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第五章「掛川城攻め」
第二十四話「懸塚湊」
しおりを挟む「よう小平太、大丈夫か?」
拙者はそう言いながら、榊原小平太に襲いかかる武者を打ち倒す。
永禄十二年二月 懸塚湊(かけづかみなと)
徳川軍による掛川城攻めは、今川勢の奮戦により長期戦の様相を呈しておりました。そうした中、今川軍は徳川方の後方を遮断し挟撃するべく軍船数艘(そう)を懸塚湊に上陸させました。これに対し徳川家康公は鳥居元忠、大須賀康高、榊原康政らの軍勢を派遣。そして、この中には拙者、渡辺守綱の姿もございました。
「それにしても何故、殿はお主なんぞを軍勢に加えたのかの~?」
小平太は、手助けをしてやった礼も言わず拙者に質問する。
拙者は本来、殿をお守りする馬廻衆の役でございましたが、此の度は殿の命により先手役の軍勢に加わっておりました。
「そりゃ~お主たちだけだと不安じゃで、この『槍の半蔵』様をつければ万事安心だからじゃろ」
「・・・殿も無駄なことを」
小平太の呟きに、拙者は槍の石突で小平太の頬を突つく。
「相も変わらず生意気じゃな、お主」
小平太は、何事もないように槍を払うと海沿いを見詰める。
「それにしても、きりがないな・・・」
海岸沿いでは、兵士を乗せた小舟が次から次に上陸しておりました。
拙者は、その光景を見てある妙案が思い浮かび勢い良く駆け出す。
「おい、どこに行く気じゃ!?」
小平太の叫びに、拙者は正面を向いたまま答える。
「元を断つ!」
「はあ?」
拙者の背後で、小平太が訝(いぶか)しい表情をしておるのが目に浮かぶ。
拙者は一目散に海岸を目指し、ひたすら駆ける。
海岸沿いには、今川の兵たちが乗り捨てた無数の小舟が散乱しておりました。
拙者は小舟の一つに槍を放り投げ、海に押し出すべく手をかけたその瞬間、突然背後から殺気を感じる。
「はああぁ!」
振り返ると今川の武者が拙者に斬り掛かって来ておりました、が・・・。
拙者の目の前で突然倒れる今川兵。
その背後には、太刀を持った小平太の姿がありました。
「これで貸し借り無しじゃ」
「おう、悪りぃな」
拙者は笑顔でそう答えると、小舟に乗り込み櫂(かい)を持って全力で漕ぎ始める。
目指すは、今川の軍船!
拙者は、一番近い軍船目指し意気揚々と櫂を漕ぐ。
海岸での戦の物音とは裏腹に、心地の良い海風を受ける小舟の上は何とも爽快なものでございました。気持ちよく櫂を漕ぐのも束の間、拙者はあっという間に軍船の真下まで到達する。
軍船と言ってもそれほど大きいものではなく、関船と呼ばれる中型の船でございまする。
拙者は櫂から槍に持ち替え軍船のへりに手をかけると勢い良く船内に飛び込む。
船上の今川兵は拙者の登場に何が起こったのか理解できていない様子。
そして、その間に拙者は船上の敵兵の数を数え攻撃の道筋を立てる。
「・・・七人」
拙者が道筋を立て終わると同時に、今川の兵たちは我に返りこちらに向かって襲いかかる。まず左手の軽装の足軽。
刀で斬り掛かってくるのを槍で下から払い上げ、二の腕の部分を切り上げる。
「ぐあぁ!」
籠手(こて)をつけていなかったため、腕から血を流し悶絶する足軽。
「まず一人」
今度は右手から迫って来る敵に足払いをかけ、倒れたところを槍で突き刺す。
「うぐぅ!」
「二人」
三人目、槍で突いて来たのを避けると同時に、槍の柄で思い切り顔面を殴り飛ばす。鈍い音をたて勢い良く吹っ飛ぶ足軽。おそらく顔の骨が折れたであろう。
「三人」
四人目と五人目は、左右から同時に斬り掛かって来た。
拙者は槍を頭上に掲げ二人の攻撃を受け止める。
そして、槍から手を離し前に進んで二人の間に入ると同時に、振り返って太刀を抜き二人の首筋めがけ右左と切り払う。血飛沫を上げて倒れる二人。
「四、五・・・」
その直後、背後から声が聞こえる。
「うおおおぉぉ!」
六人目、背中を向けたことにより来る事は予測できておったので太刀を逆手に持ち替え、背中越しに相手の鎧と草摺(くさずり)の間に刃を突き刺す。
「うがぁ!」
「六」
残すは、一番奥におる兜を身に着けた甲冑武者。
おそらく、こやつがこの船の長であろう。
拙者は甲板に落ちた槍を拾い上げ、その武者めがけ勢い良く投げつける。
「っずぉ!」
槍は甲冑武者の喉元に突き刺さる。
「・・・七、っと」
拙者は、甲冑武者に近づき突き刺さった槍を引き抜くと大声で叫んだ。
「この船、儂がもらったあぁぁ!」
その後、拙者は船の上で大笑いを上げました。
「ふはははは、ふはははははは」
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