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282. 異形の獣人?(逃亡者)✔

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 チビとベビがいてくれなければ、迷いの森は抜けることができなかっただろう。霧の晴れた先には色々な薬草の生えた森が広がっていた。ピンクスライムが見ればきっと大喜びするだろうな。ピンクスライムに目という器官が備わっているかは知らないけどね。

 こっちの薬草は熱さましに効く薬草に似ている。こっちは腹痛に効く、これは下痢に効く薬草にそっくりだ。全部,株を持って帰りたいな。この薬草だが、明らかに誰かの手が加わっているようだ。黙って持って帰ってはいけないだろうな。精霊が栽培しているのだろうか? 許可を貰って対価を支払うべきだな。心のやることリストに追加しておこう。

 魔力鑑定眼で辺りを確認すると、多くの魔物がこちらの様子を窺っているように感じる。龍が二匹もいては、生死に直結しそうだから襲っては来ないみたいだ。

 俺達が進むと気がついた魔物が左右に離れていく気配が感じられる。だけど、ある程度の距離を確保すると、こちらの様子を窺っているように感じる。

 同じような光景をテレビで見たことがある。アフリカのサバンナで、シマウマにライオンが近づこうとすると安全な距離を保って見張っているんだ。ライオンが襲おうと動き出すと見張り役のシマウマが仲間に知らせて一斉に逃げだした。きっとチビとベビを見張っているに違いない。

 折角、魔大陸の奥地までやって来たんだから、色々な魔物や動物を見たいんだけど、かなり距離を取られている。護衛が強すぎるのも考えものだな。サファリツアー気分を味わえそうにないぞ。

 おや、大きな魔力を持った奴が、連携を取り、俺達を遠巻きに動いている。数は十匹ほどだろうか? 精霊力は感じないので魔物で間違いないだろう。 

 おかしいぞ! この魔物だが魔石がふたつあるようだ。邪神の使徒の可能性が高い!

〈チビ、ベビ、気がついてる? 邪神の使徒の可能性がある! 襲ってくるかもしれないから気を付けて!〉
 
 分かったと念話が届くと、チビとベビは百メートル上空に昇って行った。ゆっくりと旋回し、魔物を確認している。チビとベビの顔の表情は分かり難いが、気持ち良さそうに飛び回っていることは分かる。

〈ママ、向こうに木のお家が見えるノ!〉〈チビにも見えたダォ!〉

〈どれくらい離れてるの?〉

〈一キロも離れていないノ! ちょっと見てくるノ!〉

 念話と同時にベビが飛び去ってしまった。チビは俺の護衛に残っているみたいだ。

 ベビが飛び去った方向で魔物たちが逃げまどっているようだ。チビと共に急いで向かうと途中で道を発見した。もちろん、整備はされていない。普段魔物が利用しているのだろう。罠を警戒したが、そんなものは無かった。小さな丸太小屋が二つ建っていた。逃げ遅れたのか中から魔物の気配がしている。

 襲ってくる気はないようだな。もしかして、これが邪神教の本部なのか? 想像と違い規模が小さく神殿も何もなさそうだ。中から様子を窺っている魔物だが、魔力鑑定眼で見る限りそんなに強くはないだろう。それよりも遠巻きに見張っていた魔物がジリジリト集まり出していることが気になる。

 待ち伏せしていたようにも見えないし、邪神教の拠点のひとつなんだろうか? イメージが違い過ぎるな。 取り囲んでいた魔物は直ぐ近くまで距離を詰めてきているが、木の陰からこちらの様子を窺うだけで姿を表そうとしない。膠着状態になっている。

 邪神教の使徒であれば殲滅しなければならないが、間違っていたら大変だ。会話できるならいいんだけど。時間だけが過ぎているがどうするべきだ? いきなり邪神教の使徒ですかと聞くのもおかしいよな。力ずくで捕まえるのは簡単なんだけど、関係ない者だったら、只の暴力を振るう悪者になってしまうからな。いっそのこと、襲ってくれればいいのに。

 このままでは、時間だけが経過するだけでらちが明かないぞ! 話しかけてみるか! 

「アルフレッドと言います。決して怪しいものではありません。(どう考えても怪しいよな)姿を見せてもらえませんか? お話がしたいのですが! その木と、その木と……そこに隠れていますよね! 後、小屋の中にも」

 ついに観念したのか、木の陰から片足の不自由な魔物が姿を現した。キマイラ? いや違うのか? 獣人でありながら体のあちこちがリザードマンのように鱗で覆われている。なんだこの魔物は? 

「オレはどうなってもいい! 他のヤツラは見逃してくれないか?」

 聞き取り難いが魔物はちゃんと言葉が話せた。見逃してくれ? 襲うと思われているのか?

「会話できるんですね。襲ったりしませんよ! ここで暮らしているんですか?」

「ああ、迷いの森を抜けてきたようだが何しに来たんだ! あそこは精霊が認めないと通れないはずだが!」

 かなり警戒しているな。他の木の陰からもゾロゾロと獣人? が現れた。みんな、体のどこかがリザードマンのように鱗で覆われている。他にも体が不自由な者もいるようだ。
「精霊なのか確認できていませんが、龍の所に向かうと言ったら、通してくれましたよ!」

「龍の所に行くのか? もしかしてエリクシアを手に入れるためなのか!?」

 獣人は興奮気味で声も大きくなった。ほかの獣人達も驚いているようだ。

「ええ! よく分かりましたね!」

「危険を冒して龍に会いに行くなんて、他の目的なんてないだろう! そうか、エリクシアを手に入れに行くのか……」

 体が不自由そうだからエリクシアを手に入れたいと思っているんだろうな。だけど、足が悪くて行くのは諦めていそうだ。完治は無理でも癒しの魔法で改善できるかもしれない。

「無理にとは言いませんが、僕、癒しの魔法が使えるので、試してみますか?」

「いいのか! これ以上悪くなりはしないだろう! 期待はしないからやってくれ!」 

 顔も鱗の部分が引きつっているからか、上手くしゃべれないみたいだな。少し空気が漏れている。他の獣人の警戒心が和らいできたように感じる。

 警戒していたチビとベビも降りて来た。小屋の中にいた者達も顔を覗かせて様子を窺っている。

 獣人の男が足を引きずるようにして俺の前まで歩いて来る。片足は伸ばしたままでドスンと地面に座り込んだ。膝のあたりが鱗と獣毛が斑になっていて曲げられないようだ。なんでこんな体になっているんだ? 不自然過ぎる。

 魔力鑑定眼で獣人の体を確認すると小さな魔石がふたつあることが分かった。獣人ではなくて魔物なのか? 始めて見る種族だな。全員の体に異常があるなんておかしなことになっている。近親交配でも起きて遺伝子に異常があるのだろうか?

「魔石がふたつあるんですね?」

「分かるのか?……どこにあるんだ? 取り出すことはできるだろうか?」

 獣人は真剣な表情で俺の顔を覗き込んでくる。取り出す? 自分の魔石ではないのか? 周りの獣人達も二つの魔石が体の中に見える。やはり邪神教の信者なのか? 警戒した方が良さそうだな。

 ベビとチビにいつでも対応できるように念話し、注意しながら質問した。

「この魔石、どうしたんですか?」  

「邪神の使徒に無理やり飲まされたんだが、洗脳が上手くいかずに適合できないとオレたちのような魔物になるんだ。失敗作は処分されるんだが、迷いの森の精霊のお陰で逃げることができたんだ!」

「えっ! 邪神の使徒に飲まされた! 使徒ではないんですね!」

「使徒なもんか! 無理やり飲まされたんだ! こんな姿では村にも帰れないからな! エリクシアを手に入れることができたら元の姿に戻れるかもしれないと思っていたんだ! それだけが望みで今日まで生きて来た!」

 周りの獣人達も涙を流しながらうんうんと頷いている。みんな酷い目にあったんだな。魔石を取り出すことができれば元の姿に戻れるかもしれない。

 飛び跳ねたり、逆立ちしたりしてもらったが魔石の位置は変わらなかった。時間が経ち過ぎて魔石が体と癒着しているようだ。原因の魔石を取り出さないとエリクシアでも治せないんじゃないだろうか?

 麻酔もあるし癒しの魔法も使えるから、魔石を摘出する提案をしてみよう。
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