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284. 獣人十五名の治療結果(癒しの魔法の考察)✔

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 俺たちは獣人の術後の観察のために、一日留まることにした。もてなしたいのでもう数日滞在してくれないかと言われたが、丁寧に遠慮しておいた。

 その代わりに、帰りには必ず寄ることを約束させられたんだけどね。術後の経過観察もしたかったので言われなくても寄ろうとは思っていたんだよ。

 翌日、みんなの体調を確認したが、顔色もよく、麻酔から覚めて後遺症も出ていない。胃に負担をかけないように、お肉を小さく切ってなら食事もしていいと説明した。すると、みんなのお腹がグーーーと一斉に鳴りだしたのには笑ってしまった。

 獣人達から引き留められたんだけど、なんとか昼には出発することができた。みんなの足取りは怪しかったが、俺達が見えなくなるまで手を振って見送りしてくれたんだ。

 今回、十五名の手術と癒しの魔法を行使したんだけど、効果に違いがあることに気がついたんだ。当たり前のことではあるんだけど、生命力が強い元気な者ほど早く治ることが分かったんだよ。

 癒しの魔法は魔力を使って傷を治していると思っていたんだけど、どうもそれだけではないみたいなんだよね。

 獣人十五名が胃の中から魔石摘出という同じ条件だった。全員に同じように癒しの魔法をかけたことも間違いないんだ。だけど、小屋にいた五名の治りが他の十名と比較して明らかに遅かった。

 五名には追加で何度もいやしの魔法を行使したからね。そこで更に違いがあることに気がついたんだ。

 癒しの魔法で同じ効果が得られるのならみんな同じように治るはずだよね。だけど、そうはならなかった。そこで、違いは何なのかと疑問に思い始めたんだ。

 癒しの魔法を行使する際には、細胞が活性化して傷を塞ぎ修復することをイメージしているんだけど、その細胞自体のコンディションにより効果に違いがあるようなんだ。獣毛の艶も生え具合も治りと比例しているからね。

 そこで、チビが獲って来た魔物で実験することにしたんだ。ほんの数分前までは息をしていた魔物の体には、チビの風の刃で切られた傷があり、血が流れ出している。今までやったことは無かったんだけど、この傷に癒しの魔法を行使してみたんだ。

 癒しの魔法の効果で治るなら、この傷も治るかもしれないよね。だけど、何度やってみても全く傷は塞がらなかったんだ。きっと、血が流れていて、色々な細胞や栄養に酸素などの全てが揃っていないと発動しないということなんだろうね。

 傷を治すためには本人の細胞などを使う必要があるから、弱っていれば治りにくい。死んでしまえば、必要な細胞も運ばれてこないんだから治らないよね。

 ものすごく当たり前のことなんだけど、実は栄養補充や細胞の活性化が大きなカギを握っている気がするんだ。

 今まで癒しの魔法で治らなかった者でも、栄養を付けて細胞を活性化してやれば完治する可能性はゼロではない気がしている。だけど、切断した場所には血液も細胞も届かないからそこが大きな問題なんだよね。

 もう一つ大きな課題があるんだ。人間は決められた設計図の通りに成長すると、それ以上は成長しない。それに体の大切な部分を失っても復元されることはない。歯は乳歯と永久歯で二回生えるよね。これって設計図で決められているからだよね。きっと、設計図以上の復元はできないんだ。

 生き物の中には尻尾を切り離して再度生えてくるトカゲがいたり、生きている間、歯が生え変わり続けるサメなんかもいる。それらは全て設計図でそうなるように決められているからできるんだ。

 前世では万能細胞とか研究されていたんだけど、実はエリクサーが細胞を元の設計図の通りに復元することを促す薬な気がしているんだ。

 だけど、血の届かない場所にどうやって再生させるんだろうか? 違うのか? 切断とかされた場所から段々と伸ばしていけばいいのかな? イメージができないんだよね。

 キャスペル王太子の時にも足が生えてくるようにイメージしてみたけど、全然生えなかったからな。イメージができなかっただけではないんだろうな。やっぱり設計図が関係しているんだろうな!

 直ぐに成果はでないかもしれないけど、色々と試せばなんとかできそうな気がしてきたぞ。重要なことに気がついたのかもしれないな。

 エリクシアを手に入れることができたら、実験してみたいことを思いついたんだけどな。ママ龍さんに聞いたら作り方とか教えてくれるかな。

 ……今は捕らぬ狸の皮算用か。まだ、ママ龍さんに会えてもいないし、エリクシアが手に入ると決まったわけではないからね。手に入らないことも想定して、復元する方法を考えるべきだよね。自分でエリクシアとかエリクサーが作れるようになると嬉しいな。

〈ねえ、チビ、べビ! ママ龍さんの所まであと何日くらいかかりそう?〉

〈二日もあれば着くと思うダォ!〉〈ベビもそう思うノ!〉

 二日か! ママ龍さんに会うのが楽しみで仕方がないな! 飛んで行ければ直ぐなんだけどな!

 チビとベビのお陰で魔物も動物も寄って来なかったが、魔物の鳴き声が聞こえたので急いでやって来た。すると食虫植物ならぬ食肉植物が魔物を捕食しようとしているところだった。助けようかとも思ったが、手出ししてはいけないと思い直した。食肉植物も魔物を捕食することで生きているからね。

 その後は、魔物に出会うことは無かった。底なし沼と魔蜂に出会ったくらいだな。底なし沼も、チビとベビもいるし問題ない。魔蜂はちょっと鬱陶しかったが風の魔法で吹き飛ばすと近寄って来なくなった。

 段々と険しい山道になり、途中からは岩ばかりで木々が生えていない。遠くには切り立った山々が見えている。

〈アルママ、ママ龍の所に着いたダォ!〉〈到着したノ!〉

 遂に目的地に到着したようだ。そこには大きな洞窟が口を開けていた。
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