4 / 9
私の婚約者
しおりを挟む「お姉ちゃんには分からないだろうけど、婚約者とのデート凄く楽しかったよ。あの楽しさが味わえないなんて、婚約者を奪われちゃったお姉ちゃんは可哀想だね。」
「楽しかったなら良かったじゃん。ご幸せに。」
「ちょっ!?ちょっと待ってよ。婚約者奪われて悔しくないの!?私は優しいから、今なら返してあげてもいいよ?」
「ん~?別にいいかな。楽しかったんでしょ?二人でそのままゴールしなよ。」
「ちょっと待ってよ!!?」
デートを楽しかったと自慢気に言う妹を見て、私はそのままの感想を妹に返す。あんなのとデートして楽しい訳ないのに、私を見下ろしたいのか、ここまで強がる妹に笑いを通り越して憐れみすら感じる。当然、憐れみを持ったところで、婚約者の返却に応じる訳など無いが。
そんな妹は、私が婚約者に対して好意を寄せていると勘違いしているのか、婚約者に対して私の冷たい態度を見て慌てている。妹としては、ここで私に最大限の恩を着せながら豚を返そうとしたようだが、私が応じ
る訳がない。お金を貰ったとしても、あんな婚約者は願い下げだ。私から婚約者を奪ったのだから、その責任を持てというものだ。
「……お姉ちゃんにとって、あの婚約者大事だよね?」
「えー?そうなの?お姉ちゃん別にいらないかな。横暴で、話をしようとしても自分の自慢話ばっだし、一緒に居てもつまらないから。」
「そ、そんなことないよ!!お姉ちゃんとあのこぶ……婚約者は相性がとってもいいから、やっぱり返すよ。意地悪で奪っちゃったりしてごめんね。」
「……いやいや。要らないから。責任を持って、仲良くしてね。」
「何で……私、あの人が婚約者なんて嫌だよ。」
本当に辛そうに、自分のポニーテールを弄りながらそう呟く妹。
気持ちは込められていないが、嘘でも謝られたことに心が動きそうになった私だが、そう簡単に心は動かされない。あの婚約者が居る生活など、考えただけで地獄だ。地獄行きの列車に、こう簡単に乗せられてはいけない。
私は目元が潤んでいる妹から、目を遠ざけた。
「ねぇ……元々はお姉ちゃんの婚約者なんだから、お姉ちゃんが責任を持って婚約者の面倒を見てよ。お願いだよぉ……」
「……でも、私は元だから。現在進行形で婚約者のテスラーが責任を持って婚約者を愛すのが普通じゃないの?」
「あんな豚が婚約者なんて嫌だよぉ……私にも、お姉ちゃんのように婚約者が欲しくてお姉ちゃんから奪ったけど、あんなのが相手だなんて思ってなかったぁぁ……」
「……確かに、あんなのが相手なのは嫌だよね。う~ん。」
「えっ!?もしかしてお姉ちゃん。彼奴のこと元婚約者として引き受けてくれるの?」
「いやいや。そんな訳ないでしょ。彼奴のことはテスラーがしっかりと愛してね。経験から言うと、彼奴はセクハラとかを王子だから許されると思っているのか、油断しているとしてこようとするから気を付けてね。私は一度もされたことないけど、よく胸とか彼奴は見てくるから。」
「セクハラまで!?……もう、最悪だよぉ……」
油断していた私を釣ろうとした妹を、私はどん底に叩き落とす。
またしても妹は勝手に勘違いをして、そのまま自分で沈んだ。
一応、セクハラをしてくるというヒントを与えた私もまだまだ甘いのだろう。
本当なら、こんな奴にヒントなんて教えなくても良かったのだから。
そうしていると、再び廊下に足音が響く。
丁度昼過ぎくらい。
この時間帯は、メイド達は食事をしているので廊下を通ることはない。
だからか、妹は彼奴のことを警戒して、扉の方を見て怯えている
だけど、この足音はドスドスと象が歩いた時のように響いていない。
……もしかしたら、あのお方が来たのかもしれない。
そう思った私は、自分から扉を開いた。
扉に手を掛けた瞬間、妹からやめろという視線が突き付けられたが、目の前に広がるのは、新しい婚約者。
彼奴のような豚でもなければ、彼奴のように性格も悪くない。
元々は妹の婚約者になる筈だった、金髪の凛とした顔立ちの王子様に目を奪われる。
「こんにちはレイナ様。貴女様の婚約者になりましたレインです。今日は話を交えながらランチをと思ったのですが……付いてきていただけますか?」
「は、はい。是非お願いします。私も、レイン様と話をしたいなと思っていて……」
不安そうにこちらを見つめてくるレイン様に、私は胸が熱くなる。
何だこの可愛い生き物は。
艶のあるスベスベしてそうな金髪に、何もかも見透かすようなほのかに青く透き通った瞳。その姿は、お人形と言っても過言では無いほど顔立ちが整っていて、彼奴では一切感じなかったドキドキというものを激しく感じる。何も喋らず、そこに存在するだけで格好いいと思えるのに、そんな風に不安そうに見られてしまったら………
私の心が彼の不安気な表情に感化されて、思わず彼のことを抱き締めてしまう。出会ってからまだ三日で、そんなことしていい距離間ではないのに、思わずその姿が愛おしくで抱き締めてしまった。
すると、彼はほんのりと優しく笑って、私のことを抱き返す。
「ふふっ。どうやら、可愛い婚約者さんは甘えん坊のようですね。」
「可愛い!?で、でも甘えん坊じゃない。」
「そんなこと言って……もう一度抱き締めようと思ってたんですけど、そんなこと言うなら抱き締めてあげませんよ?」
「うっ………私は、どうすればいいの?」
「こうすればいいんですよ。甘えん坊さん。」
「ーん!!」
より強く彼に抱き締められて、私は幸せに包まれる。
温かい……そして、何処か私より一回り大きな体に包まれて安心する。
甘えん坊だと勘違いされた私は、彼に少しムスっとしてしまったが、こう彼に抱きしめられるなら、甘えん坊になるのも悪くないなと思った。
幸せを満喫している中、私達の雰囲気をぶち壊すかのように妹が床に崩れ落ちる。
「どうして……お姉ちゃんにそんなイケメンが…?」
今度はしっかりと、瞳を沢山の涙で覆いながら。
0
お気に入りに追加
576
あなたにおすすめの小説
(完)私を裏切る夫は親友と心中する
青空一夏
恋愛
前編・中編・後編の3話
私を裏切って長年浮気をし子供まで作っていた夫。懲らしめようとした私は・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風。R15大人向き。内容はにやりとくるざまぁで復讐もの。ゆるふわ設定ご都合主義。
※携帯電話・テレビのある異世界中世ヨーロッパ風。当然、携帯にカメラも録音機能もありです。
(完)婚約者が義理の妹と浮気していましたーーロセ伯爵家の守り神はガマ様(全8話)
青空一夏
恋愛
エリザベスは婚約者ハーマンと義理妹マギーの浮気現場を見てしまう。
マギーは公爵家を乗っ取ろうとしてエリザベスを殺そうとするが……
浮気現場が胸くそです。ざまぁ要素あり。
コメディー風味の異世界ファンタジー要素強めの物語。ゆるふわ設定ご都合主義。自分の立場を理解する能力が欠如しているバカップルの愚かな行動とは……。
「お姉様を選んだ婚約者に乾杯」のガマガエルを守り神にするロセ伯爵家の物語。あれから主人公達もすでに亡くなってその先の子孫達のお話です。ガマガエルたちは出てきますがお話は前作と全く独立していますので、前作を読まなくても楽しめる内容です。
ガマガエルのお話が読みたいという読者様のリクエストがありましたので書いてみました。気分転換にお読みいただけると嬉しいです。
本編完結後に因果応報おまけあり。
(完)「あたしが奥様の代わりにお世継ぎを産んで差し上げますわ!」と言うけれど、そもそも夫は当主ではありませんよ?
青空一夏
恋愛
夫のセオは文官。最近は部署も変わり部下も増えた様子で帰宅時間もどんどん遅くなっていた。
私は夫を気遣う。
「そんなに根を詰めてはお体にさわりますよ」
「まだまだやらなければならないことが山積みなんだよ。新しい部署に移ったら部下が増えたんだ。だから、大忙しなのさ」
夫はとても頑張り屋さんだ。それは私の誇りだった……はずなのだけれど?
(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに
青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。
仕方がないから従姉妹に譲りますわ。
どうぞ、お幸せに!
ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※エブリスタに投稿した作品の加筆修正版です。小説家になろうにも投稿しています。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
【完結】妹にあげるわ。
たろ
恋愛
なんでも欲しがる妹。だったら要らないからあげるわ。
婚約者だったケリーと妹のキャサリンが我が家で逢瀬をしていた時、妹の紅茶の味がおかしかった。
それだけでわたしが殺そうとしたと両親に責められた。
いやいやわたし出かけていたから!知らないわ。
それに婚約は半年前に解消しているのよ!書類すら見ていないのね?お父様。
なんでも欲しがる妹。可愛い妹が大切な両親。
浮気症のケリーなんて喜んで妹にあげるわ。ついでにわたしのドレスも宝石もどうぞ。
家を追い出されて意気揚々と一人で暮らし始めたアリスティア。
もともと家を出る計画を立てていたので、ここから幸せに………と思ったらまた妹がやってきて、今度はアリスティアの今の生活を欲しがった。
だったら、この生活もあげるわ。
だけどね、キャサリン……わたしの本当に愛する人たちだけはあげられないの。
キャサリン達に痛い目に遭わせて……アリスティアは幸せになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる