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第二章 ねんがんのアルティメットブレイド

第12話 そして聖域へ…

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 さて。そうこうしているうちに、俺たちは今回も何とかダンジョンの一番奥までたどり着くことが出来ていた。
 明らかに広くなっているスペースを前に、俺は予めアドバイスを聞いておく。
 
「今回も爆弾石投げとくのか?」
 
 それに対し、時乃はオプションウェアに目を落とした後、ゆっくりと頷いた。
 
「んー……そうだね、投げとこうか。今回はセットアップも楽だし」
「……セットアップ?」
 
 聞き慣れない単語をふと聞き返すと、時乃は何気なく顎に手を置く。
  
「えーと、言っちゃえば攻略の前準備ってこと。動作や立つ位置などを調節することで、いつでも同じ結果が得られるようにしてあるの」
「なるほどそれで、タイムアタックの時は安定して時間短縮できてる、ってことか」
「そうそう。だからタイムアタックって、意外と初心者でも良いタイム出せたりするんだよ。どう? 無事にここを脱出出来たら、陸也もやってみない?」

 そう言って、時乃は唐突に身を乗り出してくる。……ただ、さすがにこの状況で安請け合いしたりしたら、色々と面倒くさいことになりそうだ。脱出後も時乃と接点は生まれるんだろうが、後々とんでもない沼に引きずり込まれそうでもある。
 
「……遠慮しとく」
「そんなこと言わないでさ。未経験者大歓迎だよ? アットホームな職場だし! カート通勤OK! 赤こうらも完備!」
「こうらは何に使うんだよ」
「え? 投げるんだよ」
「投げるな」

 そんな辛辣なツッコミで、ようやく時乃は一旦身を引いてくれた。
 
「ま、その話は別に脱出後でも出来るからいいか。……とりあえず、そこに色が変わってるタイルがあるでしょ? それの上に立ってから、真ん中に向かって前と同じように3個投げてくれる?」
「ん、了解」
 
 時乃のアドバイス通りに、俺はぽいぽいぽいと爆弾石を遠投する。そして時乃の合図で、前回と同じようにボスが出現する区画へと侵入を試みた。
 すると。

 《ふはははは! よくぞここまでたどり着いたな! その執念と根性だけは褒めてやろう。だが、これで仕舞いよ! ……いでよ水の守護者! こやつらを冥府へと送り届けるがいい!》

 ――ドカドカドカドカドカドカドカーン‼‼
 ……広場へと現れて即、冥府へと送られそうになったのは、洞窟内に出てくるスライムをそのまま巨大にしたかのようなボスのほうだった。

「ん、ちゃんと全部メガンテ出来てるね」
「よしよし、そんじゃこいつも、満塁サヨナラライトフライか?」
 
 ボスが第二形態になったことを確認した俺がそう腕まくりしながら聞くと、時乃はちょっとすねたような表情を見せる。
 
「ちょっとした間違いを掘り返さないでよ。……その、こいつは結構中央でぴょんぴょん跳びはねるから、大振りだと当てづらいと思う。だからやるのはCcDね」
「それって確か……居合い切りのバグのことだよな? 単なる移動法だろ?」
 
 きょとんとしつつそう聞き返すと、時乃はこちらに顔を向けることなく弓を構えつつ、その疑問に答えてゆく。
 
「ううん、前にも言ったんだけど、あれって実は連続して居合い切りが出てるって判定だから、溜め攻撃としても使えるの。もちろん無敵じゃないから、その攻撃部分を当てにくい敵もいっぱいいるんだけど……」
 
 そこで時乃は一旦矢を放ち、スライムの触手攻撃を的確に牽制した後、ようやくこちらに顔を向けてきた。
 
「こいつは自分から接近してくるから、誘導が楽なんだよね。真ん中におびき寄せてから、反対側に通り抜けるようにCcDをすれば、かなり斬撃部分を当てやすいってわけ」
「なるほどな。……それじゃ、ちょっくらやってくるとするか」
 
 そう息巻いた俺は、外を移動するときと同じように刀を高速で抜き差ししつつ、広場の中央へと走っていった。


  +++
 

《……ぷしゅぅぅうるるるるるるるるるるるる……》

「……いやー、中々凄いじゃん陸也。ほとんどミスなくCcD当ててたしさ」
 
 ――都合5回ほどだろうか。ボスを素通りするように居合い切りダッシュを当てた後、俺はなんとも気の抜けた断末魔を後ろで聞きながら、そうべた褒めされていた。
 
「うーん……言うほど難しくはなかったけどな、別に動きは早くなかったし」

 と、そう素直に感想を述べるが、時乃はふるふると首を振り、それが意外に難しいことだと言外に告げてくる。
 
「……まあ、多少はこのゲームに慣れてきたって感じなのかな。良い傾向だと思うよ」
 
 そうして俺は世界一のタイムアタッカー直々にお褒めの言葉をかけられ、無意識に頬を掻いていた。
 ……これでボスは2体目、か。ずっとこの調子なら、ゲームクリアもなんとなく楽そうに思えてくるんだけどな。
 と、そんな事を思いつつ、なおもぷしゅぷしゅ煩い巨大スライムが完全に溶けてゆくのをぼうっと眺めていると、唐突にキィーンという音が鳴り響く。
 
「2個目。こっちは柄の封印の鍵だね。それじゃ、それ拾ったらすぐ双眼鏡出しておいてくれる?」
「……おい。壁抜けして帰らせる気満々じゃねえか」
「だってクリアしてるのに、ちんたら正規ルートで帰ってらんないでしょ?」
「まあ……それはそうなんだが」
 
 やれやれと鼻息を一つついた後、俺は鍵をカバンに入れると同時に、そこから双眼鏡を出すのだった。


  ***


 そうして壁抜けを繰り返し、何とか水の洞窟から脱出したその時にはもう、日はすっかり西の方へと傾いていた。
 
「いやー長かった……。日がまぶしいなあ……もう暗い洞窟はこりごりだ……」
 
 夕暮れに染まる山肌を眺めながら大きく伸びを入れた俺は、思わず刑期の終えた囚人のような感想を漏らす。すると時乃はその発言を鼻で笑ってくる。
 
「……まるで普通にここクリアしましたー感出してるけどさ、実際は壁抜けでほとんどすっ飛ばしてるんだからね?」
「まあ、そりゃ分かってるが。ただ、それでも長すぎるだろここ。普通にやってたら発狂してるぞ、多分」
 
 そう言いつつ、黄金色に輝く太陽に手をかざしていると、ふとその前方に、見慣れないNPCが立っているのに気づいた。
 
 《お待ちしておりました、二つの封印の鍵を手に入れし勇者様。わたくし、国王様の宰相をしているものでございます》
 
「……ん、ああ、そうか。こいつどっかで見たことあると思ったら、アレか。演説の時、国王の横にいた……」
 
 白のローブを身に纏ったその宰相の自己紹介を聞き、反射的になるほどと握りこぶしを手に落とす。ただ宰相は当然、俺のぼやきに反応を返してくることはなかった。
 
 《実は、直に二つの封印の鍵を手に入れるものが現れるのではないかと、我が王が仰られまして。それでわたくしめがこちらに派遣された、という次第でございます》
 
 そこまで言った後、宰相はぺこりとお辞儀を挟み、改まって俺を見つめてくる。
 
 《さて。アルティメットブレイドが封印されている聖域はここより遥か南方にございます。さらにはその存在を秘匿しておく為に、少々隠されてもおりまして。ですので是非わたくしめに案内させていただきたいのですが……如何致しましょうか?》
 
 そうして判断をこちらに委ねてきたところで、ようやく時乃が口を開いた。
 
「……そんなわけで、この宰相はここから一瞬で聖域まで連れてってくれる神オブ神なNPCってことね。まあ欲を言えば、鍵拾った直後に来てよって言いたくもなるんだけどさ……」
 
 ……そんな補足から察するに、さっさと話を受けろと言うことなのだろう。
 
 ――ただ。俺は、この宰相とやらに少々違和感を感じてもいた。
 ……そもそも鍵を二つ入手した直後、タイミングぴったしのこの状況でここまで迎えに来れるのって、なんかちょっと怪しいよな? 俺が鍵を手に入れた事実を、一体どこで知り得たのだろうか。
 
「なあ時乃、これって拒否したらどうなるんだ?」
 
 なので俺はふと、そんな疑問を口にする。すると何故か時乃は、あからさまに動揺し始めた。
 
「ち、ちょっと⁉ 絶対やめてよそういうの! 絶対やめて‼」
「……お、おう? いや、そこまで食ってかかられるとは思わなかったぞ」
 
 その狼狽ぶりには、むしろこちらがちょっと驚いてしまうぐらいでもあった。時乃もさすがにうろたえすぎだったと自覚したようで、軽く咳払いをした後、その理由をぽつりぽつりと説明してくる。
 
「……その、大幅な時間短縮になるんだから、絶対に拒否しないで、ってこと。拒否する必要があるのは、道中色んなサブクエこなしながら進める100%クリアルートの時だけ。……分かった?」
 
 そんな念押しに、俺は思わずこくこくと頷く。それにようやく、時乃は胸をなで下ろしていった。
 ……なるほど、そんなに遠いのか、その聖域とやらは。フワッとした不信感で安易に断らないで良かったな。
 そうして俺は、宰相の提案を受けることを選択。
 
 《承知致しました。それでは早速、ご案内致します》
 
 そんな言葉の後、宰相は恭しく頭を下げた。

 そうして俺の視界は、ゆっくりゆっくりと暗転していったのだった――
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