19 / 90
第四章「三河平定」
十八話「妙春尼」
しおりを挟む
慶長二十年五月 大坂
「二十六か、若いな・・・」
若武者の呟きに老将が静かに頷く。
「ええ・・・拙者にとって、この永禄七年という年はとても辛い年でございました。春に父を失い・・・そして、夏に親友を失う。戦国の世の定めとはいえ、当時まだ二十三の若輩者だった拙者にはとても堪えましたな」
老将の言葉に若武者はぽつりと呟く。
「戦国の世の定め、か」
老将は、さらに話を続ける。
「しかし、拙者だけでなく一向宗徒たちも一揆の後は辛い日々を送っておりました。三河での一向宗は禁止とされてしまい、さらには一向宗の寺も焼き払われ・・・」
老将がそこまで言うと若武者は驚く。
「なんと、寺を元のままにしておくことも和睦条件の一つではなかったのか?」
若武者の質問に老将は苦笑いを浮かべる。
「そうなのですが、寺を元のままにする・・・つまり、元の更地に戻すという理屈で寺は焼き払われてしまいました」
老将の話に若武者は溜め息をつく。
「方広寺の鐘銘といい、今も昔もそう変わらんな」
若武者の言葉に老将も同意する。
「左様でございますな。しかし、その後、大御所様の御母上・於大の方様の姉で石川日向守家成殿の母・妙春尼(みょうしゅんに)様のご尽力により徐々にではありましたが、三河の一向宗の寺も次第に復興されていきました・・・若?」
老将がふと横を見ると、若武者は呆然とただ前を見詰めていた。
「・・・忠右衛門。父上は、本当に寛大な心をお持ちなのだろうか?」
若武者の問いに老将は笑みを浮かべる。
「お持ちでございますとも」
「何故言い切れる?」
若武者は老将の方に向き直り、じっと見詰める。
その真剣な眼差しに対し、老将はゆっくりと口を開く。
「あれは、東三河を平定した後のことでございました・・・」
「二十六か、若いな・・・」
若武者の呟きに老将が静かに頷く。
「ええ・・・拙者にとって、この永禄七年という年はとても辛い年でございました。春に父を失い・・・そして、夏に親友を失う。戦国の世の定めとはいえ、当時まだ二十三の若輩者だった拙者にはとても堪えましたな」
老将の言葉に若武者はぽつりと呟く。
「戦国の世の定め、か」
老将は、さらに話を続ける。
「しかし、拙者だけでなく一向宗徒たちも一揆の後は辛い日々を送っておりました。三河での一向宗は禁止とされてしまい、さらには一向宗の寺も焼き払われ・・・」
老将がそこまで言うと若武者は驚く。
「なんと、寺を元のままにしておくことも和睦条件の一つではなかったのか?」
若武者の質問に老将は苦笑いを浮かべる。
「そうなのですが、寺を元のままにする・・・つまり、元の更地に戻すという理屈で寺は焼き払われてしまいました」
老将の話に若武者は溜め息をつく。
「方広寺の鐘銘といい、今も昔もそう変わらんな」
若武者の言葉に老将も同意する。
「左様でございますな。しかし、その後、大御所様の御母上・於大の方様の姉で石川日向守家成殿の母・妙春尼(みょうしゅんに)様のご尽力により徐々にではありましたが、三河の一向宗の寺も次第に復興されていきました・・・若?」
老将がふと横を見ると、若武者は呆然とただ前を見詰めていた。
「・・・忠右衛門。父上は、本当に寛大な心をお持ちなのだろうか?」
若武者の問いに老将は笑みを浮かべる。
「お持ちでございますとも」
「何故言い切れる?」
若武者は老将の方に向き直り、じっと見詰める。
その真剣な眼差しに対し、老将はゆっくりと口を開く。
「あれは、東三河を平定した後のことでございました・・・」
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
九州のイチモツ 立花宗茂
三井 寿
歴史・時代
豊臣秀吉が愛し、徳川家康が怖れた猛将“立花宗茂”。
義父“立花道雪”、父“高橋紹運”の凄まじい合戦と最期を目の当たりにし、男としての仁義を貫いた”立花宗茂“と“誾千代姫”との哀しい別れの物語です。
下剋上の戦国時代、九州では“大友・龍造寺・島津”三つ巴の戦いが続いている。
大友家を支えるのが、足が不自由にもかかわらず、輿に乗って戦い、37戦常勝無敗を誇った“九州一の勇将”立花道雪と高橋紹運である。立花道雪は1人娘の誾千代姫に家督を譲るが、勢力争いで凋落する大友宗麟を支える為に高橋紹運の跡継ぎ統虎(立花宗茂)を婿に迎えた。
女城主として育てられた誾千代姫と統虎は激しく反目しあうが、父立花道雪の死で2人は強く結ばれた。
だが、立花道雪の死を好機と捉えた島津家は、九州制覇を目指して出陣する。大友宗麟は豊臣秀吉に出陣を願ったが、島津軍は5万の大軍で筑前へ向かった。
その島津軍5万に挑んだのが、高橋紹運率いる岩屋城736名である。岩屋城に籠る高橋軍は14日間も島津軍を翻弄し、最期は全員が壮絶な討ち死にを遂げた。命を賭けた時間稼ぎにより、秀吉軍は筑前に到着し、立花宗茂と立花城を救った。
島津軍は撤退したが、立花宗茂は5万の島津軍を追撃し、筑前国領主としての意地を果たした。豊臣秀吉は立花宗茂の武勇を讃え、“九州之一物”と呼び、多くの大名の前で激賞した。その後、豊臣秀吉は九州征伐・天下統一へと突き進んでいく。
その後の朝鮮征伐、関ヶ原の合戦で“立花宗茂”は己の仁義と意地の為に戦うこととなる。
大罪人の娘・前編
いずもカリーシ
歴史・時代
世は戦国末期。織田信長の愛娘と同じ『目』を持つ、一人の女性がいました。
戦国乱世に終止符を打ち、およそ250年続く平和を達成したのは『誰』なのでしょうか?
織田信長?
豊臣秀吉?
徳川家康?
それとも……?
この小説は、良くも悪くも歴史の『裏側』で暗躍していた人々にスポットを当てた歴史小説です。
【前編(第壱章~第伍章)】
凛を中心とした女たちの闘いが開幕するまでの序章を描いています。
【後編(第陸章〜最終章)】
視点人物に玉(ガラシャ)と福(春日局)が加わります。
一人の女帝が江戸幕府を意のままに操り、ついに戦いの黒幕たちとの長き闘いが終焉を迎えます。
あのパックス・ロマーナにも匹敵した偉業は、どのようにして達成できたのでしょうか?
(他、いずもカリーシで掲載しています)
戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
三國志 on 世説新語
ヘツポツ斎
歴史・時代
三國志のオリジンと言えば「三国志演義」? あるいは正史の「三國志」?
確かに、その辺りが重要です。けど、他の所にもネタが転がっています。
それが「世説新語」。三國志のちょっと後の時代に書かれた人物エピソード集です。当作はそこに載る1130エピソードの中から、三國志に関わる人物(西晋の統一まで)をピックアップ。それらを原文と、その超訳とでお送りします!
※当作はカクヨムさんの「世説新語 on the Web」を起点に、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさん、エブリスタさんにも掲載しています。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる