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ヒトのキョウカイ1巻(異世界転生したら未来でした)

29 (ワーム殲滅戦)

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 ワームがクオリアに向かって突っ込んでくる。
 ジェニーはとっさに援護をしようとするが、ジェニー機の横からワームが突っ込んで来ると警告され、咄嗟とっさに回避し、ワームに向けて発砲する。
 ワームを片付け、すぐさま銃をクオリアの方に向けるが、クオリアは既にいなかった。
 飛ばされたか、潰されたか、いくら頑丈なエレクトロンだろうが生身でワームの直撃を食らって無事な はずは無い…。
 クオリアを吹き飛したワームは速度を落とし止まった…。
 そして、ワームがいた位置にはクオリアが立っていた。
 ワームを見ると、クオリアサイズの穴が前方から後方にかけて空き、死んでいる。
 その異常な攻撃はワームの敵対心をあおり、次々とクオリアに突っ込むが、クオリアに触れた部分から消滅して行き、大穴の開いた死体だけが残る。
 これがエレクトロンの力なのか…。

 分解…エレクトロンの攻防一体の防御プログラムだ。
 クオリアがプログラムを全身に展開し、触れた物の分子構造の連結を解いて分解する。
 周りの空気まで分解するクオリアに音は聞こえない。
 これで分解出来ないのは、レーザーなどの光や電子だけだ。
 すぐに展開出来るように、プログラムを常駐させOFFにしておく…。
 次に機械翼を展開…量子光で背中が包まれM字の機械翼が現れる。
 クオリアの身体が宙に浮き、上空に上がって行く。
「ケインズを掌握しょうあく…街頭カメラからワームの位置を特定」
 建設の限界高度まで上がり、両手を伸ばし空中に空間ハッキングのプログラムが書き込まれている魔法陣を展開。
 弾種は端末弾《ターミナルバレット》で撃ち込まれた相手を端末を通して制御下に置く弾丸だ。
 更に情報をコピーして合計12門展開…。
「マルチロック…ファイア」
 全ての魔法陣が輝き…端末弾が同時に発射される。
 無数の弾丸を同時に制御し、相手に誘導し命中した所で遠隔操作で各弾丸に分解プログラムを入力…。
 次々とワームが分子レベルまで分解され無力化される。

「すげぇ」
 ジェニー機が戦いもせず空を見上げる。
 1層に散らばっていて駆除が不可能になっていた個体を正確に撃ち抜き、全滅させる。
「1層は片づけた…残存部隊は 補給後、2層を頼む…。」
 ジェニー機の頭部まで降りてきたクオリアが言う。
「クオリアはどうする?」
「流入を止めてくる…地上施設は全滅だろうが生存者もいるかもしれない」
「残りは1000位かこの数じゃキツイな…。」
「今、民間で使われているベックをこっちに向かわせている…。
 銃を持たせれば使えるだろう。片付いたら援護に戻る。」
「了解…何とか援軍が来るまで持たせる…。」
 クオリアがワームを排除しつつエレベーター下から急上昇して上を目指す。
 天井から落下していくるワームにクオリアが当たり、穴が開いて死体だけが落ちてくる。
 そして天井を通って地上に上った。

「だから危険だと言ったのだ。この責任をどう取ってくれるんだ?」
 役員の1人は、文句を言う。
「取るも何も、事態が解決すれば止めるでしょう。」
 アントニーだ。
 レナが、『強権』を使いクオリアを限定解除してから運営委員会は大混乱だ。
「許可を出してから数秒で『ケインズシステム』を完全掌握かんぜんしょうあくし、街頭カメラから敵の位置を特定し攻撃…更に住民の混乱を避ける為に こちらが伏せておいた現場情報を開示…。
 これじゃあパニックになるだろう。」
「その辺も考えている見たいですよ…。
 このアプリを見てください…勝手にダウンロードされたのですが…。」
 役員がARで表示したそれはクオリアの顔のアイコンの避難アプリだった。
「危険箇所の住民を個別に避難誘導しています。」
「それはデバイスに侵入されたと言う事だろう…。
 これが突破されれば次は脳を掌握しょうあくされるのも時間の問題だ。」
「と言ってもマイクロマシンの配置上、脳の記憶の書き換えまでは出来ないはずですが…。」
「五感を掌握しょうあくされるだけでも問題だ…。」
『静かにしなさい。』
 通信でARウィンドウにレナが表示される。

「私はクオリアに『あらゆる手段を使って事態解決しなさい』と言いました。
 いずれ事態は解決するでしょう。」
 映画館の中で座り込んでいた避難民が一斉にレナに視線を向ける。
『どこにそんな保証がある?
 システムを押さえたと言う事は インフラをすべて握れる立場だと言う事だ。
 ここまでされれば外交上どんな要求も飲むしかない』
 役員はレナを責める。
「これがエレクトロンだったら私もそう思うでしょう…ですが相手はクオリアです。
 今までの彼女の行いが…信用が保障になりませんか?」
『そんな曖昧な…。』
 レナは必死に考え理論立てる。
「現にクオリアは、被害が大きい広域殲滅こういきせんめつ兵装へいそうを使っていません…。
 全兵装使用自由《オールウェポンズフリー》状態でもちゃんと自分を自制して兵装を選択しています。」
 クオリアは…エレクトロンは、自分がどれだけ危険な存在かを理解している。
 レナは腰に下げていたコンバットナイフを右手で取る。
 本来は食材を切る為のナイフが兵器転用され、コンバットナイフになった。
 私は殺す用途の方が多かったけど…。
「私達と同じ機械文明である以上、兵器転用されれば、危険なものは必ずあります。
 でもその一方で兵器技術はヒトの生活を快適にします。
 『殺しに使えば核兵器、エネルギーに使えば核融合炉』は、エレクトロンのおさの格言だそうです。
 あなた達はクオリアの兵器側面ばかり見て、彼女の人格を見ていない。
 私は3年間彼女と一緒にいます…それが信頼であり、保証であり、担保です。」
 私はクオリアを知っている…。
 確かに日常的にハッキングを仕掛けるけど、それで不利益になる人はいない。
 ただ人から見てアプローチの方法や考え方が違うだけだ…。
 だから、はっきりと言える。
「『強権』を使い、事態収束まで私が預かります。
 私に足りない知識が必要です。
 役員の皆様は全力でサポートをお願いします。」
 修羅場をくぐり抜けて覚悟を決めたレナは強い。
 周りの避難民達は新しい次期都市長の誕生に拍手した。

 人は緊急時になるほど単純になる。
 普段あれ程 嫌っていたエレクトロンの情報も こうも簡単に受け入れる。
 この都市の管理システム『ケインズ』を掌握しょうあくし、定期メンテナンスパッチに偽装して各デバイスに強制的に避難アプリをダウンロードさせた。
 今の所それに逆らう人はいない…それならとバスタクの自動運転システムをアップデートして管理を委託して処理を軽減する。
 外との通信は切断され、通信としては孤立状態。
 援軍を求めるなら地上に出るしかない…。
 外は-5℃で、吹雪が吹いている。
 大型倉庫の地上施設は全滅し、機器は役に立たず、辺りにはワームと人間の死体の混合物が散乱している。
 倉庫の上を飛ぶクオリアは、魔法陣を展開…コードはコイルガンだ。
 電流、磁力が空間ハッキングによりマッパ3の速度の弾を飛ばす。
 弾種は端末弾《ターミネルバレット》…コイルガンなら亜光速の速度まで加速出来るが、3次元物質で亜光速に耐える弾丸の素材は無いし、明らかに過剰だ。
 放たれた弾丸に内蔵した量子通信機器から空間にハッキングを仕掛け、弾丸を保持し命中直前に質量を上げる…。
 質量兵器は投石の時代からある…ゆえにワームに与えるデータも少く済む。
 ワームは個体にさほど価値は無く群集ぐんしゅうで生き、親が子供に意図的に遺伝子を選んで受け継がせる事が出来る。
 しかも個体は量子通信のネットワークで情報を共有し、戦闘の度に相手の特性をコピーして行き、学習して進化し、大量の物量攻撃で勝利する。
 そこは人類の『トライ&エラー』に似ている。
 更に『ダーウィンの進化論』の淘汰圧とうたあつも使うので本当に厄介やっかいな相手だ。
 ワームが負ければ負けるほど強くなり、どんな相手でも いつかはそれ以上に強くなり勝つ。
 そして、無限回の敗北で殲滅されないだけの量子通信のネットワークと驚異的な繁殖力に宇宙全体に広がる拡散力…計算上ワーム1匹を駆除するエネルギー生産時間で3~5匹は生まれている事になる。
 そしてその終着点があの『ラプラス』だ。
 大量のワームの頭にクオリアの弾丸が正確に命中していく。
「流入量が少ない…考えられる可能性は…」
 前線部隊が生きている?だが、1個大隊程度で抑えられる規模では…。
 まさか…。
『クオリアよりエルダーへ…現在地はどこです?』
 通信で話しかける。
『こちらエルダー・コンパチ・ビリティ、現在クオリアから約50km…』
 近い…。
『何故ここにいるのです…高度200kmで待機のはずでは?』
『姿勢制御プログラムのバグで墜落しました。』
 エルダーは笑って済ませる。
『また…あなたってヒトは…。』
 意図的に墜落する事で合法的に侵入したのか…。
 流石にやってきた年数が違う…絡め手からめてはエルダーが得意な手だ。
『なら…限定解除、速度マッハ3のコイルガンのみの使用を許可…。
 それで如何どうにかなりますか?』
 エレクトロン全体の許可は出ていないが、レナに『あらゆる手段を使いって事態解決しなさい』と言われた…出力も抑えさせたし、これは許容範囲内でいいだろう。
『ええ十分です。』
 後30分程度で、研究都市と実験都市から合計で2個大隊の戦力が来る。
 エレクトロンが いれば その前に大半のワームを叩き、掃討戦まで持ち込めるだろう…。
「さて、私は戻って、残敵を掃討…。」
 クオリアは地下に戻るが、学園都市の通信領域に入ったところでアラート警告が鳴る。
 ワームが最下層に到着、場所は……第3層発電区画!
 最下層に行く前に終わらせるつもりだったが…。
 全く現実は計算通りにいかない。
 クオリアは速度を上げ降下する。
「ナオ、トヨカズ…2層にいるな…なら合流だ。機体ステータスは…やれるな」
 機体ログを抜き出し、ざっと見てクオリアは驚く。
 これだけの敵を相手にしているのにステータスイエローに収めている。
 しかも土木用ショベルだけで…。
『なら銃も持ってきてくれ…そろそろトヨカズがキツイ。』
 トヨカズ機はステータスがオールグリーンだが、単純に狩った個体数が少ないだけだ。
 ただナオ機を良く見ていて、死角に回り込んだ相手を重点的に仕留め、ナオが実力を出せるように立ちまわっている。
 トヨカズは長距離狙撃が得意だと言う事もあって戦場での視野が広い…。
「分かった…合流後私達は、3層発電所区画まで行く…。」
『発電所?てかこの都市は何で発電しているんだ…。』
 ナオが聞いてくる。
「地熱発電12基と核融合炉2基だ。」
『太陽炉だ。』
 トヨカズがクオリアに訂正をする。
「それは通称だ…とにかく問題なのは地熱発電だ。」
『核融合炉じゃなくて?』
「あっちは不純物を入れれば簡単に止まる…止めては成らないのは地熱発電だ。」
『何で?原発の方が遥かに危険だろう。』
 ナオが不思議そうに聞く。
 ああ核アレルギーか…。
 クオリアはどう説明をするか一瞬悩むが思い切って無視し、移動しながら話を進める。
「この都市が地下10kmにあるのは、マグマだまりの穴を流用しているたからだ…。
 最下層の下は1200℃のマグマがあって、その熱エネルギーを地熱発電で電気に変換して消費しているんだ。」
 大戦後の都市建設当初は『核アレルギー』もひどく核融合炉が使えなかった。
そこで、構造が単純で地球が消滅するまで熱エネルギーを貰い続けられる実質の永久機関…。
 地熱発電が代替エネルギーとして採用された。
「つまりそれが停止すれば…。」
「1層の気温は300℃以上になる…。
 建物に逃げれば生き残れるだろうが、宇宙服でも外に出るのは厳しいな…。」
 この都市はこう言った事態を想定して建物が全部宇宙基準に設計してあるので、一時的な避難だったら大丈夫だろう。
 だが外出になると話は別だ。
 宇宙服を着ても耐熱限界ギリギリだ…それ以上となると出る事も困難だろう。
『300℃って…真夏程度じゃなかった。』
 ナオがそう口にしてクオリアは2層の天井を抜けた。
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