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留学から帰ってきたら実家の妹の様子がおかしい
しおりを挟む「今思えば、留学もあっという間だったな。」
長いと思っていた一年間のアメリカ留学も思えばすぐに終わった。
最初は英語なんて全然話せなくて、ただ夕食を買うのでさえ一時間くらい掛かり、アメリカに着いた初日から日本に帰ろうとしたこともあった。だけれど、「後1日頑張ろう」、「後1日だけ頑張ろう」と何とかアメリカで過ごしていると、いつの間にか1ヶ月が経ち、あっという間に半年、気が付けば一年が経っていた。
今思えばアメリカで過ごした一年はかなり俺の人生にとって豊かにしてくれた気がする。
皆無だったコミュニケーション能力もフレンドリーなアメリカ人と触れあうことで解消され、二人ほど親友と呼べる存在も出来た。それに、唯一苦手だった英語もアメリカで嫌という程聞かされたことにより、気が付けば得意になっていた。
空港から出て電車に乗り、実家の近場の駅から徒歩数分。
歩いている最中、ひらひらと風に運ばれてゆらゆらと揺れ落ちていく花びらを見て、俺は大きく息を吸い溜息を吐いた。
「実家に帰ってきて久しぶりに母さんや父さんに会えるのはいいけど、花蓮がなぁ……」
花蓮とは俺の妹で、一年たったはずだから高校三年生。
『文武両道』『傾国美女』等のあだ名がついた妹はその名の通り、頭が良く、運動が出来、何より謙遜なしに可愛い。
繊細で艶のある黒髪に、整った顔。
雪のように白くそして柔らかい肢体に、男の視線を釘付けにするたわわに実った双丘。
今まで貰ったラブレターは両手じゃ表し切れず、高値の花として学校に君臨している。
恐らく、一年経った今でもそれは変わらないだろう。
そんな妹である花蓮に俺は嫌われている。
中学生の頃までは、花蓮は暇さえあればゲームをしに来たり、アニメを一緒に見に来る程懐かれていたのだが、高校生に入ったあたりから食事中ずっと俺を罵倒してきたり、リビングに居ると「キモいからどっか行って」とリビングから閉め出されるようになった。
反抗期が来たのかなと最初はあまり罵倒されたり、追い出されたところで気にしなかったが、何ヵ月とやられるとかなり精神的に来るところがあった。いくら可愛い美少女の妹だとしても、罵倒されたりきつく当たられるのは耐えられない。
妹と離れて一年経ったのでまだマシになったが、妹に強く当たられたせいで、俺は女性を怖いと思ってしまうようになった。所謂、女性恐怖症という奴だ。
別に俺は花蓮に嫌なことをした記憶がない。
……いや、もしかしたら俺が身に覚えてないだけで物凄く傷付けるようなことをしたのかもしれないが、俺は急に花蓮から嫌われるようになり、気付けば強く当たってくる花蓮のことを俺も嫌うようになった。
花びらを右手に日本を感じながら歩いていると、見えてきたのは俺の家。
特に何も変わっていないようで、俺が留学を始めた日から扉の位置から、窓の位置、縁側の位置まで全くといって変化していない。強いて言うとすれば、花の数が増えたことだろうか。花壇に、バラやコスモスなどが加わっている。
ぴんぽーん。
扉横にあるスイッチを押して、帰ってきたことを知らせる。
すると、待っていたかのように一秒そこらで扉が強く開かれた。
「お兄ちゃんお帰り!!」
「え?……うん、ただいま。」
扉が勢い良く開かれたなと思ったら、扉から出てくるや否や扉から出てきた勢いのまま俺に強く抱き付いてくる花蓮。その様子は、高校生に入る前の中学生の様子に似ていて、嬉しそうに頬を緩めながら俺の胸に整った顔を押し付けてくる。
いやいや、は?
絶対に出迎えはしてこないと思った花蓮に抱き付かれたことに俺は頭が回らず、適当に言葉を返してしまった。
「……その何とも言えない表情は何なのお兄ちゃん? 私、ずっとお兄ちゃんのこと待ってたんだよ? 可愛い妹に抱き付かれて嬉しくないの?」
「いや、だって………花蓮は俺のこと嫌ってたんじゃないのか? だって、俺のことずっと罵倒していたり、部屋から追い出したりしていたじゃないか?」
俺の胸から少し顔を離し、今度は不満げな表情で俺を見つめてくる花蓮。
俺を罵倒していたり、俺を追い出していた頃とは百八十度違う様子にこの一年で何が起こったのか全く理解が出来ない。
唯一つ分かったことといえば、この一年花蓮の双丘が更に大きくなったことくらいだ。
現在、俺は花蓮に抱き付かれているが、抱き付かれたことで更に大きく育った胸が俺の腹辺りに押し潰され、何ともいえない柔らかい感触が腹の辺りで広がっている。アメリカでもハグをする際に、女性の胸の感触を味わうことがあったが、比較的肉付きがいいアメリカ人に比べても花蓮の方が弾力があった。
反抗期でも終わったりしたの……か?
すると、俺の言葉が意味不明と言ったような表情で花蓮は不満げに口を開いた。
「だって、お兄ちゃんはこういうのが好ーーーー」
「お帰りなさい友也。アメリカでの一年どうだった? ………といっても、あんまり姿は変わってないわね。」
「ただいま。」
花蓮が何か言おうとしたが、それを遮るように嬉しそうな顔で扉から出てくる母さん。それに対し、言おうとした言葉が遮られたせいかジト目で母さんのことを見つめる花蓮。
久し振りに聞いた親の自分を呼ぶ声とはちょっとほっとするもので、子供の頃から聞き慣れたその優しげな声に何処からともなく物凄い安心感がやってくる。
……やっぱり、親っていいな。
俺は母さんに右手を引かれ、そのまま一年ぶりの家に入れられた。
その間、何故か俺を逃がさないと言ったような様子で俺の左手は、花蓮に両手で掴まれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アメリカでの体験談を母さんと父さんに迫られ、一時間程アメリカで出来た友達やその他様々な経験を話した俺は、アメリカからここに帰ってくるまでの疲れもあって、まだ聞き足りないといった様子だったが無理に終わらせて自室に入る。
俺の青春を七、八割注ぎ込んだ多種多様な小説や漫画に、やけに一人部屋にしては大きいテレビ。それに、青いシーツの引かれたベッドに、少し時間のずれているロボットの見た目をした思い出のある時計。
日本で過ごしている時は、自分の部屋というものに特段思い入れはなかったが、一年も経つと懐かしさや愛着といったものが心から溢れ出てくる。普段の何気ない日常が幸せというが、これを見ると全くその通りだと思う。
………ところで、花蓮が俺の枕を嗅いでいるように見えるのは幻覚か?
俺のベットの上で心底幸せそうな表情で俺の枕に鼻を押し付け、頬をここまでかという程緩めている花蓮。そもそもどうして俺の部屋に居るのだろうか。
美少女がやっているからまだ見られるが、どう見たってこれは良くない。兄の枕に顔を押し付け、興奮している妹の図なんて何処のエロゲだ。……花蓮はいつからこんな変態になったのだ。
枕に目を向けると、少しはがり糸の引いた透明な液体が付着している。
……おいおい、涎じゃないだろうな。
あまりの光景に俺は思考回路が停止し、何も言えず黙っていると、俺が部屋に入ったことに気が付いたのか鼻に押し付けていた枕を放り投げこっちに抱き付いて来た。
「やっと来たお兄ちゃん!! お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!」
「……花蓮は俺のことが嫌いじゃないのか?」
「花蓮がお兄ちゃんのこと嫌う訳がないじゃん!! 花蓮はお兄ちゃんのこと大好きだよ? 」
「……じゃあなんで、花蓮は俺のことを罵倒したりしてたんだ?」
罵倒された内容を思い出す。
「消えちゃえ」や、「いらない」や、「お兄ちゃんの妹なんて一生の恥」など、ドMでも相当キツイ言葉の数々。
今思えば、良く何ヵ月もこんな言葉を言われ続けてたのによく精神が壊れなかったと自分のメンタルを褒めたくなる。
「……だって、お兄ちゃんは罵倒されたり、強く当たられるのが好きなんでしょ?」
「は?」
「え!?」
かなり驚いた様子の花蓮。
あまりに驚きが大きかったのか、俺の胸から少し顔を離し表情を硬くさせている。
全くもってそんな被虐趣味は俺にない。
いくら美少女である花蓮に何度罵倒されたり、強く当たられても俺が被虐趣味に傾くことは全くと言ってなかった。
すると、花蓮は少ししてやっと頭が再び回り始めたのか、俺の背中に回していた柔らかな手を離し、本棚から不安げな表情で一冊の本を持ってきた。
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