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カノン視点
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どうして、どうして、どうして────!
今日の朝もそんなに変わらなかった。
…いや、違う。確かに変わらなかった。けれど、変わらなすぎた、表情が。
それはいつから?
わからない…
いつから彼の笑顔を見なくなったのか分からない。
そう思った瞬間、体から血の気が引いた。指先の感覚がないのに、震えと歯のカチカチなる音がうるさい。
「カノン!しっかりして!」
強い肩の衝撃と暖かい手の感触で、ヒュっと息が戻った。
あ……あたし息してなかったんだ…どうしよう。何をすればいい?
縋る思いでライアを見ると、ライアの瞳を真っ直ぐ見つめる自分がいた。
「侍女長には俺から言っとくから今日はとりあえず帰れ。顔色酷いぞ。」
マーロンのゴツゴツした手が労わるように肩を叩く
そうだ。まずは帰って話さなくちゃ。
そこからあまり記憶はない。ただひたすら家に帰って彼と話をする事だけを考えていた。
茶色のこじんまりした家が見えてきた。
「流石に新築は出来ないけど、2人だけの家が欲しかったからさ。楽しみだなぁ!カノンの手作りご飯をこれから毎日2人で食べるの!」
家に明かりが着いていた事から、不意に4年前の記憶が脳を掠った。
心臓の鼓動を鼓膜に感じながら、ゆっくりとドアを開いた…冷めた目で待ち構えているんだろうか。それとも、質の悪い嘘だと言って笑っているのだろうか…
「あ……あはは。嘘。」
彼の痕跡が何も無かった。
洋服は勿論、コップや靴まで、彼の私物が何一つ残っていなかった。
冷めた涙が流れるのが分かった。
日が暮れたなぁ…明日仕事だからご飯食べて寝ないと。
そう思うのに、体は中々動かない。重力に逆らう気力すらない。
控えめの3回のノックの後、「カノン…?」と控えめな声が聞こえた。返事をするのが億劫でそのままにしていたら、ドアが開いてライアがパンを持って入ってきた。
パン粥が目の前に置かれて「そうは言っても明日は仕事だから、これ食べて今日はベッドに横になるだけでもしなね。」
そうだ。とりあえず毎日を過ごそう。仕事をしよう。
そうして、淡々と日々を過ごすと、ようやく落ち着いてきた。
そういえば、彼は仕事はどうしたのだろうか。
そう思うと、まずは郵便受けの手紙を見てみた。あった。どうでもいいだろうけど、彼の贔屓にしているお店からの手紙が一通。
すぐさま彼の勤める王立植物園へと足を運ぶ。
!いた
どうしてすぐ仕事場に行かなかったんだろう。
「あの……っ!!」
出した声を引っ込めて、人口滝の影に隠れた。
「おい、今仕事中/////……当たってる。」
「気づいてんでしょ。当ててんの。」
「っ!!」
「ふふふっ可愛い~。」
そこには、彼の腕に胸を当てて話しかける女性と、耳と鼻筋を真っ赤にした彼の横顔があった。
浮気?いや、もう彼女出来たの?それより早く出なきゃ。
出なくてはと思うに反して、足はつるに巻き取られたかのよえに動かない。
ぴちゃ ちゅっ はぁ……チュッ くすくす ぴちゃっ
キス……?職場で?
悲鳴が出そうな口を手で抑えるだけで精一杯だった。
15分ほどだろうか経つと、2人はカノンの居場所とは反対側のスタッフ用のドアへと消えていった。
覚束無い足取りで道をしばらく歩いていると、知らない薄暗い場所にいた。
辺りを見回しても、道を示す番地も無い。
服を引かれる感覚に後ろを振り返ると、一般市民が着るワンピースに身を包んだ女の子が立っていた。
「まま、いないの。」
「あ……え、ママ、探そうか?」
「!!ありがとう!」
涙を浮かべたくりくりした目をいっぱいに開いて、女の子は嬉しそうに笑った。
女の子と手を繋ぎ、辺りを歩くと、10分程で母親と再会できた。母親に道案内をしてもらっている間、女の子とはずっと手を繋いでいた。
「お姉ちゃん、バイバイー!ありがとうー!」
そう言ってするりと離された小さな手は、既に母親に繋がれている。
先程まで繋がれていた自分の手を見て、今は異様に風が通るのを感じていると、オレンジが置かれた。
「マーロン、どうしたの?」
「いや、手持ち無沙汰そうだったから持ってもらおうと思って。執事長のおつかい。」
「ふふっなにそれ。そっちのパン持つよ。」
「それは俺からの餞別。たまには甘いものでも食べな。」
いきなり横にいたマーロンはそう言って指でおでこを弾いた。
手持ち無沙汰関係ないじゃん
こういう時になんでこの人は現れるんだろうなぁ
たわいもない会話をしながら、時々当たる肩をそれほど不快に思わなかった自分に、自然と笑みが零れた。
「あ、そうだ。今日、家で飲まね?ライアとクリスも呼んで。」
「いいね!そんなに強くないけど、今日は飲みたい気分!」
一瞬、家という単語にドキッとしたが、4人なら楽しくスッキリするかと、久々の飲み会に気分が上がった
ーーーーーーーーーーーーーーー
クリス……マーロンの執事仲間です。
今日の朝もそんなに変わらなかった。
…いや、違う。確かに変わらなかった。けれど、変わらなすぎた、表情が。
それはいつから?
わからない…
いつから彼の笑顔を見なくなったのか分からない。
そう思った瞬間、体から血の気が引いた。指先の感覚がないのに、震えと歯のカチカチなる音がうるさい。
「カノン!しっかりして!」
強い肩の衝撃と暖かい手の感触で、ヒュっと息が戻った。
あ……あたし息してなかったんだ…どうしよう。何をすればいい?
縋る思いでライアを見ると、ライアの瞳を真っ直ぐ見つめる自分がいた。
「侍女長には俺から言っとくから今日はとりあえず帰れ。顔色酷いぞ。」
マーロンのゴツゴツした手が労わるように肩を叩く
そうだ。まずは帰って話さなくちゃ。
そこからあまり記憶はない。ただひたすら家に帰って彼と話をする事だけを考えていた。
茶色のこじんまりした家が見えてきた。
「流石に新築は出来ないけど、2人だけの家が欲しかったからさ。楽しみだなぁ!カノンの手作りご飯をこれから毎日2人で食べるの!」
家に明かりが着いていた事から、不意に4年前の記憶が脳を掠った。
心臓の鼓動を鼓膜に感じながら、ゆっくりとドアを開いた…冷めた目で待ち構えているんだろうか。それとも、質の悪い嘘だと言って笑っているのだろうか…
「あ……あはは。嘘。」
彼の痕跡が何も無かった。
洋服は勿論、コップや靴まで、彼の私物が何一つ残っていなかった。
冷めた涙が流れるのが分かった。
日が暮れたなぁ…明日仕事だからご飯食べて寝ないと。
そう思うのに、体は中々動かない。重力に逆らう気力すらない。
控えめの3回のノックの後、「カノン…?」と控えめな声が聞こえた。返事をするのが億劫でそのままにしていたら、ドアが開いてライアがパンを持って入ってきた。
パン粥が目の前に置かれて「そうは言っても明日は仕事だから、これ食べて今日はベッドに横になるだけでもしなね。」
そうだ。とりあえず毎日を過ごそう。仕事をしよう。
そうして、淡々と日々を過ごすと、ようやく落ち着いてきた。
そういえば、彼は仕事はどうしたのだろうか。
そう思うと、まずは郵便受けの手紙を見てみた。あった。どうでもいいだろうけど、彼の贔屓にしているお店からの手紙が一通。
すぐさま彼の勤める王立植物園へと足を運ぶ。
!いた
どうしてすぐ仕事場に行かなかったんだろう。
「あの……っ!!」
出した声を引っ込めて、人口滝の影に隠れた。
「おい、今仕事中/////……当たってる。」
「気づいてんでしょ。当ててんの。」
「っ!!」
「ふふふっ可愛い~。」
そこには、彼の腕に胸を当てて話しかける女性と、耳と鼻筋を真っ赤にした彼の横顔があった。
浮気?いや、もう彼女出来たの?それより早く出なきゃ。
出なくてはと思うに反して、足はつるに巻き取られたかのよえに動かない。
ぴちゃ ちゅっ はぁ……チュッ くすくす ぴちゃっ
キス……?職場で?
悲鳴が出そうな口を手で抑えるだけで精一杯だった。
15分ほどだろうか経つと、2人はカノンの居場所とは反対側のスタッフ用のドアへと消えていった。
覚束無い足取りで道をしばらく歩いていると、知らない薄暗い場所にいた。
辺りを見回しても、道を示す番地も無い。
服を引かれる感覚に後ろを振り返ると、一般市民が着るワンピースに身を包んだ女の子が立っていた。
「まま、いないの。」
「あ……え、ママ、探そうか?」
「!!ありがとう!」
涙を浮かべたくりくりした目をいっぱいに開いて、女の子は嬉しそうに笑った。
女の子と手を繋ぎ、辺りを歩くと、10分程で母親と再会できた。母親に道案内をしてもらっている間、女の子とはずっと手を繋いでいた。
「お姉ちゃん、バイバイー!ありがとうー!」
そう言ってするりと離された小さな手は、既に母親に繋がれている。
先程まで繋がれていた自分の手を見て、今は異様に風が通るのを感じていると、オレンジが置かれた。
「マーロン、どうしたの?」
「いや、手持ち無沙汰そうだったから持ってもらおうと思って。執事長のおつかい。」
「ふふっなにそれ。そっちのパン持つよ。」
「それは俺からの餞別。たまには甘いものでも食べな。」
いきなり横にいたマーロンはそう言って指でおでこを弾いた。
手持ち無沙汰関係ないじゃん
こういう時になんでこの人は現れるんだろうなぁ
たわいもない会話をしながら、時々当たる肩をそれほど不快に思わなかった自分に、自然と笑みが零れた。
「あ、そうだ。今日、家で飲まね?ライアとクリスも呼んで。」
「いいね!そんなに強くないけど、今日は飲みたい気分!」
一瞬、家という単語にドキッとしたが、4人なら楽しくスッキリするかと、久々の飲み会に気分が上がった
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クリス……マーロンの執事仲間です。
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