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ヒトのキョウカイ5巻 (亡霊再び)

20 (紅の天使)

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 甲板に止まっているエアトラS2の後部ハッチを開く。
「よーし…そのまま…ゆっくりだ。」
 クオリアが指示しつつ、ナオがフォークリフトを使い、DLを降ろして行く…。
 駐機姿勢でネットを被り パレットに固定された2機のDLのネットを外し、黒鋼にはロウとカズナが、炎龍にはトヨカズが乗る。
 隣には高濃縮トリチウムの回収した黄色の軍用車両が1台が止まっている。
『こちらトヨカズ機、自己診断システムによるチェック終了…機体に異常無し、輸送ダメージは無いようだ。』
 炎龍に乗るトヨカズが小隊無線で話す。
『こちらロウ、問題無し、起きる。』
 ロウとカズナが乗る黒鋼が起き上がり、その後トヨカズが乗る炎龍も起き上がる。
『ナオからカズナへ…ロウの調子はどうだ?』
『こちらカズナ…たちあげは、ぜんぶ、ロウひとりで できてる。』
『分かった…黄色の車両が道案内してくれる。
 ロウ機は 後ろについて行ってくれ…。』
『ロウ機、分かた』
 案内人とレナが乗っている黄色の車両が走り、後ろにロウ機が付き…更に後ろに少し間隔を開けてロウ機をサポートするようにトヨカズ機が続く…。
『ナオ…ハッチ閉鎖は良いか?』
『ああ…忘れてた…安全を確認後、閉めて良し』
『了解、安全を確認したハッチ閉鎖』
 エアトラS2の後部ハッチが上に上がりガチャリと安全ロックが降り閉鎖終了。
 クオリアとナオが合流し、走ってDLを追う。
 黄色の車の行き先は甲板横の倉庫で、シャッターが上がると そこにはエアトラS2が 丸々入る程の大きな穴が開いている…下の整備ハンガーに繋がっているエレベーターだ。
 ウ~ゥ~ウ~ゥ~ウ~
「空襲警報!?」
 倉庫に入っていたオレとクオリアは、すぐに外に見晴らしの良い外に出る…。
 そのすぐ後にエレベーターを待っていたロウ機とトヨカズ機が勝手に動き出す。
「オイ!ちょっと…まっ…うわああ退避~。」
 止めようとした警備員を無視し、外に出て銃を構えた。
 ボックスライフルを装備したロウ機は水平に狙いを定め警戒、トヨカズ機のAQBライフルは上空に向けられ、対空砲火に備える。
『クオリア!』
『分かってる…。
 各員ARウィンドウを開き、軍事ネットでアクセス…自分のセキュリティレベル以下の情報なら、それで見れる。』
 オレはARウィンドウを開きアクセス…警報の理由を探る。
 敵味方不明アンノーンがマッハ1で高速接近中…。
 機数6、敵味方識別信号IFF及び 無線の呼びかけに応答無し…速度から戦闘機タイプ、もしくは ミサイルタイプのワームだと推定…迎撃命令が出ている…。
 甲板待機させていた遠隔無人戦闘機が 安全高度まで垂直離着陸し、一瞬で音速を突破し、ソニックブームを発生させて 迎撃に向かった。
 続いて、2機目、3機…が離陸…アラートから2分で3機離陸…間隔は5秒程…カタパルトを使わないから 即応性が高い発進が出来るのか…。

 戦闘指揮所CIC…兼ブリッジ…。
 艦を操縦するブリッジと作戦指揮をするCICを一緒にした この艦は アナログディスプレイとアナログキーボードで艦を操作する…。
 こうする事で この艦の総舵手1名と火器担当官1名、艦長の3人に抑《おさ》える事が出来、ブリッジの後ろの部屋には 各中隊を俯瞰ふかん視点で見守り情報を提供するオペレーターが最大24人座れる…ARウィンドウも使うなら50人は入れるだろう。
 艦の重要人物をここに集める事で情報共有を速やかに行い、また この艦の弱点とする事で火力をブリッジに誘導させ、防御兵装の配置を絞れる利点にある…。
 そして ここが潰されれば この艦の乗組員は速やかに投降させ捕虜に成る事になる。
 これが戦死者が一番少ない 今の時代の艦隊戦の常識だ。
「ホ…ホークアイから通信…。
 1時より、アンノーン接近…距離は…近い!本艦から100km…。
 高度1万…IFFに応答なし、無線応答…今の所無し…機数6…速度1000km/h」
「100!?何故《なぜ》気づかなかった?」
 火器担当官が報告し、マグナが言う。
「ハ…アンノーンは レーダーの届かない海中から接近したと思われます。」
 普段は 警戒機などは出していなかったが、ワームが地球に現れてから、エアトラS2を早期警戒機そうきけいかいき仕様に換装したホークアイ装備で高度2万mから24時間体制で監視をさせている。
 見通し距離は500km…複数機で中継させれば2000kmは届くのだろうが、換装やメンテナンスもあり、多く出せないのが現状だ。
「水中を高速移動出来て 戦闘機にしては足が遅い…ピースクラフトで出た戦闘機型ワームだ。
 アラート発令、各艦に迎撃命令…敵は5分で来るぞ…。
 ブラックバードを3機を緊急発艦…時間を稼ぐ…撃墜を許可…何としても通すな!!」

「ふ…案外早いな…」
 潜水艦の索敵圏内ギリギリまで近づいたってのに…もう動き出した…。
 ワームに平和ボケを叩き直されたか?
『早期警戒機はどうします?迎撃しますか?』
「NOだ…せっかく観客が見ているんだ…派手にやろうぜ…。
 作戦に変更無しだ…各自タッチダウンせよ!!」
『『了解』』
 赤色に輝く天使が時速1000km/hの速度でシーランド艦に接近する。
 レーダーに認識されてから3分でブラックバードⅢを発艦させた。
 つまり、残り時間は3分…敵はマッハ3を叩き出せる化け物で、こちらの3倍の速度が出せる。
 まぁこちらは本気を出せば亜光速まで出せるのだが、それじゃあ面白くない。
 ブラックバードⅢがフェニックスと軸を合わせ衝突コースに入る。
 こちらが 上に回避する兆候ちょうこうしめした所で、機体を垂直姿勢に傾け機体を急減速させるコブラ機動を行い 下に周り込み発砲…20mm機関砲が火を吹く…。
 遅い…。
 フェニックスをワザと傾け…脇から弾丸を通す。
 やっぱり、発射までにワンテンポ遅れている…。
 機体は ほぼ全自動だが トリガーだけはヒトが引いている。
 機械は道具でありヒトを殺傷する責任は取らせる事は出来ないからだ。
 だがそれが この機体の性能を制限させている。
 そして、フェニックスは人型ゆえに身体をひねる事で旋回が出来るが、ブラックバードⅢは大きく円を描くように旋回しないと行けない。
 フェニックスが急降下し、海面ギリギリで再加速する。
 後ろからブラックバードⅢが追尾し、撃ち込んでい来るが、こっちは急カーブを行い 音速の風で高波たかなみを発生させ盾にして銃弾の方向をそらす。
 そのままブラックバードⅢが 波に音速で激突すれば、大破は逃れないし、例え生き残ったとしても 進路を大きく狂わされ海面に激突…。
 つまり…次に出る手は…。
 ブラックバードⅢは激突ギリギリで急上昇し、機関砲を下に向ける。
 機関砲を下に向けた事により減速し、フェニックスの真上に付き発砲…。
 だが、身体を捻《ひね》る事で回避…波が舞い上がり、ブラックバードⅢの腹に当たり軌道がズレ機関砲にダメージ…恐らくもう使えないだろう…ブラックバードⅢがこちらを狙うのを止めて離脱する。
It'sイッツ ShowtimeショータイムHAHA!!」

「ブラックバードⅢが交戦アンノーンの映像出ます。」
 音速を超える戦闘機での戦闘では画面に敵機が入るのは一瞬で 敵を目視出来る事はまずない。
 なので、並行してログから、カメラに映る1瞬を探し出す…。
 画面に映っているのは赤い装甲と赤い翼をまとい…翼から赤い量子光を推進剤のように放つ機体…。
「ワームのDL形態…。」
 火器担当官がつぶやく…。
 いや…これは…。
「すぐに来るぞ…。
 ブラックバードから敵の位置を特定…対空レーザー撃て!!」
 小型核分裂炉から生み出される莫大ばくだいな電力を利用した万能兵器…。
 収束率を変える事で味方の通信から戦艦の破壊まで行う事が出来る…。
 それに如何いかに未来予測システムがあろうが、亜光速で発射される熱エネルギーを回避する術は無い…流石にこれで…。
 1艦で小型レーザー30門の内、艦正面を向けられるレーザーを目標に向け囲むように照射…次に艦正面の主砲の強力レーザーを照射…。
 空気が熱されプラズマ化した熱線を目標に…。
「は?…けた?亜光速のレーザーを?
 あ…アンノーン…レーザー回避!」
 火器担当官が思わず…素で報告をしてしまう。
「ファランクス!」
「やってます…残り3秒!!」
 毎秒75発の弾丸が敵に目掛けてまき散らされる。
「総員…対ショック姿勢!」
 全員が頭を抱える姿勢に出る。
 ファランクスを担当していた火器担当官はトリガーのEnterキーを押したまま頭を下げる。
 …………………。
 …………。
 ……。
 衝撃が来ない…。
 顔を上げて見る…。
 そこにいたのは、緑色に輝くベックとの量子光を放つ緑の髪の少女だった。
『レクリエーションは終わりだ。』
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