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232.補給と難所(予想外のお客)✔
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別荘を飛び立ち、二時間ほどでミルトたちの白い帆船を見つけることができた。
あまりにも早く帰ってきたためか、ミト第一王女がキラキラとした目で見てくる。空を飛んでみたいのかな? ロックオンされてしまったようだ。質問攻めが始まり終わりそうにない。帆船に乗せてほしいとお願いしたことを後悔し始めている。
ミルト第二王子が、質問の止まらないミト第一王女にストップをかけてくれた。俺から止めてほしいオーラが出ていたのに気がついてくれたみたいだ。
ミト第一王女はミルト第二王子に文句を言っていたが、俺の疲れている様子を指摘されると、直ぐに謝ってきた。ミト第一王女は、素直で謝ることのできる王族のようだ。ミルト第二王子も気遣いができる。流石は商人というだけのことはある。今回のことで、俺とふたりの仲が近くなったのは間違いないだろう。
今後は、公の席でなければ、「ミト、ミルト、アルフレッド」と呼び合う仲になった。と言っても、ミト第一王女に押し切られたんだけどね。俺としては、「第一王女、第二王子」と言わなくてよくなったから、それだけは良かったかな。慣れてしまい、公の席でもミト、ミルトと呼ぶ可能性がある。それだけはないように気をつけないとね。
三百六十度見渡す限り海のため、何日経っても景色に代わり映えがない。まったく目印になるものが見当たらないのだが、魔大陸に向けての航海は、順調に進んでいるそうだ。
普通、船乗りたちは、太陽や星々の位置を参考にして航海を行っている。ふたつの月は軌道が微妙にズレて回っており、方角を知るためには役には立たないだろう。
激しい雨が降り出し、風も波も強くなり出した。エグザイルエルフ達の帆船には羅針盤がついておらず、この状態が長引けば、どちらの方向に向かって進んでいるのか分からないのではないだろうか。
このまま、嵐にでもなれば、完全に方向を見失ってしまいそうだ。俺は航海の事は素人なので、エグザイルエルフ達の様子を窺っていたが、帆の数を減らし、ただ流されているように見える。もしかして、既に方向が分からなくなっているのではないだろうか。天候が収まり、星か太陽が出るまでは、このまま自然に身を任せるのだろうか? そんな感じがしてきた。流石に暇なので、ミルトに状況を聞いてみよう。
「ねえ、ミルト、今は帆の数を減らしているけど、これは順調に進んでいるの?」
「順調な方ですね。長い航海だと必ずと言っていいほど嵐に遭遇したりするんですよ。その時は、風を受けて転覆しないように帆の数を減らし、嵐が過ぎるのをじっと耐えるんです。横波を貰わないように、絶えず風上に船首を向けるようにしています。これだけでも大変なんですよ!」
俺は持ち込んだ荷物の中から羅針盤を持ち出してきた。これは海が荒れていても同じ方向を指し示す。船乗りにはのどから手が出るくらい欲しいモノだと驚かれた。
俺が見せるモノすべてが有益だったみたいで、その都度、ミトの質問が再開される。毎回のようにミルトが止めに入ってくれた。
航海は順調で、珍しくイベントが発生することはなかった。そのためか、ミトの興味は俺に注がれ続けている。
出港して一ヶ月近くが経過し、海図に〇と×の記載された島に近づいている。この島は重要な補給地だが、魔大陸までの航路の中で一番の難所でもあるそうだ。島の南側にはシーサーペントの巣があると言われており、できるだけ近づかないようにするそうだ。
今までも多くの帆船が襲われ、船乗りが命を落としている。運が悪ければ帆船も沈められてしまうこともあるらしい。襲われないように祈るしかないとミルトが言っている。
船が沈んだ時の状況については生き残っている者がいないため、何が起きたのかは分かっていないらしい。
この補給地だが、大小いくつかの島々があり、その中の大きな島に住民が住んでいる。この島では真水は特に貴重なモノとして取り扱いされており、食料などと物々交換することができるのだそうだ。
ミルトにシーサーペントについて聞いたところ、大きなウミヘビのようなものだと言っていた。
シーサーペントの大きさは海の中に隠れた部分があるため分からないがかなり大きいらしい。複数のシーサーペントに襲ってこられると、撃退することも大変になると言っていた。
この白い帆船だが、船縁には転落防止のために柵が設置されており、穴がいくつも空いている。その穴に船員が尖った槍のようなものを差し込んで回っている。これはシーサーペントから甲板の船員を襲われにくくするためのものだと教えてもらった。この他にもバリスタが設置されており、よほど大きなシーサーペントが襲ってこない限り、撃退はできるそうだ。
撃退はできるという言い方が引っかかる。討伐することは難しいという事のように聞こえた。
油断すると噛みつかれて、海に引き込まれ命を落とすこともある。だからだろう。槍を取り付け終わったエグザイルエルフたちが体と帆船のマストをロープで結びだした。かなり動きが制限されるが、海に引きずり込まれないための命綱だな。
ミルトからロープを渡されたが、空が飛べなくなるので遠慮しておいた。
いくつかの島が遠くに見えて来た。火山があるのだろう、噴煙が上がる島もある。あと一時間もすれば到着するのではないだろうか?
「お出ましのようですよ!」
今回もだが、ミルトは目がいい。遠くの海面を見ていたミルトが何かを見つけたみたいだ。
ミルトの目線の先を追って見た。すると、海面が少し盛り上がっており、この帆船に向かってきている。
たしかにイルカなどとは違うようだ。俺は棒手裏剣を両手に構える。
エグザイルエルフたちを見ると、バリスタを射るために構えている者がふたり。その他の者たちは剣ではなく手斧を構えている。シーサーペントの体は硬いのかもしれない。
そろそろ接触してもおかしくない。バシャッ!と音がして甲板の上に落ちて来た。
「助けてください。シーサーペントに追われています!」
予想外のお客が甲板に飛び込んできた。顔にはエラが見える。上半身は人に近いが鱗に覆われており、下半身は完全に魚のようにヒレがある。初めて見る。多分女性なのだろう。胸には貝殻でブラジャーのようなものをつけている。
マーメード? 人魚? ファンタジーな生き物が目の前に現れたぞ。
「来るぞ! 今度こそシーサーペントだ! でかいぞ!」
ミルトが帆船の船首付近で叫んでいる。
ミルトの目線の先の海面が大きく盛り上がった。
ミルトが船首付近に開けられた穴から船内に飛び降りた。
あまりにも早く帰ってきたためか、ミト第一王女がキラキラとした目で見てくる。空を飛んでみたいのかな? ロックオンされてしまったようだ。質問攻めが始まり終わりそうにない。帆船に乗せてほしいとお願いしたことを後悔し始めている。
ミルト第二王子が、質問の止まらないミト第一王女にストップをかけてくれた。俺から止めてほしいオーラが出ていたのに気がついてくれたみたいだ。
ミト第一王女はミルト第二王子に文句を言っていたが、俺の疲れている様子を指摘されると、直ぐに謝ってきた。ミト第一王女は、素直で謝ることのできる王族のようだ。ミルト第二王子も気遣いができる。流石は商人というだけのことはある。今回のことで、俺とふたりの仲が近くなったのは間違いないだろう。
今後は、公の席でなければ、「ミト、ミルト、アルフレッド」と呼び合う仲になった。と言っても、ミト第一王女に押し切られたんだけどね。俺としては、「第一王女、第二王子」と言わなくてよくなったから、それだけは良かったかな。慣れてしまい、公の席でもミト、ミルトと呼ぶ可能性がある。それだけはないように気をつけないとね。
三百六十度見渡す限り海のため、何日経っても景色に代わり映えがない。まったく目印になるものが見当たらないのだが、魔大陸に向けての航海は、順調に進んでいるそうだ。
普通、船乗りたちは、太陽や星々の位置を参考にして航海を行っている。ふたつの月は軌道が微妙にズレて回っており、方角を知るためには役には立たないだろう。
激しい雨が降り出し、風も波も強くなり出した。エグザイルエルフ達の帆船には羅針盤がついておらず、この状態が長引けば、どちらの方向に向かって進んでいるのか分からないのではないだろうか。
このまま、嵐にでもなれば、完全に方向を見失ってしまいそうだ。俺は航海の事は素人なので、エグザイルエルフ達の様子を窺っていたが、帆の数を減らし、ただ流されているように見える。もしかして、既に方向が分からなくなっているのではないだろうか。天候が収まり、星か太陽が出るまでは、このまま自然に身を任せるのだろうか? そんな感じがしてきた。流石に暇なので、ミルトに状況を聞いてみよう。
「ねえ、ミルト、今は帆の数を減らしているけど、これは順調に進んでいるの?」
「順調な方ですね。長い航海だと必ずと言っていいほど嵐に遭遇したりするんですよ。その時は、風を受けて転覆しないように帆の数を減らし、嵐が過ぎるのをじっと耐えるんです。横波を貰わないように、絶えず風上に船首を向けるようにしています。これだけでも大変なんですよ!」
俺は持ち込んだ荷物の中から羅針盤を持ち出してきた。これは海が荒れていても同じ方向を指し示す。船乗りにはのどから手が出るくらい欲しいモノだと驚かれた。
俺が見せるモノすべてが有益だったみたいで、その都度、ミトの質問が再開される。毎回のようにミルトが止めに入ってくれた。
航海は順調で、珍しくイベントが発生することはなかった。そのためか、ミトの興味は俺に注がれ続けている。
出港して一ヶ月近くが経過し、海図に〇と×の記載された島に近づいている。この島は重要な補給地だが、魔大陸までの航路の中で一番の難所でもあるそうだ。島の南側にはシーサーペントの巣があると言われており、できるだけ近づかないようにするそうだ。
今までも多くの帆船が襲われ、船乗りが命を落としている。運が悪ければ帆船も沈められてしまうこともあるらしい。襲われないように祈るしかないとミルトが言っている。
船が沈んだ時の状況については生き残っている者がいないため、何が起きたのかは分かっていないらしい。
この補給地だが、大小いくつかの島々があり、その中の大きな島に住民が住んでいる。この島では真水は特に貴重なモノとして取り扱いされており、食料などと物々交換することができるのだそうだ。
ミルトにシーサーペントについて聞いたところ、大きなウミヘビのようなものだと言っていた。
シーサーペントの大きさは海の中に隠れた部分があるため分からないがかなり大きいらしい。複数のシーサーペントに襲ってこられると、撃退することも大変になると言っていた。
この白い帆船だが、船縁には転落防止のために柵が設置されており、穴がいくつも空いている。その穴に船員が尖った槍のようなものを差し込んで回っている。これはシーサーペントから甲板の船員を襲われにくくするためのものだと教えてもらった。この他にもバリスタが設置されており、よほど大きなシーサーペントが襲ってこない限り、撃退はできるそうだ。
撃退はできるという言い方が引っかかる。討伐することは難しいという事のように聞こえた。
油断すると噛みつかれて、海に引き込まれ命を落とすこともある。だからだろう。槍を取り付け終わったエグザイルエルフたちが体と帆船のマストをロープで結びだした。かなり動きが制限されるが、海に引きずり込まれないための命綱だな。
ミルトからロープを渡されたが、空が飛べなくなるので遠慮しておいた。
いくつかの島が遠くに見えて来た。火山があるのだろう、噴煙が上がる島もある。あと一時間もすれば到着するのではないだろうか?
「お出ましのようですよ!」
今回もだが、ミルトは目がいい。遠くの海面を見ていたミルトが何かを見つけたみたいだ。
ミルトの目線の先を追って見た。すると、海面が少し盛り上がっており、この帆船に向かってきている。
たしかにイルカなどとは違うようだ。俺は棒手裏剣を両手に構える。
エグザイルエルフたちを見ると、バリスタを射るために構えている者がふたり。その他の者たちは剣ではなく手斧を構えている。シーサーペントの体は硬いのかもしれない。
そろそろ接触してもおかしくない。バシャッ!と音がして甲板の上に落ちて来た。
「助けてください。シーサーペントに追われています!」
予想外のお客が甲板に飛び込んできた。顔にはエラが見える。上半身は人に近いが鱗に覆われており、下半身は完全に魚のようにヒレがある。初めて見る。多分女性なのだろう。胸には貝殻でブラジャーのようなものをつけている。
マーメード? 人魚? ファンタジーな生き物が目の前に現れたぞ。
「来るぞ! 今度こそシーサーペントだ! でかいぞ!」
ミルトが帆船の船首付近で叫んでいる。
ミルトの目線の先の海面が大きく盛り上がった。
ミルトが船首付近に開けられた穴から船内に飛び降りた。
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