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201.漏洩連鎖(サプライズ失敗)✔ 2024.2.9修正 文字数 前3,249後2,815減434

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 カイル兄さんの騎士見習いの話を聞きながら食事が進んだ。ひと段落ついて四月には公爵に陞爵され、同時にアルテミシア様との婚約発表が行われることを説明した。すると、カイル兄さんは「伯爵ではなくて公爵なの?」とポカンとした顔になり、しばらくフリーズしてしまったんだ。

 表情が戻るのを待って、グラン帝国でも公爵位と領地を貰ったと説明した。するとカイル兄さんはまたもやフリーズしたんだ。

「アルって、グラン帝国の公爵なの? どうなっているんだ!? もうお腹も頭もパンパンだ。一度に言われても頭が理解できないから」

 カイル兄さんは右手で自分の頭をぺちぺちと叩き始めた。だから、メダリオン家の隠れ養子になったことは言えなかったんだ。公にする予定もないからもうこのままでいいかな。

 料理はみんな美味しいと言ってくれた。肉じゃがも肉味噌炒めも好評だった。でも、一番驚いていたのは味噌スープだったんだ。

 今までのスープはというと、塩コショウで味付けされていただけだったから、味噌の破壊力は衝撃的だったみたいだね。何度も美味しいと言って、お代わりしたからね。

 ベビが作ってくれた塩トラウトは、塩と砂糖が絶妙のバランスになっていて、身に馴染んでいたんだ。干したことでうまみ成分も増えていたから、加工していないトラウトよりも美味しいと大好評だったんだ。ここでも醤油がいい仕事をしていたのは間違いないんだけどね。

 マシューさんにもおすそ分けしに行ったら、一口食べただけで契約書を渡されたよ。「ここに越してきて本当に良かったです」と、言いながら醤油と味噌の販売契約を結ばされた。

 侍女たち使用人や騎士に兵士、官吏たちにも食べてもらったんだけど、あちこちから送り込まれた官吏が「ここに来れて幸せです」といい笑顔で言ってくれたんだ。あの笑顔はリップサービスではなく心から出た言葉に見えた。だって、その後すぐに「このことは絶対に言わないでください」と懇願されたからね。

「うちが不利になると美味しい料理が食べれなくなるよ」って、冗談交じりに言ってみたら、「そのようなことは絶対にしません」て、真顔で返されたんだ。

 知られて困るような情報はないけど、うちの情報は送り込んできた人に筒抜けになっているんだろうね。先ほどの官吏の様子からすると、今後の情報量は今以上に少なくなるんじゃないかな。これからも胃袋をがっちり掴んで懐柔していくからね。

 カイル兄さんも疲れているだろうとお母様が言うので、早めに食事を切り上げて部屋に案内しておいた。

 俺も部屋に戻って、お父様とお母様の任命挨拶でも考えようかな。

「あーなんか違うんだよな~」

 書き損じた紙を丸めてゴミ箱にシュートする。放物線を描いてゴミ箱に当たると、ポトリと床に転がった。いつもなら外さないんだけど、今日はついていない。転がったゴミを拾いに行こうとしたら、ドアをノックする音がしてお母様が入って来た。

 カイル兄さんの初任給の話をするってさっき言ったからな。

「あらアル、こんなに散らかして何やっているの」

 丸まった書き損じの紙を手に取り、広げようとする。見られるのはまずい。

「お母様、手が汚れるのでそのままにしておいて……」

 お母様は俺の言葉を無視するように広げた。

「へー、そんなことを考えていたのね」

 失敗した。俺のサプライズ計画が台無しだ。

「なになに、本日を持ちまして、ジェイ・ハイルーンを男爵に叙爵し、領主代行とします。また、ソフィア・ハイルーンを補佐に任命し官吏統括責任者も合わせて任命……ですって、私も出世させてくれるの? ありがとうアル、お給金は頼んだわよ」

 お母様はカイル兄さんの真似をして、ニコニコしながら歩いて来るとハグされてしまった。

「お母様? このことはお父様とマシューさんには内緒でお願いします」

「男爵叙爵するのに、前もって教えてあげないつもりなの? きっと挨拶に困るわよ?」

「内輪なので挨拶が上手にできなくてもいいでしょ。サプライズしたいのでどうか秘密にしてください」

「アルって悪い子ね。仕方ないわね、いいわ、黙っていてあげます」

 お母様はサプライズされる側から、協力者へと変わった。色々とアドバイスをしてもらったので、ある意味、よかったのかもしれない。

 お母様は俺に悪い子だと言っていたが、お父様とマシューさんの驚く顔を見るのが楽しみだと言って、ノリノリでいる。きっと俺はお母様の血の影響を受けているんだな。お母様はたまにポカするんだけど、大丈夫か心配なんだよ。

 フラグを立てたようで、たったの三日でお父様にばれてしまった。お父様とお母様の執務机は、同じ部屋に並んでおいてあるんだけど、まさか就任のあいさつをそんな場所で書くなんて何やっているんだと言いたかった。しっかり、お父様の目に触れてしまい、白状してしまったと謝られた。

 残るはマシューさんだけだ。漏れないようにしないといけない。

 翌日になり、マシューさんが屋敷にやって来た。

「アルフレッド様、『薄くて軽くて丈夫な布』なのですがエルフの商人が扱っているらしいです。今、連絡を取ろうと試みておりますのでもう少しお待ちください」

 この前の白い帆船のエルフは商人だったんだな。

「お願いします。手に入れてください」

「マシューおじちゃん、名誉騎士おめでとうなの」

 暖炉の前にベスと陣取っていたサーシャがいきなり言った。俺は焦って声すら出ない。

「サーシャ様、マシューは名誉騎士ではなくて商人ですよ。はいどうぞ」

 マシューさんは笑いながら、持っていた袋をサーシャに渡した。サーシャは袋からクッキーを取り出し、ベスと食べ始めた。いつもサーシャにお土産を持って来てくれるんだよ。

「マシューおじちゃんは名誉騎士になるの、お母様とお父様が言っていたから間違いないの」

 お母様もお父様も脇が甘すぎだ。きっと、サーシャが傍にいたんだな。マシューさんが苦笑いしている。どうしていいか困っているのが伝わってくる。まさかのサーシャ砲が炸裂してしまった。

 違うとも言えないし、どうするかな? 俺が否定しないから、マシューさんもうすうすは気が付いたみたいだな。国の発展に貢献した大商人に授与されたことのある称号だ。マシューさんが憧れているのを俺は聞いて知っているからな。

 マシューさんと目が合ってしまった。メチャクチャ気まずい。マシューさんも相当焦っているな。俺は素直に伝えることにした。

「ちょっと早いですが……マシューさんの功績を称え名誉騎士に任命します。今後もこの町の発展に力を貸してください! いつも感謝しています!」

 マシューさんは大粒の涙を浮かべており、ボロボロと泣き出した。

「あ、あ、ありがたき幸せです。アルフレッド様。あなた様に助けられたこの命、マシューは命ある限り尽くすと誓います!」

 俺はマシューさんをハグするとハンカチを手渡した。こうして、俺の不注意から始まった情報漏洩の連鎖により、サプライズ計画はあっけなく終わりを迎えたんだ。
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