲でも降下出来る事は知っているが、VR以外での降下はこれが初めてだ。
 中間圏に入り、外の温度は-90℃…次第に空気密度が上がって行き、機体が冷却されて行く…。
 燃え尽きないと安堵した次の瞬間にはエアクッションが空気を受けて猛烈な減速が発生…来たな6G減速!!
 オレはスティックから手を離して腹の前で手を組み、必死に6Gに耐える。
「ヒッ…ヒッ…ヒッ…ヒッ…」
 3秒事に腹に力を込めて必死に息を吸う。
 血液が後頭部に偏り始め、目の前の光景から色が抜け落ち、モノクロの世界になり段々と暗くなっていく…。
 高度は…分からない…下がって行くデジタル数字は見えているが、頭がそれを認識してくれない。
「くっそ…。」
 とは言え、機体がオートパイロットで安全に降ろしてくれる…今は機体を信じるしかない。
「かはっ…。」
 減速しつつ機体の高度が下がって行き、背中側から突っ込んでいた機体が反転し、エアクッションがパージされ、手足を広げてスカイダイビング状態に突入し、ようやくまともに息が出来る。
 目の前には視界を覆うほどの一面の海…空母と思われる船もいくつか見える…。
 海面が迫って来る恐怖に必死に耐え、高度計を確認…高度は1万m…速度は…時速1000kmを切る…つまり音速以下になった。
 高度2000mでパラシュート…そろそろだ。
 9000…8000………5000…4000…3000…2500…今!!
 巨大なパラグライダー式のパラシュートが両肩から展開され、機体が浮き上がる…。
 空母からのビーコン誘導を機体が受け取り、パラシュートに繋がっているロープを掴み、降下位置の微調整…に入る…が、海中から反応…大量の戦闘機型ワームが海面から飛び出してくる…。
 狙いは 勿論、降下部隊…焦るな…。
 前方の降下部隊がボックスライフルで発砲…ワームに命中するが、反動を殺しきれずに、パラシュートが機体にからまり、落下して行く…。
 今のオレらには迎撃手段が無い…今はオートパイロットに任せて降りるしかない…。
 パラシュート切り離しまで後24秒…。
 オートパイロットに任せた方が一番生存利率が高いのは分かるが…戦闘機型ワームの体当たりで数機が撃墜され…先にパラシュートをパージして空中でワームを撃墜…機体を垂直に保ち、海面に足から飛び込む機体もいる。
 前の部隊のパージされたパラシュートが瞬時に燃えて行き、後続の機体が巻き込まれないようになっている。
 警報…下から戦闘機型ワーム…衝突コースに乗った…避けれない…そう思った。
 前方からの発砲…降下部隊を狙っていたワームが次々と駆除されて行く…。
「戦闘機?」
 それは戦闘機に翼を持つ手と足を持つ奇妙な機体だった…なっ!!
 海面から24mで位置でオレの機体のパラシュートがパージされ、燃えたパラシュートを見つつ、オレはボックスライフルが壊れないように抱きかかえて 垂直に海面に落ちる。
 よし、生き残った…戦闘機型ワームが出てくる海面からは ここからだいぶ離れている。
 オレは すぐにマニュアル制御にし、スクリューを最大出力にして海中に潜航…後続部隊との衝突を避ける。
 光が届きにくくなった事で周りが暗くなり、前方の部隊の目視が難しくなり 緑色で味方機の機体の輪郭が縁取られる。
 見えた…海面。
 オレは減速をしつつ…生き残った部隊と共に無事、海底に着地した。

「こちら、Gウォークハルミ機…出るぞ!!」
 20mm弾のマガジンを積載重量限界まで搭載したハルミ機は空母の甲板を利用した短距離滑走で 飛び上がり、脚を収納して音速を超えて現場に向かう。
 続いて本来なら使う予定が無かった無人戦闘機のブラックバードⅢが垂直離陸を行い、3機がハルミ機の後方に付き、編隊を組む…。
 今頃、他の空母からもブラックバードⅢが発艦している事だろう。
 降下部隊は 今、エアクッションをパージしてスカイダイビング状態になった。
 私達の任務は高度2000でパラシュートを開き 一番低速で無防備な状態になっている降下部隊の護衛だ。
「戦闘機型か…早いな…。」
 今まで探知出来なかった戦闘機型ワームが海上からの迎撃ミサイルの如く、飛び出し再前衛の部隊に体当たり攻撃をして撃ち落としている。
 パラシュートを開いたDL部隊がボックスライフルで迎撃するが、反動でパラシュートが絡まり、海面に背中から落下する…対弾ジェル装甲だからある程度の落下は大丈夫だとは思うんだが…潜った時の水圧でのダメージが心配だ。
 ハルミ機は足を前に出して減速をしつつ…翼の付いた腕を戦闘機型ワームに向けてボックスライフルで発砲…。
 衝突コースになっていた降下部隊に間一髪で間に合い、付近のワームを排除して行く。
憎悪値ヘイトは私が受け持つ…オマエらは一切攻撃をするな…。」
 ワームにはゲームで言う所の脅威度システムが搭載されている。
 これは 敵が味方を何体撃墜されたかで 敵の脅威度を決めて攻撃を集中させる単純なシステムだ。
 つまり私が敵を撃墜すれば するほど優先的に こちらを攻撃してくれる。
「よし、喰い付いた。」
 ハルミ機は戦闘機型ワームの誘導に成功し、大量に引き連れつつ海中から湧いてくる戦闘機型ワームを撃墜しながら その場を離れる。
 ハルミ機の後ろには 引き連れた36機のワームが追って来る…。
 流石に人型形態だと追いつかれるか…。
 ハルミ機が腕を水平に脚を折り畳み、戦闘機モードで上に向かって真っすぐと上昇…36機のワームを引き連れつつ反転し、人型モードで迎撃…すぐさま脚を収納して今度は急降下に入る。
「よし、海面までのチキンレースだ。」
 真っ逆さまに加速し、迫り来る海面…脚を下に展開して加速を殺し、海面ギリギリで上昇…減速に失敗した戦闘機型ワームは海面に叩きつけられる。
 続いて海面から上昇して来た60機がこちらを追う…。
 36機から60機に倍近くの戦力になってる…普通なら ここで落ちるが…。
 垂直で加速しつつ上昇…後ろに大量の戦闘機型を引き連れ、3編隊の体当たり攻撃を回避かわしながら上昇…ブラックバードⅢの3機編隊が横から帯状に見える戦闘機型ワームの大群を狩って行く…。
 ブラックバードⅢはトリガーが遠隔操作になっている為、降下部隊に当てないように気を使ってしまい、まともに戦え無いので戦い易い環境を作る。
 他の空母から来たブラックバードⅢは一撃離脱戦法を取り、3機編隊でローテーションを組みつつ海面から上がってくる戦闘機型ワームを撃墜して行く。
 私が戦場の9割の戦闘機型ワームを引き連れている為、降下部隊の生存率は高い…1割損失と言った所か…。
 第一降下部隊が終了…次、降下訓練が苦手な新兵ルーキーを集めた第二降下部隊…。
 ハルミ機が垂直上昇、垂直降下を繰り返し、戦闘機型ワームの帯を横から他のブラックバードⅢが狩って行く…。
 こっちも後ろのワームに撃ちまくっているが 一向に減らない…本当に数の暴力だ。
 多方向からの戦闘機型ワームを回避しつつ、正面衝突を誘発…。
 その隙に人型モードに切り替え、リロード…。
 ハードポイントの弾薬をボックスライフルに叩き込み、追いついて来た戦闘機型ワームを引き離す為、戦闘機モードで再加速する。
 ブラックバードⅢの支援も含めれば1000機は余裕で潰しているはずだが、まだ湧いてくる…ただ流入量が下がってきている…そろそろ打ち止めか?
 こちらのブラックバードⅢも残弾が危険域に入りつつあり、憎悪値ヘイトを稼ぎ過ぎたのか ブラックバードⅢに一部のワームが帯状になって迫って来る。
 ブラックバードⅢは こちらが撃ちやすいように誘導しつつ、こちらが対処…これで1マガジンを使い…次がラスト…。
 ブラックバードⅢの破棄が決定…空母に戻って弾と推進剤の補給をして戻って来るよりか、推進剤が無くなるまで降下部隊の援護をした方が良いとの判断だ。
 こう言う切り捨てが出来る所が無人機の強みだな…。
 残りの弾数が少なくなった事で戦闘機型ワームを回避をしつつ誘導に専念…。
 とは言え、私の機体の残弾も残り少ない…これでラスト…。
 第三降下部隊も後わずか…後ろには200を越えるワーム…当然ながら弾が足りない。
「限界だな…ハルミ機からドロフィン1へ…残弾危険域に付き、補給の為 帰投する…後ろに200匹は引き連れているから迎撃を頼む。」
『了解した…可能な限り敵を引き付けろ…こちらで、十分に対処可能だ。』
「了解…120程追加…。」
 ブラックバードⅢがハルミ機の後ろに付き、4機編隊で戻る…4機で集めた数は600匹…。
 シーランド艦に搭載されているイージスシステムは 公開されている情報内でも300km内のターゲットを同時に300まで補足し、迎撃する能力がある。
 本来、空母には敵を近づけちゃいけないんだけどな…。
 そう私が思った瞬間…高度100kmから ほぼ減速無しで光の線に海面に衝突し、圧縮された熱が海面を急激に沸騰させ水蒸気爆発を起こす…。
「エレクトロンの降下部隊か…。」
 続いて、ドロフィン1方面からフェニックス小隊とエレクトロン1個小隊…それに量子転換装甲を身に着けたジガが 私達とすれ違い、遠くにはナオとクオリアが乗るファントムが見え、コックピットブロックがスライドしクオリアが落下し、機械翼を展開…髪から量子光を放ち海面に降下する。
 如何どうやら任務は完了のようだ。

 ハルミ機とブラックバードⅢ3機がドロフィン1の射程範囲に入り、3機のブラックバードⅢは大量のワームを後方に引き連れて左右正面に分かれて散開して急上昇し、ドロフィン1からの攻撃が当たりやすいようにする。
 私は中央…ドロフィン1の真上を通る事になる。
 ブラックバードⅢが最後の推進剤を使いはたし失速…それと同時に実弾のファランクスとレーザー照射機が正確に敵機を撃墜して行く…。
 続いて、ハルミ機…甲板にワームが落下しないように気を使いつつ…ハルミ機が引き連れている大量のワームを次々と撃墜して行く。
「やっぱスゲーな…。」
 とは言え、元がミサイル迎撃用のファランクスは弾切れを起こしており、再装填には時間が掛かる。
 レーザーは射角の問題で真上だけは如何どうしても狙えない。
 ハルミ機は最後の1マガジンを使い丁寧にワームを落として行く…。
『ドロフィン1からハルミ機へ…敵の駆除を完了…帰還されたし…。』
「了解…補給の為、帰還する。」
 私はそう言い…甲板前から進入し、脚を下に出して人型モードでホバリングをしつつ、甲板に着地した。 
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