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335.稲刈り(炊き方の検証)✔

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 町の見学もひととおり終わったので、移住先の予定地に案内しようとしたが、もう少し蒸留方法などお酒の製造について勉強したいと言い出した。

 ガンツさん達ドワーフは最初からそのつもりでいたんだけど、エグザイルエルフまでは想定していなかったな。

 ミルトもお願いしてきたので、一週間だけ滞在することに決まった。滞在費用としてシルクスパイダーの糸や布を渡されたんだ。

 食事は農業法人やマシュー商会に行って購入するというので、いくらかお金を渡しておいた。

 エグザイルエルフもドワーフも珍しく、町の人達も気になるようだ。実はサーシャもミルトとミトの追っかけをやっている。正確には一緒に行動しているというのが正しいな。

 みんなの関心はやはり農業法人のようで、連日入り浸っており、農業体験まで始めてしまった。元々、エグザイルエルフは森の民エルフだからか、牛の世話や鳥の世話は楽しいそうだ。

 自由に見学してもらい、その間にインディカ米の様子を確認しに行こう。

 やはり、インディカ米の成長が早い、黄金色に実った稲穂が重そうに頭を垂れている。刈り取りできそうだな、稲穂からなん粒か籾を千切る。指で籾を割り中のインディカ米を確認したが、前世で見たモノよりも丸みを帯びているな。

 インディカ米とジャポニカ米を足したような見た目だ。十粒確認したがどれもよく実が入っていた。

 離れた数か所も同じように確認したが、どれもよく実が入っている。

 これならすぐに収穫できるぞ! 嬉しくて心が弾むようだ。まずは種籾の確保が必要だな。直播してもちゃんと育つことは実験で確認済みだ。

 刈り取りにウインドスラッシュを使おうかとも思ったが、最初なので丁寧に鎌で刈り入れすることにした。

 面積も少ないため、大して時間もかからずに借り入れることが出来た。魔蟻の脚製のはぜを造り、稲穂を下にして天日干しする。

 こうすることで稲の中にある栄養分も籾に凝縮し、アミノ酸や糖分もますことができる。きっと美味しいお米になってくれるはずだ。

 少しだけ、千歯扱きを使って、穂先から籾を分離する脱穀という作業を行う。この千歯扱きの道具は魔蟻の脚で作り麦の穂を脱穀するために導入していたんだ。

 早速、分離した籾を魔力水に浸けておこう。明日、お試しで新しく作った田んぼに直播するつもりでいるんだ。

 また、レックスの子供たちに鳥に籾が食べられないようにお願いしないとね。よし、全部はぜ掛けが終わったので、鳥よけにシルクスパイダーの糸を張り、帰ることにする。

 ミルト達の様子を見に農業法人に向かう。

「アルフレッド様、どこに行っていたのですか? 頭に小さなゴミが沢山付いていますよ!」

 ミルトが話しかけてきた。手で確認すると小さな藁クズが頭についていた。脱穀した時についたんだろうな。

「魔大陸で見つけたインディカ米を植えてみたんだよ。さっき、刈り取りしたところだ。その時についたんだと思うよ」

「色々と持って帰っていましたよね! 全部植えられたんですか?」

 ミルトは興味深そうに聞いて来た。ミトも聞き逃すまいと聞き耳を立てている。

「ああ、今のところ順調に育っているよ。魔力水を与えるとよく育つみたいなんだ!」

「そんなことをやってみようと思うのはアルフレッド様だけですよ!」

 少し驚いたようにミルトが言った。

「ミトも見てみたい!」

 ミトの目がキラキラと輝いているようだ。また、どんどんと近づいて来る。

「いいよ。農業法人の奥様方にお願いしている薬草を植えた場所から案内するよ!」

 ミルトとミトに手を繋いでもらい、上機嫌なサーシャも一緒に向かう。何が気に入ったのか分からないが、サーシャはエグザイルエルフに夢中なようだ。

 ベスの姿がないな。ベルが来てふたりで仲良くしているのを見かけたが、どこでどうしているのだろう。

 サーシャが一緒な理由が判明した。アルテミシア様は王都で忙しいらしく、ここ数日は来ることが出来ないそうだ。勉強でもしているのかな。

 エグザイルエルフはよく焼けた肌はしているが、美形で耳も長くて特徴的な姿をしており、サーシャが魅かれるのも無理はない。俺が見ても魅かれるものがあるからな、だけどそのふたりは若く見えるけど、サーシャのじいじとばーばよりも遥かに年上なんだよ。

 このことは言わないよ。ミトに歳の事を言うと機嫌が悪くなるとミルトから言われているからね。

 チビとベビに乗り、田んぼに案内した。

「これがインディカ米ですか? 湿地帯に生えている雑草ですよね? 食べれるんですか? イガイガしませんか?」

「皮を剥がして炊けば美味しいんだよ!」

 ミルトもミトも怪訝そうな顔をしている。あそこは大きな吸血ヒルが生息しているので、エグザイルエルフは近づかないと言っているが、籾のまま食べてみたことはあるのかな。そんな食べ方をしたなら、怪訝そうな顔になるのも納得だ。絶対に美味しくないからね!

 食べてみたいと言うので、天日干した方が更に美味しくなると説明しておいた。種籾は確保して、少しだけなら食べてもいいかな。

 この籾を外す作業が大変なんだよね……やっと外せた。魔力水に一時間ほど浸けて浸みこませる。水加減が大事だが確か一合に対して二百CCだったはずだ、一合ずつ、色々と魔力水の量や炊く時間や火力を変えて試してみよう。

 土魔法製の圧力容器を造り、火魔法で加熱する。時間がよく分からないが、蒸らさないといけないからな。十五分くらいだろうか? 十分ほどは強火、残り五分を弱火でイメージした。

 十分ほど蒸らし、圧力容器の蓋部分を土魔法で解除した。

 白い湯気が立ち上り、かすかな甘い香りがした。蓋を開けると少し黄色がかっているが美味しそうなお米が見えた。いい具合に炊き上がっているじゃないか。電子レンジの調理時間を参考にしてみたがいい感じに炊けている。

 好みの問題にはなるが三度目の炊き方が一番美味しかったな。それに、魔大陸で食べた時より粘り気もジャポニカ米寄りだ。魔力水で育てたから違ったのだろうか? 育成方法の研究も必要だな。粒が大きいので多く収穫できそうだ。

 ミルト、ミト、サーシャ、チビ、ベビが、食べたそうな視線を投げかけてくる。

 量がないので、炊き方ごとに小さなおにぎりを作り、味見することにしよう。

「美味しいですね。こんなに甘いなんて知らなかった!」

 ミトが第一声を上げた。みんな気に入ってくれたみたいだな。予想していたよりも甘みも旨味も詰まっている。美味しいぞ!すぐに全部食べられてしまった。

「サーシャ、これ好きなの! もっと食べたいの!」

 サーシャが手についたお米を口に運びながら言った。

「チビも美味しかったダォ! これだけじゃお腹がいっぱいにならないダォ!」

 チビは量が少なく少しご機嫌斜めなようだ。

「ベビも美味しかったの! これに色々かけるともっと美味しいかもなの!」

 ベビがいきなり、提案してきた。だんだんと料理女子になっているな。

「今回は量がないから無理だけど、次の収穫では丼ものを作ろうね!」

「アルフレッド様、これ売れますよ! 雑草がこんなに美味しいなんて知りませんでした!」

 ミルトは商人視点の意見だな。 

「ね、美味しかったでしょ!」

 みんなもっと食べたそうにしていたが、種籾が無くなると次に食べれなくなると説明したら納得してくれた。そろそろ町に帰ろう。

 半数のエグザイルエルフを移住予定地に運搬し、レックスに開拓の協力をお願いしておいた。勿論対価は美味しい料理だよ。
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