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カノンと母
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「で、カノンがすっごい喜んでくれて!」
楽しそうな雰囲気と共に休憩室に入ってきたメイとマーロン。勿論お屋敷内の為、声の音量は落としているが。
休憩室の中は軽いお茶会のようになっていた。上級貴族ほど洗礼された動きではないが、上品に紅茶とお菓子を食べている1人の夫人がいた。
「お疲れ様ですー。こちらは?誰かの親御さんですか?」
すかさずマーロンが話の輪に入り、
「あら。ごめんなさいね、お邪魔してしまって。初めまして。いつもお世話になっております、カノンの母です。」
「カノンちゃんの!こちらこそいつもお世話になっております。同僚のマーロンです。」
「料理人補助のメイです。」
「メイさん…。この間はご挨拶も出来なかったものですから。初めまして。」
「よろしく、お願いします!」
「えーと、カノンはそろそろかしら?」
噂をすればなんとやら。
「お母さん!?どうしてここに?」
「カノンちゃん。私は明日の早朝、ここを出なくてはいけないの。だから、その前にもう一度話そうと思って。」
「うん…」
「と言っても、暫くは馬車で半日の町なんだから、そこまで遠くもないのだけれど。」
「分かった。」
「今日の夜はメイさんもいらっしゃい。一緒に夕食が食べたいわ。」
「はい!是非!」
「ではまた夕食にね。」
そう言ってカノンの母はあっさりと帰って行った。
カノンは複雑そうな表情をしていたが、母親の方はカノンを心配する表情のみ見て取れた。
執事長から半休を貰い、カノンとメイは夕食時、カノンの母に呼ばれたレストランに足を運んだ。
「いらっしゃい。来てくれてありがとう。」
「こちらこそ、お招きありがとうございます。」
3人が椅子に座ると、温かいスープで煮込んだ大きな鶏肉を主に何種類かの食事が用意された。
各々軽く食べ、最後のデザートに差し掛かると、カノンの母が尋ねた。
「カノンちゃん。結論から言うと、私は今すぐにという貴女の言い分には反対です。」
「どうして?結婚していた方がより支え合えるじゃない!」
「メイさん、貴方はこれならの計画を聞かせてもらっても?」
「はい。まずは隣街で以前から話を貰っている土地で冒険者向けの定食屋を開こうと思っています。資金はほぼ貯まっているので、後は契約を進めるだけです。最初は勿論厳しいとは思いますが、1年程で軌道に乗る計画です。」
「そう…当然カノンはお店の事を手伝わなくては回らないわよね?」
「いえ、初めはお客さんも少ないでしょうし、自分一人で回せるでしょう。増えてきたら、人を雇おうと思っています。」
「定食屋と言ったわね。もう野菜やお肉などのお店とも話が付いているの?」
「それは今の土地の管理している人にツテがあるというので、そこからお世話になろうと思っています。」
「そう。分かったわ。」
カノンの表情が一気に輝いた。
「じゃあ!」
「甘いわね」
ピシャリと斬った言葉が、辺りの音を消した。
長くため息を付くと、ゆっくり諭すように口を紡いだ。
「言う所は多々あるけれど、まだ契約もしていないんでしょう?だったら何も始まっていないのと同じではなくて?書類の契約も信用出来ないのに口約束だなんて。」
「いくらなんでもダナンさんに失礼…!」
「そのダナンさんもお遊びではないのよ。あなたの事を気に入っているかもしれない。けれど、もしダナンさんより身分の上の貴族がその土地を欲しいといったら?それは譲るしかないでしょう。」
「ぐっ…!はい…その通りです。」
「それに、これくらいの挑発に乗るのも経営としては不安要素だわ。自分でできる?出来なかったらきっとカノンを頼るでしょう、貴方は。カノンはお店の経営を支える覚悟はあるの?」
「それは、別の仕事でお金を稼ぐわ。」
「いいえ、きっとその場合は貴女は全てをしなくてはいけないのよ。メイさんのお店、自分の仕事、そして家事。その覚悟はある?」
「え…。」
「その事や今言った事をもっと見直して2人で考えなさい。結婚の話はそれからです。」
丁度デザートがやって来たために、この話は一旦区切りとなった。
家に帰っても、母親に言われた事が脳裏を掠めた。
「私って甘いのかな…」
「確かに俺達は若いから見通しが甘い事があるけど、その分、新しいことにチャレンジも出来るじゃん?」
「うん…そうだね。」
「とりあえず、明日から店のために動かなくちゃだから、暫くゆっくり会えなくなるけど、1ヶ月後とかには会えるから。」
「え?それ聞いてないよ?」
「だって、俺の予定だし…カノンはカノンの予定があるでしょ?」
「そうだけど…」
「ま、またゆっくり話しましょうや!」
カノンの頭を優しくぽんぽんと撫でてから、 抱きつき、こめかみにキスをして湯船に入っていった。
「どうしたらいいんだろう……分からないよ…」
楽しそうな雰囲気と共に休憩室に入ってきたメイとマーロン。勿論お屋敷内の為、声の音量は落としているが。
休憩室の中は軽いお茶会のようになっていた。上級貴族ほど洗礼された動きではないが、上品に紅茶とお菓子を食べている1人の夫人がいた。
「お疲れ様ですー。こちらは?誰かの親御さんですか?」
すかさずマーロンが話の輪に入り、
「あら。ごめんなさいね、お邪魔してしまって。初めまして。いつもお世話になっております、カノンの母です。」
「カノンちゃんの!こちらこそいつもお世話になっております。同僚のマーロンです。」
「料理人補助のメイです。」
「メイさん…。この間はご挨拶も出来なかったものですから。初めまして。」
「よろしく、お願いします!」
「えーと、カノンはそろそろかしら?」
噂をすればなんとやら。
「お母さん!?どうしてここに?」
「カノンちゃん。私は明日の早朝、ここを出なくてはいけないの。だから、その前にもう一度話そうと思って。」
「うん…」
「と言っても、暫くは馬車で半日の町なんだから、そこまで遠くもないのだけれど。」
「分かった。」
「今日の夜はメイさんもいらっしゃい。一緒に夕食が食べたいわ。」
「はい!是非!」
「ではまた夕食にね。」
そう言ってカノンの母はあっさりと帰って行った。
カノンは複雑そうな表情をしていたが、母親の方はカノンを心配する表情のみ見て取れた。
執事長から半休を貰い、カノンとメイは夕食時、カノンの母に呼ばれたレストランに足を運んだ。
「いらっしゃい。来てくれてありがとう。」
「こちらこそ、お招きありがとうございます。」
3人が椅子に座ると、温かいスープで煮込んだ大きな鶏肉を主に何種類かの食事が用意された。
各々軽く食べ、最後のデザートに差し掛かると、カノンの母が尋ねた。
「カノンちゃん。結論から言うと、私は今すぐにという貴女の言い分には反対です。」
「どうして?結婚していた方がより支え合えるじゃない!」
「メイさん、貴方はこれならの計画を聞かせてもらっても?」
「はい。まずは隣街で以前から話を貰っている土地で冒険者向けの定食屋を開こうと思っています。資金はほぼ貯まっているので、後は契約を進めるだけです。最初は勿論厳しいとは思いますが、1年程で軌道に乗る計画です。」
「そう…当然カノンはお店の事を手伝わなくては回らないわよね?」
「いえ、初めはお客さんも少ないでしょうし、自分一人で回せるでしょう。増えてきたら、人を雇おうと思っています。」
「定食屋と言ったわね。もう野菜やお肉などのお店とも話が付いているの?」
「それは今の土地の管理している人にツテがあるというので、そこからお世話になろうと思っています。」
「そう。分かったわ。」
カノンの表情が一気に輝いた。
「じゃあ!」
「甘いわね」
ピシャリと斬った言葉が、辺りの音を消した。
長くため息を付くと、ゆっくり諭すように口を紡いだ。
「言う所は多々あるけれど、まだ契約もしていないんでしょう?だったら何も始まっていないのと同じではなくて?書類の契約も信用出来ないのに口約束だなんて。」
「いくらなんでもダナンさんに失礼…!」
「そのダナンさんもお遊びではないのよ。あなたの事を気に入っているかもしれない。けれど、もしダナンさんより身分の上の貴族がその土地を欲しいといったら?それは譲るしかないでしょう。」
「ぐっ…!はい…その通りです。」
「それに、これくらいの挑発に乗るのも経営としては不安要素だわ。自分でできる?出来なかったらきっとカノンを頼るでしょう、貴方は。カノンはお店の経営を支える覚悟はあるの?」
「それは、別の仕事でお金を稼ぐわ。」
「いいえ、きっとその場合は貴女は全てをしなくてはいけないのよ。メイさんのお店、自分の仕事、そして家事。その覚悟はある?」
「え…。」
「その事や今言った事をもっと見直して2人で考えなさい。結婚の話はそれからです。」
丁度デザートがやって来たために、この話は一旦区切りとなった。
家に帰っても、母親に言われた事が脳裏を掠めた。
「私って甘いのかな…」
「確かに俺達は若いから見通しが甘い事があるけど、その分、新しいことにチャレンジも出来るじゃん?」
「うん…そうだね。」
「とりあえず、明日から店のために動かなくちゃだから、暫くゆっくり会えなくなるけど、1ヶ月後とかには会えるから。」
「え?それ聞いてないよ?」
「だって、俺の予定だし…カノンはカノンの予定があるでしょ?」
「そうだけど…」
「ま、またゆっくり話しましょうや!」
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