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しおりを挟むさっきからコレットとカナは何を話しているのだろうかとヴィオレットは疑問だった。
ルビーなんて存在しないのよ、という言葉だって当り前だ。あれはあくまでフィクション。カナが描いた夢物語に過ぎないのだ。
なのにコレットの驚き方はあり得ないほどで目を丸くして口元をおさえて先ほどから硬直している。
いくらルビーと自分を重ねたとしてもここは物語の中じゃないのだから当たり前ではないか。
ラウルも首を傾げて二人を見ている。
「……続きを教えてあげましょうか?」
「続き?続きなんてない……」
「私が書いてるって言ったじゃない。侯爵夫人になったルビーは上手く切り盛りできなくて結局離縁されるのよ」
「なっ!なんでそんな……ひどいじゃない!!」
「ひどくないわよ。学園で婚約者のいる男性に言い寄って言いがかりつけて奪い取ってそれで何にもないと思う?」
「言いがかりって何よ!ルビーはヴィオラにいじめられて」
「なかったでしょ?」
「え?」
「私が書いたこの世界の『君僕』にも日本の『君僕』にもヴィオラが、婚約者の女性がいじめたなんて一文もないわ」
「で、でもルビーがヴィオラにいじめられたって、教科書破かれたり、足をかけられたり、噴水に落とされたり」
「ルビーがそうされたって言ってただけよね?どっちも」
「え……あ……」
「証拠もなにもないしヴィオラは否定していた。そりゃそうでしょ淑女で通っていたヴィオラがそんなことしないわよね」
「でもそれが共通認識で!」
「誰の?」
「え…そ、それは読んでる人の」
「そうね。読者の共通認識ね。であなたは誰?」
「え?」
「あなたは「読者」という人なの?コレットという名前を持った一個人じゃないの?今生きている人間じゃないの?」
「あ、あ、わ、私…私は……」
カナに畳みかけられてコレットが言葉を失う。ひどく青ざめてその場に膝をついた。
それを見てカナは周囲を振り返った。
「みなさん!大事な卒業記念の舞踏会を台無しにしてごめんなさい!今日はこれでお開きにしたいと思います。いいですね、リュカ殿下」
カナは静まり返った観衆の向こうに視線をやった。
「まあ仕方ないねぇ。いつか仕切り直すから今日はこれにて解散してくれ」
第一王子のリュカがそう宣言すれば従うよりほかない。皆ぞろぞろとホールを後にした。
「料理はどうしましょうか」
「楽団への謝礼は」
「殿下と陛下の予定が狂いましたわね」
「卒業記念の舞踏会だから規模もそんなに大きくなかったし国外の来賓もない。まあ不幸中の幸いといったところか」
予定外のことに主催の学園側が対応を協議しているのが丸聞こえだった。
ヴィオレットも踵を返す。絡まれたのはヴィオレットだったはずだが気づけば蚊帳の外だった。
「……ヴィ、ヴィオレ……」
かすかにラウルの声が聞こえた気がしたが気づかなかったことにした。
帰宅後父親に舞踏会での出来事を報告し、早めに就寝した。
卒業して一週間後にラウルの家であるファリアール家に結婚準備期間として住む予定になっていた。
だがそれももう立ち消えだろう。婚約解消、いやラウル有責での破棄の申請を父親が送っているはず。
しばらくは忙しいかもしれないがその後どうするべきかと考えると憂鬱だった。
高位貴族はほぼ婚約が決まっている。年下ならばまだの令息もいるかもしれないが先方が年上女性を良く思わないだろう。
だが翌日思わぬ展開になった。
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