上 下
90 / 207
ヒトのキョウカイ3巻(時給より安い命)

30 (ノーリスク、ハイリターン)

しおりを挟む
 翌日、ナオは ロウ達と比較的 治安の良い場所を観光する。
 事件が解決したので今日1日を休日にしたのだ。
「これ、本当に、人肉?」
 ロウは屋台で食べ歩きを始め、フランクフルトを食べながら言う。
「そう、ロウが殺した人じゃないだろうけどね…。
 ちゃんとリサイクル炉で溶かされたから、数日で食べ物になるわね。」
「不思議…。」
 色々と危ない発言をしつつ、楽しむ…。
 途中から、ハルミやジガも合流した事で更に面白くなった。

 更に翌日…出発の日だ。
 時間は早朝の午前6時…だが、外に出ると太陽がまだ隠れていて真っ暗だ。
 外の時間は午前の3時でまだ夜明け前だ。
 グリニッジ標準時を使っている為、こう言った問題が発生している。
 ちなみにピースクラフトが-3時間、砦学園都市は-2時間の時差がある。

 ナオがエアトラS2に最後の荷物を固定する。
 エアトラS2には DLが2機の他に様々な お土産が積まれていて積載重量がギリギリだ。
 その為、通常航行で砦学園都市に向かうのが良いだろうとコパイが判断した。
 航行時間はおおよそ、4時間…。
 まぁそれなりに時間が掛かるが機内はVR、ARが完備だし、小さいながら、宇宙規格用のトイレも購入し取り付けた。
 今までエレクトロンが乗る前提だったのでトイレは必要無かったが、今後はレナ達が使う事もあるから必要だろう。
 駐機場に2機のエアトラS2が横に並んでいる。
 1機はクオリア機、もう1機は天尊機だ。
 皆に見送られる中、天尊機の後部ハッチがゆっくりと開く。
「さて、これでしばらくお別れですね…。
 レナ外交官…助かりました。
 労働者達が救われたのは あなた達のおかげです。」
「ええ、こちらも…あなたのやり方は良い勉強になりました。」
「それでは…また。」
 天尊とジムがエアトラS2に乗り込み、しばらくして プロペラが回転し始め、レナ達は下がる。
「いい奴だったな…。」
 ナオが言う。
流石さすが太陽系の王子ね…。」
 レナは皮肉を込めて言った。

「今回は派手にやりましたね…。」
 副操縦席に身体を固定しているジムが言う。
「計画から1年…。
 同時進行で色々とやってましたが、上手く収まりました。
 エレクトロンには新型武装のテストと場所の提供…ワーム対抗部隊の設立の下地の構築…。」
 エレクトロンが武器の実践テストをすれば、周辺諸国を中心に様々なトラブルが起き『殺られる前に殺れ』とエクスマキナと戦争をする可能性がある。
 だから、テスト用の戦場とワームナオテストパイロットを提供した。
 とは言え、本人がやる気だったので介入は殆《ほとん》どしていないが…。
「働く事が何より好きで、奉仕対象者にられたスレイブロイドファクトリーには、ピースクラフトへの労働参入および地位の回復…。」
 ジムが言う。
 今回、経営者と現場を繋ぐパイプ役を諸悪しょあく根源こんげんとし、殺傷させた事で、いずれの企業も上と下がバラバラになり、いずれ自壊し、外国との取引が出来なければ都市内のUMが不足が起きる。
 自国で通貨を発行できず、貿易用通貨のUMを使っている事が原因だ。
 そこで 企業が自壊しそうになった所で、天尊カンパニーからの資金援助をし、不足しているパイプ役をこちらから派遣…。
 企業側からは感謝され、今回ドラムが救出作業に参加した事もあり、保険も無く、助けて貰う金も無いのに瓦礫から救い出して貰った労働者は ドラムの手が『神の救済の手』に見えているだろう。
 その友好的な心理状態の内に、スレイブロイドファクトリーから労働力としてドラムを派遣して貰い『働かなくても良い社会』の実現への雰囲気作りをする。
 こうする事で働かない=悪のイメージを払拭《ふっしょく》し、働かないで純粋な消費者になる選択肢を与える。
 勿論、それを叶えるには『生活保障金制度ベーシックインカム』が必須だ…。
 だが『パラベラム部隊』のヘンリー・ジャクソンが低所得者をないがしろにするはずが無い以上…生活保障金制度は確実に導入される。
 資金に困るなら、こちらから金を出しても良い。
 都市民に金を渡して、こちらの物を買ってもらえば『客の生産』に繋がり、投資としては十分に利益が見込めるからだ。
「そして砦学園都市には ピースクラフトをワームから守った英雄…。
 決起部隊を陰ながら協力し、低所得者を救ったと言う満足感を手に入れた。」
 金が入らなくても、名誉や賞賛を送る事で外交上や様々な事に繋げられるだろう…少なくともレナなら…。
「パラベラム部隊には、クーデターの成功や労働者の待遇の改善」
 死者がそれなりに出ているが、元々クーデターで死人が出る前提だったし、彼らの目的を達成は出来たのだから…十分に満足だろう。
「で、ピースクラフトは民衆に袋叩きにされて殺される前に、何者かにより射殺…。
 天尊カンパニーに別人として入国…。
 諸悪《しょあく》の根源《こんげん》なのは私達なのに、彼は感謝するでしょう。」
「一番不利益をこうむったのは死んだパイプ役とその家族位かな…」
 だが、天尊はあくまで被害者であり人質、狙われるのはヘンリー・ジャクソン。
「そして、天尊カンパニーは、大量物資の輸送が可能な軌道エレベーターの近くの中継都市を掌握しょうあく…。
 今までは出来なかった軍事物資の運送がおおやけに出来ます。」
 ワームとの戦闘はこれから、激しくなるだろう…。
 そうなると軍事物資の需要が上がり、物流がとても大事になる。
 皆に利益を与えつつ、被害が出る実行部隊には名誉を、被害者の攻撃先は実行部隊で、天尊側が一切責任を取る必要は無く、むしろ、壊れた経済を立て直す為の金の援助する事で効率良く、好感値を稼ぐ事が出来る…。
「結果…30人の犠牲で60万人近いヒトが得をした。」
 そして、この騒動で一番の利益が出た所は天尊カンパニーここだ。
 ノーリスク、ハイリターンを繰り返す天尊は、次の取引先に向かう為、エアトラS2のスラスターを吹かせ、急加速に入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

Unlimited Possibilities Online

勾陣
SF
超人気VRMMO【Unlimited Possibilities Online】専用のヘッドギアを、気まぐれに応募した懸賞でうっかり手に入れてしまった主人公がのんびりと?‥マイペースで楽しむお話し? ※R15、残酷な描写ありは保険です 初投稿です 作者は超絶遅筆です 督促されても更新頻度が上がることはありません カクヨム様、小説家になろう様にも重複投稿してます

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...