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私の婚約者

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「お姉ちゃんには分からないだろうけど、婚約者とのデート凄く楽しかったよ。あの楽しさが味わえないなんて、婚約者を奪われちゃったお姉ちゃんは可哀想だね。」
「楽しかったなら良かったじゃん。ご幸せに。」
「ちょっ!?ちょっと待ってよ。婚約者奪われて悔しくないの!?私は優しいから、今なら返してあげてもいいよ?」
「ん~?別にいいかな。楽しかったんでしょ?二人でそのままゴール結婚しなよ。」
「ちょっと待ってよ!!?」

 デートを楽しかったと自慢気に言う妹を見て、私はそのままの感想を妹に返す。あんなのとデートして楽しい訳ないのに、私を見下ろしたいのか、ここまで強がる妹に笑いを通り越して憐れみすら感じる。当然、憐れみを持ったところで、婚約者の返却に応じる訳など無いが。

 そんな妹は、私が婚約者に対して好意を寄せていると勘違いしているのか、婚約者に対して私の冷たい態度を見て慌てている。妹としては、ここで私に最大限の恩を着せながら婚約者を返そうとしたようだが、私が応じ
る訳がない。お金を貰ったとしても、あんな婚約者は願い下げだ。私から婚約者を奪ったのだから、その責任を持てというものだ。

「……お姉ちゃんにとって、あの婚約者大事だよね?」
「えー?そうなの?お姉ちゃん別にいらないかな。横暴で、話をしようとしても自分の自慢話ばっだし、一緒に居てもつまらないから。」
「そ、そんなことないよ!!お姉ちゃんとあのこぶ……婚約者は相性がとってもいいから、やっぱり返すよ。意地悪で奪っちゃったりしてごめんね。」
「……いやいや。要らないから。責任を持って、仲良くしてね。」
「何で……私、あの人が婚約者なんて嫌だよ。」

 本当に辛そうに、自分のポニーテールを弄りながらそう呟く妹。
 気持ちは込められていないが、嘘でも謝られたことに心が動きそうになった私だが、そう簡単に心は動かされない。あの婚約者が居る生活など、考えただけで地獄だ。地獄行きの列車に、こう簡単に乗せられてはいけない。

 私は目元が潤んでいる妹から、目を遠ざけた。

「ねぇ……元々はお姉ちゃんの婚約者なんだから、お姉ちゃんが責任を持って婚約者の面倒を見てよ。お願いだよぉ……」
「……でも、私はだから。現在進行形で婚約者のテスラーが責任を持って婚約者を愛すのが普通じゃないの?」
「あんな豚が婚約者なんて嫌だよぉ……私にも、お姉ちゃんのように婚約者が欲しくてお姉ちゃんから奪ったけど、あんなのが相手だなんて思ってなかったぁぁ……」
「……確かに、あんなのが相手なのは嫌だよね。う~ん。」
「えっ!?もしかしてお姉ちゃん。彼奴のこと元婚約者として引き受けてくれるの?」
「いやいや。そんな訳ないでしょ。彼奴のことはテスラーがしっかりと愛してね。経験から言うと、彼奴はセクハラとかを王子だから許されると思っているのか、油断しているとしてこようとするから気を付けてね。私は一度もされたことないけど、よく胸とか彼奴は見てくるから。」
「セクハラまで!?……もう、最悪だよぉ……」

 油断していた私を釣ろうとした妹を、私はどん底に叩き落とす。
 またしても妹は勝手に勘違いをして、そのまま自分で沈んだ。
 一応、セクハラをしてくるというヒントを与えた私もまだまだ甘いのだろう。
 本当なら、こんな奴にヒントなんて教えなくても良かったのだから。
 
 そうしていると、再び廊下に足音が響く。
 丁度昼過ぎくらい。
 この時間帯は、メイド達は食事をしているので廊下を通ることはない。
 だからか、妹は彼奴のことを警戒して、扉の方を見て怯えている
 だけど、この足音はドスドスと象が歩いた時のように響いていない。
 ……もしかしたら、あのお方が来たのかもしれない。

 そう思った私は、自分から扉を開いた。
 扉に手を掛けた瞬間、妹からやめろという視線が突き付けられたが、目の前に広がるのは、新しい婚約者。
 彼奴のような豚でもなければ、彼奴のように性格も悪くない。
 元々はの婚約者になる筈だった、金髪の凛とした顔立ちの王子様に目を奪われる。

「こんにちはレイナ様。貴女様の婚約者になりましたレインです。今日は話を交えながらランチをと思ったのですが……付いてきていただけますか?」
「は、はい。是非お願いします。私も、レイン様と話をしたいなと思っていて……」

 不安そうにこちらを見つめてくるレイン様に、私は胸が熱くなる。
 何だこの可愛い生き物は。
 艶のあるスベスベしてそうな金髪に、何もかも見透かすようなほのかに青く透き通った瞳。その姿は、お人形と言っても過言では無いほど顔立ちが整っていて、彼奴では一切感じなかったドキドキというものを激しく感じる。何も喋らず、そこに存在するだけで格好いいと思えるのに、そんな風に不安そうに見られてしまったら………

 私の心が彼の不安気な表情に感化されて、思わず彼のことを抱き締めてしまう。出会ってからまだ三日で、そんなことしていい距離間ではないのに、思わずその姿が愛おしくで抱き締めてしまった。
 すると、彼はほんのりと優しく笑って、私のことを抱き返す。

「ふふっ。どうやら、可愛い婚約者さんは甘えん坊のようですね。」
「可愛い!?で、でも甘えん坊じゃない。」
「そんなこと言って……もう一度抱き締めようと思ってたんですけど、そんなこと言うなら抱き締めてあげませんよ?」
「うっ………私は、どうすればいいの?」
「こうすればいいんですよ。甘えん坊さん。」
「ーん!!」

 より強く彼に抱き締められて、私は幸せに包まれる。
 温かい……そして、何処か私より一回り大きな体に包まれて安心する。
 甘えん坊だと勘違いされた私は、彼に少しムスっとしてしまったが、こう彼に抱きしめられるなら、甘えん坊になるのも悪くないなと思った。


 幸せを満喫している中、私達の雰囲気をぶち壊すかのように妹が床に崩れ落ちる。

「どうして……お姉ちゃんにそんなイケメンが…?」

 今度はしっかりと、瞳を沢山の涙で覆いながら。
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