サーシャ・ハイルーンの日常（異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です）

小鳥遊　ソラ（著者名：小鳥遊渉）

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SS15.今日のサーシャ13（広くなった村を案内してもらうの）✔

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　ロプト村はアルフレッドが設置した柵や落とし穴などにより堅牢な守りに変わり、以前のように村の中で魔物に襲われることは無くなっている。そのため、そこまで急を要する怪我人はめったに発生しない。

　ソフィアの魔力の枯渇を防ぐため一日の人数や治療の優先順位をつけている。急を要するほどの怪我人はでておらず、朝から続けられていた癒しの魔法も終わりが近い。

　
　ソフィアは本日、最期のひとりに癒しの魔法を行使すると「ふぅ！」と小さく息を吐き、傍らにいたサーシャに視線を送った。

　サーシャはソフィアの横で、親の治療について来た膝や手を擦りむいた子供たちに癒しの魔法を行使していた。　

「サーシャ、今日の癒しの魔法は終わりましたよ、よく手伝ってくれましたね！　サーシャも癒しの魔法が上達しているわよ、この調子で続けていればママのように癒しの聖女と呼ばれるようになりますよ！」

「えへへ、サーシャ、ママのように癒しの聖女になるの！」

　サーシャは、照れながらも嬉しそうにしているが、額にはうっすらと汗が光っており、少し疲れが出ているようにも見える。

　店が立ち並ぶ側の塀の外では人々の声がしており、小さな子供の高い声がよく聞こえている。

「サーシャお店に行ってみたいの！」

　サーシャは声のする塀の向こうが気になるようで直ぐにでも行きたそうにしている。

「ママもお店が見たいわ！　門から出ればお店がすぐそこにあるのよ、もう買い物に困らないわよ！　でも、危険だからひとりで言ってはダメよ！」

　ソフィアは屈んでサーシャの目線に合わせると言い聞かせた。

「はーいなの！　ママ行くの」

　サーシャは嬉しそうに返事をするとソフィアの手を握り駆け出した。

「パパも一緒に行くから待って！」

　サーシャと手を繋いだままジェイを迎えに行く。ジェイは予め聞いていたため準備していたようだ。

「ソフィア、サーシャご苦労様、馬車の準備はしているよ！」

「村に初めてお店ができたのよ！　先にお店に行きましょう、それから村を見て回るわ！」

「分かった！　すぐ隣だから歩いて行こう！」

　ジェイはそう言うとサーシャを真ん中にして三人で手を繋ぐ。門番の男に店に行くと伝えたところ、護衛の騎士二人の到着を待ってほしいと言われた。

　アルフレッドからの指示だと言われると受け入れるしかない。五分もせずに騎士がやって来て五人で店に向かう。店は門から出ると三百メートル程の距離になるが、敷地で言えば道を挟んだ隣に位置している。

　マシュー商会のハイルーン村本店に加え、武器屋、防具屋、履物屋、革製品屋、石炭屋、穀物屋、油屋、衣類屋、鍛冶屋、宿屋の十軒が立ち並んでいた。

「宿屋まであるけど、ロプト村でやっていけるのかしら？　泊まる人なんていないでしょ？」

　ソフィアが心配そうな顔で言った。

「俺なんて全ての店が潰れないか心配したよ！　だが、潰れるどころか売り上げは伸びているそうだから大丈夫だよ！」

　ジェイは笑いながら潰れないからくりである税の免除が恩賞であることを説明した。商談のために訪れる人がいると分かるとソフィアも納得し安どの表情に変わった。

「アルフレッドが男爵に叙爵されてジェイの雇い主になるなんてビックリしました！」

「俺もビックリだよ！　俺より遥かに出世しちまったからな！」

　ジェイは苦笑いしながら、空いているもう一方の手をひらひらと振ってみせた。

「それにしてもこの村の発展は異常ですね！　屋敷もマルベリー公爵様のお屋敷のようですね」

「ああ、マシューが金を出してマルベリー公爵の屋敷を参考に造らせたらしい、とんでもない費用が掛かっているみたいだぞ！　マシューはアルフレッドのことが大好きだからな！」

「やっぱり！」

「聖女様だ！　ありがとうございました」「小さな聖女様もいる！　ありがとうございます！」

　段々と人だかりができ始めると辺りは人で埋め尽くされ始めた。騎士のふたりが慌てているが整理できそうにない。

「ハイルーン様、こちらにお越しください！」

　大きな声が聞こえ見るとマシューが店の前に出て手招きしている。マシュー商会の者が手際よく人だかりをさばいてジェイたちを店に誘う。

「さあ、店の奥にどうぞ、紅茶でもどうですか？」

「マシュー助かったよ、危うくもみくちゃになるところだった！」

「そうでございましょうね、聖女様と小さい聖女様は人気者ですから！」

　マシューはニコニコとしながら有名人は村のどこに行っても同じ状況になるだろうと言った。

「サーシャ、『小さい聖女様』って言われているの？」

　サーシャが嬉しそうにしている。

「ええ、買いに来る人はみんな、サーシャ様のことを『小さい聖女様』と言って褒めていますよ！　そうそう、マシューからお小遣いを渡させてください！　こちらでお好きなモノを買ってくださいね！」　

　マシューはそう言いながら小さな袋をサーシャに握らせた。

「マシューさんありがとうなの！　お小遣いって？」

　サーシャは袋を開けて中からお金を取り出す。しかしサーシャはお金を使う機会がなかったためキョトンとしている。受け取った袋にお金を戻すとソフィアに差し出した。あまり興味がないようだ。

「サーシャにお金を渡したことがあったかしらね？」

「えっ！」

　ソフィアのとんでも発言にマシューが驚きの声を上げた。ソフィアからサーシャがお金を見るのが初めてかもしれないと聞かされて二度驚いていた。

　結局、サーシャはクッキーを購入したがマシューは改めて買い物に来てほしいと伝え、お金を受け取ることはなかった。表の騒ぎも収まったため急いで屋敷に戻り、馬車で広がった村の中を見て回った。

　馬車の窓にソフィアやサーシャの顔を見つけると、人々は「聖女様、小さな聖女様」と口々に言い手を振る。中には馬車の後を走ってついて来る子供まで出始めた、そのため怪我人が出る前にと、予定よりも早く広がった村の案内は終了することとなった。

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