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SS-1アルフレッドとベスが家族になった日(アルフレッド誕生)※過去回 ✔

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 ロプト村はメダリオン王国の辺境に位置しており、人口五百人の村だ。隣国のグラン帝国と国境を接しており、過去には攻め込まれたこともある。

 本来であれば国境に接しているのだから警備も行われるべきである。だが、ここには辺境騎士がたった一人いるだけだ。攻め込まれれば抗うことすらできないだろう。

 この村は攻め込まれた際に、撃退準備する時間を稼ぐためだけに造られた村なのだ。騎士とは名ばかりで、攻め込まれた際に緊急鳩便を隣町に向けて飛ばすことが主な仕事だ。それ以外にも魔物や狼から村を守る仕事も担ってはいるが一人では無理であるため、十人組と呼ばれる村の男たちと協力して討伐を行っていた。

 マルベリー公爵の領地であり、農奴に土地を貸し与え、収穫された麦などを税として徴収している。自由に移住することは認められておらず、選択権などは鼻から与えられていなかった。

 本隊は隣町に駐留しており、攻め込まれたことが分かれば撃退に備える。奇襲を防ぐための捨て駒のような役割を担っていた。

 そのため、この辺境の村で騎士になりたがるものなど一人を除いて存在しない。その物好きな騎士の名前はジェイ・ハイルーンといい、訳ありのマッチョな美男子で王都から離れるために自らこの村にやって来たのだ。

 妻はソフィアといい珍しいピンクの髪をした美人さんだ。二人の男の子に恵まれ、貧しいながらも幸せな生活を送っていた。

 六歳の長男カイルは、毎日、父と同じ騎士になるとジェイの作った木剣を振るう生活を送っている。三歳違いの次男クロードは、兄カイルほど騎士になりたいと思っていないようだ。

 毎日、長男カイルに剣術の訓練に無理やり付き合わされるのが嫌でたまらないのだ。六歳児と三歳児では対格差があり、木剣で殴り掛かられるなど迷惑でしかない。

 この村は牛などの家畜を飼い、麦などを育てる典型的な農業の村だ。村には店は一軒もなく、商人が数ヶ月に一度、行商に訪れる。隣町まで月に一度、十人組の男たちが荷馬車を出して買い出しに行くことが恒例行事となっていた。

 4月の半ば、騎士の屋敷では朝も早くから家主のジェイに落ち着きがない。

 村の女性がふたり手助けに来ており、ソフィアが大きなお腹を抱えて陣痛に耐えていた。

「騎士様、落ち着いてください。大丈夫ですから、奥様は経産婦で今度が三人目のお子ですから、きっと安産ですよ。……本当に、男はどうしてこうも心配性なのかね。自分が生むわけでもないのに、どっかりと腰を据えてくれないかね。手伝うあたしたちが浮足立ってしまう。本当に困ったものだね!」

 高齢の女性は少し咎めるように、部屋の中をグルグルと歩き回るジェイに言った。

「そうは言うが出産は危ないと言うではないか。もしも私の大切なソフィアに何かあったらと思うと俺は心配で心配で……」

 がっしりとした体躯の男がなんとも情けない表情でオロオロと、出産の度に同じことを繰り返しているのだ。

「こりゃあ、重症だね。生まれたら呼んであげるから、子供達の面倒を見ておあげなさい」

「しかしだな」

 ジェイは部屋から出て行こうとしない。

「騎士様、はっきり言ってウロウロしていて邪魔なんですよ。奥様もこれじゃあ落ち着いて産むなんてできやしない!」

「あなた、カイルとクロードは大丈夫なの? 頼みましたよね! い、痛―い……」

 辛そうにしているソフィアがついに口を開いた。

 「シッシ! カイルちゃんとクロードちゃんと遊んでおあげなさいな!」

 堪忍袋の緒が切れたのか年配の女性に部屋を追い出された。ジェイは仕方なく、長男カイルと次男クロードの様子を見に部屋へと向かった。

 しかし、カイルが部屋にいない。クロードの部屋か?

「カイル、かくれんぼかな? クロードどこかな!」

 二階を見て回るも子供達の気配がしない。

「カイル! クロード! どこだ、かくれんぼは止めて出て来ておくれ、おーいカイル! クロード!」

 喉が渇いたのか、それともトイレか、急いで階段を駆け下りると水瓶の置かれているキッチンやトイレを見て回ったが姿は見えない。

 焦るジェイ、ソフィアからカイルとクロードのことを頼まれていたのだ。

 外からカイルとクロードの声が聞こえた。カイルとクロードが井戸にでも落ちていたらと考えただけで身震いした。

 慌てて庭に出るとふたりの声のする裏庭へと向かう。

 すると、見たことも無い白いふわふわの犬らしき動物とふたりは仲良く遊んでいた。

 何処から迷い込んだんだ? 俺の知っている種類の犬ではないが犬だよな? 体は大きいが温厚な性格のようだな。
 
 裏庭には井戸もあり、目を離してはいけなかったのだ。今日はソフィアが産気づいて、子供達と一緒にいることができないため、目を離さないように言われていたのだ。

「カイル、クロード、お前達、その犬はどうしたのだ?」

「パパ!」「パパ」

 カイルがジェイに向って飛びつき、遅れてクロードが抱き着いた。両手を広げて二人を抱き止める。

「ねえ、パパ。この子ベスって言うんだよ。うちで飼ってもいいでしょ!」

 カイルはジェイの足に抱き着き、見上げながら言う。

「この犬ベスって名前なのか? 誰の家の犬なんだ?」

「どこの家の子かは知らない」

 カイルは首を左右に振った。

「はぁ! カイルがベスって名前だって教えてくれたんだぞ!」

「この子はベスだよ、名前はベスだって教えてくれたんだ」

「……いや、お前、犬はしゃべらんだろ!?」

「しゃべらないけどベスなんだ。ねっベス!」

 ツッコミどころが満載なのだが……どうすればいいのだ。うちには鶏もいるのだが、襲ったりは……して無いな。というか鶏たちがまったく警戒していない。

「ねーパパいいよね! クロードもお願いしてよ」

「パパ、お願い」

 クロードはジェイを見上げながら精一杯の笑顔でお願いした。

「そうだな。お前達がちゃんと世話ができるなら飼ってもいいぞ。 飼い主が見つかったら返すんだぞ!」

「やったー! クロードもベスも良かったね。ベスは今からうちの家族だよ!」

 嬉しそうにカイルとクロードはベスの周りを走り回り、ベスと呼ばれている犬も嬉しそうに尻尾をブンブンと振っている。

「よし、今すぐは無理だがベスの家を作ってやるか」

「やったー。ベスよかったね。クロードもそう思うだろ」

 カイルは大喜びで飛び跳ねる。

「思う」

 クロードはニッコリと微笑みながら小さな声で言った。

「クロード、もう少しはしゃべれよ、友達できないよ」

「カイル、お前、友達が出来たのか?」

「パパ、そんなの出来るに決まってる!」

 ほう、カイルに友達ができたんだな、初めて聞いた。

「今度、パパにも紹介してくれると嬉しいな。この村に子供はいるにはいるが、みんな農作業の手伝いで忙しいからな」

「パパ、紹介するよ、友達のベスです!」

「カイル……そうか。友達が出来て良かったな……クロードも友達だな」

 ジェイは少し残念そうにしたが、思い直したように微笑んだ。そんなジェイをクロードはポカンと見上げている。

「パパ、クロードにもできたの?」

「ベスが友達になってくれた」

「よかった。クロードうれしい!」

 クロードとカイルはベスにしがみつき飛び跳ねる。

 「ありがとうベス、息子たちの友達になってくれて。最高の犬小屋を作ってやるからな。それまでは馬小屋に間借りしていてくれ、俺はベスを家族として迎えるからな」

 ベスは分かったとでも言うように首を縦に振った。

 今、犬が返事したよな! 見間違いだろうか?

「騎士様、元気な男の子が生まれましたよ! 奥様もお元気ですよ、みんな帰ってください!」

 二階の窓が開けられ年配の女性の声が響き渡る。小さいが赤ちゃんの泣き声も聞こえてきた。

「カイル、クロード、お前達に弟ができたぞ。さあ、一緒に会いに行こう。騒いだりするなよ。ベス、もう一人友達になってやってくれ、頼んだぞ!」

 ベスはソフィアと三男のいる部屋を見上げ「ワン!」と吠えた。

「……ベス。お前、俺の言う事が分かるのか?」

 ベスはジェイから顔を逸らすと俯いた。

 ジェイはカイルとクロードを両手に抱きかかえると家に入ろうとした。その後ろにベスがついて入ろうとする。

「ベス、お前は外にいるんだ、寝るのはあそこの馬小屋だからな!」

 ジェイが入ろうとしたベスを足で塞ぎ入らないように通せんぼすると、顎で馬小屋を差した。

 ベスはがっかりと項垂れる。

 家に入ると元気な赤ちゃんの泣き声が聞こえる、ドアが開いているのだろう。その日、アルフレッドとベスがハイルーン家の新しい家族となった。
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