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ヒトのキョウカイ3巻(時給より安い命)

06 (ワーム訓練戦)

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 2日目…。
 昨夜、エクスマキナ都市の2人部屋でオレは倒れるように眠り、気づいたら朝になっていた。
 ぐっすり眠り、頭はちゃんと回っている…。
 ナオがARウィンドウを出し、時間を確認すると10時間は寝ていた。
 この義体での睡眠時間は 6時間位だから相当で眠ってしまっている…。
 なのにも関わらず、隣のベットに座っているクオリアはオレを起こさず、ARの実機のコントローラーを出し、落ち物ゲーをやっている。
 見て見ると ベリーハードのコンピューターに19連鎖を実践レベルで放っていく。
「ナオ…起きたか。」
「ああ、お陰様で…起こしてくれても構わなかったのに…。」
「別に気にするな…ナオが10時間寝ても 現実世界では8分だ。」
「短かっ…てか8分しか寝てないのに何で こんなにスッキリしてるんだ…。」
「睡眠は人間版のデフラグだ…スペックが高い方が 早く済むだろ…。」
「ああ~なるほどね…。」
「朝食を取ったら、昨日のおさらい…その後は DLでの訓練だ。」
 クオリアがARウィンドウで操作し、テーブルにトースターを出す。
 更に、食パン、卵、ウィンナー、バターと出し、食パンにバターを塗って4本のウィンナーで防波堤《ぼうはてい》を作り、生卵を投下する。
 そして トースターに入れて蓋を閉め、startボタンを押す。
 チン…わずか1秒でパンが焼きあがり、目玉焼きとウィンナーのトーストが出来た。
 それをARの皿に乗せて出す。
「んじゃ頂きます。」
 パンを丸めてかぶりつく…。
 ウィンナーのプチプチとした歯ごたえに 口の中に広がる とろりとした半熟の目玉焼き…。
 朝食としては十分だ。
 仮想の満腹中枢が刺激され、腹8分目の状態になる。
 クオリアも 物まねフェイクだろうが ミートキューブを出して朝食を取っている。

 さて、市街地に切り替わり 高速でオレを攻撃してくるクオリア。
 明らかに昨日よりもスピードが上がっており、挙動が人を完全に辞めている…。
 それでも、ナオは思考加速で如何《どう》にか さばき切る。
 スピードが速く威力も強いパンチの軌道を手で誘導し、同時に足をかけてバランスを崩させ、投げ飛ばす。
 そして、うつ伏せ状態のクオリアの肩甲骨下を足で踏み体重を乗せる。
 ここを踏まれた場合、手の力だけで起き上がる事は難しい…。
 そして腕を締め上げる。
 この状態まで持って行ければ後は、腕を外すなり首を折るなり好きに出来る。
「降参する」
 クオリアが起き上がる事を諦め、手を上げる。
 ナオはクオリアを開放し、起き上がる。
「ナオは 運動エネルギーを利用するのが上手いな…。」
「とは言え…投げ飛ばす機会なんて実践では無いから、無意味何だけどな…。」
 こんな体術を極めても、銃弾一発で死ぬのが人だ。
 実際、ハンドガンの扱いに長けていた おじさんは 素人の撃った銃弾で死んでいるし、猟師でコンバットナイフでの戦闘が得意だった爺さんは 公安が用意したひき逃げのプロには敵わなかった。
 そしてオレは 歩兵の銃やナイフが効かず、ひき逃げをされても大丈夫なDLで戦う事で弱点を克服した。
 己の肉体を鍛え、戦うのが神崎家のスタイルだが、DLの火器管制システムより正確な射撃は人には まず無理だ。
 弱点を見つける度に改良され続けて来た火器管制システムは、人の一生の研鑽《けんさん》より圧倒的に早く習得してしまう。
 そんな中で強くなる為に研鑽《けんさん》を積むより、こちらも火器管制システムを使った方が遥《はる》かにラクだ。
 そう言った事もあり、オレは 忍者なのにメカニック寄りになってしまっている。

 1ブロック離れた所に駐機されている黒鋼のコックピットブロックに ナオが乗る。
 鍵は挿した状態だったので そのまま起動させた。
 黒鋼が起動し、ハッチがスライドして閉鎖…。
 ダイレクトリンクシステムを起動し、人機一体になる。
 黒鋼がゆっくりと立ち上がる…背中には 今回テストする量子フライトユニットが装備されている。
 見た目は銀色の四角いユニットで 飛べるような外見では無い。
 ナオ機は 準備体操を始める。
 機体が最適化された所でクオリアから通信が入る。
『量子フライトユニットを起動しろ…使い方は生身と変わらない。』
「おう」
 量子フライトユニットが起動し、X型の翼に2機のスラスターを持つ緑色のユニットに変化する。
「じゃ行きますか…。」
 2機のスラスターから量子光が吹き出し、それを推進剤にして ナオ機がロングジャンプをする。
 実際は質量ほぼ0の量子光に推進剤の役割が出来る訳も無く、オレのイメージから来る演出だろう。
 高度が上がる…20…30…35m機体が頂点に到達し落ち始める。
 姿勢制御をしながら着地…。
 ナオ機の足が止まり、耐弾ジェルが 衝撃を吸収し熱に変換する。
 機体側が必要以上の衝撃を受けた為、吸収、熱変換、廃熱を優先したのだろう。
『それじゃあ飛んでない…落ちているだけだ…。』
「あいよ…。」
 ナオ機がまたロングジャンプをする…今度は垂直では無く斜め上にだ。
 最高高度は低くなったが、翼で滑空し距離を伸ばす。
 着地…今度は脚にも負荷がかかっていない。
「滑空までなら出来るんだよな…。」
 元々この元ネタのユニットが滑空用だったからか?
『それなら、それでいい…飛べないと言う事は まだ未知の原因ファクターがあるのだろう。
 そこは 今後の課題だな。』
 まぁエレクトロンとオレは同じポストヒューマンと言う区分だけど、かなり違うからな…。
「クオリアは コイツでちゃんと飛べるのか?」
『飛べた…やはり問題は操作系統だろうな…もっとサンプルが必要だ。』
 その後ロングジャンプを続ける…。
 姿勢制御のミスも無くなり、滑空もちゃんと出来るようになった。

 昼食を挟み午後。
 市街地でのワームでの訓練だ。
 市街地に進行したワームをシャベルで倒していく。
 刃の部分は量子光で輝いていて威力を増してくれる。
 量子フライトユニットと言われているが、こう言った威力強化も可能だ…。
 いずれは 分解バリアも展開できるようになるとか…。
 ナオはロングジャンプし、上空を移動しながらワームの背中を狙い撃って行く。
『はやり 私には扱いづらいな…。』
 同じフライトユニットを装備した黒鋼をクオリアが操縦する…。
 ナオ機がアップダウンを繰り返すロングジャンプなの対し、クオリア機は完璧に空中を飛んでいる。

 私には遊びが大きすぎる…。
 スピーダーとは違い ベックは操作は簡単だが、遊びが大きく私の性能をフルに使えているとは言えない。
 ナオ機を見る…。
 空中で旋回しワームの背中に撃ち込み、ワームを蹴り飛ばし、また上がる。
 空中でボックスライフルでの射撃も火器管制システムに頼り切りだが、反動はフライトユニットで相殺している…。
 更に雑談レベルで話した攻撃強化も、システムの特性を理解しているのかショベルの威力を上げる事に使っている。
 今度は ボックスライフルの銃弾を強化するが…不発に終わる。
 遠距離の量子への干渉は 進行方向のすべての量子を書き換えなければならず、処理が距離の2乗で上がって行く。
 これを解決するのが、量子端末を組み込んだ端末弾ターミナルバレットだ。
 機体側と量子的つながりを持った端末弾は バルク空間で繋がり、ほぼ0距離になる…。
 その為、そこからコードを流せば処理の大幅な軽減が可能だ。
 だが、そんな事を知らないナオは 自分で試行錯誤しこうさくごをしながらワームを仕留めていく…。
 この分だったら完璧に生き残れるだろう。
 本来3日を想定していたが…切り上げても良いのかもしれない…。

 そして2日目の夜…。
 ナオに聞いてみたが、流石に疲れたのか半休が欲しいとの事で次の日は 午前に総仕上げをし、午後は休みとした。

 ナオが目を開ける…。
 内部時間3日…外部時間1時間の訓練を終える。
 時計を見て確認をして見るが本当に1時間しか経ってない…。
 クオリアは13歳だと聞いているが、内部時間ではどれだけの時間過ごしているのか…。
 いや…事実上、不老不死のオレ達には そもそも時間なんて関係無いのかもしれない…。
 トヨカズとレナ、ロウがジガのフォークリフトのゴンドラパレットに乗りやってくる。
「お疲れ…」
「ああ」
 どうやら迎えに来てくれたらしい。
「機体の調整は終わっている…地上に上げるぞ」
 ナオは黒鋼に乗り立ち上がる…それを見上げるのは ベンチに座るクオリアだった。
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