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94.1次男クロードの悪夢(弟のアルがおかしいんだが!)※書籍化未収録を加筆修正しております。✔

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 クロード・ハイルーン十歳は隣町ニーディにある文官学校に在籍しており、王都の官吏を志している。

 クロードには三歳年上の兄カイルと、三歳年下の弟アルフレッド、六歳年下のサーシャがおり、兄弟仲はいい。

 兄カイルの夢は父ジェイの跡を継ぎ辺境騎士になることなのだが、ひとりしか枠がないためそれまでは他で騎士をすることになる。

 ニーディまで馬車で片道七時間もかかるため親元を離れて寮で暮らしている。毎年十二月から一月末までの長期休みの間は帰宅することになっていた。

 魔蟻のスタンピードによる大きな被害が出たため心配していたが、終息したと嬉しい知らせが町を賑わせていた。これなら例年同様におみやげのクッキーを購入できる。

 迎えの馬車に乗り村に到着したが、村の様子が一変していた。屋敷に向かうなら左なのだが、馬車は右に曲がり川を渡った。森だった場所には店や屋敷が立ち並んでいる。

 馬車は大きな屋敷の前に停車すると降りるように促された。ほんの一年の間に何がどうなっているんだ? 

 どうしようかと考えているうちに馬車が走り去ってしまった。ローグさんは説明してくれなかったな……門の前で悩んでいると、屋敷のドアが開き、お父様とお母様が現れた。正直、ふたりの顔を見て安心した。ふたりがにこやかに微笑みながら歩いて来る。

「おい、クロード、何をしている。早く入って来い!」

「クロードが動かないから迎えに来たのです。私も同じように戸惑いましたから、あの時の私と同じ顔をしていましたよ!」

 お母様が笑いながら言うと荷物を持ってくれた。

「良かった。どうすればよいのか途方に暮れていました。どういう事になっているのですか? 豪邸なのですが……まるで領主様のお屋敷のようです!」

「流石、クロードだな。領主のお屋敷で合っているぞ!」

 お父様がニヤニヤと面白がっている。もしかして、

「それは、おめでとうございます。お父様、大出世ですね!」

 心を込めて祝福した。

 しかし、お父様が微妙な表情になってしまった、違ったのか!?

「お前が思っているのと違っているような気はするが、疲れているだろう屋敷で休め!」

「え! お父様が領主になられたのではないのですか?」

「悲しいかな俺は未だに雇われ騎士のままだな」

 お父様はやけに上機嫌にしており、ニヤニヤしながら玄関ドアを開くと中に入る。絶対に何かある……お父様はいったい何を面白がっているのだろうか?

「面白がっていないで教えてください! まさかお母様が領主になられたのですか!?」

 お母様の顔を見たがニコニコ笑っているだけだ。お母様まで面白がっているようだ。

「クロードったら、そんな事ある訳ないじゃない。ほら、領主様が来られたわよ!」

 お母様の視線は二階に注がれており、弟アルフレッドと妹サーシャが手を繋ぎ階段を降りようとしている。

 お父様とお母様の視線の先を目で追ってみても、アルとサーシャしか見えない、見えない誰かがいるのか?

 これはやばいぞ! 何か悪い魔物に祟られたに違いない。いや、悪夢を見ているのかもしれない。

 そうだ、そうに違いない。ほんの一年で村がこんなに変わるなんてありえない。

 自分の頬をギューッとつねってみた。

 すごく痛い! ヒリヒリジンジンしている、やたらとリアルな夢だ、痛みまであるぞ!

 町で流行った物語に悪夢の話があったが、どうすれば悪夢から抜け出せるんだったかな?

 逃げなければ。待てよ、このお屋敷そのものが魔物なのかもしれないな、だから、お屋敷に早く入れと言ったんだな。どうしよう。既に魔物のお腹の中にいるのだろうか? 鼓動が早くなり、全身から汗が吹き出し始めた。

「あなた、クロードの様子がおかしいわよ。汗があんなに出ているわ!」

「本当だ、顔色も悪い、きっと疲れたんだろう。熱もあるんじゃないか!」

「癒しの魔法を行使しましょう!」

「クロードお兄ちゃん。お帰りなさい!」

 サーシャが抱き着いて来た。サーシャはかわいいな! お母様の癒しの魔法が気持ちいい! 

 お父様がやっと話してくれ、悪夢は終わりを告げた。領主はなんと弟のアルフレッドだったよ!

 七歳で王都の魔法師学校に入学したあの時もおどろかされたが、いつの間にか卒業して子爵になり、魔法師学校の特別非常勤教師にもなっていた。……誰がそんなことを考えれるだろうか。

 働き出しさえすれば、直ぐにアルとの財力など、逆転できると思っていたのだが、……一年前の僕を蹴飛ばしてやりたい。絶対に逆転などできないから考えるだけ無駄だと教えてやりたい。

 アルよ、お前、子爵でお父様の雇い主だなんておかしいだろ!
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