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ヒトのキョウカイ2巻(エンゲージネジを渡そう)

16 (降下)

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 天尊機が降下してから地球を1周し、浅く降下し始める。
 エアトラS2は降下シーケンスに入る。
 宇宙旅行を満喫していた皆はシートベルトを閉め、既に座っている。
『機体の向きを変更する…シートベルトはいいか?』
『大丈夫』
 レナが答える。
 内側に向かって回っていた左右のプロペラが止まり、両方のプロペラが右回りで回る。
 機体後部が水平方向に移動し、プロペラが停止、今度はプロペラを固定しているエンジンの角度が上がってまた回る。
「もしかして、リアクションホイール?」
 探査機などであったホイールを回転させる事で推進剤を使わずに姿勢制御をするやり方だ。
 この機体はそれをプロペラでやっている。
『姿勢固定…減速開始。』
『コピー』
 機首が上を向き、機体下部で空気を受けながら降下…。
 プロペラを前方で固定、プロペラの羽の角度が変わる。
 今まで空気を後方に押し出して推進力にしていたが、羽の角度が変わった事で前方に推力を発生させる。
 機体とプロペラの推力により ゆっくりと減速が始まり、降下して空気密度が上がる事で更に逆推力を生む。
 降下は上昇の時とは違い、そこまで減速Gはかからない…。
 推進剤を使い 逆噴射をすればもっと早く降下出来るのだろうが、距離を長くとる事で減速Gを低くする。
 降下角度を浅く取っている事もあって 断熱圧縮による熱が抑えられ、耐熱パネルの性能に十分に余裕を持ちつつ降下する。
 高度計の数字がどんどん下がって行き、大気密度とスピードを調節して常に機体の空力を維持しつつ降下…。
 機体のスピードが下がり空力を維持出来なくなり始めた所で プロペラの角度を変え、逆推力から通常推力に戻す。
 プロペラから生み出される空気が翼に当たって機体を持ち上げ、更に斜め上を向いていた機体も水平に戻し…揚力の確保…通常のプロペラ機に戻る。
 後は大きく円を描きつつ、螺旋らせん状に降下するだけだ。
『やっぱり降下位置はズレるか…』
『10km程でしょうか?揚力が回復しましたので修正をかけますね…。』
『頼む』
 機体の下には頑強そうに見えるドーム型の都市がある…。
 あれがエレクトロンの都市『エクスマキナ』か。
 目視でサイズを測ろうとすると…ARで視界にサイズが出てくる。
「直径10kmのドーム型を作るなんてさすがエレクトロンだな」
『と言っても屋根に見えるのは炭素繊維だし、膨らませているのは外と中との気圧差によるエアドーム式だ。
 火星とかでは結構使われている…普通の技術だ。』
 エアドームって東京ドームに使われていたヤツだよな…それの発展系か。
 エアトラS2がエクスマキナの上空を半周し、プロペラを斜め上にした中間モードに切り替え、駐機場に向かい周辺を1周する。
 すぐさまコパイが着陸地点周辺の3Dデータを作成し、安全にに着陸出来るように現場のデータを更新…。
 プロペラが真上に向くヘリモードに切り替え、それと同時に格納庫から無限軌道の床の『クローラー・トランスポーター』が連結した状態で出てくる。
 エアトラS2は慎重にクローラの床に着地し、プロペラへの電力供給をカット…プロペラの回転が止まり、プロペラを前方に向ける。
『お疲れ様でした…これから格納庫に向かいますので もうしばらくお待ちください。』
 機体を支えているクローラ達が一糸乱れぬ動きで ゆっくりと動き出し、格納庫に向かっていく。

 機体を収納し終わると 後部ハッチを開く…。
「もうヘルメットを開けてもいい?」
 レナがクオリアに聞く。
『-50℃で良ければ、どうぞ。』
 レナはARウィンドウで操作し気温を見る…確かに-50℃だ。
『やっぱ 止めておく…。』
 レナが降りると、同じ格納庫からオレンジ色で黄色の回転灯を光らせて無限軌道のオレンジ色の車…雪上車がやって来て停止する。
『物を乗せるぞ…』
 ジガが積んであったコンテナを抱えて雪上車の後ろに乗せる。
 クオリアもナオと一緒に大型のコンテナを持ち雪上車に乗せた。
 運転席のドアが開いてヒトが降りてくる…。
 トヨカズと同じくらいの160cmの長身のエレクトロンの女性で銀色の長髪の上にヘルメットを被り、服は黄色のラインが入ったパイロットスーツ…更にその上から防寒着を羽織っている。
『戻りましたエルダー』
『お疲れ様です、クオリア…。
 えーと外交官の方を紹介してもらえますか?』
 クオリアがレナの隣につき…。
『こちら、先日決まりました砦学園都市次期都市長…『レナ・トニー』です。』
 ナオとトヨカズが一歩下がり、間にいたレナがエルダーの前まで向かう。
「今回外交官を担当させて貰う『レナ・トニー』です。
 双方にとって最良の取引をしたいと思っています。
 今回はよろしくお願いしますエルダー…。」
『はい…私は『地球支部』と『月支部』の代表をしています。
 『エルダー・コンパチ・ビリティ』です。
 私の権限で滞在中の外交官と皆様の安全と生活を保障します。』
 レナとエルダーが握手をする。
『続いて、護衛の『カンザキ・ナオト』」
 レナとナオが場所を入れ替える。
『よろしくお願いします。コンパチ・ビリティさん』
『はいよろしくお願いします。
 その義体はクオリアの物でしょうか?』
『ええ、そうです…クオリアに助けてもらいました。』
『ふふ…そう。
 銃器などは登録をして頂ければ 特に制限をかけていません。
 双方にとって不利益が発生する場合は、情報の共有を行いましょう。』
『ええ喜んで』
 エルダーとナオが握手する。
『最後に『トヨカズ・トリデ』』
 トヨカズが前に出てヘルメットをポリポリと、かきつつ。
『あーメカニック、マークスマン をやってます『トヨカズ』です。
 あなた方がどんな生活をしていて、どんな文化なのか個人的に興味があります…。
 楽しみにしています。』
『はい、よろしくお願いします。
 文化交流はエレクトロンとしても可能性を広げる大変価値がある物だと思っています…。
 後でジガか クオリアに案内をさせましょう。』
『感謝します。』
 エルダーとトヨカズは握手する。
『さて-50℃で立ち話も難なので、雪上車に乗って下さい…。
 『エクスマキナ』は5℃ですが…それなりに快適ですよ。』
 レナ達が後ろから荷台に乗りこみ、設置されている椅子に座りシートベルトを閉める。
『では行きますよ…。』
 エルダーがそう言うとガタガタと氷を叩く無限軌道の音を鳴らしつつ『エクスマキナ都市』に向かった。
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